太陽の子 日本がアフリカに置き去りにした秘密

著者 :
  • 集英社
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感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087817218

作品紹介・あらすじ

1970〜80年代、資源を求めた日本がアフリカ大陸に残したものは、
巨大な開発計画の失敗とさび付いた採掘工場群。
そして、コンゴ人女性との間に生まれた子どもたちだった──。

感想・レビュー・書評

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  • 2023年新潮ドキュメント賞受賞作

    新潮ドキュメント賞とは、ジャーナリスティックな視点から現代社会を深く切り結び、その構成・表現において文学的にも良質と認められる作品に授与されるノンフィクションの賞です。

    2022年に受賞した「嫌われた監督」が大変面白かったので、この賞を取る作品は読んで間違いあるまいと信じて読みました。ちなみに「嫌われた監督」はプロ野球で唯一、三冠王を3回取った落合博満氏を対象とした作品です。監督業においても圧倒的な成績を収めた落合氏は、「名選手は名監督にあらず」というスポーツ全般に言われている定説をぶっ壊したものすごい人です。

    余談が過ぎましたが、余談ついでに言っておくとこの新潮ドキュメント賞の選考委員が大物ぞろいです。保坂正康氏、櫻井よしこ氏、池上彰氏など錚々たるメンバーです。

    本題です。

    良質なノンフィクションはやっぱいいですね。よく錬られた展開にぐんぐん引きこまれました。著者の三浦氏は朝日新聞記者でルポライターです。本書の舞台はザイール国(現コンゴ民主共和国)で1960年代後半から鉱山開発に派遣された日本人たちと現地妻とその子どもたちのなんとも言えない悲しいストーリーです。

    2010年以降にフランスやイギリスのメディアが報道映像で、日本人を糾弾しました。日本人鉱山労働者が現地女性と多数の子をもうけたばかりか、一部の赤ちゃんが日本人医師の手で殺されたという疑いが伝えらました。

    ツイッター(現X)でこのことを知った著者は赴任地である南アフリカのヨハネスブルクから旧ザイール南部の街ルブンバシへ通います。現地で知り合いになった日本人協力者と共に日本人とザイール人から生まれた32人の子どもとその家族を訪ね歩き話しを聞きます。そして、日本人による乳児殺害は、現地記者が金欲しさに流したデマだったとの結論づけます。

    著者たちの調査結果をイギリスメディアにぶつけると謝罪こそしなかったものの記事が削除されました。
    なぜ、デマが報じられたのか。アフリカの場合、少数の特派員が広大なテリトリーをカバーします。このため紛争、事件の第一報はAPやロイターなど世界的な通信社に頼らざるをえないそうです。そのAP、ロイターも各国に特派員はおらず、通信員や地元記者を使います。彼らの中には、ニュースを買ってもらうため、誇張やウソを流す者もおり、乳児殺しのデマはまさにその産物だったのです。

    デマはデマとしても日本人の父をもつたくさんの子どもたちが置き去りにされたというのは紛れもない事実でした。

    中国残留孤児については昭和の頃に盛んにテレビ報道されていましたので一定以上の年齢の方は知っているのでしょうが似たようなことがアフリカにもあったとは衝撃でした。

    1970年代〜1980年代にザイールに数年間暮らした20代〜40代の日本人鉱山労働者は10代の地元女性と親しくなり、中には結婚までして、新居から鉱山に通う人もいました。任期を終えて日本に戻る際にはザイール人妻や子を日本に連れていく日本人はいませんでした。長年仕送りする人や、別れ際に号泣し、去っていった人もいました。

    現地に暮らし、残された子どもたちに寄り添ってきたシスター佐野さんは著者に「父親に会って、お金がほしいという人はほんの一部にすぎない」と話す。多くは、ただ父親に会いたいという「人の子であれば誰もが持っている普遍的な愛」だと言っています。

    著者は日本に戻り、父親捜しを始めるのですが難航します。父親を知っている人にまで行きつくが今の家庭を壊しかねないという理由で協力を断られたりします。

     またある父親はすでに亡くなっていたとの情報を得ました。その父親のコンゴの息子に再会したとき、著者は会うなりすぐ聞かれます。「僕のお父さん、見つかった?」。迷いながらも亡くなっていたことを告げると、40代の息子はみるみる涙をため、泣き続けました。

    妻や子どもを置き去りにした日本人鉱山労働者たちはどのような思いでいたのでしょうか。おそらく一人一人に葛藤があったはずです。
    <人は正直に生きられない、組織や常識といった目に見えないものに絶えず縛られ、生きたいように生きるという、そんな簡単なことが思うようにできない。あるいは「彼ら」も同じ気持ちだったのか>(「太陽の子」)

    いろいろと考えさせられる作品でした。それにしても著者の執念とも言える取材にはただただ頭が下がるばかりです。普段小説しか読まないブク友の皆さんにも自信をもっておすすめできる一冊です。

  • 豊かな資源に恵まれたアフリカ コンゴの地には、古くからその貴重な資源を求めてヨーロッパやアジア諸国が進出してきた。日本も同様に鉱物資源をもとめてこの地に労働者や技術者を派遣した。その多くは日本の炭鉱などで働いていて職を失った人たちだった。
    現地の女性を愛し、家族を作った者たちもいたが、帰国となったとき、父親たちはその妻や子供を現地に残して帰国した。子供たちは自分に日本人の血が流れていることを誇りに思うが、父の連絡先もわからず、自分の生まれ育った土地では差別を受け、たいていが過酷な貧困生活を強いられてきた。このルポルタージュは、日本人ルポライターが徹底取材をし、「日本人との混血の子の多くを生後まもなく日本人の医師が殺処分をした」というBBCの誤報を立証するまでを描いたもので、残酷な現実のなかにも人の温かさもある生のお話で、その過程と結果が圧巻。

  • これは知らなかった。戦後、日本企業がアフリカ・コンゴに資源を求めて進出し、派遣された日本人がそこで子をなしたが、うち捨てるように去って行ったなんて。
    著者は既にツイッターで発信し、600万人もの閲覧があったそうだが、自分自身はSNSで広く情報収集する習慣がないため、この本に出会わなければ、無知のままだった。
    最近読んだ著者の南三陸の報道では、体当たりのような取材姿勢と取材先に入れ込み過ぎで大丈夫か、とハラハラさせられたことが印象に残るが、本書も同じ。それ故、著者の心の揺らぎが読みながらストレートに伝わってくる。
    こんな事実があった。人知れず、なんとか手助けをしようとする方々がおられる。そのことだけでも多くの人に知って欲しいと思う。

  • 読書記録74.
    太陽の子

    戦後の経済成長期
    資源を求めコンゴでの鉱山開発の後に残された太陽の子に纏わるルポ

    コンゴ女性の置かれる状況
    児童婚、宗教観

    『正しい行為』がもたらす事
     正しさとは…

    著者様の満州や福島に関わる作品や本書から関心を持ったムクウェゲ医師の取組みについても深めたい

  • ふむ

  • 色々取材すごいなあ。日本の私大の教授って人には腹立つなあ。日本人のお父さん、1人ぐらい名乗り出ても良いのになあ。

  • ほんとうの
    ジャーナリストだなぁ
    と 三浦さんの著作を読むたびに
    思わせてもらう

    江成常夫さんが満州棄民の人たちを
    ルポルタージュされた「シャオハイの満州」を
    思い起こしてしまった

    時の権力者が自分の都合を最優先する
    歴史的な経緯の中で
    いちばん弱い立場のものが置き去りにされていく
    その事実に光を当てて
    きちんと 世に提言していくことは
    とても大事なことである

    三浦英之さんの著作を
    読ませてもらうたびに
    ジャーナリストの存在意義の尊さを
    思わせてもらっている

  • アフリカに何年も閉じ込められたらそりゃそういうことは起きるよなと、そしてその後日本に帰ってからの行動ってのも必ずしも責められないと感じる。
    BBCってまともな組織なんだなと、最後は気持ちよく終わったのが良かった。

  • 一気に読めた。
    海外特派員記者が、どのように仕事をするのかわかったことが1番面白かった。
    アフリカは、物理的にも気持ち的にもとても遠い。知らなさすぎて、関心も持てない時間を過ごしてきたが、もっとアフリカについての本を読んでみようと思う。

  • アフリカだけでなく、世界中で同じことが起きているのではないか。日本人が知らない振りをしているだけで。

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