文字渦 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101257723

作品紹介・あらすじ

「昔、文字は本当に生きていたのじゃないかと思わないかい」。始皇帝の陵墓づくりに始まり、道教、仏教、分子生物学、情報科学を縦横に、変化を続ける「文字」を主役として繰り広げられる連作集。文字同士を闘わせる言語遊戯に隠された謎、連続殺「字」事件の奇妙な結末、本文から脱出して短編間を渡り歩くルビの旅……。小説の新たな地平を拓いた12編、川端康成文学賞・日本 SF 大賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • “「…文字のふりをした文字。文字の抜け殻だ。文字の本質はきっと、どこかあっちの方からやってきて、いっとき、今も文字と呼ばれているものに宿って、そうしてまたどこかへいってしまったんだろう。どう思う」
    と境部さんが繰り返す。
    「昔、文字は本当に生きていたのじゃないかと思わないかい」
    (『梅枝』より、p.140)”

     川端康成文学賞・日本SF大賞受賞作。
     ずっと書名を『文字禍』だと勘違いしていたけれど、よく見たら『文字渦』!(同じことを書いているレビューが沢山あって、思わず笑ってしまった) とはいっても、ナベ・アヘ・エリバ博士の名は出てくるので強ち間違いではないか。

     閑話休題。
     本書は、非常にユニークでトリッキーな小説だ。12の短編が収められているのだが、それらを貫くのが「文字は生きている」というアイディアである。それも、比喩的な意味ではなく、字義通りの意味で。文字たちは姿を変えつつ時を経、或るものは栄え、或るものは滅ぶ。自ら蛍光を発して明滅し、版図を拡大せんと他の文字領域に侵攻する。彼らは子を産み、育て、そして死んでいった(突然のガンダムネタ…)。
     一体どんな小説やねんと戸惑う方も居られるかもしれないが、本書の書きぶりは支離滅裂どころか、寧ろ理知的ですらある。Wikipediaによれば作者は影響を受けた作家として安部公房を挙げているそうで、確かに似た雰囲気はあるが、比較すると本書には不条理な感じはない、というか所謂「理系っぽい」印象を受けた。しかし、書かれた言葉の意味は一応通っているように思えるのだけれど、僕たちが普段馴染んでいるそれとは何処か少しずれている奇妙さ。
     道教、仏教、分子生物学、情報科学といった広範な分野の概念や用語が登場するので、スマホの事典で都度調べなければよく分からない。だが、難解一辺倒なわけではない。基本的にこの本は文字遊び、法螺話で、クスッと笑えるユーモアがある。『闘字』は実質ポケモンバトルだし、『天書』の「漢字」はよく見るとインベーダーゲームだ。極め付けは『誤字』や『金字』でのルビを用いた悪ふざけで、少しやり過ぎではと思ってしまうほど。
     設定がそれぞれ異なる短編間の繋がりは直ぐには掴みづらいが、よく読むと直接の関連を持っていることが分かる(ということを、僕は文庫版の解説を読んで初めて気づいた)。また、幾つかのモチーフが変奏されて繰り返し現れることで全体に不思議な一体感が生まれている。例えば、「阿語生物群」。または、「天に大書された文字」。
     読み通すのにはなかなか骨が折れたが、その先には、確かに本書でしか味わえない読後感があった。それは、空間も時間も超えた想像の及ばないほど巨大な構造の中で、あちこちが“調和的な壮大な諧音(中島敦『環礁』)”を立てて互いに響き合っているような感覚である。脈々と蓄積されてきた人の知、或いは命を持った文字たちの歴史であろうか。実に摩訶不思議な世界を「体験」させてくれた一冊だった。

    文字渦/緑字/闘字/梅枝/新字/微字/種字/誤字/天書/金字/幻字/かな

    参考にしたウェブページ
    ・mojika 解説
    https://scrapbox.io/mojika/解説
    ・『文字渦』著者 円城塔さん bestseller’s interview 第102回(新刊JP)
    https://www.sinkan.jp/pages/interview/interview102/index.html
    ・文字についての謎を文字で明かす、円城塔の最高傑作(SF游歩道)
    https://shiyuu-sf.hatenablog.com/entry/2018/12/23/151024

    • BRICOLAGEさん
      地球っこさん、こんばんは!

      こちらこそ、今年一年、大変お世話になりました。
      よろしければまたお話ししていただけるととても嬉しいです。...
      地球っこさん、こんばんは!

      こちらこそ、今年一年、大変お世話になりました。
      よろしければまたお話ししていただけるととても嬉しいです。

      私はこの「文字渦」が初・円城塔さんだったのですが、正直難しかったです。
      途中で迷子になったりして読み始めてから読み終わるまで結構時間がかかりましたし、上のレビューも書くのに苦労しました。
      そのレビューもどこまで的を得ているか分かりませんが、本書を読むと良い意味で訳の分からない、不思議な感じになれることだけは保証します(笑)
      地球っこさんのレビューも、気長にお待ちしております。

      「ゴジラS.P」、初めて聞いた本だったので調べましたが、円城さんが脚本を手掛けたテレビアニメ作品の小説版ですか。
      とても面白そうな本を紹介していただき、ありがとうございます!

      来年も、どうぞよろしくお願い致します。
      2022/12/31
    • 地球っこさん
      BRICOLAGEさん こんばんは☆

      「水星の魔女」、さきほど最終回観ました………、な、な、なんですかーー、この終わりかたは!!

      エンデ...
      BRICOLAGEさん こんばんは☆

      「水星の魔女」、さきほど最終回観ました………、な、な、なんですかーー、この終わりかたは!!

      エンディングのあとのスレッタご覧になりましたか?
      あのエアリアルでべちゃっとしてからの笑顔。
      スレッタがわからないっ。
      そしてやっぱりスレッタのお母さんが怖いです。

      ニカもバレちゃったし、ミオリネとお父さんの関係も変わろうとしてるし、そしてそして、あのグエルくんの最後!
      ああ、グエルくんになぜこんなにも試練を与えるのかなぁ、もうっ!
      これもシェイクスピア関係してるのでしょうか?

      このまま第2クールを待つなんてーー

      ああ、でも落ち込みながらご挨拶をするわけにはいきませんね。

      今年もどうぞよろしくお願いします。
      2023/01/09
    • BRICOLAGEさん
      地球っこさん、こんばんは!
      コメント、どうもありがとうございます!

      「水星の魔女」の最終回、観てしまわれましたか…
      もう本当にとんでもない...
      地球っこさん、こんばんは!
      コメント、どうもありがとうございます!

      「水星の魔女」の最終回、観てしまわれましたか…
      もう本当にとんでもないラストでしたね…
      悲劇まっしぐらのあまりにもあんまりな展開が衝撃的すぎて、観終えたあと、思わず笑ってしまいました。

      地球っこさんの仰る、スレッタの笑顔。
      第1クール12話を通して、(ちょっと変わったところもあるけれど、)当然、基本的には普通の女の子とそこまで変わらないだろうと思って見ていたスレッタの倫理観が、もうよく分からなくなりました。
      一つ、私がTwitterで見た意見に、「スレッタがミオリネに笑いかけたのは、撃たれかけたスレッタをプロスペラが助けたその姿を真似しているのではないか」というものがあって、個人的には成る程と思わされるところがありました。

      前回地球っこさんとやり取りさせて頂いたとき、デリング総裁は早くも12話で死ぬのではないかと予想したのですが、何とか生き延びてくれてホッとしました(とは言え、瀕死ですけど)。
      ニカ姉ェは正体がバレるかどうかの危機的状況ですし、グエルくんはそれに輪をかけて酷い有り様…。
      特にグエルくんは、今回活躍の場があるんじゃないかと思っていただけに尚更…。
      観ている時の私は、序盤・中盤で一発ずつパンチを食らって、ラストでボコボコに打ちのめされた気分でした(笑)
      どれもこれも、ぜんぶ、シャディクが悪い!
      また、確かに、シェイクスピアとの関係は気になりますね。
      もし何かお気づきになられましたら、教えて頂けると嬉しいです。

      第2クールがどうなるのか非常に気になりますが、同時に、正直なところ少し怖くもあります。

      改めまして、
      今年もどうぞよろしくお願いいたします!
      2023/01/09
  • 良い意味で言うけど作者頭おかしい...。よくこんな文章書くなぁとただただ驚き。

    文字が主役のお話。短編集。しょっぱなから何を書いてあるのかさっぱりわからず、「教養がないからきっとわからないんだろうなぁ」と思った。しかし読み進めていくうちにどうやら教養の有る無しだけが問題ではなさそうだということに気づき、冒頭の結論に至った。

    文字を主体に置くと発想力、そしてそれを物語として押し広げていく想像力。半端ない。とんでもない奇妙さを味わいました。

  • 久々に読んだけどやっぱり圧倒される。そしてやっぱりすべてを理解することは出来なかった。
    本作は文字自体が主役となり、文字たちと踊るように綴られた短編集であり、実験的な手法で様々な小説を書いてきた円城塔の哲学や小説技法をふんだんに盛り込んだひとつの到達点と言えるだろう。
    文字に振られた”ルビ”の方がめちゃくちゃ自己を主張してきたり、文字どおしが戦いを繰り広げたり、「門」という文字が様々な文字を生み出していったり、とにかく理解できるできないに関わらず異様な感触を読むものに与えてくる。作中の表現を借りれば「文字が”生きている”」という錯覚に陥るほど、各短編で文字たちがうごめいており、凄すぎて作者大丈夫か?と心配になるくらいだ。
    正直精読していっても頭に入ってこない部分もあり手強い作品ではある。とはいえ兵馬俑、オートマトン、源氏物語、ボルヘス、プログラミング、密教など、様々なモチーフが各短編には入っており、自分なりのフックを見つけて格闘するかのように読むのが正解なのかもしれない。
    「梅枝」なんかは作者である円城塔の文字に対する異常な執着と偏愛、問題意識や哲学が込めらており、『源氏物語』の一説をカタカナにすることで「小説を書くことの意義」や「小説を読むことの不確定性」を提示しており面白かった。
    映像化、どころかオーディオブックにすることさえ不可能な小説であり、おそらく翻訳するのも難しいだろう。日本語の「文字」と戯れ、文字を転がし、文字と向き合い、その”生態”を観察した究極の「文字小説」。間違いなく奇書ですね、これは。

  • 12短編。
    「文字渦」
    「緑字」
    「闘字」
    「梅枝」
    「新字」
    「微字」
    「種字」
    「誤字」
    「天書」
    「金字」
    「幻字」
    「かな」

    ん? 中島敦「文字禍」? いや「もじうず」!?

    あらかじめ、こりゃ歯が立たんだろうと感じたので、まずはネットで感想や評論を漁った。
    あまり読み込まないようにしながら、短編一作ずつ分けて言及しているものを探し、evernoteにコピペ。
    ざっくり感想というか所感を書いている記事、逐語的にあらすじをまとめている記事、丁寧に解説してくれている記事、と分けた。
    各短編を読む前に、記事内検索を駆使して、ざっくり所感を読んだ上で、短編を読んだ後、逐語的あらすじで思い出し、しこうして丁寧解説を読み、と集合知の手助けを得ながら読んだ。
    感想。面白い!(小並感)

    で済ますのも自分にとってもったいないので少し感想を書くが、そういう本の読み方(コピペとか検索とか)も包括するような内容が、まさに書かれていると感じた。
    文字の戦い、漢字とかなの領地を巡る戦争とか。……神経系が人間の寄生生物だという発想があるが、文字も人間に仕えるふりをして人間を侵略している。縦軸。
    縦軸から限りなく横軸に近い、ここ数十年の話題として、(木簡→)紙→フレキシブルディスプレイ=帋。
    そのタイミングに草書→行書→楷書といった書体の変遷、UnicodeやテキストデータやIMEや、文字と情報のかかわりがゴタゴタして、そのへん理系の人なら判るんだろうなと憧れてしまう。
    わかることと、わからないところと。
    先行作品としては、「プロローグ」「エピローグ」ともつながっている。はず。どうつながっているかはわからん。
    しかし円城塔のサービス精神、パロディ精神、笑ってねというメッセージはじゅうぶんに受け止めた。

  • 難しい。哲学的であり、科学的であり、とらえどころがない。

  • 『文字渦』
    女、貝、馬、立、鳥、禾、女、女、土、叟、金、魚、革、連、糸、女、羊、果、芦、虫、晶、衣などに入れ替わっている。

    "無論、時間の中で変化を続けるこのわたしの像をではない。"
    "くるくると印象が変転してとどまらない。"
    "おおよその形をとって目を上げると、そこにいるのはもう別人である。"
    "先日、秦の文字を参考にせよと申されましたが"
    "どれもが同じ嬴であったが、目を凝らせばどれもが異なる嬴だった。"
    "それぞれが別の人物なのだが、あくまで同一人物なのだった。"

    一部分だけが入れ替わっていることをこう表現するのか。納得しつつもう一度読み返した。

    阿語生物群。
    収斂進化とは、まるで生き物みたいな扱いをする。
    血縁ではなく、部首によって繋がれた子孫。

    『緑字』
    島の周囲に寄せては返す機械の言葉。
    なんだかDNAを連想する。

  • 今読むと、井上ひさし『吉里吉里人』とちょっと似てるかも。いや、全然違うけど系統は近い。

  • はぁっ、はぁ、はぁーっ。読み終わった!この文字の攻撃は完全に未体験!
    思いっきり脳に汗かいて読了!
    何だろう、無茶苦茶なもの、エライものを読んでしまった…

  • これを理解し楽しむには、まだ修行が足りないようです。
    ごめんなさいレベルを上げて出直します。

  • 相変わらず円城塔は、人類にはまだ早いな…(※褒めてる)

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著者プロフィール

1972年北海道生まれ。東京大学大学院博士課程修了。2007年「オブ・ザ・ベー
スボール」で文學界新人賞受賞。『道化師の蝶』で芥川賞、『屍者の帝国』(伊
藤計劃との共著)で日本SF大賞特別賞

「2023年 『ねこがたいやきたべちゃった』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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