美しきもの見し人は (新潮文庫 草 87-6F)

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  • / ISBN・EAN: 9784101087061

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  • (2014.01.23読了)(1983.07.11購入)
    雑誌『藝術生活』に1966年11月から1968年8月まで21回にわたって連載されたものです。単行本は、1969年1月に新潮社から刊行されました。
    単行本が出てから45年、文庫本が出てから31年経ってしまいました。
    本棚で見つけるたびに読まなくちゃと思いつつ、取りかかれませんでした。今回やっと読むことができました。
    僕も40年余、展覧会を見てきましたが、堀田さんも、僕以上に美術品を見て来たようです。僕の場合は、日本にやって来たものを見ているのがほとんどですが、堀田さんは、アジアやヨーロッパの各地に出かけたついでなどに、気になる絵を、訪ね歩いていたようです。
    著作の『ゴヤ』も個人コレクションも含めてゴヤの絵を丹念に訪ね歩いて書いている様子が本を読みながら感じられました。
    この本で紹介されている絵は、カラーで70枚ほど、本の冒頭の方にまとめて収録されています。建築物、彫刻、壁画、絵画、タペストリー、等、様々です。
    昨年6月に見た「貴婦人と一角獣」も堀田さんは、現地で見ているのにはびっくりです。
    堀田さんは、絵画の専門家ではないので、独特の視点で紹介してくれていますので、興味深く読むことができました。
    取り上げられている作家の大部分は、ほとんど何らかの形で、知っている人たちなので、僕の見てきたものは、堀田さんの好みと似通ったところがあるのかなと、嬉しくなりました。

    【目次】

    1 アルハンブラ宮殿
    2 ガウディのお寺
    3 天壇をめぐって
    4 異民族交渉について
    5 アフリカの影
    6 黙示録について
    7 FÊTE GALANTE ワットオの黄昏
    8 ヴェラスケスの仕事場に私の派遣したスパイ
    9 楽園追放 アダムとイヴ
    10 ヴェネツィア画派の栄枯盛衰について
    11 アルビにて 陸上軍艦とロオトレック
    12 美し、フランス LA DOUCE FRAVCE
    13 間奏曲 人と馬
    14 クロード・ロラン 泰西名画について
    15 二つのドイツ
    16 一つの極限について フランシスコ・デ・スルバラン
    17 夜の王国 あるいは乱世の画家 ジョルジュ・ド・ラ・トゥール
    18 モナ・リザには眉がない
    19 肖像画 対話あるいは弁証法について
    20 常識のために 絵具の話
    21 AVE MARIA 受胎告知画
    あとがき
    解説  串田孫一

    ●ビザンティンの文化(195頁)
    ゲーテがイタリアを憧憬の地とするのも、その背景に東方、トルコとペルシャがあったからであり、モーツァルトにも、またあの深刻なベートーヴェンにもトルコ行進曲なるものがあることを諸兄姉は先刻御存知のはずである。そうしてゲーテにとっても、モーツァルトやベートーヴェンにとっても、東方トルコ帝国の栄華はヴェネツィアとゼノアを経由するものであった。またたとえばパリの、十三世紀に創建されたサント・シャペルはゴシックの典型とはいうものの、内部をつくづくと見た人は、そのあまりにトルコ風なことにおどろかれるであろう。
    ●ヴェネツィア(197頁)
    ヴェネツィアにいわゆる「風景」などというものは存在しない、文字通りこの町には、ヴェネツィア画派の得意とした山川草木などはまるで存在しないのである。水と空とビザンティン風な寺と寺院と橋と舟と人間と―それだけしか存在しないのである。
    ●一角獣(221頁)
    この、身に不釣合なねじり角のものものしい、しかし優にやさしいけだものは、頭とからだが馬、後肢がカモシカ、尾ッポは獅子、ヒゲは山羊という次第。このものはむかしむかしはインドに住むということになっていたようで、中世期、東西を問わず宮廷がどこもかしこも陰にして険なる陰謀の巣となっていたとき、このもののねじり角が毒物を検出するにひいでて効があるということになり、王の飲む酒はこの角を使ったということである。
    ●モナ・リザの鑑賞法(295頁)
    この絵の複製を前にして、わたしは読者諸兄姉に、一つの試みをなさることをおすすめしてみたい。というのは、紙切れを用意しておいて、上部三分の一、つまり顔と背景の風景を蔽いかくしてしまう……、それから要すれば下部の三分の一、腕と手、指の部分も蔽いかくして豊かな胸と青黒い着衣にかくされた部分、つまりモナ・リザのトルソだけをつくづくと眺めていると、人間の母親とはかかるものであったかという、真にゆたかにやすらいだ心持になれるのである。
    ●ゴヤの傑作(307頁)
    ゴヤの傑作、集団肖像画というべき「カルロス四世一族図」などは、よくよくこれを見込めば、十三人の人物のうち、幼時を除いて、どれひとりとして友人として、あるいは愛人としてほしい男も女もいはしない。どいつもこいつも、人類のハキ溜メヘ放り込んでしかるべき面しかしていない。
    ●前衛(327頁)
    前衛的なといわれている芸術家たちのしていることを見ていると、それは前衛などというものではなくて、実は美術の、本来的な属性の一つであった、世間との社交、つきあいというものの恢復をめざしているものがあるように私には思われる。

    ☆堀田善衛さんの本(既読)
    「広場の孤独」堀田善衛著、新潮文庫、1953.09.25
    「インドで考えたこと」堀田善衛著、岩波新書、1957.12.19
    「キューバ紀行」堀田善衛著、岩波新書、1966.01.25
    「ゴヤ 第一部」堀田善衛著、新潮社、1974.02.15
    「ゴヤ 第二部」堀田善衛著、新潮社、1975.03.20
    「ゴヤ 第三部」堀田善衛著、新潮社、1976.03.20
    「ゴヤ 第四部」堀田善衛著、新潮社、1977.03.25
    「スペイン断章」堀田善衛著、岩波新書、1979.02.20
    「情熱の行方」堀田善衛著、岩波新書、1982.09.20
    「スペインの沈黙」堀田善衛著、筑摩書房、1979.06.20
    「方丈記私記」堀田善衛著、ちくま文庫、1988.09.27
    「時代と人間」堀田善衛著、日本放送出版協会、1992.07.01
    「バルセローナにて」堀田善衛著、集英社文庫、1994.10.25
    「路上の人」堀田善衛著、新潮文庫、1995.06.01
    「上海にて」堀田善衛著、ちくま学芸文庫、1995.11.07
    (2014年2月1日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    美の深淵にふれる文明批評。広く世界の美に接してきた作家が、民族文化や文明の異質なるものへの感動を綴る独特の美術エッセイ。

  • 世界各地の美術や建築を、こういう視点で見るのか! ただ有名で名前を聞いたことがあるだけのものたちが、近づいてきてくれた感じです。
    絵の具の発達についての一文は、びっくりです。チューブ入りでない絵の具なんて知りませんでしたが、そうですよねえ、昔からあるわけない。画家と弟子の皆さんに頭が下がります。

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著者プロフィール

1918年富山県生まれ。小説家。1944年国際文化振興会から派遣されて上海に渡るが、敗戦後は中国国民党宣伝部に徴用されて上海に留まる。中国での経験をもとに、小説を書き始め、47年に帰国。52年「広場の孤独」「漢奸」で芥川賞を受賞。海外との交流にも力を入れ、アジア・アフリカ作家会議などに出席。他の主な作品に、「歴史」「時間」「インドで考えたこと」「方丈記私記」「ゴヤ」など。1998年没。

「2018年 『中野重治・堀田善衞 往復書簡1953-1979』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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