土の中の子供 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101289526

感想・レビュー・書評

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  • 新潮文庫の100冊。
    「キュンタうちわしおり」がほしくて購入。

    133回(平成17年上半期)芥川賞受賞作。

    実は中村文則さんの作品は「教団X」を挫折したことがある。当時は読書に時間が取れなかったのか、内容が合わなかったのか、理由は覚えていないけど、なんとなくアレルギーを感じていた。

    今回はリベンジの読書。
    字も大きいし、中編なのでスイスイ読める。
    冒頭の「私」を不良が容赦なく鉄パイプで暴行する残虐なシーンも、目を背けることなく読める。
    自らの恐怖を克服して生き延びる姿は感動的だし、希望を感じる結末には好感が持てる。結構面白く読めた。

    しかし、芥川賞選考委員の山田詠美は「不感症の原因が死産。いかにも若い男子が考えそうなことですな」と言っている。
    また、村上龍は「虐待を受けた人の現実をリアルに描くのは簡単ではない。」「そういう文学的な「畏れ」と「困難さ」を無視して書かれている。深刻さを単になぞったもので、痛みも怖さもない」とバッサリ。
    確かに、そういう軽さも感じるんだよなぁ。

    アレルギーも克服できたようなので、中村さんの他の作品も読んでみよう。

  • 冒頭からかなりのグロいシーンが展開される。親に捨てられ、親戚に虐待を受け、愛情を知らないまま成人し社会に馴染めない底辺の生活。救いようのない不幸へ自ら堕ちてゆく、そんな生き方しか選べない不憫な人生が痛ましい。帯に書かれていた「この本は人を狂わせる。」が正しくピッタリ当てはまる。唯一の救いは、白湯子の存在。愛しているわけではないが、いつしかお互いになくてはならない存在へと二人の存在が変化してゆく様に感じた。

  • 癖の強い言い回しが多かったけど、慣れるとすぐに読むことができた。
    内容は面白かった。
    時間の無駄にはならない。

  • 圧倒的な暴力の支配の末に土の中に埋められた主人公。身体が強ばり、息苦しくなるような虐待の描写にしばし手が止まってしまった。
    土の中から生まれたと言った主人公の言葉が全てだと思う。
    白湯子と二人お墓参りに行けるといいな。

  • 『土の中の子供』は、暴力にさらされた少年が、やがて大人になり、生と死のはざまを彷徨い、最後に微かな光が見えるような、そんな小さな物語。他に収録されている「蜘蛛の声」も同様に、自棄になった男が生の意味を探ろうとする。作者の内奥に疼く、たった一つのテーマが、これでもかというように憂鬱に綴られる。こういうの、俺は好きだな。

  • 重い!非常に重い内容 
    夜読まないで日が明るい昼間に読むことをお勧めする

    母に捨てられ、父に捨てられ、親戚に預けられたが暴力の毎日顔が変形しあざだらけの身体に飽きられて育児放棄の上捨てられ
    死ぬこともできず現在は27歳でタクシードライバーとして働く

    同棲している白湯子も訳ありな彼女 
    お互いが蔭ありなのでうまくやっていけるのでしょうか

    大人から暴力振るわれた子供は、自分より弱い人を暴力する傾向があるが
    主人公は彼女に対し手を挙げていないのが素晴らしいと思った

  • 銃、遮光とは書き方が違ったように感じたけど、テーマは変わってない。ドストエフスキー式の心理描写がメインではなくなったけど、子供の頃のトラウマにめちゃくちゃにされた人生を受け入れながら抵抗している若者とその周りにいる人間の人生に関する話。

  • 幼少期に他者からの受けた悪意は
    その後の人格形成にどう影響するのか
    最後の命や、コインロッカーベイビーズに似た内容だと思った。
    目を背けたくなるような人間の闇に向き合い
    その中に人間の本質を見出そうとする、彼の小説をいいなと思う。
    トラウマである対象をあえて追いかけ、克服しようとする主人公の心が、痛いほど共感できた。
    短いけどずっしりくる。
    でもこれが芥川賞か…とは思った。賞は価値観の基準ではないけど。
    「蜘蛛の声」もまた良かった。

  • 『土の中の子供』
    子供の頃虐待され、土の中に埋められたことのある“私”が大人になってからの物語です。

    私は、公園で男達に全身を蹴られながら何であるのかはっきりしない何かを待っていたり、マンションの階段の踊り場で上半身を外へ乗り出させ、落下したら不安と恐怖の向こう側に何かを見るだろうと考えたりします。何かとは、何なのでしょうか。死を求めているようにも見える奇行です。でも、“似ているように思うが、”“違う(p64)”と私は思います。

    この恐怖を求める奇行について、施設長のヤマネさんと話している途中で“恐怖が身体の一部になるほど侵食し、それに捉えられ、依存の状態にあるんです(p82)”という声が私の脳に直接響きます。しかしその後、“自分に根づいていた恐怖を克服するために、(中略)恐怖をつくり出してそれを乗り越えようとした、私なりの、抵抗だったのではないだろうか(p105)”と思います。

    私はタクシー強盗に襲われた後、車の速度を上げ続け、落下し続け、カーブのガードレールにぶつかります。その時、“私は、柔らかなものが自分を満たすように感じ(p106)”、“すごく自分に自分が合わさっていくような気が(p109)”します。

    読んでみて、“これ以上ないほど、やられちゃえばさ、それ以上何もされることはないだろう?世界は、その時には優しいんだ。驚くくらいに(p109)”という私の言葉に、共感しました。
    私は過去の体験を克服したのかそうでないのか、どちらとも読めるよう思いますが、克服していってほしいと、希望をこめて願います。世界が優しくなくても生きていかなければならないのだと、力をもらえるような作品でした。

    『蜘蛛の声』
    “私”はある日、橋の下の、それを支えるコンクリートの窪みに体を潜らせます。そして、“今まで私が求めていたものは、きっとこれ(「隠れている」こと)だったのだろう(p126)”と思います。
    「隠れている」ことの、“安堵感”、“自分だけが異なる世界にいるような奢りの感覚”、“喜び”、“懐かしさ”、理解できるような気がしました。

    しかし、一本の糸を使って空中に浮遊していた蜘蛛の声が聞こえたことで、何が真実で何が思い込みなのか、わからなくなってきました。

    人と関わらなくなることで得られるものもあるのかもしれませんが、その分人として失うものの方が多く、やはり人は人と関わっていなければならないと、読んでいて感じました。

  • 正直わからない
    表現がリアルで虐待場面に関してもリアルだったが、鬼気迫るものではなかった。
    ただし解説を読んでみてそれまでの主人公の行動に少し意味や納得した部分があった。
    主人公が抱えていたものが結局のところどうなったのか
    最後の自分自身や女の人の幸せな姿を想像できたのは良かった。
    最後に少し希望を感じることができた。

著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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