セイレーンの懺悔 (小学館文庫 な 33-1)

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094067958

作品紹介・あらすじ

マスコミは人の不幸を娯楽にする怪物なのか

葛飾区で女子高生誘拐事件が発生し、不祥事により番組存続の危機にさらされた帝都テレビ「アフタヌーンJAPAN」の里谷太一と朝倉多香美は、起死回生のスクープを狙って奔走する。
しかし、多香美が廃工場で目撃したのは、暴行を受け、無惨にも顔を焼かれた被害者・東良綾香の遺体だった。綾香が”いじめられていた”という証言から浮かび上がる、少年少女のグループ。主犯格と思われる少女は、6年前の小学生連続レイプ事件の犠牲者だった……。
マスコミは、被害者の哀しみを娯楽にし、不幸を拡大再生産する怪物なのか。
多香美が辿り着く、警察が公表できない、法律が裁けない真実とは――
「報道」のタブーに切り込む、怒濤のノンストップ・ミステリ。

【編集担当からのおすすめ情報】
解説は、ジャーナリストの池上彰さん。

感想・レビュー・書評

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  • 「報道とは何か」を報道批判じゃないかと思うような鋭い言葉で書かれていました。

    自分が期待する結果に沿った材料しか目には入らない。都合が悪い情報は敢えて考慮しない。そして自分の権威を守るために誤報をしても決して謝らない。マスコミを気持ちよく批判しながら物語は進みます。

    新聞もニュースも誰かがその題材を選んだ時点でその人のバイアスがかかっている。
    その影響を少しでも減らそうと、目にした記事と反対の見方をしている記事を目にするようにしたいのだけど、なかなか時間がない。

    結局、自分が選ぶ記事もきっと自分が目にしたい記事に片寄っているはずだ。

    批判されているマスコミを批判できる立場に自分はあるのだろうか?最後にその問いだけが残った。

  • 「悪い事したら謝る!」って親からは教えられ、
    「ごめんで済むなら警察はいらない!」とも言うのに、謝らんのか…この業界、マスコミは!

    確かに野次馬根性で観てる、こっち側に責任がないとは言えんけど…
    ニーズに応えんと企業としては成り立たんしね…
    今は、テレビだけやなく、ネットニュースが蔓延る世の中。
    誤報というのは、間違いやけど、フェイクニュースという意図的なのもあり、混乱の極み!

    間違いはあるけど、キチンと謝罪して、本来の使命でもある権力者への監視の役割を果たして欲しい!

    中山七里さん!
    相変わらずのどんでん返し!
    楽しめました〜!

  • ワイドショーに象徴されるマスコミ報道の在り方を鋭く批判する小説と思ったら、さすがのどんでん返し。
    表題のセイレーンとはギリシャ神話の妖精とか。岩礁の上から美しい声で誘い、船を難破させる。マスコミもセイレーンと同様に、視聴者を耳障りの良い言葉で誘い、不審と嘲笑の渦に引き摺り込む、とあった。
    3度のBPO案件が続くのに萎縮するどころか、更に挽回すべく特種を求める主人公達のテレビ局。懲りずに冤罪を引き起こすことになる。安倍元総理の銃撃事件ではセンセーショナルな映像が何度も流れたり、女子高生のインタビューが映されたり、TV東京を除き、ネタも無いのに長時間放送していた。誰が求めているのだろうか、我々視聴者なのだろうか。
    最後は記者が特種をものにするが、諦めずに頑張れば報われる、というような結末がちょっとどうだろうか?

  • この仕事を何のためにしているのかとか、矜持とか、組織を恐れない姿勢とか、生き方としてありですよね。

  • 大好きな中山七里先生の作品。

    葛飾区で女子高生誘拐事件が起きた。
    帝都テレビの里谷太一と朝倉多香美はスクープを狙い、駆けつける。多香美が廃工場で目撃したのは、暴行を受け、無惨にも顔を焼かれた被害者の遺体だった…。
    刑事の跡をつけ、事実を掴んだかに見えたのだが、事件は思わぬ方向に向かう。

    中山七里先生の本には冤罪を扱ったものもあったが、こちらは報道での冤罪がテーマかな?

    物語自宅も興味深いが、登場人物の台詞の一言一言が重く、報道とは何たるか?考えさせられるような本だった。

    最後はどんでん返しがあるのか中山先生たが、この本も裏切らない。流石!

  • 不祥事続きの帝都テレビ報道局、そのエース記者の里谷と新米の多香美が、起死回生を狙って女子高生の誘拐殺人事件に突っ込んでいく。

    タイトルは、ギリシャ神話の「オデュッセウス」に登場する、歌声で船員を惑わし、船を難破させる怪物「セイレーン」から(傲慢なマスコミの誤報道が無実の者を社会的に追い詰めることの隠喩)。

    どんでん返しも去ることながら、マスコミのエゴ、傲慢な報道姿勢を鋭く突いていて、読み応えある骨太作品だった。

    宮藤刑事のセリフ「俺たちは被害者とその家族の無念を晴らすために働いている。だけどあなたたちは不特定多数の鬱憤を晴らすために働いている」、里谷の自嘲「どんな大義名分があろうと、報道の基本は野次馬根性だ。隠された秘密を暴く、人の行かない場所に行く、不幸と悲劇を具に観察する。そうした野次馬が醜く見えない訳あるかよ」や「人が隠したがっている秘密を暴き、失敗をあげつらい、公衆の面前で恥を掻かせ、その成果を生活の糧にする。そんな職業が異常でないはずがないじゃないか」、などなど直球勝負のセリフが重い。

    傲慢で厚顔無恥なマスコミも、なきゃないで困るしなあ。少なくとも、ワイドショーは世の中から消えて欲しい。

  • 報道の自由とは、マスコミの正義とは?
    警察とマスコミの2つの正義がぶつかる時、何かが起きる。

    ある不祥事により、帝都テレビの『アフタヌーンJAPAN』は、存続の危機に見舞われる。
    新人の朝倉 多香美は、ベテランの里谷 太一と起死回生のスクープを狙う。

    そんな時、葛飾区で女子高生の誘拐事件が発生する。身代金は1億円。
    警察を尾行した多香美は、顔が焼かれた被害者を目撃する。

    被害者の友人達の聞き取りから、あるグループが浮かび上がる。そして、そのネタを元にスクープを抜くことに成功した。
    しかし、警察の動きは、驚くとことに...

    中山七里氏らしい、二転三転する展開で、目も離せません。最後のどんでん返しで、この人物が真犯人かと思いきや、さらに最後の最後で...

    マスコミの報道のあり方を問う内容は、まさしく考えることが多く、難しい課題ですね。

    最初は、失敗ばかりの多香美ですが、彼女自身の成長物語でもありますね。

  • 面白かった
    テーマはマスコミ
    筆者のマスコミ批判、報道批判も含めてのミステリー
    そして主人公多香美の成長の物語

    ストーリとしては、
    葛飾区で発生した女子高生誘拐事件、身代金は1億円。
    不祥事で番組存続の危機に陥っているアフタヌーンJAPANの多香美は配属二年目。先輩の里谷とともに、起死回生のスクープを狙います。

    警察を尾行することで、容疑者と思われる少年少女のグループを突き止めるスクープを放送!
    それをもとに、エスカレートする取材合戦。

    しかし、それは大誤報!

    といった展開です。

    ミステリー要素としては、
    真犯人は誰?
    事件の真相は?
    という展開で、二転三転していきます。

    同時にマスコミに対する考え方、あり方について、
    報道とは?、マスコミとは?ニュースをバラエティ化しているTVへの批判

    刑事の宮藤のコメントが印象的です。
    「警察が追っているのは人じゃなくて犯罪だ。真相を突き止めている訳でもない。法を犯したのは誰かを特定しているだけだ。だが、マスコミが追っているのは憎悪の対象だ。明らかにしようとしているのは、自分たちとは無関係だと思いたい悲劇や人間の醜さだ」

    「警察とマスコミ、似たような仕事をしていても決定的に違う点がもう一つある。君たちは不安や不幸を拡大再生産している。だが少なくとも俺たちは犯罪に巻き込まれた被害者や遺族の平穏のために仕事している」

    そんな批判に対して多香美はどう自分自身をとらえるのか..

    事件が解決した後の多香美のスピーチ
    筆者の想いがそのまま語られていると思います。

    お勧め!

  • 女子高生誘拐事件を発端に、スクープを追う配属二年目の女性ジャーナリストを主人公に、マスコミのあり方を問う社会派ミステリー。
    報道という手段で世界の歪みを正したいと願う主人公朝倉多香美に対し、先輩記者里谷は、「どんな大義名分があろうと、報道の基本は野次馬根性だ」と、嘯く。
    衝突しあいながらもスクープを狙い周辺取材を繰り返すうち、大誤報を犯してしまう。
    誤報後、里谷はその責任を一手に引き受け、多香美の間違いを正しながら、後事を託す。
    取材を続ける多香美の前には、警視庁刑事の宮藤が立ち現われ、警視庁とマスコミは、似たような仕事をしているが決定的に違う点を挙げる。
    「君たちは不安や不幸を拡大再生産している。だが少なくとも俺たちは犯罪に巻き込まれた被害者や遺族の平穏のために仕事している」と。
    警察が追っているのが犯罪に対し、マスコミが追っているのは憎悪の対象だとも。
    さらに、検証とかいう代物は下衆な野次馬を満足させるためであり、警句めいたひと言でまとめるが、事件をバラエティにして楽しんでいる、としてマスコミをセイレーンに例える。ここらへんは、著者のマスコミに対する見識の一端だろう。
    事件の真相が二転三転し(「どんでん返しの帝王の面目躍如)、最後にレポーターとして多香美が捥ぎ取った五分間のスピーチは、彼女が到達したジャーナリストとしての立ち位置の表明であり、読み応えのあるクライマックスになっている。

  • ある女子高生の殺人事件を舞台にマスコミ(報道番組)視点でストーリーが展開される。
    主人公の朝倉は報道番組に携わるテレビ局入社2年目の女性で、この事件を取材する上で自分の仕事の存在意義が問われる。
    警察の宮藤には
    ・「警察は被害者とその家族の無念を晴らすために働いている。マスコミは不特定多数の鬱憤を晴らすために働いている。」
    ・「警察が追っているのは人ではなく犯罪つまり、法を犯したのは誰かを特定している。マスコミが追っているのは憎悪の対象だ。」
    ・「マスコミはセイレーンのようだ。視聴者を耳触りの良い言葉で誘い、不信と嘲笑の渦に引き込もうとしている。」
    など厳しい言葉をかけられる。また、その中で朝倉は誤報で冤罪を引き起こしてしまう。その時に先輩の里谷は責任を取って異動させられてしまう。
    「マスコミは謝罪しない。普段政治家や官僚を非難し、誤りを正す立場にある。その立場にいる人間が謝罪なんかしたら沽券に係わる。権力者を追求する資格を失ってしまう。反権力を気取りながら自らの権力は手放したくないだけだ」
    報道の現場に残った朝倉は謝罪をすることも許されず、誤報の原因究明を進め、事件の真相に辿り着く。
    マスコミの在り方についても、
    「誤った報道は直ちに訂正され、誤報は直ちに訂正するべきです。権力を手にしていても権力に阿ることがないように自らを律していく。」
    と決意を誓った。

    私も2年目の社会人で同じような立場だが、自らの仕事の意義を深く知ろうとし、プロフェッショナルであろうとする彼女の姿勢が格好良く感じた。
    また、先輩の里谷は宮藤にマスコミという職業に対して厳しいことを言われたときに、
    「その道に進もうと思ったきっかけを思い出してみろ。いったいなぜ自分がその仕事をしているのか。この世界で何を実現したかったのか。それを思いだせ。」
    という言葉をかけてもらっている。後輩をここまで思いやれる先輩になりたいと思う。

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著者プロフィール

1961年岐阜県生まれ。『さよならドビュッシー』で第8回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2010年にデビュー。2011年刊行の『贖罪の奏鳴曲(ルビ:ソナタ)』が各誌紙で話題になる。本作は『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』『追憶の夜想曲(ノクターン)』『恩讐の鎮魂曲(レクイエム)』『悪徳の輪舞曲(ロンド)』から続く「御子柴弁護士」シリーズの第5作目。本シリーズは「悪魔の弁護人・御子柴礼司~贖罪の奏鳴曲~(ソナタ)」としてドラマ化。他著に『銀齢探偵社 静おばあちゃんと要介護探偵2』『能面検事の奮迅』『鑑定人 氏家京太郎』『人面島』『棘の家』『ヒポクラテスの悔恨』『嗤う淑女二人』『作家刑事毒島の嘲笑』『護られなかった者たちへ』など多数ある。


「2023年 『復讐の協奏曲』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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