山ぎは少し明かりて

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093867016

感想・レビュー・書評

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  • ダム建設で瑞ノ瀬村が、湖の底に沈んでしまった。
    その村で育った三姉妹とその長女・佳代の三世代の母娘を描いた大河小説である。

    第一章 雨など降るも

    孫の都は、個性も特技も肩書きも何もないからと就活を有利に進めるために海外留学するものの、環境の変化についていけずに帰国する。
    適応障害と診断された都は、友人にも彼氏にも言えずに引き篭もりの日々が続いていたある日、台風の被害で彼氏の実家が大変なことになってるのでは…と後先考えずに家を飛び出して…。


    第二章 夕日のさして山の端

    娘の雅恵は、瑞ノ瀬の母親の実家の土地を売り、都会に出ることを選択したからには立派に幸福に生きる義務があるという思いもあって、脇目も振らずにがむしゃらに働いた。
    管理職になり、もう定年間近になっていたときに自宅にいる夫から白骨発見の電話を受けて…。


    第三章 山ぎは少し明かりて

    瑞ノ瀬村に暮らす佳代、千代、三代の三姉妹は美しい自然のなかで駆け回りながら成長していく、佳代は同級の孝光が戦後しばらくして帰ってきてから夫婦になり、一人娘の雅恵を授かる。
    だが、二人にとって幼い頃からの思い出のある村にダム建設の話が出て…。


    それぞれの時代の流れとその状況で、三世代の心の内に抱えているものをとても丁寧に表現している。
    特に佳代の時代は、戦前から戦後にかけての厳しくて苦しい時代であり、その上にダム建設という変化が凄いうえに当事者の気持ちも揺れ動き、絶望感が伝わってくる。
    その親から反発するかのように都会の生活に憧れる雅恵の気持ちもわからなくはない。
    最後まで佳代と雅恵に通じるものを感じとれなかったが、それを補うかのようにそばで寄り添っていたのは夫であり、叔母の三代だったように思う。

    プロローグとエピローグが繋がり、思い出と優しさが湖面に漂っていった。







  • 村を流れる小川の水で遊んだ。魚が、アメンボが、蛍を採り家へ持ち帰り、蚊帳の中に放って寝た。
    秋には小学校で、村人総出で集落対抗の
    運動会で楽しんだ!
    やがて、佳代の想い人の孝光は戦争へ。
    それから・・・茶褐色の国民服を着た、青年が現れた時は泣きながら飛びついた。
    その先には萌黄色の裏山、一生忘れないと思った光景だった。そして結婚して―

    ある日の朝刊に「建設省がダム構想発表」
    瑞谷村の瑞ノ瀬に・・・・とあった。
    今自分がいるここが、水底になる!
    皆反対運動を始めた。それなりのものを
    国はくれると言う。反対運動は、賛成へと鞍替えるものがでてきて・・・・

    私にそのようなことが起きたら、どんな
    気持ちになるのだろう?
    子供時代から愛している、この地が水底に沈む。それは、耐え難いのではない
    だろうか?

    日本に、ダムは幾つもある。
    そのダムができる時に、この本のように
    故郷に別れを告げた人々は、きっと沢山居る!そのことに気付かなかった訳ではないが、これほど考えたのは初めてだった。引っ越しを余儀なくされた皆様は
    大変な思いをしていることに気付いた
    本だった。

    他に孫のこと。
    娘のこと。
    沢山の家族などの、中味の詰まった
    一冊だった。

    2024、4、25 読了

  • ダムに沈んでしまった瑞ノ瀬村。そこで生きた祖母、母、娘の三世代の物語。
    物語は現代の娘の話からスタートして、章ごとに遡っていくスタイル。
    それぞれの生きる時代背景や性格がわかりやすく、入っていきやすかった。
    全体を通して「ままならなさ」が感じられると同時に、家族愛だったり郷土愛が溢れていて、なんとも切ない気持ちになる。
    メインで描かれていているのは女性三人だけど、それぞれのパートナーがバラバラのタイプでありながら、すごくいい味わいを出している。こっそりそこもポイントが高かった。
    それにしても、最後のお祖母ちゃんは悲しい…。

  • 母、娘、孫、3世代の物語が時代を遡るかたちで展開されます。
    3つの物語の熱量が違いすぎて、このアンバランスさは作者の狙ったものなのか、書いているうちに止まらなくなってしまったのか、最終章が私の心を全てかっさらっていきました。
    壮絶な時代を生きた人々の力強さを、今の私たちは失ってしまったのだと、改めて突き付けられた作品でした。

  • ボリュームにびっくりしました。何冊分か支払わないといけないぐらいです。殺される直接描写もなく戦争の悲惨な経験も内容は比較的ソフトにも関わらず、十分に伝わる作品でした。

  • ダム建設反対運動に命をかける母と、子育てを蔑ろにされた娘…どちらの気持ちも分からなくはない。親子の絆をも引き裂く「ふるさと」って一体何だろう、と考えさせられる物語。枕草子の一節からとったタイトルが郷愁を誘う。

  • 読んで良かった。
    故郷という大きさを改めて感じさせてくれ、切なさや愛おしさが心に広がる。

    現在のシーンから話は始まるが、それは伏線で、太平洋戦争直前、後にダムに沈む瑞ノ瀬と言う場所での話に移る。

    瀬川佳代、千代、三代の三姉妹と佳代の幼馴染みの瀬川孝光は、自然とその恩恵を受けて恵みが豊かな瑞ノ瀬で元気に暮らす。佳代と孝光は次第に意識をする仲となるが、そこに戦争召集令状が届き、佳代は孝光の無事を祈り待つ。諦めるしかないと思っていた矢先の再会。
    二人は結婚をし、ようやく一人娘雅枝を授かる。
    そんな中持ち上がったのが、ダム建設による瑞ノ瀬村全体の立ち退き。
    孝光と佳代を始め、故郷を愛する人々による反対運動が行われるが、国や村の中の賛成者による懐柔策が次第に効果を表し、ついに二人だけの闘争となる。そして孝光の不可解な失踪。
    佳代にとって、孝光との想い出の詰まった故郷はかけがえのないものだ。ましてやここで立ち退いては孝光の帰る場所がなくなってしまう。
    ダム建設により水位が次第に上がってきても、小屋を移動させながらひたすら夫を待つ。その姿を故郷の自然は優しく包む。

    故郷ということば響きは、どうしてこんなにも優しく哀愁に満ちているのかと思う。
    余韻がいつまでも残る作品だと感じた。

  • 辻堂ゆめさんの作品は読むのは3作目。以前に読んだものとはガラッと違うな~と言う感想。
    3世代の母娘をそれぞれ描いた小説。世代によってまた個人によっても、抱えているもの大事に思うものは全く違うなと感じた。どっちが大変とか無いけれど、祖母(佳代)の人生は戦前、戦後、ダム問題と心をしめつけられた。どうしてもそのようなことがなければ
    佳代と孝光は…と考えてしまう。そして失踪の真相を、色々と考えてしまう。
    ■印象に残ったフレーズ
    •いつまでも変わらないものなどない。必ず終わりの日は訪れる。p123

  • 歴史に翻弄されて辛かっただろうなあ

  • 静かだけど壮絶な人生に、胸にドーンと衝撃がおとずれました。
    親子三代の話なのかなと思ったら、佳代を中心とした物語で、戦時中からダム建設、そして現在までとスケールの大きなお話でした。

    居場所は変わってもその人の価値はちゃんとある。
    一方でふるさとのように自分の心にある変わらない居場所、大切な人に対する変わらない想い。
    自分の人生で「守りたいもの」の軸がしっかりとしていることが、こんなにも人を惹きつけ、格好良いものだとは…

    私自身も迷いながらも、大切な何かを「守る」強さを身につけたいと強く思いました。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。東京大学在学中の2014年、「夢のトビラは泉の中に」で、第13回『このミステリーがすごい!』大賞《優秀賞》を受賞。15年、同作を改題した『いなくなった私へ』でデビュー。21年、『十の輪をくぐる』で吉川英治文学新人賞候補、『トリカゴ』で大藪春彦賞受賞。

「2023年 『東大に名探偵はいない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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