あなたの知らないガリバー旅行記 (新潮文庫 あ 7-10)

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  • Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101255101

感想・レビュー・書評

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  • ガリヴァー旅行記を読んだので、
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4327180521
    副読本として読んだ。

    これを読んで本編での理解不足を補えたので、先に読んでからガリヴァー旅行記本編を読んでも良かったかもしれない。
    ガリヴァー旅行記に隠された風刺の解説だけでなく、現代日本に例えてみたり、ガリヴァー本人の環境や性質まで踏まえてガリヴァー旅行記を読み解いている。

    【リリパット国】
    ●リリパット国があるのは、現在の地図で言えばタスマニア島北西くらい。東インドに向かう途中の座礁。
    ●リリパット国の人たちは15センチ位。彼らから見たガリヴァーを「東大寺の大仏と私達の大きさ」と表現していた。わかりやすい(笑)
    ●平靴派と高靴派の争いは当時のイングランドの二大政党の争いと、宗教的に対立したハイ・チャーチ派とロウ・チャーチ派への両方への風刺かなと思われる。作者スウィフトは、そんな戦いたかが靴の高さくらいの違いしかないじゃんとバカバカしさをからかっている感じ。
    ●では卵をどっちから割るか闘争について。最初大きな円だったけど尖った円から割ることに変えたリリパット国と、大きな円から割るブレフスキュ国。
    これはブレフスキュはカトリックのフランス、リリパット国はカトリックからプロテスタントとなったイギリスを表しているんだそうだ。
    イギリスは当初カトリックだったが、イギリス国王ヘンリー八世が反カトリック教会の力を得て国王の権力を新調させ、英国国教樹立になった。
    この、本家の支配下から逃れて独立して力を得たイングランドを「そんなの卵をどっちから割るか程度でしょ」としているんだそうな。
    ●リリパット国とブレフスキュ国の海上戦争の時、ガリヴァーがブレフスキュの船に鋲を引っ掛けて紐で引っ張って拿捕の描写だけど、これは物理的に矛盾があるらしい。15センチ位の人間がのる戦艦ならそれなりの大きさであり、さすがにガリヴァーが一網打尽は無理じゃない?だって。
    ●ガリヴァーがリリパット国・ブレフスキュ国の島から出港したのは1701年9月24日。ヨーロッパではスペイン継承戦争が始まった頃で、日本では元禄14年で浅野内匠頭が城中刃傷に及び浅野家お取り潰しになったころ。ふーーん。
    ●リリパット国のお話は、この国を楽しいおとぎ話的に書いている部分と、なんか生々しく風刺的に書いている部分が混在している。ガリヴァー旅行記はかなりの月日を要して書いたようなので、作者スウィフトの考えも変わったのかな。

    【ブロブディングナック島】
    ●ブロブディングナックは現在の地図でいうと、モルッカ諸島東方くらい。
    大嵐にあったのはアフリカ東海岸あたりの赤道付近だが、フィリピン付近まで漂流というのは地理的に無理があるらしい(笑)
    ●小さな生物が大きな生物に紛れる風刺小説の場合、覗き見的なことにより内情が明らかにされる書き方が多いのだが、このブロブディングナック島の話についてはそのような記載は殆どない。
    ●このブロブディングナック島の話は割とまとまっている。おそらく短期間で書き上げたんじゃなかろうか。

    【ラピュタなど】
    ●この航海で海賊に襲われたのはアリューシャン列島の南付近。
    ●海賊は極悪なオランダ人とサムライの心を持つ日本人。この当時イングランドとオランダは世界の派遣を巡って激しく争っていたので、オランダ人のことは悪く言う。
    英語で悪口に使われる「ダッチ〇〇」の用法が紹介されていたけれど、現在でも使われているのかな。
    ●浮島ラピュタの様相は、科学的にもまあなかなかうまく書かれているらしい。貯水の仕組み、島の中央の天然磁石の角度調整により位置を変えられるなど。
    ●ラピュタに支配されているバルニバルビ島は原点に帰ることが流行っていて、町も畑も廃墟のようだがそれこそが都の真の進化であり、いまだに残っている整備された屋敷や農園は時代遅れで恥ずかしいもの。
    ●日本滞在について。ガリヴァーが日本についたのは1709年5月21日。このときの将軍は徳川家宣。天皇は中御門天皇。
    ガリヴァー旅行記で「ラグナグ国王より日本の皇帝への新書を預かっていたので、皇帝に拝謁した」と書かれていて、私は「江戸の徳川将軍?長崎に行く途中に京都に立ち寄って天皇に会ったの?」と思ったんだが、これは徳川将軍の方らしい。
    ●まあ作者のスウィフトにとって日本とは、未開で変な人たちが住む島の近くにある、なんか変な風習(踏み絵)を持った辺境民程度だったんでしょう(笑)

    【フウイヌム国】
    ●フウイヌム国にいる野蛮な人類ヤフーとは、”不快あざけり”を表すヤーと、”嫌悪軽蔑恐怖などを示す発声”のウッフを組み合わせた言葉とのこと。
    ●フウイヌムとは、馬の否鳴き声のフウィニイからの造語。
    ●「家畜人ヤプー」は、このヤフーを連想しているんじゃなかろうか。
    そして家畜人ヤプーの粗筋が紹介されているが…、粗筋だけでもキモチワルイ_| ̄|○

    【スウィフトについて】
    ●スウィフトは、幼いうちに父と死別し、乳母の家で育てられ、母と再会したのは20年近くたってから。
    再会した母親とは愛情を持って接していたらしいんだが、スウィフトの著者物からは女性への嫌悪感が感じられるのはやはり複雑な思いがあったのか。
    ●結婚はしなかったけど有名な女性が二人いる。29歳のときに知り合った14歳年下のエスタとは彼女が死ぬまでの30年間深い愛情を持ちあったという。年齢が違うから恋愛じゃないよって書かれているけど本当かなあ(と、阿刀田高さんが書いている)
    それと同時に、スウィフト44歳のときに11歳年下のヴァネッサと知り合っている。ヴァネッサは自殺したので、これは三角関係のもつれか?!などと言われているらしい。
    ●その後エスタも亡くなり、残されたスウィフトはメニエール症候群やその他の病気を発症して廃人のような晩年を過ごして死んだ。遺言では「遺産は精神病患者の病院建設に」
    ●スウィフトはとにかく気持ちを素直には書き表さない。
    他の著書では、この当時イングランドに支配されていたアイルランドのあまりの貧しさに「育てられない赤子は食用に使用」などと書いたり、使用人に対して「働いている振りをして働かない方法、失敗をうまく誤魔化す方法」などを書いている。
    だがこれは本気で思っているのではなく、あまりの惨状を訴えたり、サボったりするずるい人への意趣返しだろう。
    ●そのような著作をたくさん書いたので、スウィフトの著作は匿名だったりしている。
    だからもし読者が天国で「スウィフトさん、ガリヴァー旅行記読みましたよ」なんて言っても「何のことだ?」と言われるだろう(笑)
    ●風刺は時代が変われば古びてしまう。それならスウィフトからは辛辣な批判精神と風刺の手法を読みろう。そして風刺するにはどこか澄んだ目を持っていないとできないのだろう。

  • 知っていますかシリーズの系列。ガリバーと言えば小人国しか思い浮かばない。しかし、空飛ぶ島ラピュータはジブリ作品に取り入れられていて親近感がわく。馬の国と醜悪なヒトの成れの果てヤフーの話は興味深い。そして、それにインスパイアされた『家畜人ヤプー』も読みたくなった。解説は著者の同級生。知っていますかシリーズを著す著者の才能を適切に指摘していて、さすがだと感じた。

  • 20160101.Fri
    阿刀田流解説シリーズ。古典に優しく触れることができる点と、ユーモアのある語り口が面白い点で気に入っている作家。
    風刺として書かれた『ガリバー旅行記』であるが、風刺としての意味は当時の情勢を理解しないと味わうことができない。そのため、当時イギリスの政治、アイルランドとの紛争、著者ジョナサンスウィフトの厭世観を筆者が、毒舌とユーモアを持って説明してくれるので面白い。
    阿刀田氏の脱線の中から面白いトピックが2つあった。1つ目は、人間の生死は社会と関連付けれられているということ。なぜ死に面し苦しんでいるのに死なせてもらえないのか、という答えに、ラストサービスという回答を与えている。医療が人に尽くすという姿勢を見せなくては大変になるということなのである。個人の死も独立しているのではなく、社会の中に埋め込まれている。
    2つ目は、現代は不幸と比べて幸福な社会であり、ユートピア思考よりもディストピア思考の方が語りやすいということだ。悪い点の方が見えやすいという理由にもつながる。

  • タイトル通り、私は「小人国」のそれも断片的にしかガリバー旅行記を知らない。そして多分多くの方も。
    まずガリバー旅行記の正式なタイトルが
    「ルミュエル・ガリバー著・世界のさまざまな遠方民族への旅」
    だという事を知っている人に私は出会った事がない。
    ご存知だった方がいれば手をあげてください。
    作品は「小人国」「大人国」「空飛ぶ島」「馬の国」各国への渡航記4部構成になっていて馬の国では日本も登場する。

    空飛ぶ島は「ラピュータ」、ほれジブリのあれ。

    馬の国では人間はヤフーという軽蔑される存在。
    Yahoo!はなんでこんな名前にしたんだろう?
    この作品から誕生した「家畜人ヤプー」という日本人作家の作品がある。著者はガリバー旅行記の馬の国渡航記を意識している。

    色々な事に影響しているなあ。

    阿刀田高さんはこの旅行記が、著者のジョナサン・スイフトの当初の執筆意図が徐々に変わって当時の英国批判の諷刺文学になっていると読み解いている。
    ただ、作品中の批判的なさまざまな仕掛けや遊びを何世紀かたって、しかも他国でそれを理解したり感じたりすることの困難さがある事、
    また諷刺文学は、その時代の世情と深く結びついたものであるだけに、時間、空間を隔ててしまうと、本来的にいささか隔靴掻痒の感を免れない性質のものであるから、現代の読者が本書の風刺をダイレクトに感じる事が難しいとも。
    そうであるから、作品から得るべきものは彼の辛辣な批判精神と諷刺の手法だと語っている。

  • スウィフトの時代は、ガリバー旅行記を読み終わってノンフィクションと思う読者も居たのでは? 

  • 誰でも耳にしたことのあるガリバー旅行記。
    実写の映画もありました。
    小人の国でのエピソードは知ってはいたが、その他にはも話があったとは。
    その中のお話を概略を記し著者が解説してくれている。
    ガリバー旅行記の著者スィフト氏の生きていた当時のイギリスおよびヨーロッパの社会情勢を風刺していたのか。普通に読んだら、そんな深読みしなやろうな。
    現在でも問題であるようなことをスィフト氏は思い悩みそれを架空のお話に盛り込んでいたのですな。

    その他にも、「ひとは死すべきもの」「読心家具」の項は興味深く印象に残った。

    家畜人ヤプーは読んでみたいような、読みたくないような

  • 実は、ガリバー旅行記ってあまり知らないので、ステレオタイプな前提知識しかなかったんですが、阿刀田さんの小気味良い文章で一気に読めました。

  • 私たちが美しいと言っているのは、健康的なもの、生命の輝きを謳歌しているもの、物理学の法則にかなって安定しているもの、一言でいえば、生きていくのに都合のいいものから出発しているのではあるまいか。

    かの有名なガイバー旅行記に「あなたの知らない」ものなんてあるのか疑問だったのだが、ガリバー旅行記が4編の旅行記から構成されていること、イギリス政治の風刺であることなど、知らないこと満載だった。ガリバー旅行記の解説本としてではなく、阿刀田氏のエッセイであり人生観が語られたもの。二度も三度も美味しい本。

  • ガリバー旅行記をいま楽しむならば、どう読むか。当時のイギリス、欧州、宗教に対する風刺をわざわざ紐解いて読むことはしまい。阿刀田高は、大掛かりな風刺の仕掛けを記した著者ジョナサン・スウィフトの作家としての面白さをこの本で教えてくれる。そして同じ物書きとして、世間と激しく闘うことの厳しさを讃えるのである。

  • 20130504読了
    スウィフト作「ガリバー旅行記」の解説本。有名な小人の国を描いた第1作目だけでなく、続く2,3,4作目も含めた紹介。日本にも立ち寄るガリバーだが、日本に対して「断片的な知識しか持たなかったのだろう」と著者が推察しているように、自分が原作を読んだときにスウィフトさん、日本のことあんまり知らないよね?と首をかしげたことを思い出した。

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著者プロフィール

作家
1935年、東京生れ。早稲田大学文学部卒。国立国会図書館に勤務しながら執筆活動を続け、78年『冷蔵庫より愛をこめて』でデビュー。79年「来訪者」で日本推理作家協会賞、短編集『ナポレオン狂』で直木賞。95年『新トロイア物語』で吉川英治文学賞。日本ペンクラブ会長や文化庁文化審議会会長、山梨県立図書館長などを歴任。2018年、文化功労者。

「2019年 『私が作家になった理由』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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