カリスマ 上巻―中内功とダイエーの「戦後」 (新潮文庫 さ 46-1)
- 新潮社 (2001年5月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (463ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101316314
感想・レビュー・書評
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いやー読み応えあります。
まんま昭和経済史。
太平洋戦争でフィリピン戦線を体験→戦後動乱、もののない時代(闇市)→58年大阪千林にダイエー1号店→高度成長(価格破壊。いいものをもっと安くでメーカーと対立)→83年連続3年赤字をV革作戦で盛り返す→V革成功とともにV革戦死を社外へ追い出し、息子の潤を専務に迎え入れる→85年プラザ合意→バブル(過剰投資とM&A)→バブル崩壊(赤字が膨らみ株価が下がる)→資産を次々と売却→2001年中内引退→2005年死去
昭和の時代を一気に駆け抜け、絶頂と凋落を体感した稀有な人生だ。絶頂期にはカリスマと呼ばれ、金と権力をほしいままにしたが、引き際の悪さと、一度手にしたものは手放さない往生際の悪さで評判を落とし、寂しい晩年を過ごしたようだ。
生前、あれほど忌み嫌ったライバル、イトーヨーカ堂に差をつけられてしまったのを、どのような思いで受け止めていたのでしょう。本の年表は2001年で終わっていますが、2005年にはイオングループに吸収され、来たる2018年にはダイエーという屋号は完全に廃止される予定になっている。
私の息子はまだダイエーの存在を知っているけれど(平成6年生まれ)、その息子はもはや「ダイエーってなんの会社だったの?」っていう時代がくるんでしょうね。神戸出身の私としては少し寂しいです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日本の流通革命を起こした中内功のノンフィクション
ノベル。日本近代史を象徴する一冊と考えてよい
ただ、あくまで小説である。体系的にまとめている、
というものでもないし、あくまで著者の視点である。
よってマネジメント視点や流通の勉強としては向かない
だが、戦後から流通の形が作られた時期であるため
中内氏の軌跡は、ほぼ戦後以降の日本近代を総纏め
したかのような内容だ。
もし、これから読まれるならば、ある程度の知識が
あると面白いと思う。百貨店法、大店法や小売業界の
知識があると面白さは広がっていく
この書物では戦争前の中内氏がどのような人物
だったかを中心に展開されるが、様々な要素がある。
どの視点で読むかで面白さは全く変わってくるだろう。
中内氏が戦争から戻り、どのような人物へ変わったのか
著者は最後まで戦争と中内氏を紐づける。
人間不信。狂気。戦争。
これらの用語が執拗なまでに繰り返される。
時代背景は複雑だ
戦争。ヤミ市。神戸の特性。
冷戦下における資本主義が提供する消費主義と
システムも注目すべきだろう。その中を中内氏は
強かに生きる。その姿は凄まじく、同時に哀れでもある -
中内功とダイエーの誕生から興隆そして衰亡までを丹念に描きながら、戦後日本における消費文化と流通業に切り込んでいる。
上下巻なのでボリュームはあるが、著者の筆力があるので退屈せずに読める。 -
中内さんの評価は、低すぎる。
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スーパー「ダイエー」の創業者・中内功の生涯を描き、戦後史の中で彼の果たした役割を検証するノンフィクション作品です。
上巻では、目立たない少年時代から説き起こし、フィリピン戦線でアメリカの圧倒的な物量に直面した戦時中を経て、戦後神戸の町でヤミ市を舞台に活動を始め、さらに大阪の千林商店街で「主婦の店・ダイエー薬局」を起こすまでの軌跡を追います。
中内功という人物の矛盾に満ちた生涯そのものも非常におもしろいのですが、彼の人生と戦後日本の歩みの中に置くという著者の企図もたいへん興味深く感じました。 -
著者の綿密な取材には頭が下がります
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逆説的には、結局まともな神経で、まじめにやっていたのでは資本主義世界では勝利しないということだろう。欲望を現実化するのが資本主義の本質で、すべてがそのことによって決まっている。アダム・スミスの言う神の見えざる手は、実は「欲望」のことであったのだ。
以上、本に書いてあったことではなく、僕の感想。 -
壮絶。
戦中のフィリピンを生き残り、戦場で芽生えた死生観がすべてを欲する中内氏を作り上げたのだという。
冷戦のころのアメリカにあってソ連にないものは、スーパーマーケットだという。大量生産・大量消費でエネルギーを爆発させていったアメリカに比べ、計画で小さくまとめようとして失敗したソ連という感じだろうか。
高度経済成長と共に成りあがっていった中内氏の野性味あふれる生臭さ、そのことの弊害、どちらにせよ流通の世界にその名を轟かせ滅びて行った男の一生は面白い
個人的には、スーパーの篭が最初は針金で、重ねるのには苦労するし、かさばったのを取りだすためにバイトまで雇っていたというのに驚いた。今では当たり前のように使っているものでも、思考錯誤があることに関心をもった。 -
パワフルな中内さん。それをあくまで冷徹にレポートしている作者。清濁併せ飲むってこういうことなのかも。興味深いです。
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まずはいつもの事ながら、佐野先生の怒涛の取材力に敬服。
そして、中内功の破天荒な人生に感服。