オリガ・モリソヴナの反語法

著者 :
  • 集英社
4.16
  • (50)
  • (26)
  • (27)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 259
感想 : 44
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087745726

作品紹介・あらすじ

一九六〇年代のチェコ、プラハ。父の仕事の都合でこの地のソビエト学校へ通う弘世志摩は四年生。彼女が一番好きだったのは、オリガ・モリソヴナ先生の舞踊の授業。老女なのに引き締まった肉体、ディートリッヒのような旧時代の服装で踊りは飛び切り巧い。先生が大袈裟に誉めたら、要注意。それは罵倒の裏返し。学校中に名を轟かす「反語法」。先生は突然長期に休んだり、妖艶な踊り子の古い写真を見せたり、と志摩の中の"謎"は深まる。あれから30数年。オリガ先生は何者なのか?42歳の翻訳者となった志摩は、ソ連邦が崩壊した翌年、オリガの半生を辿るためモスクワに赴く。伝説の踊り子はスターリン時代をどう生き抜いたのか…。驚愕の事実が次々と浮かび、オリガとロシアの、想像を絶する苛酷な歴史が現れる。新大宅賞作家、米原万里、感動の長編小説。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 大きなものに目を取られて、小さなものを見逃してしまいそうになる時がある。
    その人の持つ主義主張や、宗教や、さまざまなものを根拠に勝手に決めつけてしまう時がある。

    でもその人たちにも同じように毎日の生活があって、愛する人がいる。それを想像し、尊重できる自分でありたい。

    色々なことがあるけど、その「国」で行われている政治や指導者を理解できないと思っても、その「国に暮らす人々」のことを私は絶対嫌いになれない。例にロシアがそうであるように。
    全てを理解できなくても、知る努力、理解する努力は惜しまないぞ。
    もっと世界を知ろう、知らなければいけないと思えた最高の一冊でした

  • あまりの衝撃、憤り、そして感動。
    読了後色々な感情が込み上げてくるけれど、巧く言葉にできない。

    今回は『嘘つきアーニャ…』と違い「物語」となっているものの、内容の大半はやはり米原さんの体験に基づいたものだろう。
    小さい頃チェコスロバキアで過ごし、ロシア語通訳の米原さんでないと描けない作品だ。
    『嘘つきアーニャ…』同様リアルで苛酷で、けれどユーモアも忘れない読み応えのあるものだった。
    何より舞踊教師オリガ・モリソヴナの計り知れない魅力。
    教え子達が多大なる影響を受け、その人柄に夢中になるのもよく分かる。
    彼女が生徒達を罵倒する時に操る反語法は、その裏側にある彼女自身が体験した辛い悲劇をカラッと吹き飛ばし、周囲の人達を励まし背中を押してくれるものだった。
    今回も頁をめくる手が止まらなかった。
    そして本の厚さも全く気にならなかった。

  • オリガ モリソヴナの反語法というこの奇妙な題名の意味は読み始めて直ぐに理解する。そして読み終える頃には強制収容所生活から生還し生き永らえたひとりの女性がある決断と共にまっとうした人生そのものが「反語法」であったことを知らされる。体制、時代に翻弄され、人としての尊厳などどこにもない区別と差別。鉛を呑み込んだような重苦しさと幼馴染みと過去を解き明かして行く会話の中に盛り込まれた軽やかなユーモアの中にもある種の「反語法」が存在しているかの様だ。実際に思春期を様々な影の見え隠れする社会主義国に過ごした作者ならではの物語構成は実体験と現実、フィクションとノンフィクションが交錯し読む者の心を掴んで離さない。まだまだ明かされきれてはいない某国のこの時代の暗闇。もっと知りたい。知らなくてはいけない。そんな風に思わせてくれた一冊。

  • 何故この本を読み始めたのか忘れてしまった
    ウクライナとロシアのこの時期に
    スターリン時代の抑圧や悲惨さ
    現在のプーチンによる様々な惨劇
    全てがが重なる
    フルシチョフはウクライナ人ということが調べてわかった
    独裁者、歴史は独裁者がもたらした現実をしっかり記録している
    今後この戦争がどうなっていくのか
    モリソヴナやその周りの人々のような人を今後も生み出していくのか
    何とかならないのかと強く思う
    この作者は今現在どう思っているのか、とごかで発表してもらいたいと思う

  • 請求記号 913.6-YON(上野文庫)
    https://opac.iuhw.ac.jp/Otawara/opac/Holding_list/search?rgtn=110036
    ソ連スターリン時代のある女性の隠された過去。ひとりの日本人女性がその謎を探っていく一種ミステリーの面白さ。時代・国・人種を超えた異空間が広がり、本を閉じた時に広がる暖かい気持ちは何物にもかえがたい(T)

  • 旧ソ連時代の収容所生活に触れた小説。引き込まれる。

  • プラハのソビエト学校に通っていた弘世志摩が日本に帰り、血みどろの奮闘でダンサーの夢を諦め、シングル・マザーとなって、ロシア語の翻訳で生活をしていた。昔からの疑問、あの時の謎のダンスの先生だったオリガ・モリソヴナは本当は誰だったのか?その疑問を解こうとペレストロイカのロシアに向かった。そこで見つけたものは、なんということでしょう!スターリン時代を生き抜いたロシア人の様子が分かる。

  • おばさんがおばさんを呼び、おばさんの謎を解き明かす井戸端小説。現代部分をフィクションのつもりで読んでしまい、色々注文をつけたくなってしまったのが最大の間違い。自伝なら仕方なし。

  • 1960年、チェコスロバキアのソビエト学校に通っていた日本人の志摩。

    その学校には、奇抜な格好をした見た目は80歳だが自称50歳の舞踏教師オリガ・モリソヴナ先生(生徒を叱る時には大袈裟に誉めるが、それは罵倒の裏返しである反語法)と、
    19世紀の貴族のドレスを着た、古風なフランス語を話すフランス語教師エオノーラ・ミハイロビナがいた。

    年齢や言動、2人をママと呼ぶが娘とは思えないくらい歳の離れたジーナと言う女の子、そして、アルジェリアと言う言葉に異常に怯えるというような謎が2人にはあった。

    日本に帰国し、ダンサーの夢に挫折、結婚・離婚を経て、ソ連邦が崩壊したロシアに2人の謎を解きに戻る志摩。

    そして、その2人がスターリン政権下での、粛清や収容所送りが関係していた・・・。


    ロシアの歴史と言うと、ロマノフ王朝の崩壊、ソ連とアメリカの冷戦ぐらいしか知らずにいた。
    この本自体はフィクションであるが、過去にロシアでこのような事実があったことを知るきっかけになった。
    参考文献をいくつか読んでみたい。

  • 米原さんの文章は、フィギュアスケートのステップみたいだ。キュッキュッとエッジを効かせ、クルクル回転し、上半身は指の先まで気を配り、しなやかに動きながらもグイグイと風を切って進んでいく。

    ロシア東欧史の知識は中学生並みの自分には厳しい部分もあったが、それでも脱落させないのは文章の力だ。キャラの立った魅力的な登場人物、ジェットコースターのように展開するストーリー、重く辛い歴史の暗部、ハリウッドで映画化してくれたらいいのに…と思うが、欧米人が演じたのでは別物になってしまうか…。

全44件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1950年東京生まれ。作家。在プラハ・ソビエト学校で学ぶ。東京外国語大学卒、東京大学大学院露語露文学専攻修士課程修了。ロシア語会議通訳、ロシア語通訳協会会長として活躍。『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(角川文庫)ほか著書多数。2006年5月、逝去。

「2016年 『米原万里ベストエッセイII』 で使われていた紹介文から引用しています。」

米原万里の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×