- Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
- / ISBN・EAN: 9784093864886
作品紹介・あらすじ
いじめ遺族の苦悩と葛藤。心に迫る衝撃作
「お母さん。奇跡は起きないんだよ。だからもう一度、今の家族を見て」
四年前、人見由愛が中1の時に兄・典洋は高校でのいじめに耐えられず、自ら命を絶った。母の伊代は今も立ち直れず、裁判により兄の無念をはらそうと必死だ。父親はアルコール依存症に陥り、会社生活も惨憺たる状態。
家族は崩壊寸前。一方、母親からの依頼でいじめ裁判の取材を進める新聞記者・大同要は、自身のトラウマからこの家族に深入りするようになる。
沈みそうな家族を必死でつなぎ止めたい由愛。
彼女のもがいた末の選択は。そして、家族は・・・?
【編集担当からのおすすめ情報】
野間児童文芸賞受賞の著者が挑戦した、圧巻の一般文芸デビュー作になります。自らも虐待といじめを受け続けてきた、という著者がずっと書きたい、と情熱をもっていた自死遺族の苦しみと再生の物語。何度も何度も足を運び取材を重ねた法廷シーンのリアルさ、迫力。浮かび上がってくる理不尽、やり場のない哀しさ。それでも、生きていく人間の強さともろさ。すべてが、熱を帯びて心に迫ってきます。真っ向からいじめ遺族の問題に切り込んだ意欲作。絶望の先に見えてくるうっすらとした希望の光を,是非体感してください。
感想・レビュー・書評
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いじめが原因と思われ兄が自死した後の由愛の家族は、今「海のはるか沖で沈みかけている」
取材をしている新聞記者要は、子供のころ崩壊してしまった自身の家族に重ねてしまう。
いじめをしていた主犯格の達也の態度と、由愛の両親の不甲斐なさと、要の恋人への態度に、イライラさせられるが、もちろんラストはハッピーエンドと信じて読み続ける。
ふるいちひさし心の相談室の場面になり落ち着き、私もカウンセリングを受けている気分に浸る。「死にたい、ですか?」タイトルは、古市先生の言葉だったのか。
一気読み。中学生から上、大人までおすすめしたい小説でした。
#中高生詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
長男の自死によって残された家族が壊れていく。無関心な父、息子の裁判にのめりこむ母、そしていじめに加担した友達への恋心を扱いかねる妹。それぞれの気持ち、わかる、わかるけど、わからない。
多分このわからなさが読み手の「いじめによる自死」への、自分を守る距離なのだろう。
小説の中心は息子の自死の法廷シーンなのだけど、仕事で裁判に関わる記者のカウンセリングの場面が一番印象に残っている。カウンセラーの言葉の選び方かけ方、そして記者の気持ちへの共感と導き。そのあれこれがとてもリアル。よくある「ありそうだけど、こんなこと絶対に言わないよね、カウンセラーは」というあるあるがない。この部分が、自分の中にあるどうしようもないもやもやを整理したい時に多分すごく役に立つと思う。小説の本筋じゃないでしょうけど。
ラストの展開は少し物足りなさを感じた。自死を選ぶ一番大きかったであろう修学旅行でのできごとの張本人である翔と由愛の関係。それと行方の分からなくなった黄色いシューズ。その意味をいろいろと考えてしまったので、このラストで本当によかったのか、と。それは「希望」という形なんだろうけど。 -
是非1度読んで欲しい。自分もよく考えさせられる。何気ない日常だと思うが、裏を読めばきっと何かに気づく。
読み終わったら、命とは何なのか。そんなことを考えて欲しい。 -
兄は、いじめが原因で自殺した。それを隠す学校や同級生を謝らせたいと裁判に臨む事だけに一心になる母。仕事がうまく運ばずお酒に溺れる父。高校生の由愛は、家族三人で新しい家族になりたいと望むが、家族はバラバラになるばかり。母親が新聞で取り上げてほしいと頼んだ新聞記者の要は、自分の父親も酒に溺れ虐待され、父親が自殺した過去があり、そのトラウマに悩んだいた。由愛と要の双方向から、再生へのストーリー。
低学年向けの楽しいお話をたくさん書いている著者の大人向けの小説。自身も虐待された過去があるとか。重い内容だったが、希望のある終わりかたに救われた。 -
村上しいこさんと言えば「れいぞうこのなつやすみ」とか、児童文学の人?と思い手に取る。
いじめ、自殺、アルコール中毒、家庭崩壊、負の連鎖の中で健気に生きる高校生、由愛。
兄の死を乗り越えていく家族、いじめた人たちのその後、新聞記者、なかなか盛りだくさんな内容だった。
作者の書きたいことがたぶん盛りだくさん過ぎてちょっとどこにも気持ちを寄せられなかった。 -
「うたうとは」のあとがきで、いじめ裁判の傍聴をしたことが書かれている。その裁判でも、小学校側の証人が誰もそろって、いじめの存在を否定していたそうだが、その経験をベースにしたのがおそらくこの作品なのだろう。そのような誰も救われない司法の不条理さを強く感じた。そうした種類の裁判こそ、裁判員制度を拡大し、素人の感覚をあてはめていく必要があるはずだ。こうした問題を、個々人の心理の問題として、あきらめというかたちでの「社会への適応」を迫ってはいけない。そのようなことを考えさせるという意味でも、作者の意図は伝わっているように思う。
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私が読んだ村上しいこさん作品でこんなに重いのははじめてだ。この主人公の記者も女子高生もトラウマを抱えてるのねー。
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数あるいじめによる自殺そして裁判、もう何度も題材にされたお話、今作品は、今まで読んだ作品の中でも異色作でした。読んでこれほど考えさせる裁判、法廷作品はないと思います。心に残るセリフが多数ありました。
「由愛もキャベツ畑の蝶みたいに嬉しそうだったから」
「今、家族の誰かが笑うときは、必ず一人だ。」
「典洋じゃなくて、アンタだったらよかったのに」
「いつもアスファルトの道に、いつもとはほんの少し違った靴音を立てた。」
「典洋君のご両親はそれを謝罪だと。」
「これは僕自身の裁判でもあるような気がしてきた。」
ラストの「誰かのための浮き輪が」読んでこの意味を知って下さい。
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読んでいて苦しい気持ちになるが、読んだあとなんとなく清々しい気持ちになる。
自殺を選ぶ人はその人にとってその瞬間、それがいちばんの選択肢に見えるからだ。
いじめと自殺との関連が認められない中で、家族がどう生きていくか。
イッキに読んでしまった。
筆者の背景を読むとよりこの本の深みが増す。