江戸川乱歩名作選 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101149028

感想・レビュー・書評

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  • 『押し絵と旅する男』

    この作品では、額に入った兄の人間的生命の美しさと、押し絵に描かれた娘の芸術的(表面上の)美しさを対比させ、二つの面の美しさを表しているのではないだろうか。
    まず、私(主人公)が汽車の中で、「四十歳にも六十歳ぐらいにも見える」男に出会い物語は進んでいくが、その際にその男の特徴として「私」は「顔じゅうにおびただしい皺があって」や「色白の顔面を縦横にきざんだ皺」など年老いた人間にしか見られない「皺」があることを述べ老人という人間の老いを連想させ、その後に「十七、十八の水のたれるような結いの綿の美少女が」で人間の若々しい美を連想させるような書き方をしていた。また、その続きに「その老人の洋服の膝にしなだれかかっている」と書いてあり、これは「私」も「額の持ち主の老人にそのままばかりか(中略)そっくりであった」と書いてあるので、先ほども述べたように持ち主の老人には顔に「皺」があるということだったので、額の中の人物も老いているということ、また人物が似ているということだったが作品を読めば分かる通り兄弟なので(額の中にいるのは)兄と持ち主の弟で事実的には同一人物ではないということが分かる。しかし、二人の共通点として人間の老いという意味では、兄と弟は同じ分類として分けられ、また、押し絵として作られた「娘」は兄や弟よりも若く綺麗で、芸術(押し絵)だからこそ手に入れられる永遠の若さつまり、美しさがあるということが言える。さらにその後「私」はその押し絵を見て「押絵の人物が二つとも生きていた」と言ったことから、老いている兄(加えて弟)と若い娘(美少女)を同じ天秤にかけ比較する前触れだと予測することができる。
    なぜ、このように人間の生命について、特に美しさなどをこの作品で述べているのか、判断することができるのか、というと後半のセリフで弟が「私」に「悲しいことには、娘の方は、いくら生きているかといえ、もともと人のこしらえたものですから、歳をとることがありませんけれど、兄の方は、押絵になっても(中略)人間ですから私たちのように歳をとって参ります」つまり、弟は兄の老いが悲しいと言っている。ここだけを読むと読者は、人間は老いるよりも若い方が何でも美しいのだろうと考えてしまうかもしれないが、この作品を全体的に見れば、この作品をどう考えることができるか。様々意見はあるだろうが、弟は(自分が老いてもずっと兄のことを考え、兄に新婚旅行をさせたいなど)非常に兄思いであるということが分かると言える。
    このことから、「美しさ」は若い人間だけにあるわけではなく、老いるという中身の美しさ、今までしてきた経験、キャリア、人情がその人を作りその人間の美しさを表すということであり、娘の芸術的な永遠の美しさ(表面上の美しさ、中身はない)の二つの面を対比させ、人間にしかない老いることでの美しさと芸術的的な表面上の美しさを対比させ、人間にしかない生命の美しさを作者は強調させたかったのではないか、と考える。

  • 記録。

  • 短編小説。このなかで1番面白いと思った話は「目羅博士の不思議な犯罪」。

  • 『江戸川乱歩傑作選』が藤子・F・不二雄なら『江戸川乱歩名作選』は藤子・A・不二雄だ。(知らない人は御免なさい)ダークサイドの濃い江戸川乱歩作品が並ぶ。

    自身を揶揄したかのような『陰獣』も面白かったが、個人的には『踊る一寸法師』が好みだった。本作品が持つ何とも奇妙で妖しい雰囲気が良い。巻末には江戸川乱歩自身の各作品の寸評が収録されておりこちらも楽しい。

  • 推理系は正直なところパターンが読めてきてしまう。
    とはいえ『白昼夢』とか『踊る一寸法師』のような、怪奇幻想系はやたらと引き込まれる。

    『陰獣』では自身の作品のオマージュが出てくるけど、なるほど江戸川乱歩は春泥側の人間やと。




  • 文庫に収められた諸作品の発表年が1925年から1934年にかけてですから、金融恐慌やテロ、国連脱退など政情不安が続く時代背景を鑑みると大衆の不安やいらだちなどがピークに達していて、その不満のはけ口としての大衆娯楽だったわけですね。
    ミステリーあり、怪奇幻想ありとバラエティに富んでる編纂です。

  • どの作品も完成度が高い。そしておどろおどろしい雰囲気は作者ならでは。ミステリーではあるが人間らしいの残忍な部分、恥部を浮き彫りにしており、精神的にじわじわキます。
    猟奇的には石榴、ミステリー的傑作ドでは陰獣でしょうか。
    特に陰獣は、何度もの読んで咀嚼したくなるし乱歩自身が犯人として登場し、じこの作品をふんだんにプロットとして使っており痛快ですね。青空文庫入りした作者の作品を折りに触れて読みたくなりました。

  • 怖い

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著者プロフィール

1894(明治27)—1965(昭和40)。三重県名張町出身。本名は平井太郎。
大正から昭和にかけて活躍。主に推理小説を得意とし、日本の探偵小説界に多大な影響を与えた。
あの有名な怪人二十面相や明智小五郎も乱歩が生みだしたキャラクターである。
主な小説に『陰獣』『押絵と旅する男』、評論に『幻影城』などがある。

「2023年 『江戸川乱歩 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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