脱出 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.57
  • (9)
  • (18)
  • (31)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 234
感想 : 29
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117249

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 2012.10.13(土)。定価¥438。
    2012.11.3(土)。

  • 終戦という転換期を様々な場所で,かたちで,生きた人々の短編集。

    全体として,たとえば燃え尽きた都会で玉音放送を聞いて・・・という感じではなく,どちらかというとあまり戦争らしい戦争を経験しないで終戦を迎えて,時代の急激な移り変わりを虚ろな目で見つめる,と言った感じ。
    終戦と一言に言っても,色々な終戦があったのだなと思わされました。

    「脱出」「焔髪」「鯛の島」「他人の城」「珊瑚礁」の五編が収録されているのですが,私の印象に残ったのは「他人の城」と「珊瑚礁」。もちろん他の作品もとてもよかったですが。

    「他人の城」は,沖縄からの学童疎開船「対馬丸」に乗船していた中学生の話。
    学童疎開船である対馬丸・亜米利加丸の沈没・・・民間人の多くが犠牲になったそうです。疎開船が沈没なんて,気の毒過ぎます。気の毒の一言じゃ済みませんが,乗っている船が沈没したらもう,為す術がないですね・・・。
    対馬丸に乗っていて,沈没して,たくましく漂流して救助されるところまででも十分ドラマチックですが,さらにこの小説の魅力は,本土に残った学友たちが沖縄戦を闘い,散っていたことに対して主人公が負い目を感じていること。
    疎開船が沈没するというだけで十分な被害者ですが,やっぱり本人の感情としてはそれだけでは済まされない。そういう葛藤が描いてあるのが良かったです。
    そして改めて沖縄戦の悲惨さを思い知りました。日本で唯一決戦の地となり,10万人以上の人々の命が失われた沖縄戦。私の実感として,戦争と言えば沖縄戦,として語られることがあまりないように思うのですが(戦後生まれ,本州在住として),もっと学ばれて然るべきだと思いました。

    「珊瑚礁」はサイパン島に住んでいた日本人が,米軍上陸によって山中を逃げ惑い,家族を失いつつ,捕虜になり,戦後を迎える話。
    敵を恐れて家族で山中を逃げ惑う。うう。怖い。こんな生活耐えられないよなーとつくづく思いました。
    毎日安心して布団で寝られる幸せよ。

    昭和の転換点・・・とても興味深い短編集でした。
    事実の悲惨さやむごさのようなものが中心に描かれるのではなく,主に少年の心の移り変わりのようなものが中心に描かれていて,そこが良かったです。

  • 少年たちが投げ出された戦場。南樺太の寒村・奈良の東大寺・瀬戸内海の漁村・本土への疎開を目指す対馬丸・サイパンの砂糖黍の町。

  • 戦時〜戦後の実話が元に。
    淡々と描かれているだけに、より現実なんだと感じる。 今と同じ夏のこと。

  • 津和野などを舞台とした作品です。

  • 「脱出」「他人の城」が好き。
    戦後の混乱を乗り越えるのは…

  • 実際に起こった事件をもとにかかれている小説です。なにがすごいって、吉田先生がこんなとこまで調査しているのがすごい。
    中篇が数本収録されています。

全29件中 21 - 29件を表示

著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

吉村昭の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×