- Amazon.co.jp ・本 (371ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101265742
作品紹介・あらすじ
吹けば飛ぶような駒に人生を賭けた者たち。日々盤面に向かう彼らは何を追い求めるのか。大山康晴、升田幸三、中原誠ら往年の大棋士たちの横顔、才能空しく脚光を浴びずに消えた悲運の棋士の肖像、孤独に戦い続ける若手棋士の苦悩……作家、記者、そして棋士自身が綴った文章の中から二十余の名品を精選。将棋指しという職業の哀歓、将棋という遊戯の深遠さを写し出すアンソロジー。
感想・レビュー・書評
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「作家、記者、そして棋士自身が綴った文章の中から二十余の名品を精選。将棋指しという職業の哀歓、将棋という遊戯の深遠さを写し出すアンソロジー」
いやまったくこの紹介文の通り。平成二十八年の刊行で、わりに最近の文章もあるのに、全篇に昭和の香りがたっぷりと漂っている。私は「将棋をささない(させない)将棋ファン」で、棋士や将棋界周辺の逸話が大好物なのだが、本書には琴線をかき鳴らされまくりであった。ミーハー体質である私は、最近のかっこいい若手棋士も大好きだけど、本書に登場する強烈な個性の棋士の方々(物故者も多い)に心をわしづかみにされた。
やはり編者の大崎善生さんの書かれたものが、しみじみ味わい深い。思い返してみると、「聖の青春」「将棋の子」を読んだのが、将棋に心ひかれたきっかけだったかもしれない。「ふ-け-ば-飛ぶよ-な将棋の駒に~(古い)」命をかけた人たちは、私たち凡人からはうかがいしれない異次元の世界を生きている。棋士たちのすぐそばでその姿を見てきた作家にしか書けない文章の力で、その壮絶な(時にヘンテコな)世界を垣間見ることができる。村山聖九段の師匠森信雄七段を描いたものが出色。
他のどれも面白いのだが、特に忘れがたく心に残ったのは、芹澤博文九段だ。ご本人の文章以外に、師匠であった高柳敏夫九段と、親交のあった色川武大氏の「追悼文」が収録されている。芹澤九段と言えば、タレント的にテレビに出ていたのを覚えているが、ここに描かれたような棋士としての姿はほとんど知らなかった。芹澤九段の文章は非常に知的で人間味のあるものだが、高柳・色川両氏が描き出すのは、天才であり続けられない絶望と孤独を抱えて死に急いでいったとしか思えない姿である。師匠と「悪友」の痛恨の思いが胸に迫ってくる。
もう一篇、坂口安吾による「九段」が実に良かった。あまりによくできた話で、本当だろうかと思ってしまうほど。ぶかぶかの浴衣を喜々として身にまとう大山大先生。一気に親しみを感じてしまった。
将棋っていいなあ。自分でも指してみたくて、本を読んだり教えてもらったりもしたけど、どうしても超初心者段階から進めないのだった。将棋好きの夫は「難しく考えずに、三手先(自分→相手→自分)まで考えれば充分」と言うけれど、それができないんだよ~。 -
中学生棋士、藤井四段の登場で、地味な印象だった将棋界にもスポットライトがあたるようになった。
対局中の食事が「勝負めし」と紹介され、”ひふみん”こと加藤一二三九段の個性的なふるまいに笑いが起こる。
勝負にはストイックだけれどユニークな棋士たちに注目が集まることとなって本当に喜ばしい。
本書は、棋士をめぐるアンソロジー。
升田幸三、大山康晴、中原誠といった時代を代表する大棋士のみならず、才能を謳われ名人を志すも悲運の死に倒れた者や、自らの人生を賭けて最善の一手を追究する若手棋士らの姿を、沢木耕太郎、団鬼六、色川武大ら、個性的な書き手が描き出す。
将棋の基礎知識がなくとも楽しめる、『読む将』の鑑賞に耐えうる一冊となった。
編者の大崎さんは、長年将棋雑誌の編集に携わった。「聖の青春」の作者としても知られる。
個性的だけれども心優しい棋士たちに捧げるアンソロジーの掉尾に、「聖の青春」のモデル村山聖さんと師匠の森信雄さんのエピソードを掲げる。
◆十年前のやっぱり寒いある冬の夜、大阪の森信(雄)さんの所に遊びに行った時。二人で彼のアパートの近くの公園を歩いていると、とぼとぼと歩く当時まだ十代の村山君にバッタリとでくわした。
「飯食うとるか、風呂はいらなあかんぞ、髪切りや、歯時々磨き」
機関銃のような師匠の命令が次々ととんだ。
髭も髪も伸び放題、風呂ははいらん、歯も滅多に磨かん師匠は「手出し」と次の命令。
おずおずと差し出した弟子の右手を突然優しくさすりだした。
「まあ、まあやな」と師匠がいうと、村山君は何もいわずに今度は左手を差し出すのだった。
大阪の凍り付くような、冬の夜の公園で私は息を飲むような気持ちでその光景を見ていた。
人間というよりも、むしろ犬の親子の愛情のようだった。理屈も教養も、無駄なものは何もない。
純粋で無垢でそして崇高な愛情そのものの姿を見ているようだった。
心優しく個性的な棋士たちに乾杯。 -
前半の芹澤先生にまつわる話をいろんな人が書いてるやつの、アンソロジーでしか得られない読後感ですごい良かった。あと畠山先生の若かりし頃のバイト話はオチの部分の持っていきかたが素人っぽいんだけどポコっと心に残るような、すごく不思議な感じでこれもすごい良かった。
全体的に「文章はすごく上手なんだけどたまに構成が謎」という、将棋指しにしか書けないんではないかという感じでとてもよい。 -
妙な音が聞こえた。私が発した嗚咽(おえつ)だった。苦しみのどん底で息も絶え絶えに喘(あえ)ぎながらもペンを執る少年の心を想った。高橋女流との交流は生きる糧だったのだろう。生の焔(ほのお)を燃やし尽くすように彼は文章を綴った。
https://sessendo.blogspot.com/2022/01/blog-post.html -
大崎善生さん編集の将棋アンソロジー。
私は大崎さんの「聖の青春」から入った読む専門なので、名前を見るのも初めての棋士の方の文は興味深かった。
昭和時代から、最近の渡辺明竜王まで、バランス良く入っている。
「月曜から夜ふかし」ですっかりおなじみの桐谷さんのことも出ていた。
株主優待の桐谷さんも現役時代は身を削る勝負をしていた。始めたのが中学では遅いなんて勝負の世界は厳しい。
大崎さんの将棋世界の編集後記が良かった。 -
棋士について色んな作家や棋士が記述しているオムニバス。
往年の棋士から最近の棋士まで幅広く取り上げており、どれも面白かった。 -
将棋に関するエッセイを集めたアンソロジー。小林秀雄に段鬼六あたりのも収録。村上春樹のはかなり無理矢理。
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将棋ファンにはたまりません。
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「聖の青春」「将棋の子」の著者、大崎善生氏がまとめた「棋士という人生」(傑作将棋アンソロジー)(2016.10)です。棋士や将棋好きの人が綴ったエッセイ集とでもいいましょうか・・・。将棋という内容は共通ですが、書き手が変化に富み過ぎてw、まとまりのない感じがしました。
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坂口安吾、沢木耕太郎、村上春樹など著名人と、現役棋士の短編集が集められている本。
芹沢先生の生き様、真部先生の最後の対局。根柢に死生観のようなものも感じた。
棋譜はほとんど載っていないが、将棋好きな方には手にとっていただければと思う。 -
実家に芹澤九段のエッセイがあった。
軽妙で慣れた文章を書く棋士だなぁと思っていたが、
その裏では緩やかな自殺とまで言われるような人生があったんだと初めて知った。
他、森内九段の竜王戦についての一節が印象的だった。
大崎さんの言いまわしは、いささか感傷的な部分が目につかない訳ではないが、持ち味なんだろうと思う。 -
棋士に興味がある。ということで、発売日近くに買っていて、興味のあるところを拾い読みしていたところ、例のカンニング騒ぎが持ち上がって、どうにもこうにも落ち着かず、放り出していたのだが、本日改めて通読。
「聖の青春」で元将棋世界編集長の大崎善生選だが、作者は、棋士、作家(村上春樹や坂口安吾も)、詰め将棋作家から、対象は無名棋士、奨励会、アマチュアまで幅広く、読んでいて楽しい。全26編。
しかし、通読してみて核となって核は、芹澤博文であると思った。凡人としてのすごみを持つ中原誠を語る沢木耕太郎の「神童、天才、凡人」。中原の兄弟子であり、才能に恵まれながら中原の後塵を拝し、酒・賭博におぼれ、最後は棋界の鼻つまみ者となる芹澤博文自身による「忘れえぬ人・思い出の人」。両極端ともいえる中原・芹沢の師匠である高柳敏夫による、芹沢の弱さ、愛すべき点を含めて、淡々としかし思いをもって語る「愛弟子・芹沢博文の死」。最後に、博友であった色川武大の痛ましく切ない鎮魂歌「男の花道」。
心に残った色川の一文。「私の内心としては、遊び友だちのつもりではなかった。芹さんは、そのようなことを一言も漏らすような人ではなかったが、胸の中の深いところで、なにかを深く決意してしまったようなところがあり、私はそれを漠然と感じていて、しかし、男が深く深く決意してしまったようなことを翻意させる手だてがみつからず、ただただ眺めているきりだった。」「その塊がなんであったか、私に断定するすべはない。かりに、死にたい、死ぬということだったとする。それでも私は、見守っているほかない。片刻も眼を離さずに。それしか仕方がない。私は芹さんと、そんなふうな内心を隠しもって、つきあっていた。芹さんはそこいらを感じてくれていただろうか。」
なお、ラスト近くに、「常識」という機械(人工知能)と将棋を論じた小林秀雄の論考があり、その次に「ボナンザ戦を受けた理由」という渡辺明のエッセイが・・・。何ともいえない気持ちに。一体、この激震、どうなるのだろうか。 -
編者本人も後書きで言っているけれど、よくぞこんなに集めたな、という印象。将棋に疎い私でも、充分にその深淵に触れることが出来る。天才たちの、すごくて凄まじくて苦い世界。楽しい面白い文章もあれば、とぼけた味わいのもの、破綻の壮絶を垣間見せられるもの、哀切を感じさせられるものもあって、バランスもよいし、編者自身の3つの文章もよい。
しかし棋士という人生は、全体としては6対4、いや、7対3くらいなのかなーと思ってしまう。不幸と幸。 -
大崎善生[編]『棋士という人生――傑作将棋アンソロジー』
吹けば飛ぶような駒に人生を賭けた者たち。日々盤面に向かう彼らは何を追い求めるのか。大山康晴、升田幸三、中原誠ら往年の大棋士たちの横顔、才能空しく脚光を浴びずに消えた悲運の棋士の肖像、孤独に戦い続ける若手棋士の苦悩……作家、記者、そして棋士自身が綴った文章の中から二十余の名品を精選。将棋指しという職業の哀歓、将棋という遊戯の深遠さを写し出すアンソロジー。
<http://www.shinchosha.co.jp/book/126574/>
【目次】
守られている(大崎善生)
そうではあるけれど、上を向いて(中平邦彦)
将棋が弱くなるクスリ(東公平)
神童天才凡人(沢木耕太郎)
京須先生の死(山田道美)
忘れ得ぬひと、思い出のひと(芹澤博文)
愛弟子・芹澤博文の死(高柳敏夫)
詰パラとの出会い(若島正)
九段(坂口安吾)
棋士と寿命と大山さん(内藤國雄)
男の花道(色川武大)
不世出の大名人(河口俊彦)
わが友、森信雄(大崎善生)
待ったが許されるならば…(畠山鎮)
牛丼屋にて(団鬼六)
超強豪の昨日今日明日(炬口勝弘)
『棋を楽しみて老いるを知らず』より(二上達也)
完璧で必然的な逆転劇(島朗)
漂えど沈まず(先崎学)
4二角(小林宏)
床屋で肩こりについて考える(村上春樹)
竜王戦(森内俊之)
常識(小林秀雄)
ボナンザ戦を受けた理由(渡辺明)
退会の日(天野貴元)
「将棋世界」編集部日記(大崎善生) -
かなり昔の(といっても升田とかは古すぎるが)懐かしい棋士の名前が出てきて、感無量。
芹澤九段の講演をきかれたことがあるとは!
将棋がお好きなのでしょうか。私は上にも書いたように芹澤九段につ...
芹澤九段の講演をきかれたことがあるとは!
将棋がお好きなのでしょうか。私は上にも書いたように芹澤九段についてはほとんど知りませんでした。ご本人の文章がとても良くて、それだけにより一層、高柳・色川両氏の文章が胸にしみました。
僕自身は将棋ソフトの初心者レベルでボロ負けレベルです。
プロ棋士の方々の頭の中ってどうなってるんでしょうね。
プロ棋士の方々の頭の中ってどうなってるんでしょうね。