- Amazon.co.jp ・本 (608ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101017815
感想・レビュー・書評
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最後まで読まされた。
以下、ネタバレ含みます。注意。
2020年。
原発レベルの濃度の燃料で、原爆を生み出すことが出来るとしたら。
3月11日。
その爆弾を日本の中心地、東京新国立競技場で爆破させるという予告動画が流された。
イスラムから材料を持ち込んだイブラヒム。
ウイグル人であり、かつて被曝実験に巻き込まれた二世でもあるシェレペット。
そして、フクシマの友人を亡くし、この綿密な計画を打ち立てた但馬樹。
追う側より追われる側に惹かれてしまう。
そこに、それぞれの背景があるからだろう。
核爆弾をめぐる緊迫したストーリーも読み応えがあるのだけど、そこには「終わりのない悲劇」が描かれているように思う。
福島第一原発の事故から現在まで、私たちは結局、納得などないまま、時間に任せて風化させられようとしている。
「今」はどういう状況なのか、安全なのか、それさえ、トピックにはなかなか上がって来ない。
時々見る記事には、相変わらず杜撰さを感じさせるものばかりだ。
国が正しい調査の上で「終わりを告げること」には意味があるのに。
勿論、私たちは一定それを疑うべきだとも思う。
けれど、核という巨大な力を扱うことに失敗し、国が放置したまま見えなくなった悲劇が、日本だけではなく多数あることも、この作品では言及している。
「終わりのない悲劇」を終わらせるためには、結局荒療治しかない。そう考えたのが、イツキなのだ。
ワン・モア・ヌーク。
悲劇を以て、改革を為す。
けれど、そこから生み出されるものは、混沌しかないんじゃないかと、私は思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2020年東京オリンピックが開催される記念すべき年の春。今を舞台に描かれた作品。日本は世界にどう映っているのだろうか。原爆を落とされた国。そして原発事故のフクシマを抱える国。その国の首都に核爆弾を仕掛けるという企て。日本を舞台にしながら、戦争やISISに翻弄される中東圏、日本で働く外国人労働者、国際原子力機関、CIAなどの国際機関など、様々な背景を持つ人々が描かれている。
現在進行形のコロナウィルスの状況と重ねつつ読みました。 -
ワン・モア・ニューク(藤井太陽/新潮文庫)読了。道端で泣いてる。仲俣さんの解説もよかった。作風は全然違うけど(媒体すら違う)、状況に寄らず常に希望を提示してきた藤井さんと内藤(泰弘)さんは似ているとか思いながら、涙をぬぐいぬぐい、帰社中。読んで。
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2020年3月、東京オリンピックを目前とした日本に、核爆弾によるテロの予告動画が流れる。
複数のテロリストの、それぞれの目的。それを止めようとする、複数の組織の人々。
それぞれの思惑と行動が交差して、常に緊張感のある1冊だった。
作中の時間が過去になる前に、今読まれるべき作品です。 -
2020年の3月11日に予告された新国立競技場での原爆テロを巡るリアリズム小説であり、目の前の、過ぎ去った絶望と共にあるが、希望のための物語でもあり、様々なテクノロジーや現実世界とのシンクロ、情報化社会、多層化して断絶する世界、移民と多民族化する日本を描いている。
『ワン・モア・ヌーク』は物語の主軸になる人物(グループ)が4系統に枝分かれしていく。それぞれの物語を読者として読んでいくと、各主要人物たちが知らない他の三つの事柄を読者は破片を集めるように知っていくことになる。
主観ではわからない破片たちは客観性による距離の置き方で物語の全体像が掴めてくる。そして、解説で仲俣さんが書かれているように非常に「フェア」に描かれていように思える。
メインの登場人物たちにしても男女率が同じぐらいであり、ベクデル・テストをしても問題がないはずだ。それらの感覚は藤井さんのツイートなどを見ても意識されていると思う。
前作になる『東京の子』とも地続きのように思えるのは今の東京を舞台にしているからだけではなく、『東京の子』ではパルクールが描かれていた(絶対に映像化したらいいのに、あれができる子がいるのかどうかわからないけども)、今作ではそれはバレエの動きがあって、進化していくテクノロジーを描きつつも、やはり身体性におけるものは対比ではなく、同じようなものとして物語に現出している。藤井さんはかつて舞台美術をしていたそうなので、それもあるのだろう。
最近、小説読んでないなって人には分厚いよって言われそうだが読んでみたらどうでしょう。