顔のない天才 文豪とアルケミスト ノベライズ :case 芥川龍之介 (新潮文庫nex)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101801605

作品紹介・あらすじ

ねえ先生、これがあなたの罪ですよ。本の中の世界を破壊する侵蝕者との戦いのため、アルケミストたる特務司書の手で転生した芥川龍之介は、仲間と共に侵蝕された自著・『地獄変』へ潜書することになった。歪に書き換えられた物語の文意を探り、小説世界を進む芥川達だが、敵の強力な攻撃で仲間は次々に倒れていく。たどり着いた最奥で彼に突きつけられる自身の“罪”とは。「文豪とアルケミスト」公式ノベライズ第一弾。

感想・レビュー・書評

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  • 怨念か妄執か「本の中の世界を破壊する侵蝕者」により、文学書に黒いインク溜まりが浮かぶように。それに侵された文学書は人々の記憶からも奪われ始める。
    この災禍に対処すべく、「アルケミスト」と呼ばれる特殊能力者が国定図書館に文学の力を知る「文豪」を転生させ、侵蝕者の討伐に駆り出すが。

    文学書を守る為、転生した芥川龍之介。
    自分を芥川と自覚しつつも、どこか曖昧な記憶を持て余す。
    そんな時「地獄変」が侵蝕者に侵される。
    兄貴のような菊池寛と、弟分の堀辰雄、助っ人の谷崎潤一郎と共に「地獄変」に潜書する芥川だが。
    侵蝕者の目的とは。

    芥川、漱石、久米や、菊池寛たちとの人間関係にも触れつつ、芥川龍之介論も見せ、更に侵蝕者がどこに潜んで、何を目的としてるのかはミステリアス。
    この本で、芥川って書いた本は読んでるんだけど、人物像となるとひどく曖昧なことに気づいた。
    文とは何か、芸術とはなにか、本を読む度に浮かぶギャップを掘り下げるようなテーマも楽しい。
    設定も扱っている内容も面白いんだけど、全体的に思わせぶりすぎなのが、辛い。
    2冊目の小泉八雲編が気になって読み始めたけど、次どうしようかなー。

    読み終わってからの本の紹介頁が素敵。
    絶対読みたくなるもんねー!
    さすが新潮文庫というラインナップ。

  • 以下、とにかく思ったことを雑多に書き留めます。

    ・装丁
    最初から文庫本で出してくれているのが本当にありがたい。本読みにとってスペースとは大事であることを理解しての計らいだとしたら素晴らしい。欲を言えば即日kindle版も欲しかった。Kindle版で出ていたら紙に執着のない私はそちらで買っていた。
    RTでも回ってたけど巻末に今回登場する文豪の著作が宣伝として載っているのもgood。「文アルとその元ネタである文豪の著作」感が伝わってきます。

    ・潜書の描写について
    こんな詳しく書かれてるというのが、驚きとありがたさそのもの。今回、潜書にはタイムリミットがあるとか、シーンの最後まで行くと一旦戻ってこないといけないとか(これゲームでボスマス外れた時とかに近いよね)、侵食者が詳しく書けないところは抜け落ちてるだとか、そういうディティールが非常に行き届いていると感じた。描写の衣・作者の文意という発想も、文学らしくて良い。
    あと地獄変屏風にあったと思われる火車が眷属として出てくるところなどはロマンがある。オリジナル侵食者というのも、ノベライズということもあって良い。

    ・タイトルについて
    『顔のない天才』というタイトルの第一印象は「芥川の『鼻』に潜書するのかな?もしくは『鼻』が消えた世界なのかな?」だった。
    というのも、菊池寛が『半自叙伝』で自身の半生をパロディにした作品で、芥川の『鼻』は『顔』と名前を変えていたからだ。ここから「『顔』のない天才」とは、「デビュー作『鼻』を奪われた芥川なのでは」と想像していたが、それはミスリードだった。

    ・『地獄変』考察
    この作品を読む直前に本家『地獄変』を読んだが、私も原作の最後の良英が自殺をするシーンがなかったらこの作品は芸術史上主義を持ち上げた作に終わっていただろう、と、思った。が、芥川は読者に優しいのでそういうことはしない。あくまで読者が共感しやすい抜け道を用意している。それが、良英の自殺なのだろうと思い、小説を商品として意識して完成させたことに感心したものだった。
    だがこの侵食者はそうは思わなかったらしい。徹頭徹尾「芸術史上主義」に終始する良英こそ至上、として、娘を罪人、良英を英雄として扱うことで、自らの有碍書『地獄変』を作り上げた。この発想がとても身勝手な侵食者らしい。芥川が用意した逃げ道を自らふさぎに行って悦に浸っている、この辺がうまく書かれていて良いと思った。

    ・気の弱い芥川という像
    今や芥川賞によってすっかり身近になった芥川龍之介だが、彼が文壇で活躍した時期は約十三年。自殺したというセンセーショナルな史実、品質のいい短編ということもあり、現代では馴染みやすく、文豪=夏目漱石、芥川、太宰 と連想する人も多いが、芥川自身の創作歴は他の文豪と比較してそれほど長いわけではない。だがその有名なイメージからなのか、彼は今や「日本文学最強」の位置を占めている。
    それでありながら、彼自身は大いに迷える作家であった、と個人的には思う。晩年などは特にそうで、世間から篤く期待を受けてる一方、そのプレッシャーに勝てず模索を続ける姿がある。そういったいみでは、芥川本人から見る文学の世界と、他者から見る芥川の文学の世界はずいぶん違ったものになるのではないかと思う。この小説は、主に芥川に視点をおくことで、“世間の最強イメージと異なった弱さを持つ芥川”を描くことに成功していた。人知れず悩みを漱石宛の手紙に認める様子や、胸に秘める思いを匂わせつつも、最終的に事件の解決に繋げていく様子などは、聡明でありながら迷える天才、を思わせてくれて大変よかった。


    ・谷崎
    今回Twitterなどを見ていても多かったが、谷崎が素晴らしく谷崎してる。生前の芥川の死に実は並々ならぬ思いを寄せていながらにして、それを誰にも言わないところとか、適当にはぐらかすところ等など。登場シーンが風呂場ってこととか、何やら本家谷崎作品を思わせるような嫌らしい食事の描写だとか(そもそもそこで一人パフェを頼むチョイスとか!)
    ちなみに、谷崎が出てくる最後のシーン、パンジーの代表的な花言葉は「物思い」「私を思って」らしい。これ、谷崎にわざわざ隠させたの、なにかしら作者の意図があると思う。(笑)
    そして個人的に好きな谷崎のセリフは「貴方は、少々頭で考えすぎる。芸術とは、エゴイズムを肯定することですよ」。これを谷崎がいうのがまたいいよね。

    ・個人的なお気に入りシーン
     ・たっちゃんこが音楽聞くシーン
      →ここ、聞いてるのがクラシック(ショパン・メンデルスゾーン)音楽というのが大正文学者っぽくってよい、現代の音楽なんて知らないもんなこの人たち…
     ・たっちゃんこの「二次創作は原作の尊敬がなくてはなりません」のセリフ
      →心に刻みたい
     ・最後の潜書に行く前の久米との遭遇
      →久米と向き合うことによって、過去の芥川龍之介と今の芥川龍之介の区別というか、覚悟が決まるきっかけが芽生えててよかった。久米自身も転生芥川に会うことでまたなにかを得たのかなと思ったり

    ・余談
    ところで「作家が幸せかどうか」って話をしてたのってもしかして自然弓のみなさん?
    「作家は存命中に認められないと幸せとは言えない」から凄い独歩を感じるし「書くべきことを書くだけ」にすごい藤村を感じる。これに芥川が「下品だ」と言い放ってるのも何とも言えない、記述は「だれか」だったから、答えの想定はないのだろうけど。

  • この作品は「文豪とアルケミスト」というゲームを土台にした小説だ。

    そのゲームとは、文豪をキャラクターとして蘇らせ、有碍書と呼ばれる、オリジナルが書き換えられた書物の世界に入り、浄化する(戦う)という内容のものである。

    この小説を手に取ろうと思ったのは、「地獄変」という芥川龍之介の作品を、どんな風に書き換えたのかが知りたかったからだ。

    よく知られた作品の「if」を作るのは、なかなか、勇気の要ることだと思う。
    そこにはオリジナルをどう読み、解釈するかがまず必要になってくる。

    また、この作品は、芥川龍之介の転生という難しい部分にも可能な範囲でチャレンジしているとも思う。
    芥川の作品を読者がどう読むか、ということは語れても、芥川自身がどう生きたか、は語れない。
    それは「転生」という形を取る以上、制限になる。

    とまあ、堅苦しくなったけど。

    「地獄変」へのアプローチに関しては、意外と控えめに思ったが、好み(笑)
    せっかくなので、原作既習推奨。

    個人的には、芸術とはエゴイズムそのものではないと思う。
    揺れ、歪み、抗い、迷う。
    そういう動きの中に、人はいるような気がする。
    だから、「地獄変」は美術書ではなくて、小説なのだな。

  • 公式ノベライズ第一弾。
    侵蝕され歪められた『地獄変』。その自著へと潜書する芥川がたどり着いたのは――

    あのゲームの「潜書」(すごろくの目を横に移動していくだけのマップと戦闘…)をどう小説世界に表現するのか楽しみにしてました。なるほどそういう風に書いてきたか! という驚き。さらに、ゲームをプレイした人なら思い出すアレコレを巧みに解釈してその中に盛り込んできている辺り、流石ゲームデザイナーもやってる方らしい視点で面白いです。

    公式の監修も入ってはいますが、ゲームへの理解や各文豪キャラの解釈、文学作品そのものへの読み込み度合い、それを今回のシナリオへ昇華した完成度。大変満足です。第二弾も楽しみにしてます。

  • 文アルでは芥川さんが好き。不安定で自己評価が低いところが好き。

  • とても素晴らしい作品だと思います。
    まず文章の美しさ、言葉で世界観に引き込まれました。少し湿度のある文体で、とても私に合っていました。
    また、谷崎との愛、侵蝕についての問答は谷崎潤一郎の価値観について多少の理解を得ることができ、キャラの解像度が高いと思いました。

    侵蝕者が病人だろうと推測したとき、芥川が病気はかなしい、病気の人の助けになれたなら嬉しい、というような発言をしたとき、侵蝕者は悪と認識しながらもそういった慈悲を持ち合わせてしまう人間らしさに心が打たれました。

    侵蝕者も、ただのエゴでは済まされないような、若さゆえの浅慮みたいな、そういった部分が垣間見えて好きです。

  • 2019/08/26 読了。

  • 地獄変に潜書する話。アニメだと志賀が炎の中に消えていくけれど、こちらはとりあえず戻っては来るけれど補修しても体の不調が戻らない系でより質が悪いというか、侵蝕者が底知れない感じがして良い。
    転生した芥川は生前の芥川とは違うけれど、この手の話は『偽物が本物にかなわないなんて道理はない』と私の中の士郎が叫ぶのだよ…。そしてファンレターが重い。谷崎がとても良いキャラをしていた。芥川と辰ちゃんこの関係なんかも史実を知っているとより楽しめる感じ。 ゲームよりも設定が色々詳しく出てきていてなるほど~…となった。

  • ゲーム「文豪とアルケミスト」のノベライズ。
    一つの小説作品として非常におもしろい。これまでノベライズはいまいちという印象しかなかったけれども、初めておもしろいノベライズがあると思えた作品。
    原案がある作品でもこうして物語を紡げるのだと感動した。

  • 文豪とアルケミストのノベライズ第一弾。
    ゲーム内の設定だけでは分からなかったことが細かく描写されているし、芥川龍之介の転生故の苦悩が明らかにされていて、そういう立ち位置で存在していたのかと興味深い。

    潜書した後の攻略過程も面白く、地獄変の謎解きも納得出来る解釈だった。

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著者プロフィール

グループSNE所属の小説家/ゲームデザイナー。『皇帝のフロイライン』で小説家デビュー。

「2017年 『終末ノ再生者 II.インスタント・ファミリア』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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