1R1分34秒 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101034416

作品紹介・あらすじ

デビュー戦を初回KOで華々しく飾ってから、3敗1分けと敗けが込むプロボクサーのぼく。そもそも才能もないのになぜボクシングをやっているのかわからない。ついに長年のトレーナーに見捨てられるも、変わり者の新トレーナー、ウメキチとの練習の日々がぼくを変えていく。これ以上自分を見失いたくないから、3日後の試合、1R1分34秒で。青春小説の雄が放つ会心の一撃。芥川賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 自分の心の葛藤を、下手に綺麗にせず葛藤のまま書かれた文が多く、印象に残った。
    爽やかなスポーツ小説といったものではないが、登場人物たち全員に対して、わかるよ、頑張ってくれ、報われてくれ、、と思わずにはいられなかった。

    170ページ程度だが、描かれている期間も1年程度(?)と短く、密度の濃い話だと感じた。

  • 初読みの作家さんで芥川賞受賞作。
    正直、ページ数の割に読むのに時間がかかるくらい引っ掛かりの多い作品でした。

    ボクシングの描写はリアルに描いているけれど、スポーツ系と言うよりも、さらにその奥にある人生の葛藤や悩み成長を濃く書かれている感じ。

    好きで始めたボクシングに対しての感情は、虚無感や目的を見失ってしまう今の自分の生き方にシンクロしてくる感じがあった。だから、この作品がスッと読めなかったのかな。

    読了短歌

    窓から
    見える枝のカゲ
    伸びる様子は
    葛藤なのか
    成長か

  • かっこいい、とは言えない負け越し中の4回戦ボクサー。3回TKO負けを喫した前戦後、トレーナーが代わり、練習内容も変わる。トレーナー自身も負けが込んでいるプロボクサーで、彼もその先の自分の勝利ために指導を担当する。
    主人公は相手を研究するうち、勝ちたいという思いよりも相手そのものの存在が大きくなり、夢の中で友達になるという性癖を持つ。それでも今回は、階級も経験も上の相手にスパーで負けたり、試合が近づくにつれて減量が激化したりする中で、怒りや涙といった闘争心につながる感情がジリジリと次第に燃えていく姿に、主人公の人間らしさを見た。
    スポーツ小説ではなく、どちらかというと人間の内面を描いた叙情的で、観念的な文学作品だった。

  • ボクシング経験者としては共感できる部分も多くあった。勝敗どうこうよりもその道程を人間臭く描くのは純文学らしい。

    ボクサーとは純粋な生き物だと思う。曖昧な世の中に対比させるとなんとも悲哀を感じる。

    生きているのか生かされているのかわからなくなる。そんな感覚を思い出した。

  • 久々に、引き込まれる作品。一般人にとっては想像もできないボクサーの日常。その感情や、こだわりやこだわりのなさや、執着や無頓着やさまざまなものがリアリティを持って、生きている感じがしたんだと思う。文章もなんだかボクサーのダッキングを思わせる流れ方で、よかった。

  • 町屋さん、芥川賞受賞のボクシング小説

    プロボクシングの試合って、独特だ
    何ヶ月も準備して、命を文字通り削って試合をして、それまでの準備の全てが、たった数分の試合で試される
    だからこそ、負けの記憶は全ての否定として残る
    だからこそ、勝負に上がることはとても怖い

    その全てを、曖昧化した主人公の一人称で描き切った筆力
    気がついたらのめり飲まされるリズムよい筆致
    ウメキチや友達との奇妙な関係の魅力
    なにより、「ぼく」自身の弱さと強さ
    これはボクシングなんてやったこともない読者を問答無用でリングにあがらせ、己の生き方を問わせる(こういう比喩をすると友達に怒られる!)暴力的な作品
    なんと曖昧で鮮やかなんだろう

  • 人の心の中の渦巻いている感情をうわぁ〜!っと書き切ったような本だと思った。
    だからわりとボクサー用語とか関係なく難しい文章が自分の中であった。

    主人公の周りの人達がなかなかに面白い人達だなと思った。

    好きだと思っていたことが本当に好きなのかわからなくなるのはわかるから、感情は移入した。
    けど、自分と違う部分は多々あるのでそこも面白かった。

    人に迷惑かけないで生きるのは無理なんだから、迷惑をかける、というより人を気にしない時期があってもいいんじゃないかなと思った。

  • 強さとは優しさとは何か。オードリーの若林さんがボクサーをしたらこんな感じになるだろう。優しさと甘さに片足をツッコミ勝負に勝てない主人公。ウメキチとの出合いで変わっていく。

  • 生の拳にグローブをはめて、決闘をするように。 消えてしまいそうな主人公の自我にボクシングのストーリーをはめて、語られている。 ここにある言葉に、破壊的なアッパーカットなんてない。気づけば自らの弱さを投影してしまうほど、柔らかな水面のような言葉がある。

  •  小心者の駆け出しボクサーの心情の推移を描く。
              ◇
     自分の才能への懐疑や負けることへの恐怖を小手先でごまかそうとしていた小心な「ぼく」だったが、ある日、先輩ボクサーのウメキチが「ぼく」のトレーナーに就任する。
     半信半疑でウメキチの組んだメニューをこなしていったところ……。
     2019年芥川賞受賞作品。

          * * * * *

     小心者のボクサーだったはずの「ぼく」が、ウメキチという先輩ボクサーとの出会いによって変わっていく様子が面白い。

     トレーナー・ウメキチのトレーニングメニュー。「ぼく」用に考えられたものではあるのだけれど、がむしゃらに取り組む気になれない「ぼく」は、ただ淡々とこなしていました。

     すると、どうしたことか、試合が近付くにつれ、まるで薄皮が1枚ずつ剥がれるように小心な「ぼく」が薄れていき、半ば狂気を孕んだ不遜な姿が現れてくるのです。

     映画『ロッキー』とはかけ離れたボクサーの姿でまったく格好よくないのですが、不思議に説得力がありました。

     試合の行方が気になります。

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著者プロフィール

1983年生まれ。2016年『青が破れる』で第53回文藝賞を受賞。2019年『1R1分34秒』で芥川龍之介賞受賞。その他の著書に『しき』、『ぼくはきっとやさしい』、『愛が嫌い』など。最新刊は『坂下あたるとしじょうの宇宙』。

「2020年 『ランバーロール 03』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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