ただの歌詩じゃねえか、こんなもん (新潮文庫 草 353-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101353012

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  • 1984年に出た本。
    著者の独特な歌い方で、「何て言ってるかわからない」とのクレームからテレビの歌に字幕が発明された、というのもよく聞くエピソードだが、字幕を出したところで「砂混じりの茅ヶ崎」「胸騒ぎの腰つき」と、今度は意味不明だと言われる。それに対してのアンサーブックがこの本「ただの歌詩じゃねえか、こんなもん」である。

    中身はそれまでの歌詞集に気持ちばかりのエッセイがついたもの。
    一部意味不明なのはメロディ・曲調を優先しているからで、桑田佳祐はそんなに馬鹿じゃない、一部の詩は読めば読むほど深い。
    本のタイトルも”歌詞”ではなく”歌詩”なのは、意味があるんだろう、…と私は勝手に思ってる。

  •  巻末の解説を村上龍が書いている。昭和五十九年四月とある。文芸評論家の加藤典洋が村上春樹と村上龍を論じた文章にこの解説の村上龍を引用している、そこから引用、
    「一方、『風の歌を聞け』から五年後、八四年に村上龍は一転、こう書く。サザンオールスターズの桑田佳祐が証明したのは簡単にいえば「否定性」んなどなくてもよい音楽は作れるということだ。桑田は「たぶん気づいていないかも知れない」がサザンは、そのことをはじめて証しだてた。その点では彼らは「すごいバンド」なのだ。それが、サザンが「日本に初めて現れたポップバンド」であることの意味だ。「ポップスはずっと日本に存在しなかった」。なぜか。日本がこれまでずうっと「貧乏だったからだ」。
     あしたの米がない、ひえも食い尽くした、娘を身売りしなければ、……という百姓は「ラブ・ミー・テンダー」や「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」を絶対に聞けないし、聞こうとしないだろう。(中略)
     「喉が乾いた、ビールを飲む、うまい!」
     「横に女がいる、きれいだ、やりたい!」
     「すてきなワンピース、買った、うれしい!」
     それらのシンプルなことがポップスの本質である。そしてポップスは、人間の苦悩とか思想よりも、つまり「生きる目的は?」とか「私は誰? ここはどこ?」よりも、大切な感覚について表現されるものだ。
     だから、ポップスは強い。ポップスは売れる。すべての表現はポップスとなっていくだろう。」
    (〜加藤典洋『村上春樹は、むずかしい』岩波新書、「否定性と悲哀ー『風の歌を聴け』の画期性」より)

     もうひとつ、村上龍による解説の最後に書かている話を引用する。

    「僕は九州の基地の町で生まれ、育った。高校の頃、「D」というジャズ喫茶に通った。Sさんというのがマスターだった。Sさんにはいろんなことを教えて貰った。コルトレーンを聞くんならC・パーカーを聞いて来い、パーカーを聞くんならアームストロングを聞いて来い、とそんな人だった。ジャズに浸りきって、酔うと決まって泣いた。
    「ああ、どうして俺は黒人に生まれてこなかったんだ」
     そう言って泣くのだ。「D」には大勢の黒人兵が来て、彼らの好みで、僕は「黒い」と「白い」の区別をぼんやりと知った。
     Sさんは日本のジャズに絶望していた。Sさんは、今のラッツ&スターみたいに、顔を黒く塗ったりしていたこともあった。酒と麻薬が好きだった。麻薬は止(や)めよう止めようとしていたのだが、何しろ絶望していたので、止めることができなかった。もちろん警察からはマークされていたが、タレコミ屋となることで泳がされていた。当時僕は横田基地の傍に住んでいて、帰郷のたびに、Sさんに「白い粉」や「チョコレート」をプレゼントしていた。二十歳になってすぐ、僕は逮捕された。Sさんがタレこんだ、と友人が教えてくれた。「D」は閉店し、Sさんは僕と会うと逃げるようになった。僕は別にSさんのことを恨んではいなかった。
     それからしばらくして、Sさんは自殺した。
     僕は残念でならない。
     Sさんに生きていてサザンを聞いてもらいたかった。もし、「東京シャッフル」をSさんが聞いたなら、死ななくてもすんだかも知れないと思う。桑田佳祐の、ビートを一途に信じる力、ビートに従う日本語を探す才能、そんな人間が日本にも出てきたと知ったら、Sさんは希望をもてたかも知れない。
     歌は革命を起こせない。
     しかし、歌は、自殺を止める力を持っている。」

  • 桑田佳祐言の葉大全集
    「やっぱり、ただの歌詞じゃねえか、こんなもん」
    桑田佳祐健在!
    ほとんど、彼の歌の歌詞。
    それに、少々のエッセイ。
    でも、それがまたいいんだなぁ。
    曲が響いてくる。
    まあ、文字にしちゃうとかなり危ない歌詞もあるけれど、それもまた、桑田。
    エッセイは、意外と堅めというか、生真面目さが垣間見える。
    桑田ファンの方にはもう今更かも。

  • シンガーソング・プロレスラーを自認するニューミュージック界の天才児が、腕によりをかけて料理した魔法のコトバたち-----
    デビュー曲「勝手にシンドバット」から「東京シャッフル」までのLP・シングル全88曲と、桑田佳祐自らが自身の音楽体験やLP制作の舞台裏を語り下ろしたトーク・エッセイとで立体構造するオール・アバウト・サザンオールスターズ。

  • 2012年8月5日読了。「綺麗」リリースまでのサザンオールスターズのアルバム・楽曲に対する、桑田佳祐自身による解説。「稲村ジェーン」などの発表前ながら、すでにサザンが唯一無二の日本のポップバンドとして存在感を放っていた、ということが伺える。若き桑田が「日本語をロックに乗せる難しさ」について悩みつつ実践し、黒人や白人のように音楽をやりたいができないと悩み、souは言っても歌謡曲や演歌に惹きつけられる自分の血にまた悩み・・・とその悩みを赤裸々に文章として吐露している様が非常に興味深い。「意味」とか「ブンガク」でなく、日本語が「音」としてロック音楽に乗ったときにどんな相乗効果があるか、ということ、桑田氏はこれに自覚的でかつ実践しているアーティストの先駆けだったのだろう。村上龍による解説も読み応えがある。

  • 桑田が初めて世に出した"処女作"が今回ご紹介するこの作品。
    1983年までに発表された全作品[『Reggae Man』を除く]の「歌詩」と桑田によるトークエッセイ+貴重なカラー写真で構成された充実の一冊。「ただの歌詩じゃねえかこんなもん84-90」もあります。’84年から’90年にかけて発表された3枚のサザンオールスターズのアルバム「人気者で行こう」「Kamakura」「Southern All Stars」+ソロアルバム「Keisuke Kuwata」+シングル4曲―全58曲の歌詩を完全収録。さらに,歌謡曲へのこだわりからレイ・チャールズまでを語ったインタヴューにカラー写真を加えて紹介する

  • 桑田さんの音楽への情熱が一冊の本に詰まってる。ふざけた奴だと思っていた時期を詫びたくなるくらいに。すみません、すみません。今じゃすっかりサザンの虜。愛してます。【平成16年11月6日・古105】

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