- Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101247038
作品紹介・あらすじ
身体を悪くして以来、すさんだ日々を過す鳶の安蔵。妹みゆきは、兄の立ち直りを心の支えに、苦界に身を沈めた。客のあい間に小銭をつかみ兄に会うみゆき。ふたりの背に、冷たい時雨が降りそそぐ…。表題作のほか、『雪明かり』『闇の顔』『意気地なし』『鱗雲』等、不遇な町人や下級武士を主人公に、江戸の市井に咲く小哀話を、繊麗に、人情味豊かに描く傑作短編全7話を収録。
感想・レビュー・書評
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人間としての優しさや、ダメさ、それらを温かく見られる世界感にじんわりと、心ほどける。
ささやかな幸せ、ささやかな感動に、清々しさを覚える。
英雄豪傑は出ないけれども、普通の人間の人情を深く味わえる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
沁み込んでくる一冊。
初の藤沢周平さん、好みの世界観だった。
どの言葉も情景描写もスッと心に沁み込むのが良い。
まるで雨のしずくがアスファルトではなく、土に自然に沁み込む、そんな感覚。
それが心地よい。
どの話も暗雲立ち込めるかのように不安感で心をぎゅっと締めつけながらも、スッとその締めつけから解放する。
その瞬間を何度も味わう。
クセになるこの心地よさはまさに心だけで感じられるような珠玉の短編集。
表題作はもちろん、自分の落ち着き場所を得る様が胸打つ「意気地なし」と、心を優しく時に強く揺さぶる「果し合い」がお気に入り。 -
本を一冊読み終えると、次は何を読もうかと 右往左往する。
次の本が見つからないとき、「この人の著書なら間違いない。」と想いながら選ぶ作者の一人が藤沢周平氏。
この短編集を読むと、以前、新聞で読んだ瀬戸内海の島にある「遊女の墓」を思い出す。遊女になるしかなかった女たちを、手厚く葬った人々の優しさと同じものを感じる。 -
なぜ時代小説を書くのか。
さらになぜ江戸期の話が多いのか。
著者あとがきに語られている。
古い時代にはその時代特有のもの、反面親子や男女の愛のように現代と共通する人間に不変なものがありこの二面を捕まえないと正確に古い時代を把握したことにならない。
そして江戸期になると現在と共通する部分が多くでてきて今の生活感覚からも理解しやすいと。
なるほどなあ。
TVドラマでも江戸の市井物が気楽に楽しめるのはそういうところもあるのだろう。
武家物4編、市井物3編。
「雪あかり」
何度読んでも心地よい話だ。
嫁ぎ先で虐げられていた義理の妹を助け出し、養子先と絶縁し、その娘との婚約も破棄して自分の持っているもの全てを投げ出して義理の妹とこの先の人生を共にする。男だなあ。
とは言え、彼の周囲の人々、特に親類縁者は困っただろうな。
「闇の顔」
時折性格の真っ直ぐな人に出会う事がある。
人間の付き合いの中には、お世辞や小さな嘘がある程度必要な事がありそれが人間関係を円滑にしている所がある事を否定できない。
けれどそういう事ができない性格の人がいる。
真っ直ぐで正義感が強く思ったことを忖度なしに述べる。
正しい人なのだ。 けれども友人としては付き合えない。そして身近な家族だと困った人だと言われることさえある。
藩の不正に気付き正そうとする事は正しい事。
けれどもその手法は直情的ではまずい。
「闇の顔」では結果として不正が暴かれ結果としては良かったが、もう少し手段を考えれば犠牲は少なかったはずだ。
「時雨の後」
私には兄弟姉妹というものがない。
と言ってまるきりひとりっ子と言うわけではなく早逝した兄と妹がいた。兄の顔は知らないが妹とは3年一緒に暮らした。
この話の兄は真面目な鳶だったが怪我が元で博打に溺れ、身を売って商売をしなければならなくなった妹から金をせびる。
怪我をするまでの優しく真面目だった兄が、今でも真面目に働いていると信じていつでも金を都合する妹。
そんな妹が兄の正体を知っても庇おうとする姿に兄はやっと立ち直る気になるのだ。
兄と妹の愛、それを私は知らない。
「意気地なし」
女房に先立たれ乳飲み子を抱えて生きる術がわからず惚けたような伊作を見かね、隣家のおてつは何かと手を貸すうちに、祝言が決まっていた作治の中に不誠実さを見出し、反対に伊作に心を寄せる。
「秘密」
年老いて先の望みもなくなりただ生きているだけのような男にも生きた証の過去がある。
それが自分が犯した罪であっても。
ただそんな過去があった事をぼんやりと覚えていても経緯までハッキリ思い出せずに苦しむ。
ある日そのぼんやりとした記憶が霞が晴れたように蘇った時、男は人生を生きた事を確実な事実と認識して満足する。
「果し合い」
部屋住みの厄介者である大叔父と姪の心のつながりが温かい。
果たし合いによる怪我が元で人生の歯車が狂い始めた佐之助と心通わせるのは姪の美也だけ。
その美也の窮地を救い彼女が愛する男と生きていく為に佐之助は残りの人生を捨てる。
P216
「大叔父はあっけらかんと言った」
このあっけらかんは誤用ではないか?
P218
知っているのは、男と会う時の闇だけである。
「鱗雲」
主人と娘を亡くし、母と息子二人暮らしの寂しい家に、春の日差しのように明るい娘がやってきた。
P261
「あの娘さんには腕に竹刀だこがありますよ」
竹刀だこならば「手に」あるいは「手のひらに」と言うべきではないだろうか?
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時代小説を読んだことない人に
おすすめの藤沢周平の短編。
そして女性にもおすすめ。
やはりまだ、藩とか江戸時代の
階級とかの話はよく分からない事が
多くあるが、
どちらかというと恋愛要素、
人情、家族愛が主なので
一気に読める。
読後感は最高。
「意気地なし」「鱗雲」が好き。 -
「果し合い」部屋住みの大叔父と、若い二人の物語。
「鱗雲」母と二人暮らしの若侍、仇持ちの娘。
時代物が読みたい、けど長編を手に取るエネルギーがない・・・
という時の欲求を満たしてくれ藤沢作品。
中期~晩年の作品のほうが、練れているというか熟して落ち着いている印象。
私が生まれる前に書かれた作品とか、感慨深いです。 -
気になってはいたけど、
初めて藤沢周平を読んだ!
何、この独特の世界観。
たびたび不意打ちにあい、振り回されっぱなし。
そして、なぜこんなに女心が分かるのか?
展開の意外性、人物たちの魅力に、すっかりはまってしまった。
7編の短編のなかで、
「闇の顔」はストーリーの運びがうまい。飽きずに変転するにもかかわず、無理がなく最後まで一気読み。
「意気地なし」は、強気な町娘の無鉄砲な行動に釘付けに。
帯に「おとなの時間フェア」とあったけど、
全作品に哀愁と、繊細な色気が感じられて、めっちゃ良かった。 -
藤沢周平の本は読んだあとにため息が漏れる。
安堵、切なさ、感嘆、やりきれなさ、いろんなものがない交ぜになっての一息。
よく短編でこれだけのものを書けるなと思う。
やっぱりすごいなあ。
好きだな、藤沢周平の時代小説。 -
はじめての藤沢周平が、今回の『時雨のあと』となりました。
先日テレビで『SABU』を見て、時代小説もいいなと思い、『たそがれ清兵衛』などで多くの人に人気のある作家のを選び、藤沢周平への初挑戦となりました。
『時雨のあと』は7編の短編からなるもので、どれも江戸の市井の話です。どの作品も悲哀がベースながら、必ず救いがあり、読後感は悪くないです。ちょっと前に読了した北方の三国志と比べると、内在しているエネルギーの差に物足りなさもないことはないですが、昨今の不景気の中では、これくらいの心のともし火がふんわり心地よいです。蛇足ながら一番のお気に入りは最後の『鱗雲』です。