交歓 (新潮文庫 く 4-15)

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  • Amazon.co.jp ・本 (327ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101113159

作品紹介・あらすじ

亡父の跡を継いで出版社社長を勤める四十歳の桂子さんは、夫の急逝に見舞われる。フロッピイに記憶された夫の遺言。彼との関係が疑われるどこか危うげな女たち。未亡人となった桂子さんの前に出現した謎の財界の大物と或るプロジェクト-。竹林の別荘、豪奢な邸宅、上流階級が集う秘密クラブで繰り広げられる濃密な。華麗典雅な筆致で描く、知的刺激に満たち倉橋ワールド。

感想・レビュー・書評

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  • 「交歓」は「夢の浮橋」「城の中の城」につづく『桂子さん』という主人公の精神の交歓遍歴の物語である。私は昔「夢の浮橋」を読んでいるが、すっかり内容を忘れてしまっている。しかしこれ1作でも前後の違和感なく読めるようになっているのでありがたい。

    「交歓」とは知的な追及の歓談であり、この物語ではジェンダーを超えた性の愉悦まで含めた交歓である。

    父親が亡くなり、その出版社を受け継いで女社長となった『桂子さん』は現代でいう超理想のキャリアウーマン、妖艶な美人で40才の女ざかり、精神生活も豊かで、セレブな生活も楽しんでいるという満点な女性として描かれている。

    しかも倉橋由美子の深い文学知識と文学に対する厳しい姿勢からかもされる表現は、その超理想の女性の精神生活を素晴らしくも浮上させるのである。文学あり、音楽、絵画、哲学、最先端の科学あり、コンピュータまで登場する。

    今ならかなり現実味ありそうだが、時代はだいたい17、8年くらい前、先取りである。


    作者の語彙の範囲の広さ、文学的知識が深すぎるので私に理解不能の言葉もあるが、なに、雰囲気で読んでしまえる。夏目漱石を読むのだってそうだろう。

    目次の題の漢字四文字がいい。例えば『蓮花碧傘』は蓮の花が暑さにくたりとなって緑濃き葉の陰に顔を伏せてしまうのを描写しているが、それはその章の物語をそこはかとなく縁取る絵なのだ。

    ことごとくの章立てがそのようで、そのときあかしが味わい深くかつ妖艶であり、香りたつ。

    もうひとつ倉橋由美子の文学に対する姿勢が好もしい。厳しいといってもいい。
    ヒロインが出版社社長として本を作る時に情熱っぽく語らせている。

    『近頃の文学青年、文学少女は文学的な育ちが悪い。いいものを余り食べていないらしい、贅沢を知らないだから自分という材料を素直に出しさえすれば大人は喜んでくれる、という子供のレベルで書いている、お手本なしに平気で書いている、こういう文学的養分とも伝統の土壌とも関係のない作文は文学以前です…』

    『桂子さんの亡き父君が読んだ本や作品に評点を与えていた』というところも好きだ。


    『○は「一読に値する」、△は「読んでも読まなくてもよし」、×は「読まないがよし(時間の無駄)」』

    『桂子さん』は恋人に部屋を貸して貰い、そんな本を集めた読書室を作るかもしれないというのもありそう。

    と、もう次から次と展開が、読めば読み込むほど羨ましい「交歓」なのだった。

    私はこの作品を喜びと興奮を持って丁寧にに読んだ。舌鼓を打って味わったといったら下品だろうか。知的快楽、知的悦楽の極みとはこのことである。

  • 桂子さんシリーズ。再読。シュンポシオンの前、城の中の城の後。P+D Booksというのがあって、絶版になった過去の名作を安価で復活させているようだ。いい話だ。
    夫の山田さんが研究室で脳卒中で亡くなる。未亡人となった桂子さん。出版社社長でもあり、働きつつ、入江さんと出会う。入江さんから仕組んだことのよう。これから政界へ出ようかなぁ、というところ。
    おいしい食事、教養ないとついてけない会話、そしてエロ。エロと書いたが、なんかね、エロくない。

  • まるで山に生い茂る木々の中を行くような
    言葉も森を 泳ぐようだった

    酸素が濃厚で緑が漲り、豊かな色彩の中を泳ぐ
    まるで海の様だった

    そういう世界だから
    登場人物たちはすべて

    まるで詩と文学と芸術が意識を持ったような人たちで


    まるで現実的な感じがしなくて

    長い長い 夢を見ているようだった

    硬質で美しくて
    けれどもなんだか読みづらい
    分け入るのが難しい 甘美な
    秘境の地のようで

  • 桂子さんシリーズ第4作.
    桂子さんは40歳.ご主人が脳出血で亡くなり,未亡人に.
    そこに未来の首相,入江さんがあらわれ,そのパートナーとなるというのがメインストーリー.
    前作までの悦楽のエネルギーは少々弱まった気がするけど,楽しい読書.桂子さんの50代が読みたかったな.

  • (「BOOK」データベースより)
    亡父の跡を継いで出版社社長を勤める四十歳の桂子さんは、夫の急逝に見舞われる。フロッピイに記憶された夫の遺言。彼との関係が疑われるどこか危うげな女たち。未亡人となった桂子さんの前に出現した謎の財界の大物と或るプロジェクト―。竹林の別荘、豪奢な邸宅、上流階級が集う秘密クラブで繰り広げられる濃密な〈交歓〉。華麗典雅な筆致で描く、知的刺激に満たち倉橋ワールド。

  • いわゆる「桂子さんシリーズ」の真ん中らへんに位置する1冊・・・なのですが、そのシリーズを、ほとんど最後のほうの「よもつひらさか往還」しか読んでおらず、しかもそれが倉橋作品の中ではあまりはまらなかったほうの作品だったので、これもちょっと、うーん・・・。

    シリーズものとはいえ独立した作品として読めるもののはずなのに、冒頭から説明なしのキャラクターがずらずらと登場してきて、把握できないのでとりあえず読み流すしかない・・・。設定がそうだから仕方ないのだけれど、基本的に出てくる人たちはみなインテリセレブとでも呼びたくなる階層の人たちで、交わされる会話も高級すぎて庶民にはわかりません(苦笑)。まあ言い過ぎかもしれないけど、ちょっと衒学的。

    それでも最後まで読みきってしまえるのは、ひとえに倉橋由美子が上手いから。登場人物をざっくり把握して流れに乗ってしまえば、それなりに面白く読めるけれど、書いたのが倉橋由美子じゃなかったら読めたもんじゃないだろうなあ。

  • 才色兼備な山田桂子を主人公とする、
    「桂子さんシリーズ」の一つ。
    時系列で言うと、
    勝手にカトリック信者になった夫に、
    棄教か、さもなくば離婚だと迫り、
    家庭内宗教戦争を展開した『城の中の城』から10年後で、
    当の夫が膨大な資料を内包したPCを遺して病死。
    夫の元同級生で、
    マシンの提供者である実業家の入江晃が現れ……
    といった流れ。
    桂子さんは何が起きても軸をぶれさせず、
    しかも柔軟に対応して、
    最後は自分を益する方向へ落ち着かせる手腕の持ち主だが、
    あくまで優雅で軽やかで、
    女だって惚れてまうやろっ☆`Д´)ノという感じ(笑)
    だけど、40歳でこの域に達することができたのは、
    やはり元々与えられ、備わっていたものが違うからだよなぁ、
    と溜め息をつかずにいられない。
    いや、美貌云々より、知性や教養の問題です。

  • 大人向けの芳醇な小説。倉橋由美子の知性と嗜好の宝物庫を漂う贅沢な感覚。文章も端正でありながら気取りすぎず、心地よく読めた一冊。これを機会に「桂子さん」シリーズを読んでみようかな。

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著者プロフィール

1935年高知県生まれ。大学在学中に『パルタイ』でデビュー、翌年女流文学賞を受賞。62年田村俊子賞、78年に 『アマノン国往還記』で泉鏡花文学賞を受賞。2005年6月逝去。

「2012年 『完本 酔郷譚』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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