短歌のガチャポン

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784093888950

作品紹介・あらすじ

穂村弘が選ぶ何でもありの短歌ガチャ100 現代短歌のフロントランナー穂村弘が腕によりをかけて選んだ、明治から現在までの短歌100首。うつくしい短歌、不思議な短歌、へんな短歌、おかしな短歌、不気味な短歌、かなしい短歌……。好きなところからひとつずつ取り出して、なんでもありのマジカルな短歌ワールドをとことん楽しもう。最初は意味のわからない短歌も、穂村弘の切れ味のいい鑑賞文を読めば納得できるはず。穂村弘は言う。「ガチャポンのハンドルをガチャガチャ回すと、カプセルに入った何かがポンと出てきます。ジャンルだけは決まってて、でも、その中の何が出るかはわからない。だから、わくわくして夢中になりました。」短歌の楽しさと多様性を、ミステリアスでファンタスティックなメリンダ・パイノのカラーイラスト25点と共に詰め込んだ、ホムラ印のガチャポン・マシーンがここに。

感想・レビュー・書評

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  • 今までに読んだ短歌の本には、あとがきなどはあったのですが、ほとんど短歌についての解説がついていない本ばかりでした。
    この本には穂村弘さんの解説がひとつひとつについています。
    短歌の解説ってすごいですね!
    意味の分からない歌が急に愛おしくなってきます。
    読んでいて面白さが倍増します。
    短歌を作るのも才能だけど、解説するのにも才能がいりますね。


    例えばこの杉田抱僕さんの歌。
    こんなの読んでも私にはさっぱり意味がわかりません。
    でも、解説読むと凄い歌だってわかります。

    ○(7×7+4÷2)÷3=17    杉田抱僕
    雑誌の投稿欄にこの数式が送られてきた時、何かの間違いかと思った。だが、数式に自分の名前を書いたりしないだろう。ということは、これは短歌なのだろうか。私は心を無にして音読してみた。「かっこなな/かけるななたす/よんわるに/かっことじわる/さんはじゅうなな」。なんと、五七五七七で読めてしまった。きちんと数式として成立していながら、同時にこれは目に見えない短歌なのだ。特に面白いのは四句目に相当する「)÷」だ。「かっことじわる」と読むらしいが、ここには数字さえ含まれていない。同じ作者から次の作品が送られてきた時、緊張した。また数式だったらどうしよう。「気まぐれにトリートメントをした姉が延々延々延々流してる」(『短歌ください双子でも片方は泣く夜もある篇』)。ほっとした。「延々」をわざと字余りにしてその長さを表現しているところがいい。だが、先の数式は一音でも字余りがあったら短歌としては成立しないだろう。短歌とは何か、という根源的な問を映し出す鏡のような短歌なのだ。

    とにかく凄いなあ。作った方も、解説する方も。


    こんなのもあります。
    1回今橋愛さんの『O脚の脚』で読んで私のレビューに載せていますが、私が何となく思っていたことをきっちり言い切ってくれている感じがしました。

    ○「水菜買いにきた」
     三時間高速をとばしてこのへやに
     みずな
     かいに。           今橋愛
    不思議な歌である。でも、何度も読んでしまう。「スーパーに水菜を買いに出たんだけど、急にどうしても君に会いたくなって、気がついたら、そのまま高速に乗ってたんだ」。もしかしたら、これはそんなシーンではないか。でも、その気持ちがうまく言葉にならずに、ただ「水菜買いにきた」になってしまった。そう云われた<私>は呆然として思う。「三時間高速をとばしてこのへやに/みずな/かいに。」と。もしも、この歌が「「君に会いにきた」三時間高速をとばしてこのへやに/わたしに/あいに。」だったらどうか。嬉しいには違いないだろう。でも、きちんとそう云われるよりも「水菜」の歌は遥かに凄い。その意味不明さに衝撃を感じる。「このへや」にあるはずもない幻の「水菜」を買いに来たことで、二人の思いはメーターを振り切ってしまった。「みずな」とは愛の別名だったのか。



    以下にこの本で私が他に面白いと思った歌、気になる歌を載せます。意味はわかったもの、解説を読んでわかったもの色々です。やっぱり解説があるとわかりやすくて面白いですね。


    ○この国のルールを教えておいてやるふきのとうの悪口は言うな           戸田響子

    ○はじめからゆうがたみたいな日のおわり近づきたくてココアをいれる        本田瑞穂

    ○もう君の夢をみないと約束をさせられた日にみた君の夢              古賀たかえ

    ○今日君が持ってる本を買いました。もう本当のさよならなんだ            福島遥

    ○僕らには未だ見えざる五つ目の季節が窓の向こうに揺れる              山田航

    ○思ひがけぬやさしきことを吾に言ひし彼の人は死ぬ遠からず死ぬ           安立スハル

    ○誤植あり。中野駅徒歩十二年。それでいいかもしれないけれど            大松達知

    ○本当はメロンが何かわからないけどパンなりにやったんだよね            砂崎柊

    ○私には才能がある気がします それは勇気のようなものです             枡野浩一

    ○しゃぼん玉近づくように笑い合う「モモって呼んで」「リコって呼んで」       松田梨子

    ○三越のライオン見つけられなくて悲しいだった 悲しいだった            平岡直子

    ○ははそののははもそのこも
     はるののにあそぶあそびを
     ふたたびはせず        三好達治

    ○かたむいているような気がする国道をしんしんとひとりで歩く            早坂類

    • まことさん
      ベルガモットさん。こんにちは♪

      やっぱり、そう思いますよね!
      よかった。
      でも、ベルガモットさんが、コメントに口ごもってしまうなんて、意外...
      ベルガモットさん。こんにちは♪

      やっぱり、そう思いますよね!
      よかった。
      でも、ベルガモットさんが、コメントに口ごもってしまうなんて、意外です。
      なんか、すらすら、答えていらっしゃるような気がしました。
      そして、そうです。
      私はレビューの最後に、紹介した歌の解説が、気になる方は、読まれてみてください。と書こうかなと思ったのです。
      ベルガモットさんが、どういうレビューをされるかも、気になるところです。
      2023/01/06
    • アールグレイさん
      今日君が 持ってる本を買いました もう本当のさよならなんだ。

      ――何故、本を買ってしまったの
      でしょう?――余計に彼女を忘れられなく...
      今日君が 持ってる本を買いました もう本当のさよならなんだ。

      ――何故、本を買ってしまったの
      でしょう?――余計に彼女を忘れられなくなってしまう――

      切ないですね
      2023/01/06
    • まことさん
      アールグレイさん♪

      この歌は、そういう意味では、ないんです。
      もう、お別れだから、同じ本を買ったのです。
      たぶん、同棲していた、カップルで...
      アールグレイさん♪

      この歌は、そういう意味では、ないんです。
      もう、お別れだから、同じ本を買ったのです。
      たぶん、同棲していた、カップルでしょうか?
      同じ本は、一緒に住んでいれば、二冊はいらないですよね。
      同棲解消する、カップルの別れの歌です。
      2023/01/06
  • これは楽しい。

    歌人・穂村弘さんが、さまざまな時代の、様々なバッググラウンドを持つ歌人たちの短歌を紹介、解釈、解説する。

    右ページに一首。
    左ページに歌の解釈と解説。
    そのリズムが心地好く、楽しくなってしまう。
    短歌という形態の不自由な中の自由さと、歌を詠む方々の発想の豊かさにワクワクする。
    出典も天下の与謝野晶子さんから、新聞、雑誌掲載のものまで、幅広く、何が出てくるのか分からない。
    歌を詠む方のバックグラウンドもちらりと紹介され、ちょっとドキリとする。
    タクシードライバーの方もいて、映画の『パターソン』みたいじゃん!と、何故か興奮。
    『パターソン』は路線バスの運転者で、詩人でもあるのです。
    歌の世界を何倍にも増幅させる穂村さんの解説も相変わらず素敵。
    メリンダ・パイノさんのイラストも楽しい。

  • 穂村さんによる短歌のセレクトショップみたいな歌集。知ってる歌もいくつかあった。メリンダ・パイノさんのイラストはこんな服のコーディネートしたいと憧れる。今回気になったのはカン・ハンナ、杉﨑恒夫、奥村晃作、岡山巌、柴田葵。

    • 傍らに珈琲を。さん
      111108さん、こんばんはー☆
      いいねを有難う御座います!

      ご無沙汰しております~
      めっちゃ久しぶりの投稿だったのに見つけてくださって嬉...
      111108さん、こんばんはー☆
      いいねを有難う御座います!

      ご無沙汰しております~
      めっちゃ久しぶりの投稿だったのに見つけてくださって嬉しいです♪
      ガチャポン、お読みになられたんですね。
      確かに、メリンダさんのイラストはお洋服になっても素敵だろうなー。
      大きくプリントされたワンピースとか着てみたい!

      やっと少しずつ読書生活に戻れそうな気配がしてきました
      積読本を横目に、行政資料やら参考書に取り組むのは悲しかったー笑
      でも、その甲斐あって無事に殆どの手続きを終えることが出来たし、取りたかった資格も取得出来そうです。
      今回ばかりは自分を褒めてあげたいっ。

      ゆっくりペースですが、また本を通して皆さんのレビューを拝見すること、楽しみにしております♪
      2023/06/01
    • 111108さん
      傍らに珈琲を。さん、お久しぶりです!
      コメントありがとうございます♪

      そうか、ブクログお休み中は資格取る勉強されてたのですね。積読本横目に...
      傍らに珈琲を。さん、お久しぶりです!
      コメントありがとうございます♪

      そうか、ブクログお休み中は資格取る勉強されてたのですね。積読本横目にお勉強は大変。私なら「ちょっと休憩」と言いながら気がつけばどっぷり読書してしまいそう。でもこうしてゴールが見え、また楽しく読書できるようになったとのこと本当によかったです。
      またほむほむや短歌で皆さんと語り合いましょう♪
      2023/06/02
    • 傍らに珈琲を。さん
      111108さん、お返事有難う御座います。

      そーなんです、珍しく勉強しておりました。
      ちょっと休憩…と手を伸ばしたくなるお気持ち、分かりま...
      111108さん、お返事有難う御座います。

      そーなんです、珍しく勉強しておりました。
      ちょっと休憩…と手を伸ばしたくなるお気持ち、分かります!
      初めはその気持ちと戦っておりました。
      読書の"合間に勉強"という配分になってしまうのは目に見えていたので、ぐーっと堪えて励んでおりました。
      ありがとうございます、また宜しくお願いします♪

      台風、すごいですね。
      どうぞお気をつけて安全にお過ごしくださいませ。
      2023/06/02
  • 穂村さんが「いいな」と思った歌を集めた100首。

    なかなか解説付きの短歌を読むことがないので、これも楽しみが倍増できて良かった。
    奥深いなぁ。
    素のままの我が身を晒して歌にする。
    こんなふうに表現できれば気持ちいいだろうなぁ。
    憧れの目で読んでいた。

    このなかから特に好きな8首を厳選。

    ①はじめからゆうがたみたいな日のおわり近づきたくてココアをいれる   〈本田瑞穂〉

    ②水無月の崎のみなとの午前九時赤き切手を買ふよ旅びと   〈若山牧水〉

    ③今日君が持ってる本を買いました。もう本当のさよならなんだ   〈福島遥〉

    ④僕らは未だ見えざる五つ目の季節が窓の向こうに揺れる   〈山田航〉

    ⑤見えるでしょうこれが破壊というものですぽろぽろぽろぽろうるさい涙   〈干場しおり〉

    ⑥花もてる夏樹の上をああ「時」がじいんじいんと過ぎてゆくなり   〈香川進〉

    ⑦君を愛した深さがふっと消えるとき路上に美しきバスが近付く   〈田中雅子〉

    ⑧かたむいているような気がする国道をしんしんとひとりひとりで歩く   〈早坂類〉



  • 短歌に興味を持った私にまことさんがお勧めくださった本。
    短歌って難しそう…というイメージをぶち破ってくれる、とっても面白い本でした!
    まことさん、教えてくださりありがとうございました!!

    穂村弘さんが選んだいろんな方々の歌。
    5・7・5・7・7。たった31語でこんなにも豊かな気持ちが表現ができるんだなぁ。
    本のタイトル通りガチャポンみたいで、次はどんな短歌がでるのかなとページを捲るのが楽しみだった。
    なかには難しい歌もあったが、穂村さんの解説付きなのでそこは安心。
    またその解説が素晴らしくて。
    その歌の作者の他の歌も合わせて紹介されていたりして、短歌って人柄や感性がはっきり表れて面白いなぁと思った。


    以下、いいなぁと思った歌を↓↓↓

    本当はメロンが何かわからないけどパンなりにやったんだよね/砂崎柊
    なんてかわいい歌だろう。メロンパンを見て、パンの頑張りを認める感じが、なんだか優しくて好きだなぁ。

    しゃぼん玉近づくように笑い合う「モモって呼んで」「リコって呼んで」
    /松田梨子
    ふふっ微笑ましいなぁ。ふわふわ漂いながら遊んでいるしゃぼん玉。仲良し感が伝わってくる。

    ペガサスは私にはきっと優しくてあなたのことは殺してくれる/冬野きりん
    第一印象は怖い。あなたが憎いのかと思った。穂村さんの解説を読んで、これは祈りなのかと。あなたを愛しているのかと。…深い。

    「天国に行くよ」と兄が猫に言う 無職は本当に黙ってて/山川藍
    逝きそうな猫に向かっての言葉かな。いいこと言ってるけどさぁ~、と家族のなかでの兄の立場が見え隠れしてくすりと笑えた。

    • まことさん
      ひろさん、こんばんは♪

      ガチャポン読まれたのですね!
      楽しく読まれたようで、私も嬉しいです。
      そして、選ばれた歌も、ひろさんらしくて、いい...
      ひろさん、こんばんは♪

      ガチャポン読まれたのですね!
      楽しく読まれたようで、私も嬉しいです。
      そして、選ばれた歌も、ひろさんらしくて、いいですね!
      つけられた感想も、わかりやすいしとても素敵です。
      また、ひろさんの、他の短歌レビューも期待しています(*^^*)。
      2023/04/25
    • ひろさん
      まことさん、おはようございます♪
      とってもおもしろかったです!
      短歌を親しみやすく感じました。
      次は「あの人と短歌」も楽しみですᐠ( ᐢ...
      まことさん、おはようございます♪
      とってもおもしろかったです!
      短歌を親しみやすく感じました。
      次は「あの人と短歌」も楽しみですᐠ( ᐢ ᵕ ᐢ )ᐟ
      2023/04/26
  • 穂村 弘「短歌のガチャポン」第27回|本の窓
    https://shosetsumaru.tameshiyo.me/M202212TANKA27

    短歌のガチャポン | 書籍 | 小学館
    https://www.shogakukan.co.jp/books/09388895

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      穂村弘が語る、短歌を“読む”醍醐味とは「詠んだ人の視点と自分の感覚を織り交ぜて追体験できるのが魅力」|Real Sound|リアルサウンド ...
      穂村弘が語る、短歌を“読む”醍醐味とは「詠んだ人の視点と自分の感覚を織り交ぜて追体験できるのが魅力」|Real Sound|リアルサウンド ブック
      https://realsound.jp/book/2023/01/post-1223444.html
      2023/01/12
  • 穂村弘さんが選んだ「短歌のガチャポン」。
    その中から私が選んだのを見ると、私より歳が若くて、さらに近年になればなるほど気に入ってるようです。

    100首の中から気に入ったのは14首。

    はなこさんがみかんを三つ買いましたおつりはぜんぶ砂にうめます・東直子
    はじめからゆうがたみたいな日のおわり近づきたくてココアをいれる・本田瑞穂
    今日君が持ってる本を買いました。もう本当のさよならなんだ・福島遥
    ニワトリとわたしのあいだにある網はかかなくてもいい? まようパレット・やすたけまり
    あの友は私の心に生きて伊舎堂いて実際小田原でも生きている・柴田葵
    イヴ・モンタンの枯葉愛して三十年妻を愛して三十五年・岩田正
    「天国に行くよ」と兄が猫に言う 無職は本当に黙ってて・山川藍
    (「仕事いま三つしていると言えば皆「何を」も「なぜ」も聞かずに黙る」)
    結婚はタイミングだと言われた日 独りの部屋でおならを出し切る・カン・ハンナ
    ラジオ体操の帰りにけんかしてけんかし終えてまだ8時半・伊舎堂仁
    もう君の夢をみないと約束をさせられた日にみた君の夢・古賀たかえ
    「水菜買いにきた」三時間高速とばしてこのへやに みずな かいに・今橋愛
    自販機のなかに汁粉のむらさきの缶あり僧侶が混じれるごとく・吉川宏志
    私には才能がある気がします それは勇気のようなものです・枡野浩一
    花の下を歩いたときのなぞなぞの答えを君は今も言わない・竹内亮

  • あとがきに「ふと思いだして嬉しくなったり、たまたま目に飛び込んできて「いいな」と思った歌を集めてみました。」とある。

    巻頭にはいくつかの短歌がドローイングと共に紹介されていて眼にも楽しい。
    かっちりした解説や鑑賞ではなく、感想に近い感じの説明が書かれている。わからないなりに、なんだか心に引っかかる歌が多い。

  • 穂村さんが選ぶ百人一首のような感じ。
    穂村さんが惹かれた短歌を、穂村さんの解説で読みたかった。
    数ある短歌集を手にしなくても、美味しいとこだけ鑑賞できるという怠け心もあった。
    メリンダ・パイノさんのイラストも、カラフルで想像を邪魔しない余白があって素敵。

    本を開いて早々に引き寄せられた。
    『「天国に行くよ」と兄が猫に言う 無職は本当に黙ってて』 山川藍
    家族ならではのムカつきと痛烈な切り捨て。
    読んで笑ったあとに感じる、藍さんの現実。
    仕事をしていれば充実感だけではなく、悔しさやしがらみ等、様々な葛藤と疲労がある。
    そんな藍さんの横で、藍さんにも聞こえるように、兄が猫に優しく声を掛ける。
    全て理解している人のように。
    メリンダさんの猫視点のイラストも輪をかけて面白い。
    ここでフライングして穂村さんの解説を読み、そこで紹介されている兄に関する歌でまた笑ってしまった。
    山川藍さんの短歌が更に読みたくなってしまい、検索。
    飾り気のない日常に、正直すぎる気持ちの吐露が笑える。
    困ったぞ、こんなんじゃなかなか先に進めない。

    『今日君が持ってる本を買いました。もう本当のさよならなんだ』 福島遥
    余韻が凄まじい。
    「ました。」と丁寧語なのは君に話しかけているからで、「なんだ」は心の中でさよならが決定的である事を思い知ったという感じが伝わる。
    君のことが好きだから同じ本を買ったのに、そのことで改めてさよならを認識させられてしまう。
    だって一緒に居るなら本は1冊でいいものね、貸し借りすれば良いのだから。
    ここでまたもフライングほむほむする。
    「これからは本も時間も空間も私ひとりのものになるのだ」(抜粋)と歌に読めてしまった。
    穂村さんの、確信を突く言葉が並んでいた。
    そして福島さんがフォークロックユニットのメンバーなのだと知る。
    紹介されている他の短歌にもドラマを感じる。
    「タケノコがプラットホームに落ちていてそれなのに君はさよならなんて」
    こんな面白い事は大好きな君と一緒に笑いたいのに、その君はさよならを口にする。
    「意外性のある組み合わせが思いを支えている」という穂村さんの言葉に納得。
    それにしても、「思いを支えている」って言葉が素敵だ。

    本書冒頭の幾つかにメリンダさんのカラーイラストが添えられていて、
    その素敵なイラストを楽しんでからガチャポンのハンドルを回して欲しいと穂村さんは言っている。
    とはいえ、のびのびとしたイラストがあったから少し余裕を持って読めたけれど、
    その後は鳥肌が立つような短歌が次々現れて大変な1冊だった。
    笑ったり、キュンとしたり、考えさせられたり、とっても贅沢なガチャポンだ。
    (ガチャポンの中には、松田わこちゃんや「手紙魔まみ」こと雪舟えまさんの歌も入ってます。)

    全ての歌が、穂村さんの解説で更に異次元クラスのとっておきの1首へとなっていた。
    刺激的な1首が、穂村さんの言葉を添えて温かくも一層冷たくもなり、
    柔らかな1首が、穂村さんの言葉により驚きを持って奥行を増す。
    穂村さん上手だなぁ…。
    ある意味心の内をさらけ出すことにもなりうる短歌の読み手は孤独だが、分かってくれる人(穂村さん)が居てくれる。

    読み終えて、他にも幾つかご紹介しようと思ったが………選べない!!
    それに当初頭をかすめた「数ある短歌集を手にしなくても、美味しいとこだけ鑑賞」という考えが覆されてしまった。
    皆きちんと読みたい!
    ただ、先日購入した千種創一さんの「砂丘律」が紹介されており、買って良かったと満たされた。
    まだ積読だけど 笑

    それにしても。
    鈴木しづ子さんの俳句集に続いてこちらの短歌集を読んでしまったものだから、ぶっ飛んでしまって戻るのが大変だ。
    コーヒー淹れよっ。

    • 111108さん
      傍らに珈琲を。さん、こんばんは。

      ブクログの「あなたへの新刊」で出てていいなぁと思ってたら、もう読まれたんですね!
      穂村さんの解説、自分な...
      傍らに珈琲を。さん、こんばんは。

      ブクログの「あなたへの新刊」で出てていいなぁと思ってたら、もう読まれたんですね!
      穂村さんの解説、自分なりにわかったつもりの上を行くので本当にいつも目から鱗です。たぶん私もこの本読んだら、ちょっと待って、コーヒー淹れよってなりそうです。
      2022/12/04
    • 傍らに珈琲を。さん
      111108さん、こんばんは!

      コメント有難う御座います。
      同じく、あなたへの新刊で。
      取り敢えず書店でチラ見してから考えるか…と思ってい...
      111108さん、こんばんは!

      コメント有難う御座います。
      同じく、あなたへの新刊で。
      取り敢えず書店でチラ見してから考えるか…と思っていたのですが、開いた傍から心を持っていかれて購入と相成りました笑
      そうなんですよね、上を行くのです。
      是非是非、お手に取られてください!
      皆さんの短歌全てが素晴らしくて、穂村さんの解説もまた1つの文学で、素晴らしい1冊でした!
      あ、コーヒーも忘れずにご準備を♪
      2022/12/04
  • 「天国に行くよ」と兄が猫に言う 無職は本当に黙ってて 山川藍

    ふと本屋さんで手に取り立ち読んだ一冊
    単行本冒頭に掲出されたこの句にやられてしまいました
    その日は買わずに帰ったのですが、数日たっても忘れられず結局購入
    バラエティに富んだ短歌100首、とても面白い一冊でした

    ……というか、100首どころじゃありません
    穂村先生の解説欄に頻繁に引用句が登場するものだから、最終的には200首くらい載っているのでは?ってな印象

    句を読んだ感想も、穂村先生の解説とは全然違う事を感じたり、なんなら一日置いて読み返しただけで初読時の自分と全然違う事を感じたりと、ずっと手元に置いて読み返したい作品集でした

    他ジャンルで活躍中の人の句も掲載されていてビックリ
    ハルカトミユキのハルカは作詞もしているしわかるけど、まさか女子プロレスラー・ハイパーミサヲの名前をここで目にするとは……


    いくつか気に入った句を紹介してみる

    おふとんでママとしていたしりとりに夜が入ってきてねむくなる 松田わこ
     ー作者は当時7歳の少女だそうで。ひえー、すごいー

    ラジオ体操の帰りにけんかしてけんかし終えてまだ8時半 伊舎堂仁
     ー少年の日のキラキラした一日を思い出す、好き

    くちづけをしてくるる者あらば待つ二宮冬鳥七十七歳
     ー最初は読み方がわからなかったのだけど、二宮冬鳥(にのみやとうちょう)が作者名だと知れた瞬間に笑ってしまった、かっこいい老人だ

    朝を知る野鳥の声を聞きながらまだ夜のまま君を思へり 高山邦男
     ーこれは掲載100首ではなくて解説欄に引用された一句
    私が大好きなバンドの曲に「ねぇ新聞屋さん 僕の今日は 君にとって昨日のこと?」という歌詞があるのですが、こういった夜更かしした人の今日と早起きした人の昨日が混ざる、みたいなちょっとクラクラするような感覚が好きなんです

    花の下を歩いたときのなぞなぞの答えを君は今も言わない 竹内亮
     ーもちろんこのままズバリな経験があるわけじゃないんですけど、恋人同士の間だけで通じるお約束のやり取り、みたいなあの雰囲気・空気感がしてすごく好き


    ってキリがないよ!
    だって素敵な句ばかりだもの、しょうがないよね

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著者プロフィール

穂村 弘(ほむら・ひろし):1962年北海道生まれ。歌人。1990年に歌集『シンジケート』でデビュー。短歌にとどまることなく、エッセイや評論、絵本、翻訳など広く活躍中。著書に『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』、『ラインマーカーズ』、『世界音痴』『もうおうちへかえりましょう』『絶叫委員会』『にょっ記』『野良猫を尊敬した日』『短歌のガチャポン』など多数。2008年、短歌評論集『短歌の友人』で伊藤整文学賞、2017年、エッセイ集『鳥肌が』で講談社エッセイ賞、2018年、歌集『水中翼船炎上中』で若山牧水賞を受賞。

「2023年 『彗星交叉点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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