- Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
- / ISBN・EAN: 9784094084856
感想・レビュー・書評
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福岡国際マラソンを舞台にしたマラソンスポーツ小説で
箱根駅伝を舞台にした三浦しをん『風が強く吹いている』は
読んだことがあったけど、マラソンランナーの駆け引きを
描写した小説は読んだことがなかったので、
新鮮な気持ちで楽しめた。
あまりマラソン自体を見ることが少ないので
ペースメーカーという存在がマラソン競技に
存在することも今回はじめて知ったくらいで
新しく聞き知ることが多かった。
物語の仕立てとしては、それぞれの思いを胸に秘めた
マラソンランナーの駆け引き・人間ドラマを味わいつつ
市川の目論見とは何なのか?、急死した二階堂の
死の真相は何なのか?というミステリー要素も
盛り込まれた内容になっているけど、
純粋にマラソンをめぐる人間ドラマに絞った方が
よかったのかもしれない。
少なくとも二階堂の死と白バイ隊員の推理は
レース終盤、どういう展開でゴールを迎えるのかという
ハラハラしながら読んでいる読者の関心とは相容れない上に、
スポーツ小説の爽やかさと人の生き死というミステリーは
相性が悪く、蛇足感が否めなかった。
そういう意味で、ペースメーカー役の市川の目論見が
何なのかという謎が終盤明らかにされ、伏線が回収される
という部分の謎解き要素だけでも、ミステリー的な試みは
十分果たせていたように思う。
ただ、全体を通してどこか詰めが甘いチグハグさがあって
それが読後の爽快感を減じさせていた。
マラソンレース中に殺人が行わる非現実感だったり、
パラリンピックを目指しているはずの選手が●●登録していたり
市川・洋子・洪の目論見と人間描写・性格描写が不一致で
後味が悪かったり、どーにもすっきりしない部分もあった。
ゴール寸前で「ちーす、●●です」とか嫌味を言ったり
「ざまみろ」とか思ったり「オレってばすごすぎね?」的な
自分が勝つことしか考えていない
性格の悪さ・嫌らしさを持つ人間に、
自分が得られるであろう栄光を捨て、全てを捧げて
献身的な働きをするものなのだろうか?
それを応援する恋人もだけど。
別に美談仕立てのお涙頂戴にする必要はないけど
市川が回想する洪像と本人の独白にギャップがありすぎて
後味がものすごく悪かった。詳細をみるコメント0件をすべて表示