- Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101385525
作品紹介・あらすじ
華やかで力強いピアノの魂とともに──。何も知らず母に連れられて行った三歳のレッスン。十五歳でソリストを務めたN響世界一周演奏旅行。十八歳でジュリアード音楽院に留学して味わった挫折感。自らの人生をユーモラスに描き、国際コンクールの舞台裏、かけがえのない友人や恩師、そして日本の未来への想いを綴った文章の数々……。亡くなるひと月前まで書き継がれた最後のエッセイ集。
感想・レビュー・書評
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2017年に亡くなられたピアニスト、中村紘子さんの月刊誌の連載をまとめたエッセイ。
名前くらいしか存じ上げなかったのですが、今回のショパンコンクールを機に、ショパンやクラシック、ピアニストについてもっと知りたいと思い、図書館で借りてきた一冊です。
中村紘子さんは、65年のショパンコンクールで4位に入賞し、世界各地で演奏会を行ったピアニストであり、様々な国際ピアノコンクールで何度も審査員を務めた、まさに日本のピアノ界を語る上で欠かせない方。
エッセイの内容は、幼少期の先生とのレッスンのことや、練習内容、ショパンコンクールのことや、その後の世界での演奏活動、ショパンコンクールやチャイコフスキーコンクールの審査員のお話、またピアノに関係のないお話も少々(ギュスターブモローが好きだった、とか、10代の終わりで初めて包丁を握ったらすっかり料理にハマり、その後料理本を漁った、とか。)
中村紘子さんは、ピアニストとして優れていただけでなく、ピアノ界の発展にも力を注いでいた方ということが分かった。
音楽監督を務められていた浜松国際ピアノアカデミーのお話も興味深かった。
中村さんは、「異文化交流」をコンセプトにしたと言う。
(以下、引用)
「同じショパンの作品でも弾き手の生まれ育った社会的文化的背景がことなれば、おのずと違う演奏となる。こうした多用な価値観の中でもまれることが、何より日本の若い才能には1番必要ものであると思った。」
そのレッスンは一般公開で、3人1組のチームに分け、仲間のレッスンも聴くという内容。
それに、今回のショパンコンクールのコンテスタント、牛田智大くんも以前参加していたんですね。
当時16歳の牛田くんのことも少し触れられていた。
時々辛口も混ざっており、文化芸術と政治家における問題あったり、審査員をしたとき、国によって時間のルーズさに差がありすぎる、等、独自の意見も展開されており、そこも痛快だった。
そして、日本のピアノ界の発展を願っていたことが、強く伝わってきた。
こちらも引用。
何だか、今回ショパンコンクールを予備予選からじっくり見ているものとしては、胸が痛くなる内容でもある。
「ポーランド人の弾くショパンには技術的に脆いところはあっても、どこかおっとりとしたポエティックな雅さを感じさせるところがあって面白い。
ポエティックであること。気品があることは、ショパンを弾く上で最も大切な要素だ。これも現代日本の達者に弾きまくる若手にはなかなか見出せなくて残念に思う。
ふと心に蘇るのは2000年のコンクールで聴いた河村尚子さんの弾いたバラードの4番である。
深い幻想のゆらめきと気品に満ちた、ショパンの真髄に迫るものだった。こういうピアニストが入賞しないものかと思うのが、コンクールというものなのである。」
日本のピアノ界、私もこれから応援しようと思っています。
それと、中村さんの手は小さいということが分かり、同じく手の小さくオクターブがギリギリな私としては、勝手に親近感を抱いてしまいました。
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才能はあったのにいつのまにか消えていった天才少年少女たちの話は、プロの世界の厳しさを垣間見る思いでした。一流の音楽家の私生活やら考えが覗けて面白かったです。
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「カレーのピアノの人」中村紘子さんの本。
息子のヤマハで忙しくしていたので何となく本屋さんで手に取ったけれど、ピアノや芸術についてだけではなく時代背景が興味深い。
こういう上の年代の方の本をもっと読みたい。
そして中村紘子さんの他の著書にも興味を惹かれる。 -
天才少女として若くして世界にデビューしたからこその経験がたっぷり読める。團伊玖磨夫妻とのエピソードが読めたことがうれしい。