- Amazon.co.jp ・本 (704ページ)
- / ISBN・EAN: 9784102401545
作品紹介・あらすじ
マンチェスター大学の学生寮から女子学生ゾーイが姿を消して6年が経過していた。イヴリンはこの失踪事件にとり憑かれ、関係者への取材と執筆を開始。作家仲間ジョセフ・ノックスに助言を仰ぐ。だが、拉致犯特定の証拠を入手直後、彼女は帰らぬ人に。ノックスは遺稿をもとに犯罪ノンフィクションを完成させたが――。被害者も関係者も、作者すら信じてはいけない、サスペンス・ノワールの怪作。
感想・レビュー・書評
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★5 女子大生失踪の真実は…人間の業と欲望が赤裸々になる犯罪小説 #トゥルー・クライム・ストーリー
■あらすじ
大学寮で女子大学生が失踪してから数年が経過し、駆け出し作家のイブリンはこの事件にまつわる小説を書こうとしていた。同じ作家で友人のジョセフ・ノックスに助言をもらいながら作品の内容を検討していく。
イブリンはこの失踪事件について、当時の学生や関係者たちに取材をしながら執筆を進めていく。この事件の背後には、様々な人間関係と秘密があるようで…
■きっと読みたくなるレビュー
面白い!★5 またしてもトンデモな作品を読んでしまった。
本作、全編にわたって地の文章が一切ない。失踪事件の関係者との取材のやり取りだけで物語が綴られます。途中途中、この取材をもとに小説にまとめようとしている作家イブリンとノックスのやり取りが挟まれ、徐々に事件や人間関係が明らかになっていくんです。
…と、勘のいい人なら、なんかキナ臭い。と感じるでしょう。そう、ここが本作の一番の読みどころで、いったい誰の何を信用していいのかわからない。読めば読むほど世界が燻って見える感覚は、他の作品では味わえない強みだと思います。
そして物語ですが、これまたとんでもない切り口の犯罪小説。人間はなんて自分本位で強欲で情けない生き物なんでしょう。一番見られなくない部分を、これでもかと突き付けてくるという無慈悲な内容なんです。
でもこれが面白くてたまらないのよ。人間の業や欲望が赤裸々に吐き出される「マジかよ」「ウソだろ」ってシーンが何度も登場。登場人物たちには申し訳ないけど、もうニヤニヤが止まらないんですよね。私ってヒドイ。
全員が気持ちいいほど下品で、展開もすがすがしいほど最低最悪。特に女学生の父親が登場するあたりからは、完全にしっちゃかめっちゃかでアゴが外れる。人間って、こんなにも最低になれるんだな…と、むしろ笑えてくる。酷い事件なんだけど、人間という生き物に対して興味が湧いてしまうんです。信用してた友人のことを、実は…と、疑いの目で見るようになっちゃうかも。こわっ
そして台詞のセンスがカッコイイんだよなぁ。日本人にはできない言い回し、駆け引き、皮肉、挑発っぷりが次々出てきて、読んでて楽しい。これぞ海外ミステリー、ノワールにしかない味わいでした。
毎年のことですが、8月9月は各出版社が本気モードすぎるよ。高品質なミステリーが多すぎですね。本作も年末ランクに名を連ねる作品だと思います。
■ぜっさん推しポイント
やっぱり、枠組みや見せ方が素晴らしいんですよね~
読者がホントにあった事件を追っているような錯覚に陥る。見たくもない(でも本当は見たい)人間の闇が、少しずつ明らかになっていく。結末も巧妙で、すっかり作者に罠にはまり夢中になってしまい、読み終わった後も現実世界も戻ってくれなくなる。
巧妙さと不穏さが深く深く心に突き刺さる、世にも(人間が)恐ろしい作品でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ジョセフ・ノックス『トゥルー・クライム・ストーリー』新潮文庫。
『マンチェスター市警 エイダン・ウェイツ』シリーズの著者ジョセフ・ノックスが初めて挑んだノン・シリーズのノンフィクション風クライム長編小説。一種の実験小説のような感じだった。
作家のイヴリン・ミッチェルが女子学生失踪事件を描いた『トゥルー・クライム・ストーリー』というタイトルのノンフィクション原稿にジョセフ・ノックスがアドバイスする形で物語は始まる。
ノンフィクションを徹底するかのように、関係者へのインタビューを中心にイヴリン・ミッチェルとジョセフ・ノックスのメールでの対話、新聞記事の抜粋、Facebookの書き込みなどが描かれ、失踪事件の謎を少しずつ浮かび上がらせようとする形式でストーリーはかなりゆっくりと展開する。
ジョセフ・ノックスが『第二版刊行に寄せて』と『第二版のためのあとがき』という文章を寄稿するという念の入れようだ。
しかし、関係者の発言が細切れで断片的過ぎて、全く全貌が見えて来ない。ストーリーは遅々として進まず、イライラ感が募るばかりだ。大昔、話題になった海外サスペンスドラマの『ツイン・ピークス』のような感じの作品と言えば、解り易いだろうか。
遅々として進まぬストーリー。余りにも退屈な展開が続き、物語は残り20ページ余りで突如として大きな展開を見せ、長い退屈な展開を一切無視するかのような結末が待ち受ける。
2011年末、マンチェスター大学の学生寮から1人の女子学生、ゾーイ・ノーランが姿を消す。失踪から6年が経過しても彼女の行方は判らず、世間の関心も薄れた頃、作家のイヴリン・ミッチェルが事件に関心を抱き、関係者への取材と執筆を開始する。イヴリンは作家仲間のジョセフ・ノックスに原稿を送り、アドバイスを求める。
2018年、ゾーイの双子の姉キンバリー・ノーランが初めてマスコミ取材に応じ、事件は再度注目を集めることになるが、イヴリンは、ゾーイの拉致犯人と思われる人物を特定する証拠を入手した直後に死亡する。イヴリンの遺志を継いだノックスが原稿の整理と追加取材を行い、彼女の遺稿を完成させる。
本体価格1,150円
★★★ -
ものすごく分厚いのですが、途中失速することなく、最後まで楽しめました。
この作品には地の文がなく、作家イヴリン・ミッチェルが10年前の女子大生失踪事件の関係者への取材からの原稿、メールなどの資料から成っています。取材も個々へ行っているのに、それを時系列や内容毎に細かく分けて並べ直しているので、まるで、同時に取材を行ったかのように感じられ、状況が把握しやすく、矛盾もより分かりやすくなっています。
嘘なのか、記憶違いなのか…。嘘だとしたら、誰がついているのか…。
関係者の顔写真、Facebookの投稿、新聞記事などが途中に入ることで、まるで、本当に起きた事件のような錯覚に陥るのも面白く、さらに、作者ジョセフ・ノックス自身が関係者として登場し、作品そのものが真実を語っているのかも疑わしくなります。
ぐいぐい引き込まれました‼️ -
驚愕の結末でシリーズ三部作を終えたJ・ノックスの次なる弾(たま)が楽しみだったが、その要求にしっかり応えてくれたようなノックスらしい一作。何と、驚愕の結末の次は、驚愕の構成と来たのである。何しろすべてがインタビューとメール往還のみで成り立ったアンチ小説とでも言いたくなるくらいの奇妙な体験を、読者は体感することになる。ノックス弾、またやってくれたな、という苦笑と共に、少し慣れない読書時間がのろのろと始まる。
最初に本書を手に取った読者はその分厚さに気圧されるかもしれないが、じつは口語体で多くの人物に事件の周辺を語らせることから始まるこの物語の読み解き方は前衛的でありながら、実は現代という複層したメディアに対し、開いてその活字を読む本という形でのある意味でのチャレンジであるようにも窺え、若い作者ならではの意欲を感じさせもして、どこか頼もしい気がする。
この形式であれ、多くの事件関係者のインタビューを読んでいる間に、何が起こっているのか、その虚実が読者には次第に判明してくる。登場する人物たちのキャラクターや事件の背景も徐々に浮き上がってくる。本当に徐々に。切れ切れのインタビューの合間には、取材者と本作の作家ジョセフ・ノックスその人との間に交換されるメールの文面も挟まれる。怪しげな黒塗りの削除はまるで読者を嘲笑うような、読者への挑戦のような。ノックス、また奇術的な作品を作ってくれたではないか。
次々と現れる女子学生失踪事件の関係者。女子学生の両親も凄く怪しいし、父親の異常性が、本作はサイコなのか? それともこれもまた作者の仕掛けたミスリードなのか? といった疑念を読者に生じさせながら、事件の裏に広がる闇へと向かう読者側の好奇心を嫌でも掻き立てる。口語体のインタビューの合間に新聞記事や、暴露写真などが挿入される。
ほぼ半分を読み進むと関係者たちの個性や、失踪事件の本人である女子学生ゾーイ、彼女がいた奇妙な学生寮という名の魔窟の存在が明確になってゆく。しかし行方不明の真相に辿り着くまでは二転三転がある。インタビューの間に多くの登場人物たちの人間関係図にも変化が起こり、より真実らしい証言が増えてくる後半部は、関係者系図をより拡大させたりと、ページを繰る手が止まらなくなる。ノックスは本書に登場し、事件に関わりながら、新たな殺人事件にも直接的に関係を始める。
どこまでが作品でどこまでが作者の真実なのか、そんな曖昧さでリアルとフィクションの境界線を曖昧にしながら、世界が膨らみと広がりを見せつつ、事件は終息へ。そして多くの人間関係図もやがては明確になってゆく。
本書で味わえるのは、まさに異次元の読書体験。リアルとフィクションの危うい境界線を綱渡り的に辿るなかなかに貴重な読書体験なのであった。最近は、ホリー・ジャクソンのピッパ三部作のようにメディアや現代テクニックを用いた捜査手段や表現種類が急激に広がりを見せている。そんな時代を早期に感じて作り上げられたその一つが本書なのかもしれない。新たな読書体験と楽しみ方を本作で是非ご体感頂きたく思う。