西行 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.78
  • (33)
  • (32)
  • (51)
  • (4)
  • (0)
本棚登録 : 501
感想 : 40
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101379029

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 白洲正子が西行の足跡をたどり歌を紹介しつつ、当時の時代背景や天皇家と西行の交友、待賢門院璋子との恋に触れ、自由奔放で風花と共に生きたその人となりや人生に迫る。直島や大磯を訪ねたり、芭蕉の奥の細道を辿って白河の関や平泉を尋ねていたので崇徳天皇の経緯や歌枕の成り立ちなどを知ることができて、良き旅の先達となる一冊だった。

  • いろいろな本に西行が書かれているが、白洲正子氏のこの西行ほどのものはないであろう。
    解説に書かれてあったが、まさに、西行を語ることは、歌について語ることであり、仏教について語ることであり、旅を語ることであり、山河を語ることであり、日本人の魂と祈りを語ることであった。
    白洲正子氏が文章を書くと、そこには西行がいる。
    いつか、白洲正子氏の本を手に、西行の足跡を辿ってみたくなった。

  • 白洲正子 「 西行 」 西行論の本。西行の出自から思想の推移、主な歌の著者なりの解釈が、一通り理解できる構成になっていて面白い。


    著者が西行の歌で目を付けているモチーフは、桜と富士山。ここから、西行の無我の境地、待賢門院への思慕、自然信仰を抽出している。


    著者が捉えた西行像は、歌から自然と人生の調和をはかり、善悪もわきまえず、悟りを求めず、ただ世の中をあるままに生き、あるがままに死ぬというもの。


    特に印象に残る著者の西行像
    *桜狂いの歌は 浄土信仰によるものでなく、待賢門院への恋愛歌
    *心が定まらない 空になる心 から、無常な 虚空の如くなる心 までの変遷としての歌
    *地獄絵を見て〜その苦痛を乗り越えて地獄へ堕ちた人を救いたい願望
    *地獄絵を見ての27首は、西行が経てきた心の歴史

    「西行の真価は〜はかなく〜無常迅速な人の世のさだめを歌ったことにある」


    「風になびく富士の煙の空に消えて ゆくへも知らぬわが思ひかな」無我と不動の境地?

    「そらになる心は春の霞にて 世にはあらじともおもひ立つかな」
    無常な人生の中の強さ?

    「春風の花を散らすと見る夢はさめても胸のさわぐなりけり」待賢門院の死を予感?

     

  • 20191123 中央図書館
    クールで絶妙の空気感と質感のバランス。

  • 白州正子流の西行像。いかなる観点から西行を評価するかということが評伝には求められているということか。

  • 19/02/16。

  • facebookの友人が読まれており、私自身も「おくのほそ道」を通じて西行に興味があったことから本書を読んだ。残念ながら和歌の素養はないが、著者の解釈と解説が、沁み込むようにすんなり入ってきた。武士から出家した西行だが、自然宗教的で、奔放な生き方に憧れる。

  • お坊さんて、禁欲無欲なイメージだったけど、そうでもないな。というのが大雑把な感想。
    官僚社会なんて狭い世界で登りつめることばかり考えるのもばからしい。
    旅して芸術に触れて、ここじゃ出会えない人に会おう。
    そんなところに西行の原初的欲求があったのだとすれば、それは私自身とも大いに共通する部分がある。
    ロックなお坊さんかっこいい。

  • 「現代人は、とかく目的がないと生きて行けないといい、目的を持つことが美徳のように思われているが、目的を持たぬことこそ隠者の精神というものだ。視点が定まらないから、いつもふらふらしてとりとめがない。ふらふらしながら、柳の枝が風になびくように、心は少しも動じてはいない。業平も、西行も、そういう孤独な道を歩んだ」(p.107)

  • 何年か前の大河ドラマ「平清盛」で、私に一番の印象を残した登場人物が、藤木直人演ずる西行でした。
    ドラマで描かれた以上に、自由でふわふわ生きる西行の足跡は非常にきれいだと思いました。

  • さらさらとした文章。「私はこう思う」と言い切るところが小気味よい。
    西行をもっと知りたい、そしてまた白洲正子という人も。

  • 西行について、半分は紀行文。いい本だったと思う。

  • 桜が散る前に読みたくて。〈桜狂い〉であった西行は〈空気のように自由で、無色透明な人物〉で〈とらえどころがないばかりか、多くの謎に満ちている〉西行の足跡を辿って全国を取材した伝記のような紀行文のようで著者と共に旅した気分になれる。奥州への旅路は芭蕉の「奥の細道」の幻想空間と重なる。芭蕉は西行に憧れて旅をし、西行は能因法師、在原業平の跡を辿る。詞書付きで引用された和歌の数々は花鳥風月を愛でながらもそこに込められた激しい想いが伝わってくる。73歳で没しているのでかなり長生きだ。激動の時代を生き抜いた人生。


    待賢門院璋子への激しい恋情をさくらの歌に歌った。身分違いの許されざる恋なれど片思いでなく契りを交わしただけにより忘れ難かったのかもしれない。激動の時代で親しくしていた人々の死もまたいかばかりの哀しみだったことか。保元の乱による同じ数寄の道の崇徳院の配流ときょうし狂死、悪左府頼長の死、源平の争乱と義経の死。
    〈桜への讃歌は、ついに散る花に最高の美を見出し、死ぬことに生の極限を見ようとする。〉女院の死を散る花にたとえて心中したいとまで歌う。ひとりの女をここまで愛せるとは。

    「春風の花を散らすと見る夢は
    さめても胸の騒ぐなりけり」
    「青葉さへ見れば心のとまるかな
    散りにし花の名残と思へば」
    「たぐひなき思ひいではの桜かな
    薄紅の花のにほひは」

    大河ドラマ「平清盛」を思い出す。あれは面白くていいドラマだった。

  • 「光の王国」(梓澤要)で西行と秀衡の関わりが描かれていたので、果たして実録だろうかと本書を読んだ。

    年たけて又こゆべしと思いきや命なりけりさやの中山

    風になびく富士のけむりの空にきえて行方も知らぬ我が思ひかな

    をぐら山ふもとの里に木の葉散れば梢に晴るる月を見るかな

    都にて月をあはれと思ひしは数にもあらぬすさびなりけり

    ねがはくば花のもとにて春死なむその如月の望月のころ

    ねがひおきし花の下にて終わりけり蓮の上もたがはざるらん  俊成

  • 願わくば花の下にて春しなむ その望月の如月の頃 …
    静かで愛があって哀しくてほのあたたかい理想の死だな

  • 以前読んだ辻邦生の西行花伝は物語風に西行が描かれており、平安末期の激動を生きる西行の生き方に魅せられた。本書は、西行花伝より西行の歌がよりたくさん出てくる。西行が棲んだ各地の草庵、訪れた歌まくらや遺跡に筆者も自ら足を運ぶ。遺跡ごとに、西行の数奇に生きた歌が生まれる。紀行文として詳細、随筆として自由闊達、歌の解説として分かりやすい。西行の歌と生き方の魅力が十分に味わえて、歌の素人の私にも理解しやすい。好きになった歌は「風になびく 富士の煙の 空にきえて 行方も知らぬ 我が思ひかな 」。良い本だと思います。

  •  大河「平清盛」を観て、西行に興味をもち手にした本。
     「願わくは 花の下にて 春死なむ  その如月の 望月の頃」・・は、あまりにも有名だけれども、こんなに謎に満ちた人物だったとは。
     北面の武士として仕えていた23歳の時に出家し、平安末期を生きた西行。西行が詠んだ歌を、白州正子さんなりに解釈し、その足跡をたどりに現地へおもむき、たたずまい、風景の中に西行を探す。とても静かに、面白く読めました。
     それにしても、白州正子さんの文章は、潔くて、かっこいい。

  • (2012.11.01読了)(2006.07.02購入)
    【平清盛関連】
    「西行」に関する、「伝記とも紀行文ともつかぬもの」(304頁)です。
    西行が行ったと思われる場所、住んだと思われる場所には、できるだけ足を運んだようです。その際には、郷土史家などに案内を頼み、同行してもらったようですし、なかなか場所がわからない時には、その辺に住んでいる方々に聞いてみると、結構わかることが多いようです。寂れて、忘れられているのもさみしいけれど、よく整備されて、昔の面影をしのぶことのできない、と言うのも困りものという、ジレンマもあるようです。
    類書の「白道」瀬戸内寂聴著、を先に読んだのですが、「白道」は、西行と待賢門院璋子に重点があったので、内容的に重複している感じはありませんでした。
    写真や地図なども割と掲載されているので、この本を頼りに、西行の足跡をたどる時にも、役立ちそうです。198頁には、西行と平清盛との交流を裏付ける書状も掲載されています。

    【目次】
    空になる心
    重代の勇士
    あこぎの浦
    法金剛院にて
    嵯峨のあたり
    花の寺
    吉野山へ
    大峯修行
    熊野詣
    鴫立沢
    みちのくの旅
    江口の里
    町石道を往く
    高野往来
    讃岐の院
    讃岐の旅
    讃岐の庵室
    二見の浦にて
    富士の煙
    虚空の如くなる心
    後記
    西行関係略年表
    数奇、煩悩、即菩提  福田和也

    ●西行が殴られた時に作った歌(21頁)
     うつ人もうたるる我ももろともに
     ただひとときの夢のたはぶれ
    ●西行の出家の理由(38頁)
    彼は世をはかなんだのでも、世間から逃れようとしたのでもない。ひたすら荒い魂を鎮めるために出家したのであって、西行に一途な信仰心が認められないのはそのためである。荒馬を御すことはお手の物だったが、相手が自分自身では、そう簡単に操れる筈もない。それに比べると、天性の歌人の資質は、彼の心を和らげるとともに、大和言葉の美しさによって、「たてだてし」い野生は矯正され、次第に飼いならされてて行ったであろう。
    ●吉野の桜(99頁)
    西行以前に(吉野の)桜を詠んだ歌が少ないのは、平安時代までの吉野山は、山岳信仰の霊地として、めったに人を近づけなかったためで、行者道や杣道が細々と通っているだけの険阻な秘境であった。稀に桜を詠んだ歌はあっても、いずれ遠望するか、話に聞くだけの名所であって、西行のように花の懐深く推参し、花に埋もれて陶酔した人間はいないのである。
     なにとなく春になりぬと聞く日より
     こころにかかるみ吉野の山

     吉野山梢の花を見し日より
     心は身にもそはずなりにき
    ●奥州藤原氏(154頁)
    奥州の藤原氏と西行は同族で、秀衡とはほぼ同年輩であったから、平泉ではいろいろ便宜を計ってくれたに相違ない。
    ●高野聖(186頁)
    高野聖というのは、早く言えば伊勢の御師や熊野比丘尼と同じように、津々浦々を遍歴して、高野山の宣伝につとめる半俗半僧の下級僧侶である。彼らは民衆のなかに入って、寺の縁起や物語を説くことにより、勧進を行った特殊なグループで、芸能に優れていたので後世の日本の文化に大きな影響を与えた。
    ●保元の乱(202頁)
    忠通は、忠実の長男で、実直な父親とは違って、奸智にたけた政治家であった。一方、次男の頼長は、愚管抄に、「日本第一の大学生」と称賛されたほどの大学者であったから、父親に愛され、兄の忠通とはことごとに反目し合っていた。どちらかと言えば、一本木で、融通のきかない忠実・頼長父子と、天才的な策士である忠通との二派にわかれた摂関家の内紛が、皇室の内部にまで影響を及ぼし、保元の乱の要因となったことは疑えない。
    ●讃岐に流された崇徳院(214頁)
    保元物語その他が伝えるところによれば、最初の三カ年がほどは、後生菩提のために、(崇徳)院は自筆で五部の大乗経を書写し、安楽寿院の鳥羽陵へおさめることを希望されていた。「浜千鳥」の御製は、都へお経を送ったときのものだといわれている。が、その望みは、断固退けられた。後白河天皇、と言うよりその側近の信西入道によって、突っ返されて来たのである。讃岐の院は、烈火の如く憤り、この上は三悪道に堕ちて、大魔王となり、子々孫々まで皇室に祟りをなさんと、それより後は爪も切らず、髪も剃らず、悪鬼のような形相となって指を喰いちぎり、その血で経巻の奥に誓詞を書かれた。

    ☆関連図書(既読)
    「平家物語(上)」吉村昭著、講談社、1992.06.15
    「平家物語(下)」吉村昭著、講談社、1992.07.13
    「清盛」三田誠広著、集英社、2000.12.20
    「平清盛福原の夢」高橋昌明著、講談社選書メチエ、2007.11.10
    「海国記(上)」服部真澄著、新潮文庫、2008.01.01
    「海国記(下)」服部真澄著、新潮文庫、2008.01.01
    「平清盛-「武家の世」を切り開いた政治家-」上杉和彦著、山川出版社、2011.05.20
    「平清盛 1」藤本有紀原作・青木邦子著、NHK出版、2011.11.25
    「平清盛 2」藤本有紀原作・青木邦子著、NHK出版、2012.03.30
    「平清盛 3」藤本有紀原作・青木邦子著、NHK出版、2012.07.30
    「西行」高橋英夫著、岩波新書、1993.04.20
    「白道」瀬戸内寂聴著、講談社文庫、1998.09.15
    ☆白洲正子さんの本(既読)
    「巡礼の旅-西国三十三ヵ所-」白洲正子著、淡交新社、1965.03.30
    「能の物語」白洲正子著、講談社文芸文庫、1995.07.10
    「遊鬼 わが師わが友」白洲正子著、新潮文庫、1998.07.01
    「いまなぜ青山二郎なのか」白洲正子著、新潮文庫、1999.03.01
    「白洲正子自伝」白洲正子著、新潮文庫、1999.10.01
    「十一面観音巡礼」白洲正子著、新潮社、2002.10.25
    (2012年11月7日・記)

  • 西行といえば桜。それくらいしか知識のない私でも楽しめた一冊。それはひとえに、白洲正子氏の筆の力だと思う。

    この本は西行が数々の歌を詠んだ、その時の時代背景と西行の気持ちを著者なりの読み解き方で綴っていく、「白洲正子の西行」。

    歌の意味がすべてわからなくても、彼女の文章とともに、歌を唇に乗せてみればなんとなく伝わるような気がするのは、彼女の文章の力のおかげだと思う。

    西行初心者にも楽しめる、情緒豊かな一冊。

  • 良書なのだろうけど難しかった。自分の力不足。こういう本もすらすら分かるようになりたい。

全40件中 1 - 20件を表示

著者プロフィール

1910(明治43)年、東京生れ。実家は薩摩出身の樺山伯爵家。学習院女子部初等科卒業後、渡米。ハートリッジ・スクールを卒業して帰国。翌1929年、白洲次郎と結婚。1964年『能面』で、1972年『かくれ里』で、読売文学賞を受賞。他に『お能の見方』『明恵上人』『近江山河抄』『十一面観音巡礼』『西行』『いまなぜ青山二郎なのか』『白洲正子自伝』など多数の著作がある。

「2018年 『たしなみについて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

白洲正子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×