羅生門・鼻 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101025018

感想・レビュー・書評

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  • 「鼻」は、様々な解釈があると思うが個人的にはこれは自意識の話だと思う。

    自身の長い鼻のせいで嘲笑の的となっていた禅智内供は、その特異な身体的特徴にコンプレックスを抱いていた。しかしそれを治す方法を聞きつけ、鼻は見事通常の長さになるも、今度はその短くなった鼻を恥ずかしく思うようになり、それはそれでコンプレックスに。

    髪を短く切りすぎてしまった翌日、教室に入る時のあの恥ずかしさや、初めて人前で眼鏡をかける時のあのソワソワした感じ、卑近な例だがそういう類の自意識の暴走を思い起こさせられる。

    そういう、誰もが抱く些細だが(本人にとっては)重大な心の揺れを上手に描いている。
    結局、自分を一番苦しめているのは他人の視線ではなく、自分が自分自身に向けている視線。

  • 学生以来だ。羅生門を初めて読んだ時は、陰湿な物語だなぁと、下人は良い人間の様に振る舞っていたが、結局悪人になったんだなぁ。酷いなぁ。ぐらいだった。
    今改めて読むと、人ごとでは無いかもしれないなと思う。地震、津波、噴火、水害、感染症、戦争、物価上昇など、日本や世界が今後危機的状況に陥って、混乱の時代になったとしたら、社会経済が成り立たなくなってしまったら、自分は果たして悪人にならずに済むのだろうか?
    自分が生き残る為には仕方ないと思うかもしれないな。でも自分が逆に奪われたり騙されたら絶対に非難するだろう。
    でも、実際は生きたい、から奪い合うかもしれない。

  • 文章が簡潔明瞭で昔話的な面白さがある。
    作者の自我があまり出てこないので作者を意識しないであくまで1つの作品として楽しめた

  • 有名な「羅生門」や「鼻」、「芋粥」など全8篇収録。
    先述の3作品はどれも引き込まれる構成。メッセージも明瞭で、なんというか小説というより道徳の授業を受けているようです。
    ところで、解説を読んではじめて知ったのですが、「羅生門」はその結びの一文が「下人は、既に、雨を冒して、京都の町へ強盗を働きに急ぎつゝあった」から「下人の行方は、誰も知らない」に書き換えられているとのこと。そのため、「鼻」や「芋粥」と異なり、メッセージが不明瞭に落ち着くとともに、より文学性を秘めていると感じました。本当、傑作だなと。

    その他の作品では、「好色」がなんだかコメディちっくに読めたのがよかったのですが、「邪宗門」は未完で終わって欲しくなかった…

  • 昔は、芥川にあまり興味がなかった。
    青春時代の私には物語りすぎたのだ。
    もっと苦悩とか葛藤とかそういうたぐいのものを私は求めていたのだ。
    だが、そんな期間をある程度くぐり抜けて、今の私は芥川と仲良くしたいな、と思えるようになった。
    きっかけは「河童」と「歯車」である。
    あの作品で私の芥川のイメージはがらりと変わった。
    「河童」はものすごく好き。ほんとに、あのコミカルだが辛辣な内容が気に入った。
    どちらも世の中に対して多少の絶望を抱えている。
    もしくは芥川自体が闇の中に入り込み始めている。
    しかし、芥川の”それ”は計算のないあまりに重い、しかし美しい苦悩なのだ。
    その一面を見てからいわば勝手な話だが、見方が大幅に変わった。
    年をとったというのもあるのだが、芥川自体はいわば、とても親しみやすい作家なのだ。



    芥川の作品のメインは「短編」そして「王朝もの」といわれる。
    本書に収録されていたのもほとんどがそうで、代表作とも言える「羅生門」が入っている。
    作品の形態としては基になった古典のお話から物語を生成している。
    私は原文を読むような教養が残念ながらないから、これはありがたいことだ。
    本来ならその出典との比較でもできればいいのだが、まぁなんともね。
    古典の名著を漫画にする、なども近頃よく聞く話。
    文字好きの私としては解せないことなのだが、時代の流れとしては当然のものなのかもしれない。
    芥川自体も当初はそんな風にさらされたのやもしれない。
    まぁ、何でもかんでも勝手に調理されるのは困るが、うまい人の調理ならよいのかも知れない。
    ふと、芥川をそう見てみて考えたりもした。



    読んでみて一番驚いたのは「邪宗門」である。
    物語に、といいたいところなんだが、まさか途中で終わるとはおもわなんだ。
    思わずリアルに「えーっ」と声を上げてしまった。
    気になるじゃないか、よく考えれば基になった物語を見てみればいいのか。
    本気で今気がついた。
    いい具合にライトなスペクタクルだと私は思う。
    冒険活劇と言っても差し支えがない。
    あと気になったのが「好色」である。
    この物語の筋はうっすら記憶にとあり、どうしてか谷崎の印象があるなと思ったが、それもそのはず「少将滋幹の母」に出てくるエピソードなのだ。
    このお話もきれいにするっと描かれている。
    平中が闇の中で一度触れることが叶ったあの場面なんてとてもうまい、しかしながれねちっこくはせずに物語はするりとすすめる。
    内容が内容なので好き嫌いはかなり別れるかもしれないが私は好きな物語だった。



    ぽんぽんと読んで楽しめる。
    それが芥川のよいところ。
    私小説の形態に囚われないというのは重要な要素なのでは何かと今は思う。
    私小説ってのはその作者の人となりとのマッチングが必要だと私は思うからだ。
    もちろん色々な苦悩や葛藤ってのは人類共通の存在だが、その調理方法と言う意味でね。
    ならばいっそ芥川のように物語に投写してくれた方がすんなり読める。
    おもしろい一冊である。
    人生は悲喜こもごも、しかし限りなく喜劇でありたいものである。

  • 学生時代に読んだ芥川の「羅生門」「鼻」だが再度読んでみて文章がすごいと感じた。無駄がない。「羅生門」は下人が老婆の死体の髪を抜いているのを見て生きるために「悪」にならないと生きていけない事実を認識する。「鼻」は恥ずかしいと思っていた長い鼻が、友人の薬のおかげで一旦小さくなるが、和尚の心理の変化がユーモラスに描かれている。「芋粥」はいじめらている侍が芋粥を食べられることを夢見て、敦賀まで連れて行かされ、変わっていく心理が哀れでもあり支配される側の心理が悲しく思えた。「邪宗門」はこれから対決かというところで未完で終わる。中途半端だけど決着を見たかった。2023年5月2日読了。

  • 芥川龍之介はやはり素晴らしい
    この内容をこの短さで出してくる素晴らしさ

    長編SFにもなりそうな「欠陥は世界から自分を守る薄い膜のようなもので、それがなくなると生身で世界に向き合わねばならない」みたいなテーマをよく鼻なんていうモチーフでかけたよなあ

  • 周りの目とは時に残酷ですね…
    鼻の長さというコンプレックスに翻弄される人間の姿(しかも僧の)が表れていて、面白いです。

  •  著者の「王朝もの」と呼ばれる作品集の第1集。
     表題作の「羅生門」は昔から高校の教科書にも取り入れられているあまりにも有名な作品。下人の心情変化が実に興味深い。また、同じく表題作の「鼻」はユーモラス漂う作品で読みやすく、親しみやすい印象を受ける。その他に、夢を追うことについての問いかけ的作品の「芋粥」など計8編収録の短編集。
     「王朝もの」のためか、言葉遣いが丁寧すぎて読みにくい部分が多い印象を受けたが、内容は面白い作品が多い。

  • 周囲の人間のエゴイズムに左右される内供が自身のコンプレックスに苛まれる姿、ちくりと今の自分に刺さりました。

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著者プロフィール

1892年(明治25)3月1日東京生れ。日本の小説家。東京帝大大学中から創作を始める。作品の多くは短編小説である。『芋粥』『藪の中』『地獄変』など古典から題材を取ったものが多い。また、『蜘蛛の糸』『杜子春』など児童向け作品も書いている。1927年(昭和2)7月24日没。

「2021年 『芥川龍之介大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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