紅い花 (1) (小学館文庫 つA 2)

著者 :
  • 小学館 (1994年12月14日発売)
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本棚登録 : 682
感想 : 45
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784091920225

作品紹介・あらすじ

美しい幻想の物語「紅い花」をふくむ、13篇の「つげ義春の世界」

▼第1話/紅い花▼第2話/李さん一家▼第3話/通夜▼第4話/海辺の叙景▼第5話/西部田村殺人事件▼第6話/二岐渓谷▼第7話/ほんやら洞のべんさん▼第8話/女忍▼第9話/古本と少女▼第10話/もっきり屋の少女▼第11話/やなぎや主人▼第12話/庶民御宿▼第13話/近所の景色 ●あらすじ/少女がたった1人で番を務める峠の茶屋がある。ある日、釣にやってきた男がそこに立ち寄った。彼がしばらく休んでいると、そこに少女の同級生のマサジがやってくる。マサジに案内されて、男はヤマメの穴場へと向かうが、その道中で彼は見知らぬ紅い花が群生しているのを見る。そうこうしているうちに彼らは穴場に到着し、男と別れたマサジは山道を戻ってゆく。そのときふとマサジは、茶屋の少女が川の浅瀬に入ってしゃがみ込む姿を目撃する。マサジの目の前で、少女の臀部から出る鮮血の流れが、落ちてくるたくさんの紅い花を飲み込んで流れてゆく…(第1話)。▼日光浴をする男の脇に、美女が寝転がる。彼はその女性に好意を抱くが、声をかけることもできず、連れらしき男に嫉妬するばかり。ところが、日が暮れた海に男が再びやって来ると、そこにはたった1人で彼女が膝を抱えていた。昼間の男について彼が尋ねると、その男は彼女の連れではなく、宿で知り合っただけだという。これをしおに、彼らは大した意味もないことを淡々と話し続け、再会を約束して別れる。その翌日、雨が降りしきる中を待ち続ける彼のもとに、息せききって彼女が走ってきた。彼女は彼に、翌日東京へ戻ることを打ち明け、泳ぎ納めと言って海に入ってゆき、彼もそれに付き合って泳ぎ始める。彼女に泳ぎを褒められ、彼はいつまでもいつまでも泳ぎ続ける(第4話)。 ●その他DATA/解説・糸井重里

感想・レビュー・書評

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  • 代表作とされる「紅い花」「李さん一家」「もっきり屋の少女」を含む13編を収録。


    ’影’の表現が素晴らしい。
    直接的に感情を口にする場面はほとんど見られないが、陰影や微妙な表情のゆらぎ、情景で心模様を描き分けている。



    表題作「紅い花」は夏の陽が注ぐ深緑、川や滝の流水音・蝉の声が耳目に鮮やか。そして現れる紅い花。初潮を迎えたサヨコと、それを目の当たりにしたシンデンのマサジの心の変化が描かれる。


    「李さん一家」はただただ怖い。どこからともなく鳥語を話せる李さんが現れ、いつの間にか家の二階に住み着き、特に何をするでもなくそこにいる。最終的にどうなるかと言えば「実はまだ二階にいるのです」で終わり。いや、怖すぎる。


    「通夜」はブラックジョークと不謹慎の塊のような作品。死んでしまったら尊厳も何もない、おしまい。という事かな。


    「海辺の叙景」は大人の男女のささやかな恋模様を表情・情景と影の表現で描いた作品。心情を直接的にはセリフに一切出さずとも繊細な心の揺れまでが伝わってくる。ボート小屋の対比で恋の始まりの予感と終息の気配を。ラストシーンの曇天、雨の中暗い海で泳ぐ男の表情は伺えないが、別れに落胆する寂しさを見開きの構図で描写。女の「いい 感じよ」というセリフが余韻を残す。


    「西部田村事件」「ニ岐渓谷」「ほんやら洞のべんさん」は旅先の土地で暮らす人々の風土・習俗を生き生きと描いている。


    続く「女忍」は一転、時代劇。復讐の緊張感や昏さ、忍びの動きが余す所なく活写されている。


    50〜60年代の学生青春劇「古本と少女」。主人公があれこれ悩む様子を俯瞰・バックショット等多彩なカメラワークで捉えている。


    「もっきり屋の少女」は貧しい農村に暮らす「みじめ」な少女・チヨジの姿があんまりにも切なすぎる。闇に吸い込まれる男のエールも虚しい。


    「やなぎや主人」「庶民御宿」は闇が濃い作品。人間の業や欲を抉る。どちらかと言えば後期の作品か。


    「近所の景色」には画風や線にはっきりと変化が見られる。今ひとつテーマがとらえにくいが、時代の移ろい・街並みの変化により「貧しげでいずれは朽ち果ててしまいそうだが、自然のぬくもりが感じられ」(p292)た風景が失われていくことへの述懐のような気持ちが込められているのではないか。


    読み応えがすごい。
    濃密かつ風化知らずの名作品集。


    26刷
    2021.9.18

  • 紅い花の叙情的で郷愁を誘うその世界は、何とも言えない独特な感情を呼び起こさせる。それは暖かく、優しく、そして悲しい、そんな気持ちにいつもさせてくれる、私にとって大切な作品です。

    • マカさん
      紅い花の叙情的且つ郷愁を誘うその世界は何とも言えない独特な感情をいつも呼び起こさせてくれる。それは暖かく、優しく、悲しく、懐かしい、そんな感...
      紅い花の叙情的且つ郷愁を誘うその世界は何とも言えない独特な感情をいつも呼び起こさせてくれる。それは暖かく、優しく、悲しく、懐かしい、そんな感情が心から溢れでてくる。
      2022/02/21
  • 色が思い出せない。

    夕べみた<夢>みたいに、全てが曖昧で、
    でも、
    曖昧じゃない、ってどういう事なのか。

    それすら良くわからなくなってくる。

    モノトーン色の濃いつげさんの作品は、
    このじっとりと絡んで来る世界感がたまらない。
    影の中に身を潜めて、
    読み終わったら、また夢を見る為だけに眠りたい。そんな感じ。

    『紅い花』の収録作品は、

    古い写真に写っている子供の、『今はおじいさんだけど』
    正体はとりあえず、わかる作品が多い。

    (こんな表現も曖昧すぎではありますが…。)

  • 収録作品は「ねじ式」よりも濃密で好きだったりします。
    奇妙な家族との共同?生活「李さん一家」田舎の村でのドタバタ騒ぎ「西部田村事件」
    各地の情景や方言、情緒溢れる人間模様を綴る旅シリーズを読んでるとまるでその地にいるかのよう。
    中でも退廃的な昭和エロティックが炸裂する「やなぎや主人」がお薦め。

  • やはり『紅い花』に魅せられます。また、本書はノスタルジックな短編が多く、個人的に好きな話がギュッとまとまっている印象を受けました。『ほんやら洞のべんさん』なんか特に好きです。なにかが起こりそうな適度な緊張がありながら、ゆったりと着地する最後の一コマの情趣がすばらしいです。芥川龍之介の『蜃気楼』あたりを思い出します。あとやっぱり梶井基次郎。

  • つげ義春氏の作品『紅い花』を読了。 前々から気になってた漫画家さんです。 台詞と漫画の描写が芸術的だなー。 特に大好きなストーリーは・・”海辺の叙景”がGood!!

  • お前は、お前が思うほどたいしたやつじゃない。
    糸井重里

  • 「海辺の叙景」がよい

  • 『海辺の叙景』のラストの見開きにしびれた。薄暗い海を背景に、やみくもにどこまでも泳いでいけるような全能感(恋をしたときのようなそれ)を書いて表現してしまえる才能よ。『ねじ式』を読んだときより、収録された各短編の出来の差を感じた。(あくまで個人的な感性によるものだが。)ほどよく官能的であるのも、いうまでもなく素晴らしい。

  • 話が短くて読みやすいのに内容が濃ゆくて、独特な世界感も好きだった

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著者プロフィール

つげ 義春(つげ・よしはる):1937年生まれ。漫画家。

「2024年 『つげ義春が語る 旅と隠遁』 で使われていた紹介文から引用しています。」

つげ義春の作品

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