日曜日のアイスが溶けるまで (小学館文庫 し 10-1)

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  • 小学館
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  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784094085235

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  • 蜃気楼のような、胸がすこし、きゅうってなるような、小さい頃の日々を思い出しました。

  • 独特の空気感。
    アイス君はすき。宏也君も悪くないと思う。

  • “なんだろう?いま私は、何を思い出そうとしてるんだろう?
    テレビの空は、京子の部屋の窓の外と同じ雨模様だった。画面に映ってはいないけれども、あのバラ園の、バラの花びらにあたる雫を目にした記憶がありありと浮かんだ。あのバラの、すぐそばを走る細い脚。逃げていた?それとも、誰かを追っていた?……かよ。……って、言ったでしょう!話し声、はしゃぐ自分、何もおそれずにときめく自分――そして。
    今日だけだよ。どうせみんな二度と会わないんだから。
    つぶやいて笑った、白いセーターの少年。
    大人びた言葉、ふっくらした唇、少し生意気そうな鼻。
    ああ。そうだ。思い出すと、忘れていたことが悔やまれるほどの甘い気持ち、けれども忘れていたゆえにつよく熱い気持ちが、胸から喉まで締めつける。
    あの子。
    私。
    みんな。
    私……この場所に、競技場に、小さいころ一度だけ行ったことがある。”

    ああ、清水さんらしいなっていう。
    昔の忘れていた記憶を思い出すところから始まる。
    今回は、ちょっと怖い。
    怖いというか、精神的に病んでいる感じ。
    妄想に取り付かれているのか、妄想に酔いすぎているのか。
    白いセーターの少年は本物か妄想か。それとも。

    “「わかる?」
    「うん」
    「なら、もう少しで、思い出せるよ」
    「思い出せる……」
    どこかで鋭く、何かがひび割れる音がした。アイス君の言う「何者か」が、悲鳴をあげているような気がした。
    「思い出せる」
    心のなかで、この数週間の、楽しかった甘い部分だけを反芻した。ずっと二人で、ごっこ遊びをして、なんの不安も心配もなかった。アイス君の目が、自分と同じ物語を見ているのがとても嬉しかった。
    ピシッ、ピシッとひびの深くなる音がした。目の前に迫る映像が、暗く、途切れがちになる。
    この数週間……私は解放されていた。ずっと押し込めていた私の心が、やっと新鮮な空気に触れて、花開いて躍るようだった。お人形で遊んで、ホットケーキを食べて、折り紙をして児童書を読んで。
    「思い出した」
    たくさんのことを、思い出していた。心に積んだ石の下に沈めた、扉の向こうに閉ざして忘れた、たくさんのこと。
    そして。”

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