- Amazon.co.jp ・本 (187ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103020325
感想・レビュー・書評
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「知らない人には誰のことか分からなくても、身近な人には佐倉さんだってすぐにわかるように書く。みんな口には出さなくても、心の中で佐倉さんを警戒するようになって、そういう目で見るように。あなたがまわりの人を信じられなくなるように」
最後の最後で『あなたの呼吸が止まるまで』というそのタイトルの意味を理解する。
だとすると、本作の主人公・野宮朔は小学生であるが、自分の意思を言葉ではっきりと伝えることができる精神的に成熟している小学生だなぁと、自分の小学生の頃を思い出して比較してしまう 泣
例えば、『常識』の定義(ここで朔に常識の定義を尋ねることも面白い)を『物事を判断する一般的な基準』、『悪』を『人の、嫌悪感に触れる行動』と説明している。小学生の回答ではない!ただ、ここで朔に言いたいことがある。『悪』の定義の説明に『嫌悪感』を使うと、その中に『悪』という言葉が使われているので、『悪』がわかっている人に対する説明ではないか?と、この反論に対するコメントが聞きたいなぁとつぶやいた。
小学生の回答としては、『善人』の『田んぼのカカシのようなものだと思います』の回答の方が個人的にしっくりするし、好きだ。
こんな思春期に差しかかるおませな野宮朔は小学校6年生、12歳である。両親が離婚したので舞踏家の父と二人暮らし。学校でのお友達は、これまた朔よりも子供らしからず精神的に独立しているというか、はっきりした物言いで周りの大人よりも自分の考えをしっかり持っている鹿山さん。鹿山さんに慕われながら、同級生の田島君に恋したりしながらも一歩一歩、大人への道を進んでいる。
そして、そんな彼女を慕っていたはずの佐倉から突然の性的暴力を受ける。朔の衝撃を佐倉へ伝えるためにの選んだ復讐への決意ーー「知らない人には誰のことか分からなくても、身近な人には佐倉さんだってすぐにわかるように書く。みんな口には出さなくても、心の中で佐倉さんを警戒するようになって、そういう目で見るように。あなたがまわりの人を信じられなくなるように」
ーー「私はあなたを逃がさない。絶対にあなたを許さないから」ーー
鹿山さんが朔を慕う理由、それは鹿山さんが転校してきた当初にクラスの子たちから調理実習でのみそ汁の材料を忘れた時にそこにあったお好み焼きの材料でみそ汁を手際よく作った。出来上がったみそ汁が美味しくて、みんな鹿山さんを責めていたことをわすれた。
その時に「この子は私の失敗を責めるどころか、解決して、美味しいごはんにしてくれた。」と思ったその日以来、鹿山さんは何があっても朔を慕うようになったのだ。なんて、小学生らしからぬ律儀な子供かと思う。そんな鹿山さんが生理の説明の際に、先生に発した言葉に思わずに何て立派な子供なんだろうと、尊敬の念すら生まれた。
一方で、佐倉の行動、言葉には、ずっと違和感を感じる。それは悪い人間という意味ではなく、大人なのに子供のような。例えば「でも僕は今でも肝心なときに引くところがあるから。その場で自分の主張を押し通す反射神経がないんだよ。だから、朔ちゃんがお父さんの踊りのときに僕を助けてくれたときは、この子はなんで良い子なんだろって思ったよ」
朔に自分の感謝の気持ちを伝えてはいるのだが…伝え方が大人の言葉に思えない。他にも「朔ちゃんが18歳になったら、僕と結婚しよう」といった時は、『?!』と、『やっぱり変!』、『ロリコン?』と思うと気持ち悪く感じる。子供から成長のない大人、引きこもっていたからだろうかと、その時は思った。
この後、朔は佐倉から予期しない性的暴力を受ける。この暴力にしても、佐倉に対して不快感はあるが、もともとは朔が自ら佐倉の家に行ったことや、朔が佐倉の家に行く時も遅いからと心配して迎えにきていることなど、まるでふたりが付き合っているかのように錯覚してしまうほど、佐倉の朔への思いが伝わってくるのも確かである。だから性的暴力も朔を独り占めしたいという気持ちの表れであるように思える。確かにそれは歪んだ表現ではある。そして小学生には受け入れることができないだろう。(小学生でなくても、一般的な感覚であれは、女性は受け入れ難い)
小学生には、ショッキングな行動、暴力。許せない朔の気持ちもわかる一方、佐倉がかわいそうな人間に思えてならない。
ただ、それは読者として、客観的に佐倉を見ているからだけであって、多感な思春期の少女にとっては、心が壊れるに等しい暴力であり、「あなたの呼吸が止まるまで、私はあなたのことを許さない。」と伝えることも理解できる。しかし、私は最後まで佐倉に対しては可哀想だと、また不快には感じるところがあるものの憎むことはできなかった。佐倉、朔の双方の気持ちが理解できるように描写されているからかもしれない。
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すごい。12歳なりの解決の仕方。
これ以上にないやり方に復讐だった。お父さんにも言えず友達にも言えず、でも前に進むために考えた最高にやり方。題名の意味もわかった。
12歳が子供でも大人でもなく、子供の世界のなかで大人の世界のなかでこんなしっかりした考えになるのはお父さんの愛にも関係するするのかな。
最後納得するおわりかたでよかった✨ -
小学6年生の朔ちゃん。
父子家庭で、父親は舞踏家だけど、
躍りだけで生活できず、大道具の仕事をしながら生活。
家事などは朔ちゃんが行い、小学生にしては
大人びた感じ。
そんな朔ちゃんが同級生に恋心を抱いたり、
自分の意見をハッキリ言うから周りから嫌われる友人と
仲良くしたり、そして、
父の仕事仲間の佐倉さんとの関係性に悩む話。
夜遅くに帰ってくる父。
離婚後に一度も会っていない母。
大人びた朔ちゃんも、誰かに甘えたいお年頃。
なのに、甘えられない…。
そんな切なさも感じたよー。
だけど、やっぱりラストだね!!
この子は力強い!!
「私、物語を書く人になりたいんです」
「それで、いつか佐倉さんとの話も書きます。
たとえ何十年後でも」
「知らない人には誰のことか分からなくても、
身近な人には佐倉さんだってすぐに分かるように書く。
みんな口には出さなくても、
心の中で佐倉さんを警戒するようになって、
そういう目で見るように。
あなたがまわりの人を信じられなくなるように」
「かまいません。その代わり私はあなたを逃がさない。
絶対にあなたを許さないから。」
朔ちゃんの言葉は重い。
だからこそ、このタイトルなんだなぁーと感じたよ。 -
ラストすごい。
復讐のかたち、そういうことか、、
文字数が少なくて読みやすい。 -
水みたいにさらさらと読んでいたら、ロリコン男によって一気に灰色に塗り替えられた。それまではうっすらと瑞々しいような淡々としているような淡い雰囲気だったのに、急に劇的に変わったことに、痛々しさと書き手の凄さを感じた。そんな風になった後の、何かあったのではないかと思うお父さんの優しさが、柔らかく包み込むようで安心した。大人びているけれど剥き出しな十二歳の有り様が、淡くひりつくようだった。
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読んでいて苦しくなった。
大人になるってどういうことだろう。
いつから、体も心も成熟していったんだっけな…。
我が子には、一つひとつの経験を大切にして、少しずつ地に足つけて、大人への階段を登っていってほしいなぁ。
心だけ、体だけ置いてきぼりになることなく、両方平行して、すこしずつ。 -
最初は読みにくかった幼いですます調の文章が、余計に痛々しく感じる。
結婚してあげる、なんて微笑ましい会話も優しさも今となっては全て裏切られてしまったから。
″誰でもいいから愛されたいって顔で、大人みたいな口をきいて、可愛がられたいときは無防備に近づいてきて、それで今さら子供だからっていうのは卑怯じゃないか″
って台詞にはハッとしたけど、それを12歳の小学生に言ってしまう佐倉さんは無責任な大人だ。
その後すぐに、嫌ならやめる。だけどもう二度と会わない。なんて追い込んだら、寂しい子供は頷くしかないのに。
そこ付け込まれた朔の自責と自己嫌悪を思うとつらい。
ズルい大人への復讐を真っ直ぐ純粋に鋭く言い放つラストに、踏みにじられても汚れない少女の強さを見た。 -
さらりと気持ち悪い。
文体はやさしく読みやすいのに
広がってる世界はかなりダーク。
「嫌悪感」を書くのが相変わらずうまい。 -
12歳という子供と大人の狭間みたいな年齢で揺らぐ朔ちゃんなりの復讐、とても重くのしかかりました
鹿山さんや田島くんとの和やかな関係とは対照的に佐倉さんとのシーンが重々しく描かれていてうっ、ってなった。佐倉さんは重大な罪を犯したわけではないと私は思ってしまったけど、それは12歳の朔ちゃんにとっては酷く残酷なことだったんだろうな