ノースライト (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (546ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101316734

作品紹介・あらすじ

北からの光線が射しこむ信濃追分のY邸。建築士・青瀬稔の最高傑作である。通じぬ電話に不審を抱き、この邸宅を訪れた青瀬は衝撃を受けた。引き渡し以降、ただの一度も住まれた形跡がないのだ。消息を絶った施主吉野の痕跡を追ううちに、日本を愛したドイツ人建築家ブルーノ・タウトの存在が浮かび上がってくる。ぶつかりあう魂。ふたつの悲劇。過去からの呼び声。横山秀夫作品史上、最も美しい謎。

感想・レビュー・書評

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  • 去年5月に横山秀夫の著作を20年ぶりに再読した時に、最近描けていないのはネタ元が尽きたからだという意味のことを書いた。全く失礼なことを書いた。横山秀夫は新たなステージに登った。

    久しぶりの新作がやっと文庫化した。勇躍して紐解くと、その新しいテーマ、その瑞々しさ、隅々まで絞り込んだ表現、それなのに変わらないスタンスに驚愕した。誤解を恐れず言えば、女流作家には描けない、ぶざまにも美しい「男の矜持」が、全篇にわたって描かれていた。

    建築を設計し建てることは、小説を書くことに似ている。青瀬の〈Y邸〉は、横山秀夫にとっては、辿り着いた最高傑作に似ているのだろう。かつて横山秀夫は、新聞記者時代に培ったサツ回りの経験を膨らませて10数年を突っ走った。今回それを総て捨てている。捨ててどうしたかというと、おそらく子供時代から培ってきた「感性」を、この作品に注ぎ込んだ。

    じぶんの原点は何かを問い直し、
    それに沿って一から創り上げた。
    まるで、青瀬が〈あなた自身が住みたい家を建ててください〉という言葉に救われたように、
    まるで、岡嶋が〈足りないものを埋めること、埋めても埋めても足りないものを、ただひたすら埋めること〉という言葉で救われたように

    おそらく横山秀夫が描きたかったものは
    「巧い、暗い、恐い、そして美しい」ナニカなんだったのだと思う。

    上質のミステリとして巧く
    緊密で硬質な文体は暗く
    時折見せる心理描写は恐く
    そしてすべてが美しい

    ずっと積読状態だった「日本美の再発見」(ブルーノ・タウト)は、今年は紐解こうと決心した。

    kinya3898さんのレビューで文庫化を知った。

  • 子どもが親についてどう認識するかを大切にしてるところが印象に残った 離婚の原因の話 自殺と事故死で子が持つ認識は全然ちがう話 そして事故の原因がその子どものためだった

    陶太と香里江 逆さ気づかなかった!

    家がもし、人を幸せにしたり不幸にしたりするのだとしたら、建築家は神にも悪魔にもなれるということだ。
    青瀬と岡嶋のやりとりがいい コンペのためにで青瀬に力を貸してほしい デスマスクを被る瞬間、最後の意識が向かう家を遺したい 「お前がふっかけてきた話だ」「謝ったはずだ。忘れろ」
    入院してる時が最高潮 でもやっぱりこれが

    1、吉野はなぜ新築の家に住まなかった?残されたタウトの椅子は?吉野の行方は?
    2、青瀬の家族
    3、岡嶋事務所のメモワールコンペ
    どれも微妙に関わりながら話が進む 謎よりも真相に近づくにつれて登場人物の動きがどんどん熱持ってく
    ノースライト 渡り 建築 タウト 椅子 鳥 事故 自殺 親子 

    旧日向家熱海別邸は検索するとすぐ出てきて写真見ながら読むとよくわかる

    木村由花さんに捧げる 
    辻村深月先生「ツナグ」の人

  • 熱いものがこみ上げてくるヒューマンドラマ+ミステリー!
    これは、よかった。
    ある意味、主人公の再生の物語。
    設定、展開にどうなのよって思いながらも、それを凌駕するエンディングでした。

    ストーリとしては、
    離婚から酒におぼれていた建築士の青瀬稔。
    親友の岡嶋に拾われ、岡嶋の事務所で仕事をしています。
    その青瀬は、施主の吉野から信濃追分に
    「あなた自身が住みたいと思う家を建ててください」
    との依頼で北から光線が差し込む家を建築します。
    これがノースライト
    そして、この家が青瀬の最高傑作に!

    しかし、これを引き渡したものの、そこから、吉野は音信不通になります。不審に思った青瀬は吉野邸を訪問。
    しかし、そこには住んだ形跡がないまま、ブルーノ・タウトが作ったと思われる椅子がおかれていました。
    ここから吉野とその家族の消息を追い始めます。
    そして、タウトとの関係も徐々に明らかになっていく
    という設定、展開なのですが、
    警察や探偵に任せず、なぜ自分で吉野を追いかけるの?
    とか
    その消息がタウトがらみという細い糸でつながりながら都合よくとんとんと明らかになっていくの?
    とか、
    ちょっとどうなのよって思いました(笑)

    また、建築物の描写や技術的な話、タウトの設計などなど、専門的な描写が細かすぎて、ついていけない(笑)
    ググってタウト関連で旧日向別邸、桂離宮を確認しました。

    しかし、そんな前半はおいておいて、後半につながるヒューマンドラマが素晴らしい!
    青瀬の生い立ち、離婚した家族との関係、岡嶋との関係がじっくり前半で語っておいて、もう一つのサイドストーリ。
    岡嶋の事務所では、大きなコンペを取るため岡嶋自身も建築士としてのプライドをかけて臨みます
    しかし、ある事件が...
    ここからが、とても熱い
    このコンペを取るための事務所の人間たちの想い。
    この仕事系のところはサラリーマンにはガツンときちゃいます。
    コンペはどうなる?
    吉野失踪の真相は?
    様々な伏線が回収され、すっきりするとともに、そこに描かれたヒューマンドラマに熱いものがこみ上げます。
    暖かい愛と再生の物語!

    これは、とってもお勧め

  • 「信濃追分に八十坪の土地があります。建築資金は三千万円まで出せます。すべてお任せします。青瀬さん、あなた自身が住みたい家を建てて下さい。」

    破格の条件で依頼を受けた建築士の青瀬は、ノースライトの採光にこだわり抜いた北向の木の家を設計した。「平成すまい200選」にも選ばれるほどの渾身の作だったが、施主の吉野淘汰一家は、Y邸家に住むことなく忽然と消えてしまった。

    空き家となったY邸を探索すると、そこにはブルーノ・タウトの作と思われる椅子が残されていて…。

    ストーリーは、重苦しい雰囲気の中で進む。離婚を引きずり続ける青瀬の悶々とした独白が結構重い。危うい事件に自ら嵌まっていくような感じもあって、前半なかなか読むペースが上がらなかった。が、物語は中盤から一気にスピードアップ、どんどん引き込まれて一気にラストまで読みきった。とにかくハッピーエンドで良かった!

    ブルーノ・タウトのこと、スマホで調べたら、独創的な建築物の画像が多数ヒットした。戦前の偉大な建築家だったんだな。

    本書を読んでいて何故か、昔読んだ佐藤正午の「ジャンプ」を思い出した。知らぬは本人ばかりなり、というところがちょっと似てたのかな。

  • 母に薦めてもらいました。
    横山秀夫さんの著書は難解だという印象があったため読み切れるか心配でしたが、あっという間に引き込まれていき3日ほどで読了です。

    物語は、長野県信濃追分の新築一軒家(通称:y邸)に住む予定だった家族が謎の失踪を遂げるところから始まります。
    y邸に残されたものは、ブルーノ・タウトという建築家が設計したと思われる椅子一脚のみ。
    y邸の建築を担当した青瀬は、タウトの椅子を手がかりに失踪した一家を探すことをなります。

    このブルーノ・タウトという人物は、実在したドイツの建築家なんですよね。
    1933年、ナチス政権の台頭により身の危険を感じたタウトは、エリカ夫人と共に日本に亡命し、日本の工芸や文化に触れながら3年半ほど滞在していたようです。

    日本でのタウトの足跡を辿ることで、タウトとy邸が結びつき、さらには青瀬自身の過去との繋がりも…。
    物語の後半、様々な点と点が結びついていく展開は見事でした。
    建築とミステリーの融合…読みごたえのある大作だと思います。

  • 手に職を持つというか、技を持ってれば食っていける。確かにそうだよなと思って生きてきた。傑作と思える作品を作り上げるってどんな気持ちなんだろうね。発想を形にできる人を尊敬します。

    見当のつかない謎ばかりというより、あーこうなったらやだなーという感じの話しの流れで、過去と現在が結ばれていくところは絶妙でした。
    こじつけだけど、それこそ作品全体が「ノースライト」に射されている感じでした。

    最終章の青瀬と能勢のやり取りはかっこよかった。

  • とても面白かった。
    なぜ施主の吉野は自分が住まない家を建てたのか。
    そこを起点にさまざまなヒューマンドラマが織り成して上下左右に物語が進んでゆく。
    500頁超も引き込まれてすぐ読了。
    タウトはまったく知らなかったがそうなんだぁと少し調べてみたくもなった。
    こちらの著者は初読みでしたがこの作品は他とは少し毛色がちがう風なことも見たので他の作品も読んでみたいと思う。

  • 今まで読んだ横山氏のイメージとはだいぶ違います。
    主人公の青瀬が、吉野から依頼されて設計、建築した邸宅に吉野一家が住んでいないことが分かるが、邸宅にブルーノタウトの一脚だけが残されており、そこからミステリーが始まる。

    自身の出自と父。離婚れた妻と娘。設計事務所のコンペ参加。友である事務所長。吉野。ブルーノタウト。これらがゆっくりと交錯していきます。

  • 2023.4.17読了。
    (デジタル書籍で登録していたので、改めて登録し直しました)
    「ノースライト」とは、建築用語で北から入る柔らかい日差しのことを言うらしい。この題名に表されるように、建築家と建築物をめぐるお話です。
    ブルーノタウトという実在の建築家が登場するので、藤宮春子という画家も実在かと思いましたが、こちらはどうやら架空の人物らしい。
    前半はブルーノタウトの椅子と依頼人の失踪を巡るお話で、この先どうなるんだろう?と思いつつ、あまりのめり込めずに読み進めていったけど、後半、藤宮春子の記念館を巡る癒着と設計事務所の所長の死をおり混ぜながら、依頼人の失踪の謎が明らかになるところでは、全く予期せぬ展開に
    ぐいぐい引き込まれていきました。
    とても面白い作品でした。

    横山秀夫さんって、「64」の作者だったんですね。「64」も前後編で、なかなか読み応えもあったけど、
    忍耐力もいった作品でしたが、この作品もやはり前半は忍耐力が要りました(笑)
    でも、歴史上の実在の人物と架空の人物を登場させながら謎解きをしていく、しかもかなりの長編って、ほんとに力量のある作家さんだなぁと思いました。
    私にも、せめて感想が上手に書けるくらいの力量が欲しいなぁ。
    NHKで、2020年にドラマ化されているらしいのですが、いつか縁があって、観ることができれば良いな、と思います。
    最後に…
    「アオセミノルクーン」が復縁できますように♡

  • 横山秀夫『ノースライト』新潮文庫。

    建築士を主人公にしたこれまでの横山秀夫作品とは趣の違うミステリー小説。全く想像の及ばない建築士の世界が当たり前のように描かれ、まるで人生を棒に振ったようなミステリーの結末に呆然とするばかりだった。確かに『横山作品史上、最も美しい謎。』なのかも知れないが、終盤の謎解きがその場をただ一周回った挙げ句のお伽噺の世界にしか思えなかった。

    2019年の週刊文春ミステリーベスト10の第1位にかなりの期待をしたのだが……

    信濃追分に佇む木造住宅のY邸。建築士の青瀬稔が敢えて北側からの採光『ノースライト』を取り入れて設計した彼の最高傑作であった。しかし、引渡し以降、一度も施主の吉野からの連絡は無く、不審に思った青瀬がその家を訪ねると一度も使われた形跡は無く、ドイツ人建築家ブルーノ・タウトによるものと思われる稀少価値の高い椅子だけが残されていた。

    本体価格850円
    ★★★

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著者プロフィール

1957年東京生まれ。新聞記者、フリーライターを経て、1998年「陰の季節」で松本清張賞を受賞し、デビュー。2000年、第2作「動機」で、日本推理作家協会賞を受賞。2002年、『半落ち』が各ベストテンの1位を獲得、ベストセラーとなる。その後、『顔』、『クライマーズ・ハイ』、『看守眼』『臨場』『深追い』など、立て続けに話題作を刊行。7年の空白を経て、2012年『64』を刊行し、「このミステリーがすごい!」「週刊文春」などミステリーベストテンの1位に。そして、英国推理作家協会賞インターナショナル・ダガー賞(翻訳部門)の最終候補5作に選出される。また、ドイツ・ミステリー大賞海外部門第1位にも選ばれ、国際的な評価も高い。他の著書に、『真相』『影踏み』『震度ゼロ』『ルパンの消息』『ノースライト』など多数。

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