奇跡の人 ヘレン・ケラー自伝 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (207ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102148211

作品紹介・あらすじ

わずか一歳で光と音を失い、七歳までことばの存在を知らなかったヘレン・ケラー。三重苦の彼女は、サリバン先生の愛に導かれ「ことばの世界」に目ざめる。そして負けず嫌いで前向きな性格と驚異的な努力により、十九歳で名門ラドクリフ・カレッジ(ハーバード大学の女子部)に合格-知的好奇心に満ちた日々を綴った若き日の自伝。大人のための新訳。

感想・レビュー・書評

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  • 原題は「The Story of My Life」。
    あっ「ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語」と同じだ。
    ヘレンも「若草物語」好きだと言ってるし。

    読んだのは新潮文庫、小倉慶郎による訳。2004年。
    角川文庫の「わたしの生涯」のカバーイラストが印象深い。1966年訳。
    (角川文庫の訳者の岩橋武夫もまた社会事業家で、ヘレンと直接の面識があるみたい。)

    映画「奇跡の人」でヘレン7歳を見た。
    コテンラジオでヘレンの生涯を知った。
    で、本書ではヘレン22歳当時の考えを読んだ。
    不用意な表現かもしれないが7歳で再度世界に対して「開かれて」、いかに世界を知ったか、いかに学んだか、大学生としての考えはどうか、といったところまで。

    コテンラジオリスナーとしては、後年貧窮して半ば見世物小屋出演せざるを得なかったが意外と本人は楽しんでいたことや、スウェーデンボルグへの接近などを期待して自伝に手を伸ばしてみたが、ずっと手前の22歳の執筆なのだ。
    自分より100年くらい年上なので歴史の遠近感覚が狂い、もう歴史上の偉大な人物という予断で読んでしまうが、22歳なんて意外と若僧なんだなと、むしろ親しみを感じた。
    いや率直にいえば「萌え」を感じた。

    200ページ近い本だが、例の「water」は30ページくらい。
    映画ののち、いかに頑張って「得た」かがつらつら書かれている。
    敢えてこんな表現をするが「上り調子アゲアゲ」だなー、と。
    そして大学生現在の記述として思わず笑ってしまったのが、好き嫌いハッキリしとるなー、ということ。
    とにかく数学は苦手、を通り越してたぶん嫌い。
    大学生活も思い描いていたものと随分違う。
    文学作品が至上で、批評なんて大した価値ないよ、とまで。
    わざとこう書いちゃうが、ツイッターで「#名刺代わりの小説10選」を挙げた上で「理由は長文になるので note に書きました」とリンク張っちゃう、新進作家のような、微笑ましさを感じた。

    第21章で、自分の好きな本について書いているのだが、ちょくちょく「好きじゃない」本についても書いていて、この書きぶりが辛辣で面白い。
    好きな作品の中にも嫌いなところがあったり、聖書を最初は苦手だったがいつしか特別に愛読しているとか。
    うんうん、読書ってそういうものよね。
    そして末尾に「要するに、文学は私のユートピアなのだ」と。
    三重苦だとか人類への業績だとか、かたや読んでいる私は木っ端のような庶民であるとかいった、時空の垣根を、ガバッと取り払ってしまう一文がある。
    これだけで読んだ価値あり。162p。以下引用。

    「要するに、文学は私のユートピアなのだ。文学の世界では、私はふつうの人と変わらない。障害があっても、本という友人との、楽しく心地よい会話から締め出されることはない。本は、恥ずかしがらずに、気さくに私に話しかけてくれる。私がいままでに学んだことも教えられたことも、かすんでしまうほどの大きな愛と慈しみを、本は私に注いでくれたのである。」

    少し戻るが、「霜の王様」事件(第14章)については、ヘレンにとって相当なインパクトがあったのではないか。
    ちょっと憶えておきたいところ。

    今後は、10を超える著作があるのでもちろん作家追いは難しいが、その後の自伝や、コテンラジオ参考文献にある「ヘレン・ケラーはどう教育されたか―サリバン先生の記録」あたりを読みたいな。
    「Midstream: My Later Life」は「The Story of My Life」と合本されて、先述の「わたしの生涯」になっているらしい。
    (wikipediaでは新潮文庫の本書が合本になっている、と誤った記述。)
    村岡花子「伝記 ヘレン・ケラー」(偕成社文庫)とか。
    あとは塙保己一について調べるか。

  • 図書館。直感的に読んでおくべきだと思ったから。また、本人について概略的なことしか知らず、本人の言葉をもって知りたいと思ったから。

    結局ヘレンの元々もっている頭脳は何の綻びもなく、シナプスがしっかり働いてるがゆえ、サリバン先生やその他の人々の教育が行き届いたのだなというのはある。
    でも、一歳七ヶ月までに一度享受していた光と音を失う恐ろしさは、どれほどだったか。また、サリバン先生や親は、本人に対する絶望や諦めを難度感じたことか。そこからの復活が、やはり「奇跡の人」と言われる所以だし、人間の希望とも言える。
    相手を諦めない。

  • ただただ、素晴らしかったです。
    自分が見失っている事、気付かず染まっている事をヘレンが直接教えてくれているように感じました。
    早く読み進めたい気持ちと、読み終わってしまうのが惜しい気持ちが交差する書籍。本書から得た学びと幸せは、一生の宝物と思えます。おすすめです。

  • 今まで名前だけ聞いたことがあったが実際にどんな人か全く知らなかった。ある本で、ヘレンケラーについて簡単な紹介がありどのようにして言葉を学んでいったのか想像がつかず興味を持って読むことにした。
    ヘレンケラーは1歳の頃病気で目も耳も聞こえなくなってしまい、徐々に成長するも自分の考えを伝えることができずよく癇癪を起こす少女であったが、7歳の頃サリバン先生に出会うことで「ことば」の存在を知り、世界が大きく広がり、愛にあふれた人生を歩んでいくようになった。
    この本は22歳の時に書かれた本の翻訳ではあるが、サリバン先生に出会う前の記憶から19歳でハーバード大学の女子部に合格し、大学に通っている現在のことまでが描かれている。
    目も見えない、耳も聞こえない中、ことばを習得するのは並大抵の努力ではできないと容易に想像がつくが、言葉は英語だけにとどまらずフランス語やドイツ語など5ヶ国語もマスターしている。それだけでなく、歴史や地理、聖書など多岐にわたる分野についても心から興味をもち勉強をし、勉強だけでなく、自然の中での体験や絵や骨董品、演劇などの芸術も好きだったと。普段あまり意識していないと目と耳から情報を得ることが多いが、ヘレンはその両方が遮断されており、残された感覚をフルに使ってそれらを感じ感動するのだと。都会の道と田舎の道が全然違うことも感じるし、しゃべっている人の口にふれることで何と言っているかもわかるのだ。
    自分が同じ状況ならここまでできるものなのか全く想像できないが、出会った人に感謝し自然に感謝しあらゆることに感謝して全てのことに愛情をもって接することが、ヘレンを亡くなって50年以上経つ今も世界的に有名な偉人した大きな要素だったかもしれない。
    愛情に溢れたヘレンを感じて、今までよりも身のまわりのものに愛情を感じられるようになった気がした。

  • ヘレン・ケラーが偉人と言われる意味がよくわかった。
    大学入試や入学後の猛勉強ぶりのタダ者でなさ。
    周りの助けもあったとはいえ、例えば数学で図形を学ぶために、針金で模型を作り、触って理解できるようにするなど、学ぶために労力や工夫がいる。
    授業や講義にはサリバン先生がついていて、教科書の内容と教授の話を絶えず指文字で翻訳してくれる。
    でも、それは時間に連れて進んでいくもの。
    ノートも取っていたようだが、かなりの部分を頭に入れていたようだ。
    凄まじい吸収力。
    子どものころの汚点として書かれている盗作疑惑事件も、この吸収力のなせる業なのかと思った。

    サリバン先生との出会いで、よく語られるのが、あの「ウォーター」のエピソード。
    演劇などでは野生児のようだったヘレンに体当たりで教育する姿が有名だけれど、この本ではほとんどそんなことは出てこない。
    出会って間もなくまず、人形という言葉を指文字で覚え、言葉に魅了されて次々と覚えていく。
    二十一歳の彼女の自伝だからか、むしろサリバンの教育をほとんど抵抗なく受け入れたような印象だ。

    水という言葉は、最初に獲得した言葉ではないようだ。
    それは、彼女が大病によって障害を負うまでに、つまり一歳の赤ちゃんの時には、すでに理解し、それを発音できそうなところまで達していたことがこの本を読むとわかる。
    恐ろしく知的に恵まれていた人だったようだ。
    この自伝で語られるのは、むしろ言葉を獲得し、知識を得ていくことの喜びと、周りの人々への愛だ。
    家庭環境に恵まれなかったサリバン先生が、ヘレンに「あなたを愛している」と伝え、愛というものを教えていく姿は感動的だ。

    最後に、この本で最も驚き、印象も深かったのは、文章の美しさだ。
    「夜明けとともに起きて、こっそり庭に出かけることもある。草花はしっとりと露に濡れている。バラの花を手でつつむと、柔らかな弾力のある感触がする。朝のそよ風に揺れる、ユリの美しい動き――この喜びを知る人はまずいない。花を摘んでいると、花の中にいる虫を捕まえてしまうこともある。花ごとつかまれたことに気づくと、虫は慌てて二枚の羽根を動かす。その時のかすかな振動を私は手に感じることができる。」
    子どものころの思い出を語ったくだりだ。
    全身で世界を感じているせいか、彼女が文学を好んだせいか、描かれる世界が何とも美しい。

  • 2歳頃からの難聴が37歳にして治り、気持ちの複雑さが半端ない。

    ゆえに聾者や難聴者関係の本を読んでしまう。

    だからヘレンケラーを読む。

    小学生向けの自伝は読んだことがあるが。

    まずはじめに驚くのが、電話を発明したグラハム・ベルはもともと聴覚障害者教育に携わっていて、ヘレン・ケラーのアドバイザーだったということだ。

    やはり、という感覚がとても大きいが、聾者は言葉を覚えられない。覚えられるのだが、とんでもない努力をしなければならない。しかも目も見えないので、指で手のひらに文字を書いて言葉を知るのだが、モノに名前があることから知り、単語を知り、文章で理解する、という言葉の広がりをあきれるほど地道に、しかも繰り返していく。

    霧の女王事件では、意図はなかったが、結果として盗作になってしまい、自分の記憶や言葉を疑い、言葉の危険性を知り、言葉遊びをやめて、より言葉使いに慎重になる。

    そして大学に行けるほどの能力を持つことになる。
    宗教心も持ち、人としても強くなる。

    読み手としては、ヘレンケラーの本の趣味を語る箇所が多すぎて、自己陶酔的な面は否めなかったが、3重苦を持った人間が知力を得るまで、どのような訓練をしたのか、その過程を知ることができた。

    また、たぶんほとんどの人は、ヘレンケラーがすごくてサリバン先生がフォロワーくらいにしか思っていないだろうが、この自伝を読むと、二人は一心同体だったことがよくわかる。生活も死ぬまで一緒だったし、授業も一緒に受けている。サリバン先生もそうとう知力がついたのではないかと思ってしまった。

    だから、というかヘレンケラーも自覚しているようだが、その言葉がヘレンケラーの言葉なのか、サリバン先生の言葉なのか、わからなくなることがある。改善の余地はないので、一心同体でよいのか。

    余談だが、ヘレンケラーはこんなに需要があったのだから、リッチなのだろうと思っていた。しかし実際は世の中に必要とされるまで時間がかかっており、42,3から収入を得られるようになっている。(死後も著作が売れているが。)ヘレンケラーでさえも、という感想だ。最後まで希望を捨てなかった彼女はやはり尊敬できる。

  • 22歳のヘレン・ケラー自身によるエッセイ。
    飾らない彼女の言葉はとても魅力的で、その真っ直ぐな心に強く惹かれた一冊。
    なんとなくですが、ここからまた新たな一歩を踏み出せるような気がしました。

  • 著者が大学時に書いた自叙伝。他人の何倍もの努力が実感として伝わるとともに、サリバン先生の粘り強さも生まれ育った環境から培われたことがわかった。2024.1.29

  • 盗作ではないかと糾弾された過去があったことに驚いた。自分の目で見て、聞くということと、他人からの情報を自分のものにすることの違いを考えた。
    ヘレン・ケラーの見える世界は現実よりもはるかに美しく、その感受性には宗教的な影響も含まれていたと思う。

  • 好きなところを備忘的に抜粋。
    ・人は音も光もない「孤独の谷間」を歩く時、あたたかい愛情というものを知らないのである
    ・旧約聖書には、「アロンの杖」が突然花を咲かせる奇跡が語られているが、私の場合も、ことばが、奇跡的に世界に花を開かせてくれたのだった
    ・新たな力に気づいた魂が、ついに束縛から逃れ、かたことのことばを通じて、あらゆる知識、信念を手に入れようと動き出したのである

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著者プロフィール

●社会福祉活動家、教育者。1880年アメリカ生まれ。三重苦を乗り越え、障害者福祉の前進に貢献した。日本へも3回訪れたことがある。1968年87歳で逝去。

「2017年 『ヘレン・ケラー自伝 (新装版)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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