悦楽の園を追われて: ヒエロニムス・ボス

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (191ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093872850

感想・レビュー・書評

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  • (2016.02.02読了)(2016.01.06購入)
    1月にプラド美術館展を見た際、展示作品の中にヒエロニムス・ボスの「愚者の石の除去」がありました。「初来日!」とのことでした。
    ――――――――――――――――――――
    プラド美術館展 ―スペイン宮廷 美への情熱
    主催:読売新聞社
    会場:三菱一号館美術館
    会期:2015年10月10日(土)~2016年1月31日(日)
    観覧料:一般1700円
    プラド美術館は、王立美術館としてスペインの首都マドリードに1819年に開館、世界でも屈指の質と規模のコレクションを誇ります。本展は、プラド美術館の膨大なコレクションの中から、選りすぐりの名だたる巨匠たちの名画が並びます。
    ―――――――――――――――――――――
    ついでですので、この本も読んでしまうことにしました。
    著者は、かつて、ブリューゲルについての本を書いています。僕も神奈川県立近代美術館(鎌倉)でブリューゲルの版画展を見て以来、ブリューゲルが気になっていたので、中野さんの本を読みました。
    ボスの絵は、坂崎乙郎さんの本で知ったのだと思います。ブリューゲルの寓意画も面白いのですが、ボスの幻想・怪奇な絵は、ブリューゲルの絵とは違った印象があります。
    中野さんもこの本で、ボスの幻想・怪奇な絵は、ボスの前にも後にも例がないと述べています。ブリューゲルの初期の版画には、ボスの影響がありそうなのですが、ブリューゲルは、民衆画や寓意画が主で、怪奇幻想的なものは、初期の版画以外はなさそうです。
    中野さんは、絵画の専門家でも、ボスの専門家でもありませんので、絵を見た印象は語ってくれますが、それ以上のことは特にありません。
    掲載されている絵を見ながら中野さんの語りをたどってみましょう。本当にボスというのは不思議な画家です。どうしてこんな表現ができたのでしょうね。

    【目次】
    中世から現代を描く―ボスとは何者だ
    この人を見よ
    十字架を担う人とヴェロニカの聖性
    タガが外れて魔物の湧き出る世界
    いつの世にも絶えぬ七つの大罪
    集団の狂気に駆られた人類の乾草車
    人間が無垢であった世界
    痴愚神礼讃
    ボスには実在だった魔物、化物
    透徹して見る者の悲しみ
    あとがき

    ●ボスとブリューゲル(14頁)
    ぼくがボスの絵に最初に出会ったのは、ブリューゲルを探索している過程でだった。ぼくは1966年ウィーンの美術史美術館でブリューゲルにつかまって以来、彼の絵を追って各地をたずね歩き、およそ見得る限りの絵は全部見た。そのときどうしてか行く先々でボスの絵に出会うことになった。
    ●神も仏も裁かない(18頁)
    仏教は、悪人は死後六道の地獄に堕ちて永劫の罰を受けると説くが、そんな地獄はないのではないか。キリスト教は最後の日が来て神の裁きが行われると説くが、そんな「最後の審判」など永久に来ないのではないか、と疑う。そして事実どんな悪事が行われても、神も仏も来なかった。罰してくれる超越者など出現しなかった。神の裁きなどなかったのだ。
    ●ボスの宗教画(50頁)
    それまでの画家がもっぱら、キリストの聖性にのみ光を当てようとしたのに対し、ボスは狂気にとらえられたときの群衆集団の恐ろしさ、人間の邪悪さに光を当てることによって、逆にキリストの運命のむごたらしさ、受難の悲劇を明らかに描き出したといえる
    ●ボスとブリューゲル(92頁)
    彼(ブリューゲル)はあくまでも社会全体に目を向け、その見る目は客観的であるのに対し、彼が師と仰いだボスはあくまで自己の体験と感性と想像力にこだわっているのが、対照的だ。
    ●悦楽の園(150頁)
    ≪悦楽の園≫中央パネルは、ボスが生涯に描いた最もたのしく美しい、愛にみちた図である、とぼくは思う。これは彼がかつて描いた人間図のもっとも肯定的なもの、彼の夢なのだ、と。
    ●大天才(176頁)
    魚とか鳥などまでが人を襲う怪物となりうるなんて、ボスの絵を見なければ想像のつかぬことだった。この一事をとってみてもボスというのは人類の想像力の世界に、魔物・怪物・妖怪・変化といったかつて存在しなかったものたちを生みだした大天才であったのだ。

    ☆関連図書(既読)
    「ボス」土方定一著、新潮美術文庫、1975.06.25
    「ヒエロニムス・ボス紀行」土方定一著、平凡社、1978.08.01
    「ヒェロニムス・ボッス」ポール・ラフォン著・大出学訳、牧神社、1976.04.30
    「ブリューゲルへの旅」中野孝次著、河出書房新社、1976.02.20
    「ハラスのいた日々」中野孝次著、文春文庫、1990.04.10
    「五十年目の日章旗」中野孝次著、文春文庫、1999.08.10
    「風の良寛」中野孝次著、文春文庫、2004.01.10
    (2016年2月5日・記)
    出版社からのコメント(amazon)
    悪夢。幻想。終末感が漂う地獄絵。奇快な幻影に満ちた芸術表現を通して痛烈に世界を風刺してみせた、中世期末の謎の天才画家ボス。人間の罪の告発か、混迷からの救済の希望なのか…。その不思議な感性に共鳴した作家・中野孝次が“人間ボス”を書き下ろす。

  • この本を読んでヒエロニムス・ボスについてさらに興味をもった。ブリューゲルと共にさらに調べていきたい画家。

  • 現在の研究テーマ。筆者の絵画に対する純粋な目線を感じ取れ好感の持てる作品。悦楽の園に描かれた人々を楽園追放以前の無垢なる人々と解いたのは目からうろこだった。

  • 学生時代の絵画研究テーマにボスの「悦楽の園」を選んで、あれこれ調べたけど謎ばかりだった。これ、ほんとに読みたいです。

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著者プロフィール

1925-2004。千葉県生まれ。東京大学文学部卒、國學院大學教授。作家、評論家。『実朝考』『ブリューゲルへの旅』『麦塾るる日に』『ハラスのいた日々』『清貧の思想』『暗殺者』『いまを生きる知恵』など著作多数。


「2020年 『ローマの哲人 セネカの言葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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