- Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101123103
感想・レビュー・書評
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20代の時に読み(30年以上前)このたび復刊したとのことで改めて読み直しました。若いときにも感動しましたがこの年になって理解できるものがたくさんありました。人生の理不尽をたくさん体験してきたせいかもしれません。無限にあるように感じていた未来は有限なことが実感できます。
いじめのなくならい日本、若い世代にはぜひ読んでもらいたいです。そして有限の未来を過ごし憂鬱に思われるお疲れの世代の方々にも。声なきもの、弱い立場にあるもの、それはすべて自分自身なのです。遠藤周作氏の深い動物愛、人間愛、醜い面をも含めてうけとめてくれる懐の温かさに励まされます。
弱くてもいい。大きなことができなくてもいい。身近なものを守っていこう、応援していこうと思わせてくれる本です。
都内にも猿が出没しているようです。猿の側からも少しだけ見てくれる人が増えますように詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
著者のイメージはテレビで、ユーモアあふれる会話をする作家さんと言うものでした。間違いなく著者は日本の文壇で名前を残している方だと思います。ただ残念ながら、後世に読み継がれていくのかと思うと不安になります。私の杞憂かもしれませんが、「海と毒薬」「沈黙」「深い河」など。感銘を受けた作品が沢山あります。今回読んだ作品は彼の代表作とまでは言えない作品かもしれませんが、面白く読めました。著者の弱い立場の人に寄り添う姿勢が読み取れます。主人公の学歴に対するコンプレックスなどは著者に通じるものがあるのではないかと勝手に思っています。今度は、著者のエッセイを読んでみようと思います。
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どんな男性が好みかと訊かれたら、(通じる場合は少ないけれど)私は主人公のひとりで野猿研究者の一平と答える。
決して抗うことのできない大きくて強い力。遠藤周作は、そんな津波のような力を幾度も形を変えて描く作家だ。それは時には時代の波だったり、権力だったり、世間の目だったりする。
圧倒的な力に流されそうになりながらも、なお自分の信じるものを守り、立ちはだかる人々。愚かで滑稽だけれど、そこに真の強さがあるのだと気づいてしまう瞬間が、この小説でも鮮やかに描き出されている。
女性の心理もかなり巧みに代弁されている。自分を押し流す強い波と、自分をしっかりと繋ぎ止める堅実な港。女はどちらも求めてしまう。この両者の狭間で葛藤する明子は、最終的には波にも飲まれず、港にもとどまらず、自らの意志で沖へ出ていく。
そういう見方もできる小説ではないか。 -
もう10年以上前ですが、就職活動期間中に読んだ気がします。
最終的に、どちらの生き方も否定せずに終えるのが遠藤周作流の優しさと思いました。 -
不器用だからこそ、不自由だからこそ見出したその生き方。
邪魔するのは偽の強さを振り翳すまさに人間という遣る瀬無さ。
ある意味では「彼の生きる道」なのかもしれない。それでも「生き方」と表現する方が、私も好きだ。
その時代にどれだけそういう捉え方があったのかどうかはまた別だが。 -
どもりのために消極的な性格の福本一平は、ことばで語りあう必要のない動物との触れあいに、心のやすらぎを感じていました。彼は、小学校時代の音楽教師の示唆を受けて、ニホンザルの生態を研究する道をえらびます。彼は日本猿研究所に所属し、志明山でニホンザルの餌付けを試みていましたが、志明山の土地が観光業者の手にわたったことで、ホテルの開発が着手されてしまいます。さらに研究所の所長が交代したことで、人づきあいの苦手な一平は苦しい立場に追いやられ、職を辞して比良山で研究をつづける道をえらびます。
一方、小学校時代から一平と幼なじみの中原朋子は、志明山の開発を進める業者に勤務する夫のもとに嫁いでいました。彼女は、志明山の開発に反対しているのが一平であることを知り、彼の研究に対する真摯な態度にひそかな感銘をおぼえていました。しかし、彼女の夫の藤沢が飛行機事故によって命を落とし、彼女は夫の上司である加納からの求婚を受けます。
自分の望むものはかならず手に入れようとする加納のアプローチを拒むことができず、ついに朋子は加納との結婚を承諾しますが、不器用でありながらも一途にニホンザルを守ろうとする一平のすがたに、朋子は心のなかで声援を送ります。
ドラマティックな構成の作品で、信仰をめぐる著者独自のテーマが追求されている作品群とは異なる印象ですが、単純にたのしんで読むことのできる内容でした。 -
就活前の私にピッタリな一冊。
人からどう思われようとかそんなことは構う必要はなくて、それより自分の意志を大切に。
守りたいものは、なにがなんでも守る。守りたいものを見つける事は人生において大切だとつくづく感じたな。
遠藤さんのメッセージが伝わりやすい、読みやすい一冊。 -
著者は洗礼を受けたキリシタンとして有名であるが、今回のストーリーには彼独特の宗教観は見受けられなかった。
吃音症の少年が成年へと成長していく中で、変わらない純朴さが描かれている。対照的に、その友人は成長するにつれて少女から女性へと変化していく。
ただひたすらにまっすぐ生きようとした、不器用な男性が、時代の波にもがきながら戦い続ける。
愛とは何なのか。
自らの信じるものは何なのか。
そんなことを考えされられた一作だったと思う。
この辺りが遠藤周作氏の魅力ではないだろうか。 -
未だにこれ以上の作品には出会っていません!