- Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101344720
作品紹介・あらすじ
「侮ったら、それが恐ろしい女で」。高校まではごく地味。短大時代に恐るべき能力を開花させる。手練手管と肉体を使い、店員を振り出しに玉の輿婚をなしとげ、高級クラブのママにまでのし上がった、糸井美幸。彼女の道行きにはいつも黒い噂がつきまとい――。その街では毎夜、男女の愛と欲望が渦巻いていた。ダークネスと悲哀、笑いが弾ける、ノンストップ・エンタテインメント!
感想・レビュー・書評
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地方出身のとりわけ美人でもない女性が、男女の愛と欲望を土台として、のし上がって行く様子を描いた作品。
彼女の名前は糸井美幸。
目次
中古車販売の女
麻雀荘の女
料理教室の女
マンションの女
パチンコの女
柳ケ瀬の女
和服の女
檀家の女
内偵の女
スカイツリーの女
そう!
この目次の女は、全て糸井美幸のことなのだ。
描かれている『噂の女』こと糸井美幸が、いわゆる悪女なんだけれど、本人目線での描写が全くないので、読み手からするとミステリアスに感じられて、それもまた彼女の魅力に拍車をかけているのだろう。関わった人間を次々と惹きつけて利用価値を巧妙に計算し、自らの人生を闊歩する様子は爽快感すら感じられた。
男性は、彼女の肉感的でボウリングのピンの様なスタイル、厚ぼったい唇、豊満な胸に、アルトトーンの落ち着いた声を目の前にすると、みな一様に欲望を抑えるのに必死だ。
一方で女性は、男性が好みそうなその容姿に一目置き、時にはその大胆な言動にある種のカリスマ性を感じて、羨望の眼差しを向けている。
それにしても作中で、糸井美幸に出会った男性は、同級生から社長さん、議員さんから刑事に至るまで、滑稽なほどに十把一絡げの扱いで描かれている。異性からするとそんな事ないやろ〜笑
と思うのだが、同性の作者が描いているのだからきっと間違いないのだろう。生物学的な性の前では、みな無防備なのかもしれない。
次から次に場面展開して、毎度糸井美幸が出没するのだが、人物の繋がりが分かりやすく、場面毎の主要人物も絞ってあるのでとても読みやすい。余韻を含む終わり方も、本作のイメージ通りで秀悦だった。
個人的には、美幸の子供がその後どんな人生を歩むのだろうと気になってしまった。
授かり方も極めて計算高かったが、この子の半生を続編で見てみたい。いや〜何だかんだ私も糸井美幸に魅了されてるなぁ・・・
タワケッ!って言われそうですが笑
それと、歯並び!
美幸曰く、女性は歯並びさえよければどうにでも仕込めると・・・
私もこれには激しく同感。
女性だけでなく男性にも十分言えることだろう。年齢を重ねて痛感するのは、健康な自分の歯で、尚且つ美しい歯並びは最強だ。大袈裟でなく、その人の生き方にも影響すると思う。
・・・って、最後はなぜか歯の話だが、所々雑学的な要素もあり、なかなか面白い作品だった。
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いや〜面白かった。
これからどうなる?と美味しくなってきたところで話が終わってしまうあたりがとても良い。その先の展開が気になって仕方がない。そして次のエピソードが始まる。止まることなく一気読みでした。
糸井美幸の虜になっていく愚かな男たち。たびたび本書に出でくる糸井美幸の容姿は、美人かどうかは分からないが男好きのする顔立ち。大きな口と厚ぼったい唇。そして肉感的である。とある。
これにはもう糸井美幸の虜になってしまう男たちの気持ちが痛いほど分かるのでした。悲しい男の性とゆうやつですね。 -
社会の闇につけ込んで暗躍する謎の女。エピソードの大半はやるせない結末を迎えるのでフラストレーションが溜まる。檀家の話、警察組織の話、ゼネコン業界の話は今でも有り得る話なのだろうか。謎の女、糸井美幸の暗躍とともに社会の闇を読んで腹立たしい気分で読んだ。どの章も初めの一文があらすじを語る内容で物語に入り込みやすく、文体もとても読みやすい。
客観的に捉えている謎の女の正体を最後に明かしてくれるかと期待していたが残念ながら謎のままで落胆。 -
読んで、だから何?って感じではあるけど、読みやすくて面白い。
後妻業みたいな。
そして白夜行みたいに、「噂の女」自身の目線にはならないが、いろんな人物から語らせて、「噂の女」が見えて来る。
そして完結している短編ながら、時間は経過していき、次の話の時には妊娠していたり出産していたり、すでに新しい男がいたりというのが面白い。
最後、どうなるのかは分からないが、結末としても痛快! -
小さな田舎町で『噂の女」は、糸井美幸
「中古車販売店の女」「麻雀層の女」「料理教室の女」
「マンションの女」「パチンコの女」「柳ヶ瀬の女」
「和服の女」「檀家の女」「内偵の女」「スカイツリー
の女」という各章のタイトル
10人の女が出てくるのかと思いきや全て糸井美幸のことだった
はじめ中古車販売店で事務員として働く22歳の美幸が次々と自らの男好きのする肉感的な容姿と才覚でのし上がっていく様は、何故か憎めず愉快とさえ感じてしまった
その陰でいいように操られ翻弄される男性に対しても気の毒とは感じつつも、滑稽と感じてしまう
もちろん小説の話だからであろうが
世の中を賑わせた数々の男を手玉に取った女性の事件を思い出した
よく考え抜かれた構成のうまさは読者を最後まで飽きさせることがなかった
のどかな方言、おそらく奥田英朗さんの出身地の岐阜弁の会話も、何の変哲もない人の噂が唯一の楽しみであるような閉塞感漂う田舎の雰囲気を高めるのに一役買っていた
結局、糸井美幸が二人の男性を殺したのか、議員の口座から多額の金を騙し取ったのか、真相は分からない
すべて噂である
そして、読者はその噂により、想像力を掻き立てられ
糸井美幸の人間像を自分の中に作っていくというわけである
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読書好きの友人Kからお下がりでもらった一冊。
ひとことで言うと、エンタメ小説だった。
章が割に細かく分かれていて、それぞれに語り手が変わる。普段見えていない人間や物事の裏表を全て可視化したような、そんな内容だった。
章ごとに数年が経過していて、章ごとのシチュエーションもバラバラ。けれど全ての核に謎の女“美幸”がいる。
それだけ聞くと重い話なのかと思うけれど、どちらかと言うと深く考えずに楽しめる一冊だと思う。
これまで奥田英朗を読んだことがなかったけれど、他の作品も読んでみたいと思った。 -
『噂の女』を軸に、その周りにいる人の目線で描かれた短編集。
それぞれの話が絶妙なところで次の話に移り、ちょっともどかしい気もするけど全体を通してとても楽しめた。
各話の主人公が面倒ごとに挟まれ右往左往する様がうまく描かれており、作者が得意としている内容であった。 -
美幸に関わる人たちの話。
美幸自身の視点から描かれているところはないので、個人的にはモヤッとした終わり方。
奥田さんは地方に因縁でもあるのか?笑 すごく地元に住みたくないと思わせてくれる本だった。 -
奥田さんの本は好きです…が今回はあまり自分にはハマらなかったかな。
読みやすくて要所要所面白かったけど、噂の女だけあって噂のまま終わってしまってちょっとスッキリ出来ませんでした。 -
悪女の話に見せかけて、実際は地方のしがらみに生きる人々の人間模様を描いている。何とも嫌な話ばかりでため息をつきながら、それでいて少しニヤつきながら読んでしまう自分が可笑しい。