風の盆恋歌 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101039114

感想・レビュー・書評

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  • 15〜20年ほど前に読んで以来の再読。以前は自分よりうんと年上の男女の不倫ものということで、あまりどこにも同調できず、若干の気持ち悪さを感じながら読んでいたかもしれない。しかし主人公の2人と同世代になった今、つまり人生の「秋」のようなところにいる今、不倫の是非はともかくとして、しみじみと沁みてくるものがあった。同世代といえども、時代も違い、この2人のようなしっとりとしたものはまったくない自分だが、風の盆には憑かれるように4回も行っている。あまりにも潔く散っていった2人には、この風の盆の哀しさと美しさがよく似合うと思った。

  • 風の章
    都築が受け取った名もなき手紙、
    したたまれていた和歌

    いくとせを この家に生きむ あてもなく
    辛夷買ひ植え 春を待つ日々

    この辛夷の咲く家を見るのは
    舞の章のラスト…
    なんと長い時間をかけて紡がれてきた
    思いであったのか。
    読後、また初めからパラパラと読み返し、
    気づく。

    時代的、文章から読みにくいところや
    今ではあまり使われない言葉もあり、
    スピードを付けて読めなかった。
    勢い付いて読んだのは
    舞の章あたりから〜一気読み。

    不穏な空気感が終始漂い、
    決してハッピーエンドではないと
    わかっていながら、
    終わりは綺麗過ぎて、
    潔過ぎて、現代を生きる私には
    少し消化不良。

    八尾の家の2階の引き出しにある
    大量の睡眠薬…2人分

    風の盆から白峰村に足を伸ばす。
    2人にとっての初めての4日目、
    幸せの絶頂でありながら、
    どこかお互いに覚悟した結末への準備でも
    あったのかと思わせられる。

    翌年3月、都築は再生不良性貧血と診断され、
    完治は難しいと自身も知る、
    そして、互いに連絡を取らぬままに
    風の盆を迎える。
    とめが不在であったこと、
    部下の死の責を負いながら、
    またその妻と乳飲子の自死を知らせる連絡、
    突然の小絵の来訪、
    えり子は死んだと聞かされる、

    はっきりとは書いてなかったけど、
    そのまま都築は1人分の睡眠薬を飲んだと
    いうことなのよね?

    「都築は諦めるようにゆっくりと二階への階段を上った」

    そしてえり子は八尾の家に到着し、
    全てを理解する。

    「二階から白麻の蚊帳をえり子は持って下りた。そして、蚊帳を吊り終えると、台所に行って、残された薬を飲み下した。」

    衣装も全て用意のままに
    結末をわかっているかのごとく。

    蚊帳の中、2人が並び体を横たえる姿
    作者の描写の鋭さ、光と彩り、音や温度、湿度
    ここまでに描かれてきた風景が流れていく。
    見事だと思う。風の盆の美しさとともに

    えり子の言う、
    「幸せっていいことなの?、
    人間にとって、生きたって実感と
    どっちが大事なの?」
    このセリフがこの小説の全てを
    著しているのではないかと思う。
    「人生には、こうなるにきまっていると、
    まだ自分の眼では見届けていない結果を、
    明瞭に見とおしてしまうことがある」

  • TVでは毎年放映するように有名になった
    その八尾町「風の盆」のにぎわい話題に引かれて
    (CMのロボットまでおわら節を踊ってすごいね)
    「あっ、そうだ」と買ってあった古本を思い出して読んだ。

    『マジソン群の橋』のように、もどかしいような小説。
    先に読んだ中里恒子『時雨の記』の方がピンと来る。
    こちらは作者が男性だからかそうなるのかもしれない。
    しかし、風の盆見物はこれで味わったも同然だ。

  • 「王道」すぎる不倫物語。風の盆の美しい夜流しと水の音、いつまでもその世界に浸っていたいと思いました。老いていく性と、人生の最後の選択。

  • 石川さゆりの1991年(平成元年)のヒット曲「風の盆恋歌」の題材となった昭和62年に刊行された高橋治著の同名の作品「風の盆恋歌」。おわら風の盆は、毎年9月1日から3日にかけて越中八尾(富山県富山市八尾町)で行われる農作物の豊作を祈る伝統行事で、女性達は揃いの浴衣に編笠の間から少し顔を覗かせた姿で連なりながら唄い踊る。種を蒔き、田の中の小石を投げ捨て、明日の雲行きを見、稲穂がゆれ、稲を刈る農作業のありようが踊りで表現される。胡弓の音色、酔芙蓉の色の移り変わり、橙色の灯など日本人の五感にそっと働きかける筆致がこの大人の作品に張り詰めた空気と独特の深みを与えている。

    「それが日常になる。習慣化する。こちらが慣れる。諦める。振り向いたときには長い歴史が出来てしまっている。男と女って、みんなそんなものじゃないのか」

    風の盆恋歌(なかにし礼 作詞、三木たかし 作曲)

    蚊帳の中から花を見る
    咲いて儚い 翠芙蓉
    若い日の美しい
    私を抱いて欲しかった
    忍び会う恋 風の盆

     私あなたの腕の中
     はねてはじけて 鮎になる
     この命欲しいなら
     いつでも死んでみせますわ
     夜に泣いてる三味の音

      生きて添えない二人なら
      旅に出ましょ まぼろしの
      遅すぎた恋だから
      命をかけて覆す
      おわら恋歌 道連れに

  • 幻想的な「風の盆」に行ってみたくなる。

  • 2018年の1冊目。風の盆の描写は素敵で、今年は風の盆へ。と思う一方、私とは不倫に対する考えがかけ離れていて理解不能。

  • おわら風の盆に行く前に予習として手に取りました。
    中年の心中もんってゆうてしもたらそれまでやねんけど、
    八尾で、酔芙蓉ってなまえのお菓子を見つけたときは、ちょっと嬉しかった。

  • 2017年10月7日に紹介されました!

  • 別れ別れの長い年月を経て都築とえり子が八尾で結ばれた時は、風の盆の表舞台にまだ二人しか見えていなくて不倫であるがゆえの燃える切なさや抑えきれない恋情に心が揺り動かされた。
    ただ後半はそれ以上に、この先ずっと憎しみに囚われる人生を妻子に残してしまった罪深さがひしひしと胸に迫る。
    魂が呼び合いむせび泣くような恋と命を燃やすおわらの祭りのマッチングは本当に素晴らしい。だが、その美しい夢幻の世界に素直に浸れなかったのは読んだ時期が悪かったのか、自分は読む立場になかったのか…。独身の頃だったらもっと気楽に読めたと思う。

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著者プロフィール

1929年千葉県生まれ。小説家・劇作家。1983年『釣師』で直木賞受賞。

「2016年 『松尾芭蕉 おくのほそ道/与謝蕪村/小林一茶/とくとく歌仙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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