異世界失格 (2) (ビッグコミックス)

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  • Amazon.co.jp ・マンガ (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784098606504

作品紹介・あらすじ

第1話3万RT!異世界コミック最注目作!

魔王が滅びた異世界で
神に授かりし力をふるい、
暴走を始める転移勇者達。

だが、その混沌と混乱の中
自らの創作意欲が目を覚まし
喜びに震える男がいた。

彼の名はセンセー。
生まれながらの作家。

【編集担当からのおすすめ情報】
魔王が滅ぼされた後に
なろうな異世界の新たな脅威となった
イキリ系転移勇者たちを前に、
心中文豪の秘められた能力がついに覚醒!

第1話が瞬時に3万RTを突破した
本年度 異世界コミック最注目作、衝撃と賞賛の最新第2集!!

感想・レビュー・書評

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  • 先生の力(スキル)が明らかになる。まだ全貌ではないのだろうけど。
    異世界転生ものの古式ゆかしい伝統に則って、ハーレムっぽい展開にも見えてきます。異世界転生に詳しくないから偏見かもしれません。

    敵も味方も、生きてきた道のりと時間があって、それぞれにそれぞれの行動をする言い分がある。そこは外さないんだけど、いかなる理由があっても悪は悪として断罪されていくところが小気味いい。
    理由があるから、とか、誰も悪くない、とかそういうのに逃げない断罪って、多様性を重んじるいまの時代、逆に新しいし大切だと思うよ。
    自分と違うから裁くのではない。少数派だから裁くのではない。どんな理由があっても、悪に堕ちるならそれは裁かなくてはならない。
    そんな感じって。


  • なにかを成し遂げ旅立っていった男と、空虚な力だけを持つ者たちとの戦い。

    魔王打倒のために異世界に召喚された「転移者」のひとりである、死の間際の作家の先生(たぶん太宰治、作中で名前は出ません)を主人公としてお送りする王道外しの邪道異世界ファンタジー第二巻の幕開けです。
    タイトルが太宰の代表作のひとつ『人間失格』からのもじりであることはもはや言うまでもないことなのかもしれませんが、早くもタイトルの真の意味が明らかになる巻となっています。

    転移者であるなら必ずひとつは与えられるにも関わらず、なぜか開示されなかった主人公の固有(ユニーク)スキルも同時に明らかとなり、先生ならまぁこれだよねと納得するものでした。
    あと、このレビューはネタバレ前提の下でお送りします。未読の方はどうかご容赦ください。

    まず言っておきますと、まったく能動的に動かないのに、なぜか渦中の人になっていく主人公を相変わらずコミカルに描く筋運び自体に変わりはありません。

    ただし物語の要請として彼がこの異世界で何をするために呼ばれたか? という理由付けがされたこと。
    それに加えて具体的な敵の数が示唆されたことでここ二巻はストーリーラインを一気に固めた一幕と言い換えることもできます。

    すなわち敵は「憤怒の魔王」を打倒した「七人」の転移者。
    前哨の「スズキ」戦を終えてからのこの巻の引きでやってきた一番手が「暴食」の二つ名を持っていることからもわかるかもしれません。
    現代の物語では引っ張りだこなあまり手垢が付いた感もある「七つの大罪」モチーフなのはきっと明白でしょう。

    ただ、転移者たちなんですが、現時点で別格に見えるのは「七人」中でリーダー格の二人。
    現時点で名前を見せた一人がパロディだったり、それを差し引いてもほかの一般転移者はダジャレネーミングだったり、普通の名字だったりどうしても格落ち感があります。

    キャラクターデザインもあえて捨てて「小物」に見えるようにしているのは流石ですが。
    ただ、その辺は作品の舞台になる異世界について語るうえでも言えることなので追って説明しますね。

    本作では異世界転移の主導者が「神/女神」でなくて一宗教団体というのが面白いポイントかもしれません。一方で異世界全体の設定としては独自色が無いのが独自色といった感があります。
    普通に魔王がいてエルフがいて、亜人種がいて魔法が使えて……などと普通です。原作者が欲目を出せばオリジナリティはいくらでも出せそうなのに、特に奇をてらう意図はないようです。

    また、地名などは一般に用いるにはなじみはないけれど、響きの良さから採用されがちなドイツ語から名付けられているようです。
    数詞や色など、わかりやすめの単語を用いているので少しかじった人なら一瞬で把握できるかもしれません。

    つまり、この作品は近現代の日本で不遇の立場に置かれた「小人(しょうじん)」たちが異世界に呼ばれて手にした規格外の力に溺れ、異世界を踏み台のように扱う「転移者たち」に注目したものと言えるでしょう。
    よって異世界自体はよくあるモチーフでまとめて邪魔にならないようにしている点に構成の巧みを感じます。

    よって、先に言った通り雑なネーミングの転移者たちもまたよくあるモチーフで固められているわけです。
    時に「スズキ」をはじめとした一般転移者たちが自分から「チートスキル」って言っている時点でわかるかもしれません。だって知ってか知らずか自分の「力」の源泉が「チート(ずる)」って認めてしまっていますから。

    先に断っておきます。具体的な作品を挙げることはしませんし、所詮はパブリックイメージに過ぎないと個人的にも思っています。その上で言わせていただくと、この作品における一般的転移者の姿とは「小説家になろう」に代表されるネット小説で頻出するキャラの定型に他なりません。

    まず、前提として彼らのアイデンティティーは超常者から与えられた借り物の力に過ぎない。
    にもかかわらず、そんな彼らがやってきた異世界を、浮ついた力に任せて(やったことの是非をさておいて)無法に振舞い蹂躙する姿というのはままあるものです。読者目線に立てば、不快だったり滑稽だったりに思えるかもしれません。

    実際に作品として目にする機会は少なくとも「主人公」という役割を外して客観的な視点をそう言ったタイプのキャラクターに注ぐとどうでしょう? ひどくグロテスクに思えることがあるかないかと言えばあるのです。
    私にもそう言った読書体験自体はあります。もっともその辺を逆手に取った作品も多く、本作もそのひとつであるので一概には語ることはできかねるのですが。

    ただ、現地の何者にも掣肘されることもない――というのは当人にとって本当に幸せなのでしょうか?
    ここでこの書評の冒頭で述べた主人公の固有スキルについて前提を共有しておくと、主人公の彼「先生(センセー)」の能力は転移者を元の世界(日本)に強制送還するというものでした。

    ところで残酷なことを言わせていただきます、ご容赦ください。
    私個人の所見として本作に求めるものは異世界に転移した「太宰治」が見たいの一言に尽きます。別に異世界やほかの転移者(この巻では「スズキ」)自体には興味がないというのが正直なところなのです。

    結局のところ、好奇心に任せて動く主人公が一番面白い。
    異世界も、異世界を踏み台にする転移者も、共に主人公の踏み台と言ってしまえばきっとそうなのかもしれません。
    現に主人公は他者の人生を物語にたとえて「つまらない」と時に切って捨てることもあります。熟練の作家としての姿勢は相手が一線を越えた悪人であっても「闇」を感じるものですから。

    一方では「正義」の名のもとに「不善」を為す悪い輩を成敗するのではなく、そっといなし人生の先達として若人を導こうという優しい視線が注がれているのも確かです。「闇」は安眠をいざなう要素でもあるわけですから。
    私見ですが、その辺にありがちな物語に一石を投じるというだけでない本作の深みが現れているのかも。

    なにせ、太宰治が没した後に残した数々の著作は弱い人々の心に寄り添うように、時に物寂しく、時にユーモラスさをたっぷりに我々の心を慰めてくれました。そのことは私が証明するまでもなく事実でしょう。
    太宰治は人の悪意に敏感で傷つきやすい、弱い人間である裏返しとして、人の善意や美徳をよく知ったる人間と言い換えることもできます。事実、作中でも人の自由意志を奪おうとする輩には厳しい視線を向けてくれましたし。

    よって本作もまた。
    生前はさんざっぱら人に迷惑をかけ激動の人生を送った太宰だからこそ、道を踏み外した人に向ける言葉は満ち満ちていると言えるのかもしれません。太宰治は弱い心を抱えた我々の寝所に死してなお寄り添ってくれる同じ穴の狢、だけどその生きざまはところどころでツッコミどころが満載です、なんてね。

    「勇者の物語」という括りでは何も為せなかった小人「スズキ」が情けないところだらけなのになにかを為した巨人「先生」の口から「君は別の物語の主人公になれるよ」というメッセージをもらえたことに実に感動しました。
    物語の対比構造が巧みで、実に鮮やかでしたから。

    っと、まぁその辺は余談ですが。話を戻しましょう。
    先に言った通り、この漫画のストーリーライン自体は明瞭です。作中で提示された四つの地方(+最終目的地である魔族領)というロードマップの内、早くもふたつめに到達しました。
    このペースなら長すぎもせず、短すぎもせずという全体の構成と道程も見えてきた気がします。

    補足しておくと有名な罵倒「青鯖」のもじりや、名作『津軽』の一節からの引用など、インターミッションではマイナー過ぎずメジャー過ぎずな太宰ネタが盛り込まれているのも嬉しいところ。
    私自身は太宰フリークではありませんが、これくらいの塩梅のネタなら間口も広くなっていいかもしれません。

    ついで、一巻に引き続いて描かれ、今後も重要なテーマになるだろう「自由意志」を体現した第一ヒロイン「アネット」さんの手番の後は新たなる仲間「ニア」を加えてからの二番目のヒロイン「タマ(仮)」のターンです。
    正確には「タマ(仮)」あらため「マチルダ」姫ですが、この手の本名呼ばれない系ヒロインは最後までギャグとして引っ張るのかと思いきや、早々にシリアスムードで打ち消してくるのがなんとも意外でした。

    厳格で武骨な父王と王家に反発して飛び出した家出娘、これまた王道のシチュエーションですね。
    ただ、その王道をなんともわからない我が道を行く主人公を軸に惜しげもなく書き切ってくれるのが本書の良さなのでしょう。なんであれ今は発端、展開部分と詳細については次の三巻に回されているのでまた後日。

    それでは最後に一言申し上げてからの、結びの一言といたしましょうか。
    ヒロインのデザインがフェチズムを刺激する点とか、戦闘シーンの迫力などのアピールポイントを書くことが今回も叶わず、主人公周りに感想が集約されてしまったことを申し訳なく感じます。
    とは言え、そこにいるだけで面白い男「太宰治」と、シリアスコミカル両ぞろえな珍道中を堪能させていただきました、三巻も楽しみです。

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