水神(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101288239

作品紹介・あらすじ

ついに工事が始まった。大石を沈めては堰を作り、水路を切りひらいてゆく。百姓たちは汗水を拭う暇もなく働いた。「水が来たぞ」。苦難の果てに叫び声は上がった。子々孫々にまで筑後川の恵みがもたらされた瞬間だ。そして、この大事業は、領民の幸せをひたすらに願った老武士の、命を懸けたある行為なくしては、決して成されなかった。故郷の大地に捧げられた、熱涙溢れる歴史長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 江戸時代の筑後川治水工事の話の後編。難工事ではなく、一冬の間に堰渠は完成。順調に話が進むと思われたが、試験通水で戻り水が起こり、死者を出してしまう。しかし、菊竹源左衛門によって、五人の庄屋は救われた。いい話でした。

  • 涙なしでは読めない。

    水神となった菊竹源左衛門。武士でありながらも、百姓の重要性を理解し、百姓こそが国の命運を握っている、と説いた。この言葉は恐らく、作者の今の日本の農業政策に対する、怒りの念も含まれているのだろう。
    食こそが人間の礎であり、そのためには山や川に覆われた土地を開拓しなくてはならない。この本のおかげで農業や土木の重要性を再確認できた。そして、今の日本に最も欠けている点だと思った。

  • まだ2月だけれど、2014年に読んだ本ナンバーワン。になるであろう本。

  • 下巻では未来の為、村人の為に借銀までしながら全ての責任を背負い命をかけた五庄屋の覚悟が益々凄まじくなってくる。また、筑後川に大石堰が集められた百姓達によって造られて行く様子が目の前に展開するように書かれていて読む速度が速まってしまう。五庄屋に最初反対した藤兵衛が助左衛門に謝りに来た時に「〜みんなこれから先の話を一生懸命するとです。そればで聞いていて、私は水が人をこうも変えるものかと、つくづく思いました。」と話すところが印象に残った。どんなに大変でも未来に希望が持てるなら人の会話は明るく弾むものだと思う。筑後川を改めて見に行きたくなった。

  • 下巻は菊竹様に涙…こんなに農民想いのお奉行様は居ないだろうけどたとえフィクションだとしても泣けます。水神、ってこの人のことだったのか。。嘆願書という名の遺書、心にきました。
    大石堰出来て、こんなに大量の水を見たことがない村民が川の側に佇んで日がな一日眺めてる気持ちもわかるし、あの水流を何かに利用できないかと考え始める村民もいて、治水工事思い立って嘆願した五庄屋たちは救われただろうなと思いました。元助と伊八も田んぼが作れる。
    藤兵衛さんもよかった…上巻でなんて嫌な爺と思っていましたが、耄碌してたと自分の間違いを認めてずっと苦しんでたんだな。。磔台の酷さをまざまざと目にしてたというのもあるんだろうけど。
    この辺りの人たちの苦労を知っているから、町の商人も阿漕な事はしないのが良いです。阿漕なのはこの後の奉行…年貢高上げたらしいから。。

    あとがきに「時代小説は武士や町人ばかり、舞台も江戸や大阪。この頃の人口は八、九割が農民だろうし大半は地方に住んでる」とあって、確かに、と思いました。多く記録残ってるだろうしドラマチックに描けるのは侍や町人なのだろう。でも農民を描いてもここまでドラマチックに出来るのは、このエピソードの魅力と帚木さんの筆力なのだと思います。

    筑後出身の同僚はこの大石堰でなく、長野堰とかは見学に行っていたそう。どうやら大石堰は昭和28年の筑後川氾濫で壊れて建替られてるそうで……でも当時の石は近くに残されてるみたいなので見に行きたいです。

  • 素晴らしい。感動した。読後感も良い。
    縄田さん絶賛も新田二郎賞受賞も大いに納得で
    登場人物に対する抑制された愛情を感じた。

  • 台地の田の水は人力で汲み上げるしかない。しかも村全体の田圃の水を。
    物語はこの[打桶]から始まり、堰渠をつくりあげるまでの百姓達の物語

    瑞穂の国と呼ばれるこの国を作った先人達の苦労に、知らず知らずのうちに目が潤んだ。

  • 後半は涙涙です

    堰を作る作業、大きな石を川に沈める描写など実際に観ているようです
    悪人が登場しないところも好きです!

    読みやすく感動的な作品でした

  • 文章が素晴らしい。わかりやすく嫌味がないのにずっしり重い。2014.8.14

  • 泣きっぱなしでした。九州弁がいいよね。でも、歴史的にはこのあと過酷な状況になるらしい。本当に続編が読みたいなー。

  • さすがに感動させる文章。「名もなき英雄」の描き方がうまく、実話をもとにした作品だけにおもしろい。文章にくどさがなく、テンポがよく、それでいて起伏があってよい。複雑な伏線をはりめぐらす作品ではないだけに、ストレートなよさがある。

  • 江戸初期の久留米藩が舞台。福岡県うきは市に残る大石堰がテーマ。 為政者ではなく村の庄屋が起案の前代未聞の治水工事。水から見放されている土地と百姓を救うという一心で身代ばかりか命までもかけた五人の庄屋。作者が込めた想いはただ百姓の事を書きたかったという通り日々の過酷な環境を日々の生活に重ね合わせて工事にかける意気込みとともに百姓の目線にて書き綴る。後半は藩への命がけの嘆願が通りいよいよ工事へ。陰には百姓を心身ともに支えた一人の老武士。死亡事故の責任を藩より庄屋に押し付けられた時の老武士の嘆願書。涙なしでは読めません。

  • 本書は2009年8月末に単行本として出版されているもので、本年6月に文庫化されたものだから既読本である。再読すると往々にして当初の感動イメージが損なわれることがあるのだが、本書はかつて読んだときの感動がそのまま再現された稀有な例で兎に角読んで絶対に損はさせないと太鼓判を押せる作品だ。

    本書の舞台は島原の乱の記憶もまだ色褪せない頃の九州は筑後川流域。滔々と流れる大河の傍に住むにも関わらず、土地の高低によりその水を利用できず永年、水不足・旱魃に悩まされてきた村々。そこでは人力による水汲みだけを仕事として一生を終える百姓も居る。その窮状を何とかしようと流域の庄屋5名が、私財を投げ打ってまでも堰渠を構築し水不足の苦難を克服しようと久留米藩奉行に嘆願書を出すに至る。しかしながら100を超える流域の庄屋の中には反対の声も挙がる。藩奉行に「命を賭する」との血判状まで出した事業は藩に認められるのか、宿年の夢である堰渠工事は無事に完成するのか、事故が起きると庄屋の命はどうなるのか、ページをめくるのももどかしく先へ先へと読み進めたくなる長編物語だ。

    物語の筋も面白いのだが、水に寄せる農民の想いや庄屋としての責任感、それらを応援する奉行・下級藩士・商人ら多くの人々の思いのたけが丁寧に語られており思わず胸が熱くなる名作だ。

    そもそも2009年に出たときはついつい積読期間が長く、読み始めたのが年が明けて暫くしてから。読後の感動からすると2009年のベスト10に組み入れるべきだったと反省はすれども既に年が明けてしまい後の祭り。その反省も踏まえ、この文庫版が出たこの機に、声を大にして勧めたいものだ。

  • 一大事業がはじまった。巨石を運び、水門を築く百姓たち。大河の土手には、工事が失敗したら見せしめに庄屋たちを吊るすための5本の磔柱が立てられた。大河との合戦に終止符を打つためには神への供物が必要なのか…。

  • 菊竹様ーーーー

    元助が幸せになって(なりそうで)よかった。

    棟梁の銀さんが上司にほしい。

  • 江戸時代の農村の生活の苦しさと治水の有難さを痛感させられた。菊竹源左衛門すごい。筑後川を見に行ってみたい。

  • 数ヶ月前の線状降水帯による九州大雨洪水の映像が、読んでいて重なった。
    庄屋たちの決意、商人や奉行の心意気、百姓たちの苦労と、それぞれの村人が力を合わせてまとまっていく様子のひとつひとつに胸熱。方言もグッとくる。嘆願書もすごい。終わり方もいい。

    「元助が村に帰ったら、寂しか」又七が突然言った。p.189
    百姓が草臥れておれば、やがて国は滅びます。p.312
    「どこの村にも、じっと新川べりに突っ立っとる村人がおりました」p.316

    菊竹源三衛門の嘆願書。
    最後の部分「数年間の開高を見逃すところまで考えたなんて…!」とハッとした

    地図がついてたら、村や川の位置関係を把握しながらより深く読めたのになぁ

  • 読みながら胸が熱くなった。心の氷を溶かしてくれるような物語。ラストもすごく良い〜〜。

  • 江戸時代初期、久留米藩で実際に行われた筑後川からの取水工事が題材。

    登場する五庄屋も実在の人物で、「五庄屋物語」として知られるらしい。

    もののHPでは水神とされたのは五庄屋だというが、本書では一人で工事中の事故の責を負った老役人になっている。

    著者らしい丁寧かつ厚みのある筆致で、読了後の余韻にも十分浸れる。

    著者が急性骨髄性白血病罹患の後に書かれた作品とのことで、ある意味より覚悟を持って書かれているのかも知れないと

  • 農民小説というカテゴリー。淡々とした人間的な魅力。

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著者プロフィール

1947年、福岡県小郡市生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、TBSに勤務。退職後、九州大学医学部に学び、精神科医に。’93年に『三たびの海峡』(新潮社)で第14回吉川英治文学新人賞、’95年『閉鎖病棟』(新潮社)で第8回山本周五郎賞、’97年『逃亡』(新潮社)で第10回柴田錬三郎賞、’10年『水神』(新潮社)で第29回新田次郎文学賞、’11年『ソルハ』(あかね書房)で第60回小学館児童出版文化賞、12年『蠅の帝国』『蛍の航跡』(ともに新潮社)で第1回日本医療小説大賞、13年『日御子』(講談社)で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞、2018年『守教』(新潮社)で第52回吉川英治文学賞および第24回中山義秀文学賞を受賞。近著に『天に星 地に花』(集英社)、『悲素』(新潮社)、『受難』(KADOKAWA)など。

「2020年 『襲来 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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