呪いの時代

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103300113

感想・レビュー・書評

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  • 内田樹さんの名前は最近ネットでよく見かけるのだが、著書を読むのは初めだ。しかも、初めての電子書籍。
    内田さんは学術論文も書かれているようだが、このようなごく分かりやすい一般向けの書物を、徹底的にわかりやすく書いている。そのへんのタコ兄ちゃんにでもわかるような文章なので、普段学術書を読んでいる私にしてはちょっと「あまりにも簡単すぎる」という感じを否めない。
    しかも、全体の構成もちょっと甘いようだ。「呪いの時代」というタイトルどおりの内容なのは最初の方だけで、あとはまったく違う方向に話が展開していく。書かれた言葉=エクリチュールというよりパロール。博識なおじさんが若者に、多少酔っ払いながらうんちくをたれているような話しっぷりである。
    最初の方の、ネットにはびこる憎しみの応酬について指摘している部分が最も共感できた。
    「ネット上では相手を傷つける能力、相手を沈黙に追い込む能力が、ほとんどそれだけが競われています。もっとも少ない言葉で、もっとも効果的に相手を傷つけることのできる人間がネット論壇では英雄視される。」
    このへんは2ちゃんねるの類の掲示板や、Twitterでのやりとりをそのまま表していると思う。
    そして『ほんとうの私』という幻想のイメージが「肥大した自尊感情」として現代人の心に巣くっている、という第1章の指摘は優れている。
    しかしその後、話は散漫に広がっていく。福島原発事故に関する話もなかなか面白かった(賛同できる部分が多かった)けれども、全体としては、少し賛同できるが他の多くの部分は首肯できない、という感想だった。
    たとえば「これからは間違いなく贈与経済の時代になる」という確信は何に根拠があるのか。人類学の知のひとつの結晶として「贈与経済」という主題があることは私も理解しているが、「これから、近い将来」そんな経済体制の時代になるなどということは全く考えられない。中沢新一氏でさえ、理想として贈与経済を語ったものの、それが現代社会に復活するとまでは、明確には断言できなかったと思う。
    私としては、資本主義経済を経て贈与経済に移行するなどということは絶対に起こりえないし、夢想しても意味はないという気がしている。
    ともあれ、意見は部分的にしか一致しないとはいえ、わかりやすく書かれ、かつ、読者にいろいろと考えさせる本だし、総合評価としては良質な本だと思った。

  • 140616

  • 私は悪魔と契約せず、著書を見つけた。

  • ちゃんと理解できていなかったからかもしれないけど、難しい本だった。
    全体を通して、今問題視されている様々な現象に関して、政治的な観点から原因を探って議論している印象、特に一貫したテーマはないように思った。
    特に気になったのは、
    ・人間の記号化による9.11同時多発テロなどの犯罪
    ・「天職」という概念による転職ビジネス
    ・原発を「荒ぶる神」として鎮める
    という話だった。
    ネガティブな話題が多かったけど、過ぎたことに対してポジティブに向き合う姿勢がいいと思った。
    意識したわけではないけど、この人の著書は二冊目だった(一冊目は生物の福岡教授との対談)ので、この人の本は俺に合うのかも。

  • アカデミズムの浸透か、政治家の欺瞞か、批評屋が跋扈し、体制をあっさり覆すことに賛成の手があがる時代。
    滋味深い提言が並ぶ。

  • 自分が漠然と感じていることを、簡潔かつ分かりやすい言葉で表現している。この人の思考に触れららることに感謝^o^

  • やはり本書は、内田樹さんの本でいちばん好き。
    テーマも比較的バランスよく、読みやすくまとまっているように思います。
    呪い、婚活、贈与、知性の使い方など、共感できる話が多い。
    内田さんの本がなんでおもしろいかって、ほかの方たちが突き詰めないようなところまで「自分の頭で」考えているからなのでは、と思いました。
    本書は、何度も何度も読み返して、内田さんの感覚をつかんでいきたいところです。

  • なんかすごい怒ってんなーってぼんやりしつつ読んだけど、結婚ってシステムとか大人になるって感覚とかの一考察は現実的で冷静な面白さがあった。

  •  一番印象に残ったのは、9章の『神の言葉に聴き従うもの』です。ユダヤ教に関して、私がずっと疑問だったことの回答がありました。
     厳しい戒律を2千年以上守って暮らしてきたのに、神の助けなく600万もの人が虐殺される。民族存亡の危機に、いま救世主が現れずにいつ現れるの?大戦後にイスラエルが建国されたことをプラス加点したとしても、周辺国からは攻められっぱなしで、落ち着く暇もありません。そんな神さん、私だったら、とっくに見限ってるわ、とずっと思っていました。
     それをレヴィナスという哲学者は、「ホロコーストは人間が人間に対して犯した罪である。人間が人間に対sて犯した罪は人間によってしか購うことはできない。それは神の仕事ではなく、人間の果たすべき仕事である。」と言って説得したそうです。さすがフランス人、大学のセンター試験に哲学の科目があるだけのことはある、と頭の良さに感心しました。

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著者プロフィール

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。神戸女学院大学を2011年3月に退官、同大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。著書に、『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』『街場の戦争論』『日本習合論』(以上、ミシマ社)、『私家版・ユダヤ文化論』『日本辺境論』など多数。現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。

「2023年 『日本宗教のクセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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