ガラパゴス (下) (小学館文庫 あ 16-7)

著者 :
  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094065336

作品紹介・あらすじ

貧乏の鎖は、俺で最後にしろ。

二年前、都内団地の一室で自殺に偽装して殺害された沖縄県宮古島出身の非正規労働者・仲野定文。警視庁捜査一課継続捜査担当の田川信一は、仲野が勤務していた三重県亀山市、岐阜県美濃加茂市を訪れる。そこで田川が目にしたのは国際競争に取り残され、島国で独自の進化を遂げる国内主要産業の憂うべく実態だった。仲野は、過酷な労働環境のなかでも常に明るく、ふさぎがちな仲間を励ましていたという。田川は仲野殺害の背景に、コスト削減に走り非正規の人材を部品扱いする大企業と人材派遣会社の欺瞞があることに気づく。
これは、本当にフィクションなのか?
落涙必至! 警察小説史上、最も残酷で哀しい殺人動機が明かされる。


【編集担当からのおすすめ情報】
堤未果氏絶賛!
(国際ジャーナリスト『ルポ 貧困大国アメリカ』)
「事件が真相に近づくほどに、誰が“悪”なのか分からなくなる。
被害者も犯人さえも顔がない社会は、こんなにも恐ろしい」

24時間365日死ぬまで働け。
日本から、正社員は消滅する。

感想・レビュー・書評

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  • 1 この相場氏の著書は、震える牛(食品偽装問題がテーマ)に続く作品です。ガラパゴスとは、南米エクアドルの沖合にある島々です。題名のガラパゴスは、日本の製造業が国際標準からかけ離れ、競争力を失っている状態を揶揄した言葉です。
    2 相場氏は、「デフォルト」でダイヤモンド経済小説大賞を受賞しました。その後の「震える牛」は、ベストセラーになりました。
    本書は、主人公の田川刑事が活躍するサスペンス小説です。勿論、警察小説として、迫力があります。また、派遣労働者と正社員との処遇格差を赤裸々に訴えた労働問題小説の一面もあります。このガラパゴス(下)では、派遣労働者を殺害した犯人を特定し、検挙するまでのプロセスを書いています。犯罪構造は複雑で、殺害には会社トップや警察が関与しています。関係者全員を罪に問う事が出来ず、ハッピーエンドにならない物語です。読者に余韻を残すという点では、良い演出かもしれません。
    3 私が、書中で心に留めた事を私見を加えて、3点書きます。
    (1)「派遣社員の間で相互監視と密告めいた仕組みがあり、同僚の情報を売った功績で、正社員になった」
    ●私見⇒会社の中にスパイ活動を推奨する仕組みがあるとは、思えません。最近では、社内通報制度を設ける企業が多いと聞きます。例外はあるでしょうが、スパイ活動の仕組みは理解出来ません。
    (2)「客の満足よりも、自分の会社の利益を極限まで追求する、それが今の企業の姿です」
    ●私見⇒著者の考えには賛成出来ません。企業の存在意義は、社会貢献と思います。それを実現する為のキーワードは、お客様の満足と社員の幸福です。その結果として、会社は利益を確保出来るのです。
    (3)「普通に働き、普通にメシが食えて、普通に家族と過ごす。こんな当たり前の事が難しくなった世の中ってどこか狂っていないか」
    ●私見⇒この問題の根底には、給料を始めとする非正規社員と正社員との処遇格差あると思います。書中には、派遣社員の年収が200万円とあります。事実に近いとすれば、私には、コメント困難です。
    4 まとめ:本書は、警察小説として、自殺を他殺と判断し、犯人を追い込んでいくストーリーで展開します。そのプロセスの中で、企業の暗部を掘り起こし、読者に問題提起します。著者は日本の製造業(取り分け自動車産業)や派遣労働者等の労働問題をかなり勉強したと思います。本書の魅力の一つで、敬意を表します。最後に、解決が難しい問題を記します。①労働環境の二重構造(正社員↔️非正規社員)の中で、非正規社員の多くが家族を養う事も難しく、結婚出来ないのではないか?少子化の一因にもなると思います。②日本の社会構造は、組織を守る建前で、個人を犠牲にしていないか? モノ言う社員への嫌がらせ、無償残業・・・等、見て見ぬ振りをする幹部社員。保身が悪とは断言しません。望むべくは、善悪に関わらず、事実の前に謙虚であって欲しい、と思います。★読後感は十人十色ですが、時にはこうした重いテーマの本を読んで、社会問題を考える事の必要性を喚起してくれる一冊でした。

  • Amazonオーディブルで聴いた。

    面白かったけど…警察小説でもミステリでもなかった…。
    警察官が捜査をする形式を取りつつ、派遣労働者の過酷さを訴える小説でした。
    派遣というものを廃止するのが日本の労働環境改善のために必要だと思う。
    無理なのか〜。

    殺人事件の被害者が善人すぎてつらい。

    ファンドマネージャー(証券アナリストだっけ?)がすごい解説キャラで、便利に使いすぎダロ〜。
    無くなったはずのネット上の証拠もそのつながりで容易に手に入って、ファンドマネージャーがいれば何でも揃うのか!(笑)

    問題の数字が車台番号なのは初めからあからさまだったのに、主人公が一向にそれに思い当たらないという展開がなんだかねぇ。
    もちろん、現実的には分からないのは普通だけど、作中では初めのうちに不自然に車台番号の話が出てくるから、読者はすぐに分かる。

    次は同じ著者の「震える牛」を聴こ〜。

  • 田川刑事は、被害者である仲野の故郷沖縄や、彼のかつての同僚、彼らの居住地などをしらみつぶしにあたり、犯人を特定。それは、とある自動車事故の証拠隠滅とも関連があり、またまた障壁にぶち当たる。様々な人たちの口を借りて現代日本が抱える派遣従業員の窮状が明らかになり、生活を守ることと引き換えに汚れ役をやらざるを得なかった者たちの状況を思うとやりきれない。

    ところでグレーな立場の鳥居刑事の今後はすごく気になるところだ。彼は父親の不幸を胸に刻み「臥薪嘗胆」の人生を送ってきた人物である。彼の胸には「復讐」があった。このような強烈な個性を持ったキャラクターは懐かしい。昔の推理小説でよくお目にかかった気がする。

    「震える牛」ではトカゲのしっぽ切りのような結末で消化不良だったので今回こそ…と思ったのだが…。リアリティを前面に出す作品では、やはり社会がひっくり返るほどの全面解決は無理なのか。そしてそれが日本の現状なのか、と今回もまたモヤモヤな読後感である。

  • 相場英雄『ガラパゴス 下』小学館文庫。

    あの社会派ミステリーの傑作『震える牛』に続く、シリーズ第2作の下巻。日本のメーカーのコンプライアンスと雇用制度に一石を投じた読み応えのある問題作だった。

    警視庁捜査一課継続捜査担当の田川信一と同期の木幡祐司は地道な捜査により徐々に事件の核心へと迫る。そして、タイトルの『ガラパゴス』が持つ意味の恐ろしさ……

    読み終えて、つくづく今の日本の異常さを感じた。いくら望んでも、普通に働けない労働者。まるでタコが自らの足を食むように事業や子会社を売却し、誘致工場もあっけなく閉鎖し、人を人とも思わない構造改革という名のリストラを繰り返す大企業。便宜を餌に裏で儲かる企業につながる政治家と公僕。狂っているとしか思えない。

    結末には両手を挙げて喜べないが、現実味があって良いと思う。今の日本なら、この結末でも恩の字かも知れない。

  • ある身元不明の自殺者を調べていたら 実は殺人事件だった。
    そして その事件の背景には
    今の日本の ブラックな 部分があったという内容でした。


    はじめの方は 有名な電気・自動車 メーカーをもじった 名前が 出てきて 
    わかりやすいような わかりにくいような 感じでした。
    読んでいくと まさか あの会社がこんな 悪劣な状況で 人を雇ってるわけないよね~~ って 
    本気で心配したくなるような 内容でした。
    フィクションとは いえ、、、、
    ノンフィクションのように 描かれているのが 凄いですね~~~

    上下でしたが 長さを気にせず読めた本でした。

  • 震える牛があまりにも面白かったため、続けて拝読。
    テーマは派遣労働者とエコカー問題。
    派遣労働者を物として扱う企業の姿勢を強調しており、少し過激な内容。
    「人間は置かれた環境と歳月で激変する」
    同感。

  • 下巻では、事件の真相が次々と点と線が繋がって、企業体質とそこで働く、非正規労働者の問題がクローズアップされていく。
    単なる殺人事件としての推理本に留まらず、現在の社会問題に一矢報いることは「震える牛」との共通点かな・・・
    憎らしくも切なくなる小説でした。

  • 知らない世界を突き付けられた。
    未来に希望を持てず、多くの人を巻き込んで安易に有名になろうと犯罪に手を染める人間、自ら死を選ぶ人間、上に行くために人を蹴落とす人間、それでも頑張り続ける人間。
    日々のニュースで垣間見れることもあるけど、実際にそんな環境にいる人が周りに見つからないから、ついつい表面を読んで個人の資質の問題に感じてしまうけど。
    それに車に関するデータや、テレビに関するものは本当のことなんだろうか?
    考えさせられることも多い作品。

  • 前回の震える牛同様
    田川さんの地取りの過程にワクワクする
    それにしても日本の労働環境は本当にこんななのだろうか...
    派遣/契約社員が問題視されていたけど全く深く考えていなかった...
    勉強してみよう

  • 自殺に偽装して殺害された非正規労働者・仲野定文が良い人すぎて、悲しくて、やりきれない。

    主人公の警視庁捜査一課継続捜査担当の田川信一は、言うまでもなく魅力的だが、アナリストの小島が良かった!

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著者プロフィール

1967年、新潟県生まれ。専門学校卒業後、時事通信社へ。経済部記者を務める。2005年『デフォルト 債務不履行』で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞しデビュー。『震える牛』がベストセラーに。『血の轍』『ガラパゴス(上・下)』『不発弾』『トップリーグ』他、映像化作品多数。主な著書に『ファンクション7』『偽金 フェイクマネー』『復讐の血』『共震』『アンダークラス』『Exit イグジット』『レッドネック』『マンモスの抜け殻』『覇王の轍』がある。

「2023年 『心眼』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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