- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784093866866
作品紹介・あらすじ
昭和~令和へ壮大なスケールで描く人間賛歌 人類の歴史は百万年。だが、子どもと女性の人権の歴史は、まだ百年に満たない。 舞台は、令和と昭和の、とある出版社。コロナ蔓延の社会で、世の中も閉塞感と暗いムードの中、意に沿わない異動でやる気をなくしている明日花(28歳)。そんな折、自分の会社文林館が出版する児童向けの学年誌100年の歴史を調べるうちに、今は認知症になっている祖母が、戦中、学年誌の編集に関わっていたことを知る。 世界に例を見ない学年別学年誌百年の歴史は、子ども文化史を映す鏡でもあった。 なぜ祖母は、これまでこのことを自分に話してくれなかったのか。その秘密を紐解くうちに、明日花は、子どもの人権、文化、心と真剣に対峙し格闘する、先人たちの姿を発見してゆくことになる。 子どもの人権を真剣に考える大人たちの軌跡を縦糸に、母親と子どもの絆を横糸に、物語は様々な思いを織り込んで、この先の未来への切なる願いを映し出す。 戦争、抗争、虐待……。繰り返される悪しき循環に風穴をあけるため、今、私たちになにができるのか。いまの時代にこそ読むべき、壮大な人間賛歌です。 【編集担当からのおすすめ情報】 忘れられないのは、第一稿の小説を読んだときの胸の熱さ。 原稿を読みながら、この流れてくる涙はなんだろう、と考えた。言葉にすると「すごい!」しか出てこない。あまりにも大きくて熱くて深い。 一番身近で古内一絵さんの取材、執筆を見ていて、時にはとても心配になりハラハラもした。そのくらい、古内さんのこの作品への熱量はすごかった。ご本人があまりに考えすぎて鼻血を出したり、胃炎になったり、全身全霊で取り組んでいることが痛いほど伝わってきた。 「ありがとう」と思った。この作品を読むことが出来て、幸せだと思った。涙はきっと、女性であり、かつての子どもであり、母であり、娘であり、労働者であり、担当編集者である自分の心からの涙だと思った。 どうか一人でも多くの方の心にこの小説が届きますように。心から祈っています。どうか、よろしくお願い申し上げます。
感想・レビュー・書評
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この小説は著者の古内一絵さんの最高傑作と何かで読んだので読みました。
昭和19年(1944年)から令和4年にまでわたるある家族と出版社の物語。
市橋明日花は文林館という出版社に入社5年目の社員で、ファッション誌から『学びの一年生』という学年誌に異勤になります。
文林館は創立百年の老舗出版社です。
明日花は獣医師で父と離婚した母、待子とは別居し、祖母のスエとずっと二人で暮らしていました。
そして、明日花は文林館の名簿に1944年に入社した鮫島スエという祖母の名前をみつけます。
なぜ、スエは、明日花が文林館に入社したときに、そのことを黙っていたのか…?
待子は「おばあちゃんはただのバイトだった」といいますが。
明日花にはそうは思えない節がありました。
『学びの一年生』という雑誌名や林有美子という作家や戸塚治虫という漫画家など、『小学一年生』、林芙美子、手塚治虫を彷彿とさせる固有名詞が中心となってストーリーが進みます。
そこまで書くなら、実名で書いてくれれば面白いのにと思いました。
キーパーソンは、君嶋織子という名の児童文学者と文林館の社員の野山彬。
戦争も大きくストーリーを動かしています。
最後はまさかの展開でした。
あの人が祖母のスエだったとは全く気づきませんでした。
そして最後は明日花の家族の物語としてもとてもよかったです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
膨大な資料を取材して物語を夢想して作り上げるスタイルの古内一絵さんの作品はドキュメンタリーのような臨場感が伝わってきます。
コロナ禍の令和と昭和を行きかいながら文林館の児童向け学年誌100年の歴史を探る。
小学館や手塚治虫、林芙美子を彷彿させる内容なのに
何故か実名表記されていないところが気になるのですが読んでいるともうほとんどそれでイメージできてうれしくなりました。毛が三本のお化けとかネコ型ロボットとかはあの人の作品ですよね。
戦時下では、教科書に出てくるような有名な作家さんたちが国策で戦争賛辞する文章を書かされり、子供たちは思想統制されたりで思っていることを自由に発言できなかった時代。
コロナ禍の閉塞感にも似た世相が息詰まりを覚えるのですがやがて自由に活動できる時代となって、炎上することもあったようですが現代へと引き継がれていった100年の歴史を見ることができました。
読後感は清々しかったです。 -
ごめんなさい
途中まで小学館お抱え作家の礼賛小説だと思って読んでました
ぜんぜん違うわ!
もうほんと失礼しちゃう(お前な)
小学館とその看板雑誌『小学館一年生』の歴史とそこにまつわる人の想いを振り返ることで、子どもたちの未来について考えさせられるすんばらしい小説でした
「小説」の役割分担っていうのかなぁ
なんとなく「小説」が社会の中で担っているもののひとつってこういうことなんじゃなかろか?と思った小説でした
でもってちゃんとエンターテイメントとしての面白さもしっかりあって、驚きのあるストーリーもよかった
指導者たちは、子どもたちのために「戦争」してると言い張ってるんだろうなぁ…なんてことも思ったり
子どもたちのためになんかなるわけないだろ!って
「戦争」が子どもたちに「与える」ものなんかないわ!「奪って」ばかりだわ!-
2023/12/28
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2023/12/28
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2023/12/29
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物語は、出版社に勤務して5年目の市橋明日花が学年誌創刊百年企画チームに配属されたことから始まる。
入社当初から関わってきた『ブリリアント』編集部のカルチャーページの仕事に忙しくも愛着を感じていたのに…と不満はあったが、同僚である康介の学習雑誌は世界中探しても日本にしかないことや初代の社長の話などを聞くことで少しずつ気持ちが変わっていく。
そして、今は認知症の祖母が戦中に働いていたことを知り驚愕する。
祖母の頃の話と現在を交互しながら進んでいくのだが、過去のことを知るのも興味深い。
この作家はあの人だろうか…などと想像でき、学習雑誌の付録の苦労や児童文学など知り得なかったことも勉強になる。
戦中から令和にかけての出版業界を知り、そして祖母から母、自分と繋がる人生が壮大な物語となって一気に動き出したとき、感動ものだった。
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オーディオファースト作品。
紙の本化は8月とのこと。
親子3代、女性たちの歴史の変遷を描く。
人間の歴史は100万年、子どもは100年。
そして、女性の人権の歴史も驚くほど短い。
♪怪獣の花唄/Vaundy(2020) -
ある出版社の学年誌における100年の歴史を描いた作品。
NHKの朝ドラとかになりそうなお話だった。
そう言えば"小学一年生"、私も何度か買ってもらった記憶がある。
付録も魅力的だったし、本もすごくわくわくしながら読んだよな〜。
会社創立百年の記念に、不本意にもファッション誌の担当から異動させられ自社の学年誌の歴史を調べる事になった明日花。
昭和の時代に明日花と同じ出版社で働いていた事のある祖母のスエ。
昭和から令和の現代までずっと続いてきた学年誌。
百年といえど時代背景は今とは全く違う戦時中の日本。
色んな人の思いや苦労の積み重ねが今もなおこうして残って続いてるんだなぁと思うと胸が熱くなる。
そして何も知ろうともせず、不平を漏らすところ私にもあるな、と。
置かれた場所でまずは一生懸命に向き合う事の大切さを明日花と共に思い知らされました。
読後爽やか〜!
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学年誌を出版する出版社を舞台に、戦中戦後の祖母、令和の孫娘を交互に描いた物語。
学年別の学習雑誌「小学一年生」シリーズは子供の頃よく読んだ覚えがあります。
それが世界中探しても日本にしかないものだったとは。
創業者や従業員たちの思い、児童文学や漫画、メディアの意義など、興味深いことが多かったです。
やはり私は女性なので、生まれた時代によって女性の大変さが違うということが印象に残りました。
この物語の祖母は女性に教育なんて必要ないと言われた世代。母は出産したら仕事を辞めるべきとされた世代。娘は出産しろ、仕事もしろと言われている世代。
三世代の女性たちの働き方を含めた生き方について、深く考えさせられました。
特に、戦中戦後の激動の時代を懸命に誠実に生き抜いてきたスエさんには感動しました。
生活や感情の描写が臨場感たっぷりで、人々の息遣いまで伝わってきました。
世の中が軍国主義に傾いて学年誌までもが洗脳に近い形で…というのは本当につらい気持ちになりました。
子供と女性の人権の歴史。
仕事、家族関係、出版、教育、戦争など、様々なことを盛り込んだ壮大な物語。
朝ドラにでもなりそうな感じがしました。
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贔屓の作家さんなのですが、戦時中から時系列を前後させる展開や構成が以前読んだ著書2作品に類似していて若干の物足りなさはありました。NHKの朝ドラになりそうな事実をヒントにしたフィクションなので初読みだったら星5だったかもしれません。
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出版社、家族、世の歴史を描いた一冊。
100年に満たない子どもと女性の人権の歴史。
深く思いを巡らせたことはなかっただけにその尊さが今、初めて沁みた。
とある出版社の学年誌に込められた子どもたちへの願い。
家族の知られざる過去。
時代を遡り歴史を知り、先を生きてきた人、家族の姿や願いを知る機会ほど貴重なことはない。
知ることで何かが変わる。
大きな変革は決して容易くはない。
それでも試行錯誤し時はかかっても繋げゆく灯を決して消してはならない大切さを思う。
家族の想い、歴史の重み、未来への願いが綺麗に重なり合い心を打つ作品。 -
なんとも壮大な物語だった。現代を生きる明日花と昭和初期を生きる祖母のトメの物語がシンクロして静かな感動を届けてくれた。
出版社に勤務する明日花は、不本意にも、学年誌創刊百年企画チームでの勤務を命じられる。
ロン毛とパジャマとあだ名を付けたオタク2人と編集長だけの部署は華やかさもなく、情熱を感じることができずにいた。
ある日、昔の社員名簿の中に祖母の名前を発見する。
明日花は小さい頃から祖父母の元に預けられ、両親とは離れて暮らしていた。両親、特に母親のことは苦手だったが、祖父母のことは大好きだった。
今は認知症になった祖母の過去が明らかになっていく。
明日花とトメだけの物語にとどまらず、昭和と令和の時代背景、母親や友人との確執などが盛り込まれ、また様々な伏線が結びついていく様は見事。
感動だけでなく、戦争の悲惨さもしっかりと描かれていて、色々と考えさせられることになった。