小泉八雲集 (新潮文庫)

著者 :
制作 : 上田 和夫 
  • 新潮社
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レビュー : 73
  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101094014

感想・レビュー・書評

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  • 背筋がぞっとする作品は勿論、摩訶不思議や儚い美しさ、無情、侘、寂、道徳観まで、余韻を残す色彩豊かな48作。怪談のイメージが強かった作者でしたが良い意味で裏切られました。印象的な作品を簡単に。

    「衝立の乙女」
    一生のあいだ“無情なこと”をしない男など滅多にいない、という皮肉のきいたラスト。

    「破られた約束」
    男を愛しすぎたゆえに歪んだ怒りの矛先。凄惨な描写は恐ろしいの一言。

    「梅津忠兵衛のはなし」
    武士たるもの二言なし。約束を順守した律儀な武士に授けられた世代を越えた不思議な力。

    「常識」
    大切なのは、生きる知恵と確かな常識。IQの高さと信仰心の高さは二の次である。小気味良く効いた毒。

    「雪おんな」
    監視するために近付いたのか、それとも…?

    「心中」
    地獄絵図を横切る白い亡者たち。その表情は絶望だけではない。

    「日本人の微笑」
    謝罪の時、死を前にした時でさえも笑顔を見せる日本人。西洋にはない、と断言した不可解な“微笑”のルーツは何なのか。かつて八雲が来日した際に見た全てを包み込むような柔らかい日本人の微笑を、現代を生きる私たちは残せているのでしょうか…。

  • 必要あって、購入。
    読みながら、これは時間をかけて味読する本だなーとしみじみ。なるべく時間はかけたけど、まだかけたりないと思う。

    「守られた約束」は、上田秋成の「菊花の契り」を彷彿とさせる話。
    「耳なし芳一」や「弘法大師の書」は有名だけど、残るだけあって、筋書きが非常に面白い。
    「食人鬼」。屍人を食べなければならない、その無間地獄を救ってくれる人さえない。
    そんな鬼と化した僧が「助けてくだされ」と切に願うシーンが辛かった。

    と思うと、「赤い婚礼」のように、近代化された日本に焦点を当て、叶わぬ恋に落ちた二人が鉄道のレールの上で心中を遂げる話も、また切ない。
    エッセイ?評論?としての「日本人の微笑」も一読に値する。

    さて、この本はいわば幾多の目と耳を通過して出で来た不思議な一冊だと思う。
    小泉八雲が、彼の親しい人を通じて得た話であり、その話は古今東西を経て語り継がれてきた不思議な伝説である。
    そして、小泉八雲が認めたものをまた、上田和夫さんが日本語に戻すという作業を行なっている。
    それでも、言葉に違和感がなく(まあ、単位とかで急に英語が入るけど)物語の完成度が高いと思わされるのは、何故なんだろうなぁ。

    現実には起こらない(だろう)と思われる怪談話に、私たちはいつも恐れを感じる。
    でも、そこに単に超越した力や呪いを感じるだけではなくて、人間の執念や怨み、愛憎を感じるからこそ、生きていることのように怖いように思う。
    こういう類の恐怖って、どうして感じるんだろう、と人間の心の不思議さを見た。

  • 大変楽しく読めた。いずれの話も短編であった。
    中でも著者の考え方がすんなり飲み込めたのは「日本人の微笑」である。これはその通りであろう。
    またその他にも良い話は多々あった。(本書を読み終わったあとでは、良い話と感じる自分もなんだかおかしな人間かと思えてくるが、)日本の心中に関する幾つかの話が自分にはひどく興味深かった。本当に我々は宗教を混ぜくたにしてしまっているのだな、という事を改めて認識せざるを得ない。混ぜくたに、というよりは都合の良い形に変えて取り込んでいるというところであろうか。そういう点では山本七平著の「空気の研究」と少し重なる部分も見受けられる。詰まる所、日本人の特異性はそこに集約されるという事なのか。…それは少し早計かも知れない。
    何れにせよ良い本であった。著者の別の本も読んでみたいと思った。

  • 「日本人の微笑」を読んで、以下の感想。悲しむべき時、など欧州人ならば笑えない時でも日本人は微笑を絶やさない。これは相手を小馬鹿にしているわけではない。笑いは自己を抑える礼節なのである。意味的には「あなたはこれを不幸なことと考えるかもしれませんが、どうかこんなつまらないことでご心配せずに。このようなことを耳にさせて申し訳ありません」。
    つまり、「私」を捨てて「公」の立場に常に立てる。現在でも当時程ではないかもしれないが、この日本人の特性は残っていると思う。普段はあまり気にかけないことをこの本は気づかせてくれた。「明治は美しかった」、本当にそう思えた。

  • この本を読んで私は、小泉八雲は、日本に来てほっとしたのではないかと思った。
    もちろん、当時の日本が素朴で純粋な人々が住む理想郷のような所ではあるわけなかっただろうし、八雲もそれを痛いほどわかっていただろう。
    むしろ、ことあるごとにこの極東の国に失望しては胸を痛めて、こんなところもう嫌だ、もう嫌だ、と思っていたかもしれない。

    けれど、それでも八雲はやはり、どこかで日本に心安らいでいたのだと思う。でなければ、私は彼がこれほど日本の深いところに共感できたとは思えないのだ。
    彼は日本での生活に「平穏」を見つけたのではないか。
    それは言うなれば、彼の「影」のようなものだったのかもしれない。彼はこの極東の島国でやっと、自分に健気についてくる「影」を見つけたのではないか。

    八雲は日本の霊的なものを愛したという。この本にも、八雲が収集した怪談が収録されている(有名なのはやはり、「耳無し芳一」だろう)。
    霊的なもの、というのは言いえて妙である。自然を超越したものでありながら、もっとも自然的なもの、というかんじだろうか。精神的な意味での風土、というような。
    それは、彼の小さきもの、こまごまとしたもの、幼きものへの愛情がよく表していると思う。

    この本に収録されている中ではやはり、「日本人の微笑」にもっとも感動した。
    日本人の中に息づく精神を、丁寧に細やかに、そして夜明けの光のように優しく描いた、素晴らしい評論である。

  • 新潮文庫の分類は、大きく「日本の作品」「海外の作品」に分けられてゐます。かつては「草」「赤」「白」などと、岩波文庫同様に帯の色分けで分類されてゐました。トップナムバアの「草1A」は、長らく『雪国』(川端康成)であつたと記憶してをります。
    同じく「日本の作品」とされてゐる小泉八雲なる御仁は、元元ラフカディオ・ハーンといふギリシャ生まれの英国人でしたが、来日以後、どうやら日本を気に入つたやうで、日本人女性と結婚し、さらに日本国籍を取得、「小泉八雲」と名乗るに至りました。
    しかし彼はその著作を日本語ではなくイギリス語で発表してゐます。その内容も、未知なる日本といふ国を、西洋に紹介せんとする意図のものが大半なので、海外の作品の方がしつくりくるのであります。デビッド・ゾペティさんや楊逸さんのやうに、日本人を対象にして日本語で発表する場合は構はないでせうが。

    まあいい。実はそれほど拘泥してゐる訳ではありませんので。『小泉八雲集』が面白ければ問題ないのであります。
    小泉八雲は来日以来、多くの著作を精力的に発表してきました。それらの美味しい部分を集めたアンソロジイですので、詰まらない訳がございません。即ち『影』『日本雑記』『骨董』などから、日本各地から集めた怪談話が披露されてゐます。
    特に『怪談』は「Kwaidan」として、映画にもなるなど、有名な存在ですな。あの「耳なし芳一のはなし」も収録されてゐます。ああ痛さうだ。ただし、映画版は、『怪談』以外からもエピソオドが選ばれてゐます。

    『知られぬ日本の面影』からは、「日本人の微笑(The Japanese Smile)」が収録されてゐますが、いやまつたく、秀逸な日本人論であります。面白い。当時は英国人の生真面目さに比して、日本人の軽さが外国人を惑わせてゐたらしい。戦後の高度経済成長期の日本人こそ、勤勉で真面目と言はれましたが、明治期の日本人は不気味な笑顔をふりまく得体の知れぬ存在だつたのでせう。小泉八雲は、日本人の微笑を分析するには、上流階級は参考にならない、古来からの民衆の生活を知らないと理解できぬと指摘してゐます。昔から日本人は意味もなく(でもないけど)、へらへらと笑つてゐたのですねえ。

    日本の庶民を愛した小泉八雲ですが、当時の日本は文明開化から間もない、大いなる過渡期でした。西洋に何とか追ひつかうと、庶民の生活や意識も劇的な変化を遂げる、まさに真最中と思はれます。当時の若い層を中心として、西洋に学ぶ一方、古来の日本らしさを軽んずる風潮を、小泉八雲は苦々しく思つてゐたやうです。
    2016年に生きる我々にも、参考になり勉強になる一冊と申せませう。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-627.html

  • 小泉八雲の怪談・奇談、日本観察及び日本文化に関する作品を集めた48の短編集。シンプルで読みやすい。静謐とした恐怖、日本文化に関する深い造詣と思慕が伝わってきます。当時の東大生、八雲に教えてもらえたんだよねー・・そしてその後任が夏目漱石。うらやましすぎる、当時の東大生。

  • <blockquote>読者はこれまでに古塔の暗闇のなかにそそり立つ怪談をのぼろうとして、その暗闇のただ中を、蜘蛛の巣のかかった突端で不意に行きどまるようなことがなかったであろうか。あるいは、断崖に沿って切りひらかれた海岸づたいの小径を、ひと曲りしただけで、のこぎりの歯のような崖っぷちに出るようなことがなかっただろうか。 p90</blockquote>
    [more]


    【目次】
     『影』
      和解
      衝立の乙女
      死骸にまたがる男
      弁天の道場
      鮫人の恩返し
     『日本雑記』
      守られた約束
      破られた約束
      果心居士のはなし
      梅津忠兵衛のはなし
      漂流
     『骨董』
      幽霊滝の伝説
      茶碗の中
      常識
      生霊
      死霊
      おかめのはなし
      蠅のはなし
      雉子のはなし
      忠五郎のはなし
      土地の風習
      草ひばり
     『怪談』
      耳なし芳一
      おしどり
      お貞のはなし
      乳母ざくら
      かけひき
      食人鬼
      むじな
      ろくろ首
      葬られた秘密
      雪おんな
      青柳のはなし
      十六ざくら
      安芸之助の夢
      力ばか
     『天の川物語その他』
      鏡の乙女
     『知られぬ日本の面影』
      弘法大師の書
      心中
      日本人の微笑
     『東の国より』
      赤い婚礼
     『心』
      停車場にて
      門付け
      ハル
      きみ子
     『仏陀の国の楽穂』
      人形の墓
     『霊の日本にて』
      悪因縁
      因果ばなし
      焼津にて

  • 短編の後のエッセイには小泉八雲の人柄が表れていて興味深い。
    灯篭が流れるのを邪魔しないように平行して泳いだり、不幸な少女の不幸を肩代わりしようとしたり。

  • 新潮社の文庫は有名な作品などを抜粋して美味しいどころ取りみたいなまとめ方をしてくれるので入門には良いですね。(これで気に入ったら個別の正式の作品集を手に入れるので、まずはお試し版みたいな……)
    『影』『日本雑記』『骨董』『怪談』『天の川物語その他』『知られぬ日本の面影』『東の国より』『心』『仏陀の国の落穂』『霊の日本にて』それぞれから数編ずつ抜粋収録。
    耳なし芳一はじめとする怪談話以外にも、『知られぬ日本の面影』など日本人論も収録されてて、八雲=怪談の人だけではないんだな、というのがよく分かりました。

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著者プロフィール

1850-1904年。ギリシア生まれの英国人。作家、英文学者。旧名ラフカディオ・ハーン。1890年来日。松江で小泉節子と結婚、後に帰化。東大等で教鞭をとりつつ日本を海外に紹介。著書に『怪談』『心』他。

「2016年 『心 個人完訳 小泉八雲コレクション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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