終の住処 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 78
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  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101390314

感想・レビュー・書評

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  • 2009年芥川賞受賞作。あまり乗り気ではない結婚をして、あまり幸せとは言えない結婚生活を送り、さまざまな不倫も経験し、仕事もそこそこの業績を残し、そんな、日本中ありとあらゆるところに存在するであろう名も無き男の物語。なんとなく庄野潤三を連想させるような、断片的イメージの連続とするするとした不思議な手触りの文章が、方法論的なこのひとの個性かとおもいます。そしてそれは、「時間」というものに対する磯崎憲一郎の関心のあり方からして非常に合っているんじゃないかなあ。「終の住処」では、人生という時間があるっていうよりも、時間があって人生はそれをなぞっている、外界が個人のあり様を決めていく。あらゆるひとを縛る「時間」は外界であり、一方的なコミュニケーションであり、それに対峙する主人公はとてつもなく無力。その時々における個人の意思決定にはあんまり意味がなくて、思いも寄らないことを言ってしまったり、一方的な語りをひたすら浴びせられたり、会話を拒否されたり、そんなことばかり。なんかこう、現実的な力の意味で無力というよりも、ひとつの生命、個体としての無力さなのかなあ、そしてそれは淡々と、静謐に描かれている。
    まあ、21歳の今ではなく10年、20年後に読んだらもっとずっと染みるんじゃないか、今読んでも掬い取りきれないんじゃないか、と。わたしはまだ全体よりも、瑣末なひとつひとつに苦しめられる年代にいるのだとおもう。

  • うーん、深い。
    私の年齢で読むには早すぎたのかも。
    短い話だから話の流れに乗れないまま終わった感じ。
    でもたまにハッとさせられる文章があったりもして。
    これが文学なのか、と。

  • 併録されている「ペナント」が最後セザンヌにつながったところで「あっ!なんか凄い!」となった。読み終わったすぐの時は気づかなかったけど「終の住処」の感想を書こうとして、「そういえばこれはピカソなのかも」とぼんやりと思った。

    メインの「終の住処」は実はそんなに期待していなかったのだが、かなり意表をつかれた。見えてくるものを新鮮にとらえなおそうとする主人公のずれ方が、何かいちいち面白いなあと思う。一つ一つの認識は正しいのにつなげると妙な違和感が出るというか。そんなことは一言も書いてないが、妻のことを怪物でも見るような(しかも無意識)語りがちょっと笑ってしまう時もある。カフカっぽい感じがする。

    セザンヌの静物画は自分の浅い美術理解によると、Aの方向から見た感じとBの方向から見た感じを同一平面上に描き込んでいることが、斬新だった理由の一つだった(たぶん)。で、ピカソはセザンヌに影響を受けていて、キュビスムはそれを進めた形(?)とテキトーなマイ美術史があるのだが、そう言われてみるとピカソの絵って、全体としては滑稽でもあればどこか物悲しくもあって、それがなんだかこの小説と似てるなと思ったのだった。「リアルなものを書こう」というのを妙な方向に進める形で世界を構築しよう、とでもいうような。

    かなり面白いと思ったので他の人のレビューも読んでみたのだけど、ブクログではあまり評判が良くないようである。確かに真面目に「現代の家族とは」みたいなメッセージを読みとろうとするとあまり面白くないかもしれないなとは思う。主人公とかに適当にツッコミながら読むのがいいのではなかろうかと個人的には思う。

  • 妙にユーモアの効いた絶望感のあるお話だった。

    ユーモアが効いてるので読んでる最中はスラスラと楽しくページが飛んでいくものの、読み終わったあとに「なんだったんだ、これは、、、」という絶望感。

    なんとなくストーナーと似てる感じではあるけど、あっちは読後感にうっすらと希望があったけど、、、こっちは反対に絶望感。時代の問題か?

    あと、中年男性ってそんなにモテるの!?自分にはそんな気配ゼロだけど!?

  • 目次
    ・終の住処
    ・ペナント

    芥川受賞作にはあまりご縁がないが、間取り好き、住宅好きの私としては、素通りできないタイトル。
    しかし、思っていたのと違った。
    まあ、芥川受賞作ということを考えれば、こっちが正統か。

    30歳を過ぎて結婚した男の、妻とのままならぬ結婚生活を描いたもの。
    お互い20代の時に長く交際していた人と別れたあとで付き合い始め、結婚願望などというものも感じないまま流されるように結婚。
    妻はいつも、ここではないどこか遠くを見ていて…。

    男は、仕事はできるようだ。
    女性にももてる。
    何しろ11年間に不倫した相手は8人だ。
    だけど、どうにも男の輪郭ははっきりしない。
    結婚についてもそうだったけれど、流されているだけのように思える。

    妻はいつも、ここではないどこか遠くを見ているように男は思っているが、妻もまた男に対してそう感じているのではないだろうか。

    そんな彼が作品中初めて自らの意志で行動したのが、2歳の娘を連れて家族で遊園地に行こう、だった。
    2歳児の行動は当然親の想像とは異なって、彼は遊園地に来たことを後悔するのだが、妻は「観覧車に乗りましょう」という。

    観覧車の高みから見た世界。
    観覧車を見上げる世界。
    妻がいるのは、彼がいるのは、不倫相手がいるのはどちらの世界だろう。(わりと結婚直後から不倫をしている男である)
    なんてことを考えながら観覧車に乗る男。

    それから11年、妻は口を利かなかった。

    次に彼が自発的な行動が「家を建てるぞ!」
    それに対して妻が「そうね、もうそろそろ、そういう時期ね」

    ここから夫婦で話し合って理想の家を作る、わけではなく、妻が見つけてきた建築家にすべて丸投げ。
    こだわりの強い建築家が家を完成させたとき、娘は既に独立し、”これから死に至るまでの年月を妻とふたりだけで過ごすことを知らされた。それはもはや長い年月ではなかった。”

    え~、家を建てるわくわく感ないの~?
    というのはおいといて、実はこういう男性多いのかもなって思いました。
    これからは減っていくと思いたいのですが、家庭に対することはお手伝い程度で基本丸投げ。
    結婚したという事実だけで、社会的信用ができ、職場での立場は順繰りに上がっていく。
    家に居場所はないけれど、会社にはいつまでもいられる。
    良い人生をおくることはできましたか?

  • 感想
    重なり合う複数の可能性。選択することは捨てること。ああなりたかった、こうしたかった。そんな感慨は後になって湧いてくる。袋小路へ歩いていく。

  • 終の住処 3
    ペナント 2

    解説(蓮實重彦) 4

  • 非常に支離滅裂な男の話。
    内容もそれほど面白くなく、あまり評価はしない。
    後半の作品も同じような感じである。

  • 男の結婚生活を描いた結婚小説とも言え、ある意味サラリーマン小説でもある。しかし、そのように括ってしまうには読後にあまりに不穏な手触りが残る。時間の中に、人生の中に閉じ込められているとうことが描かれる怖さ。

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著者プロフィール

1965年生まれ。商社勤務の傍ら40歳を前に小説を書き始め、2007年に「肝心の子供」で第44回文藝賞受賞。2008年の「眼と太陽」(第139回芥川賞候補)、「世紀の発見」などを経て、2009年、「終の住処」で第141回芥川賞受賞。その他の著書に『赤の他人の瓜二つ』(講談社)がある。

「2011年 『小説家の饒舌 12のトーク・セッション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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