- Amazon.co.jp ・本 (431ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101369334
作品紹介・あらすじ
“英雄”に取り憑かれ罪を犯した兄を救うため、少女の大冒険がはじまる。稀代の物語作家、衝撃の問題作。
感想・レビュー・書評
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ストーリーテラー宮部みゆきのファンタジー「英雄の書 上巻」。 ミステリーに始まり時代小説、ホラーなど多彩な才を見せてくれる彼女の最近よく取り組んでいるテーマらしく、彼女の言いたいことを体現している。
社会問題のイジメに異世界を絡めた、ちょっと変わったファンタジーに下巻にも期待大。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
宮部みゆきさんだからこそ書きえる、空想と現実の世界が小説の中に広がります。
小学5年生の友理子の兄、大樹が同級生を殺傷し失踪した。友理子は手がかりを求め、兄の部屋へ入り、そこで本の声を聞く。
その本は大樹は英雄にとり憑かれたと話し……
言葉を話す本という、いかにもファンタジーな設定。一方で世界観や設定は、暗く重苦しい雰囲気が漂います。話す本に導かれて、友理子が訪れる"無名の地"の壮大ながらも、どこか寒々しい荒涼とした光景。
無名の地で待っていたのは、無名僧と呼ばれる僧侶のような姿をした人たち。彼らが話すのは、物語、そしてこの世界の大いなる力の話。さらに無名僧たちの役割と、物語と世界の関係性の話は、すべての物語が抱える原罪に迫ります。
物語は人の心を動かす力がある。本や映画、テレビ、マンガ、アニメ、ゲーム、そうしたものを鑑賞する度、物語の力は自分たちをとらえます。
物語の力はそれだけ美しく、素晴らしいものに思えるのだけど、宮部さんはこの『英雄の書』で物語のある一面を"咎"として捉えます。物語とは嘘であり、嘘とは罪である。それでも人は「英雄」が登場するような罪=物語を必要としてしまう。無名僧たちは罪を必要とする人たちのため、延々と“咎の大輪”を回し続ける。
無名僧の言いたいことは何となくわかるけど、まだ消化し、自分の言葉で置き換えることはできなさそう。
でも物語の抱えた宿命というか、祈りというか、罪というか、この世界での役割というか、それをとことんまで突き詰め、それすらも、物語に組み込もうとする比類なき力。『英雄の書』からは、そんな宮部さんの圧倒的なまでの想像力と、言葉では言い表せない力を感じます。
そして現実世界へと帰還した友理子。なぜ兄は英雄にとり憑かれたのか。その謎を探るため、友理子は従者をつれ、兄の通っていた中学校に向かうが……
友理子の兄の救いのない物語は、読んでいてしんどかった。『ソロモンの偽証』や『過ぎ去りし王国の城』など、宮部さんは子どもたちの過酷な境遇というのも、色々と描いているけど毎回身につまされる。
正義を通そうとするがゆえに生まれる負の感情。悪意とはまた違った人間の暗い一面が、ストーリーを通してたち現れてきます。
宮部みゆきさんだからこその、人の感情の暗部、そして物語とこの世界を徹底的に掘り下げるダークなファンタジー。読んでいるこちらも、想像力を膨らませないと、振り落とされそうになりますが、それだけに物語の芯となる部分の強さは、とても強固に感じます。 -
宮部みゆきのファンタジー。
8年前に買ってずっと熟成させて…いや、寝かして…あの、積んであったものにようやく手を付けることができました。
PlayStation Portableのロールプレイングゲームの原作にもなっている「ブレイブ・ストーリー」は読んだことがあります(ゲームも遊びました)し、自分から申し入れて「ICO」のノベライズをしていることも知っています(ゲームは遊びました)し、もちろん「ゲーム女」としてゲームにのめりこんでいることも知っています。
だから、この「ファンタジー」もそんな、RPGをよく遊ぶ自分にとってなじみやすい物だろうなあと思いつつ読み始めたのですが…。
様相は一言では言い表せないほど変わっていました。
幻想的な異世界の描写に続いて、小学校5年生の森崎友理子が授業中に呼び出されるところから物語は始まります。学校でたまに見る「忌引き」が自分の身に起きたのか、でも誰が?と慄きながら家に帰った友理子が知ったのは、中学2年の兄大樹がナイフで同級生を傷つけた後、行方が分からなくなったという恐ろしいお話でした。
平和だった友理子の日常は一変します。
一番身近な母は泣き暮らし、父は母と険悪になり、頼れるはずのおじいちゃんおばあちゃんは言い争いばかり。
メディアスクラムを避けて隠れるように引きこもったビジネスホテル暮らしからようやく抜け出して久しぶりに登校した友理子を当然のように待っていたのは陰湿どころではない、公然としたいじめと白眼視でした。
ああこれ、こんな感じの話、読んだことがあります。
乃南アサの「風紋」。あれは犯罪被害者家族の話だったけど、物語はああいう展開を見せるんだろうか。しんどいけど読み応えがありそうだなあ、と思っていたら話はすぐにファンタジーに戻ってきました。
兄の部屋での話す本「アジュ」との出会い、水内一郎の別荘にある図書室での話す本「賢者」との出会い、そして異世界、「無名の地」へ。
「万書殿」の描写にそこはかとない既視感を覚え、記憶を手繰り寄せてみると、たぶん「ここはボツコニアン」の「回廊図書館」を連想したようです。
「大僧正」から事態と世界観の説明を受け、魔法陣による魔法の力と守護の法衣という装備を手に入れて、辞書からハツカネズミの姿になった「アジュ」、「無名僧」の従者「ソラ」とともに情報収集のためにいったん元の世界へ戻ります。
さて、ここまでが導入部のはず。
世界観の説明があり、目的が示され、力と従者が与えられました。
「無名の地」のような異世界や、魔法陣や「守護の法衣」やお供の小動物といったアイテムにゲームやアニメ、ラノベなど「最近のファンタジー」の影響を見ることができます。この本の読者はこれくらいついてくるだろうと特に詳しい説明もなく使われていて、読むほうも別に不自然に思うことなく自然に受け入れるハイコンテクストな道具立てが多用されていて、でもそれにもかかわらず、テンポがあまりよくありません(あ、言っちゃった…)。
これには2つ原因があって、1つ目は世界観や目的の説明がまどろっこしいこと。伏線がいっぱい敷いてあって、下巻できちんと回収されるのですが、そのための思わせぶりやほのめかしに溢れています。
『「伝説の剣やチート能力をもって悪の魔王を倒して世界を救う」ような単純な話にはしたくないからわざわざレトリックを多用して回りくどく書いてある』わけではなく、はっきりとしたことを言えないのは言えないなりのちゃんとした理由があるのですが、導入部でそんなことがわかるわけもなく、読者は友理子、いやユーリと一緒に少し苛立ちながらページを捲ることになります。
2つ目は小目的がないこと。
RPGで言うと中ボス戦ですね。いや、中ボス戦どころか、戦闘すらないまま、プロローグとチュートリアルですでに物語の1/3近くが過ぎています。
それでも手に入れた情報と力とアイテムを使って、現実世界に戻った友理子、いや、「印を戴く者(オルキャスト)」となったユーリは探索を開始します。
兄大樹の通っていた中学校で乾みちると出会い、で兄がナイフを握るに至った経緯を把握したユーリ。しかし闇を纏った何かがユーリに向かってきます…。
と、上巻はここまで。
探索開始あたりからようやく物語が動き始めたように思います。でも、初の戦闘を目前に上巻が終わってしまいました。本当にこのペースで英雄を封印できるの?と心配になります。
もしかしてだけど、宮部みゆきってファンタジーには向いていないのかも。書きたいことがたくさんありすぎて、どんどん長くなるのに書きたいことは一向に書けなくて、逆に書いているうちにもっと書きたいことが出てきたりして。これ、直すにはもっともっとファンタジーを書くしかないよねえ…、で天啓が下りてきました。
あの「ここはボツコニアン」、あれって、書きたくてたまらないんだけど本筋には書けないネタを昇華させるためのお話だったんじゃないの…?ガス抜きをしないと本編が書けなくなるほど書きたいネタが溜まってるんじゃないの…?
と思いながら下巻に続きます。 -
「人は生きているだけならば、どれほどの偉業をなそうと、それはただの事実でしかない。思うこと、語ること、語られることを以て、初めて“英雄”は生まれる。そして、思うこと、語ること、語られることは、これすべて物語なのだ」
2022/10/10読了(再読)
災いをもたらす存在としての、英雄の負の側面を描いた作品。更に、今作中でキリクとの最終決着が付いていない。『悲嘆の門』が、続編になるのかもしれないが、キリクの封印が為っていない以上、まだ次にユーリが活躍する物語が出るのかもしれない。 -
なんかハリー・ポッターっぽい!今話題のいじめ問題がおそらく主題で、まだ上巻だからなんとも言えないから、とりあえず下巻へ。
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冒険物‥兄が居なくなりそれを探し出すため
妹のユーリ。色々経験していき成長していく
姿‥。舞台は図書館と本達ミステリー -
前半が長い。いつ冒険始まるのかなとなった。
主人公のユーリがあまり好きになれなかった… -
とても面白い冒険物語!
少し暗い雰囲気なのですが、それを上回る内容の面白さ。
特に戦闘シーンの描写がかっこよかった!
表紙が工夫されてるのがなにげに嬉しい。 -
無名の地の話が難しかったけど後半に兄の謎がわかりだしてスラスラ読めました。下巻もたのしめるかなぁ?