- Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101215167
作品紹介・あらすじ
携帯電話に詰め込まれた老舗の技術を知っていますか? 折り曲げ部分には創業三百年の京都の金属箔粉屋の、マナーモードは日本橋の元両替商の、心臓部の人工水晶は明治創業の企業の技術が関わっています。時代の波をのりこえ、老舗はなぜ生き残れたのか。本分を守りつつ挑戦する精神、社会貢献の意志、「丹精」という価値観。潰れない会社のシンプルで奥深い哲学を探る、企業人必読の一冊!
感想・レビュー・書評
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本書は、創業百年以上の日本の老舗企業二十一社への取材をもとに執筆された、ビジネス系ノンフィクション。
日本には、西暦578年創業の世界最古の企業(世界最古のゼネコン)「金剛組」を始め、老舗企業がとても多いのだという。その理由として、著者は、
・日本はこれまで被侵略と内戦の期間が皆無に近かったこと(平和こそが、老舗企業存続の基本条件)
・「血族」よりも「継続」を重視する価値観が根付いていること(大阪船場の格言「息子は選べないが、婿は選べる」に見るプラグマティズム)
・ものづくりを尊ぶ文化と伝統を保持していること(鎌倉時代に、農民出身の武士(自分の手で刀を打ち、鎧兜を製作した)が権力を握ったことが、ものづくりの位置付けを引き上げた)
の三点を挙げている。また、大抵の老舗企業は、本業重視と分相応(事業を安易に拡大することへの戒め)を旨とする家訓を有しているという。当たり前ではあるが、堅実に細く長く、というのが事業を長期継続させる秘訣のようだ。
特に面白かったのは、「商人のアジア」対「職人のアジア」の文化論。日本以外のアジア、とりわけ華人を含むチャイニーズのアジア=商人のアジアの住民は、基本的に国家や政府を信頼せず、彼らが信頼しているのは家族とカネだけなのだという(だから、商人のアジアには血族企業が極端に多く、経営陣は血族で固められて世界的な大企業になかなか育たないとのこと)。また、中国大陸や朝鮮半島では、労働を伴う仕事は「王候貴族の行うものではなく、下級な人々の仕事」とみなされ、ものづくりを軽視する傾向があったという。韓国に中小企業が育たないことや、中国で模倣品が横行する理由はこれなんだな。
日本には新しい企業が育ちにくい(企業の新陳代謝が起きにくい)と言われて久しい。確かに、米国に見られるように、隆盛を極めた企業も賞味期限が過ぎれば市場から退場し、代わりに新たなビジネスモデルで経済を牽引する企業が台頭して新陳代謝していくのが理想型なのかもしれない。ただ、本書で紹介されているような、時代の要請に応えながらも伝統を重んじ息長く存続している老舗企業の存在も大切なのだと思う。各企業のみならず、社会全体にとっても、安定と発展、このバランスが大切なんだろうなあ。