- Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103319627
作品紹介・あらすじ
私って「かわいそう」だったの? 「女による女のためのR‐ 18文学賞」受賞第一作! ずっと穏やかに暮らしてきた28歳の梨枝が、勤務先のアルバイト大学生・三葉と恋に落ちた。初めて自分で買ったカーテン、彼と食べるささやかな晩ごはん。なのに思いはすぐに溢れ、一人暮らしの小さな部屋をむしばんでいく。ひとりぼっちを抱えた人々の揺れ動きを繊細に描きだし、ひとすじの光を見せてくれる長編小説。
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
彩瀬さん待望の初の長編書き下ろし小説!期待通り読み応えのある一冊でした。
「毒母モノの傑作」と一部で評されており、確かに「抑圧する母親からの自立」がテーマのひとつではあるが、登場人物らが抱える心の闇が幾重にも重なり、それぞれに苦しみながら殻を破ろうとする過程がとてもよかった。
ドラッグストアに勤めるアラサーの主人公・梨枝。大学生のバイト・三葉君と付き合うようになり、それまで自分をがんじがらめにしてきた母の存在が疎ましく感じられ始める。母親の言動がひとつひとつ息苦しいが、話の中でも語られてるように、「毒母」とはいえすさまじく恨めしい、というほどの存在ではない。かつて乳児の弟を亡くし、父と離婚してからは女手一つで自分と兄を育てた。そういう過去があるから母を憎み切れず、「かわいそう」な存在と語る梨枝。でも、人と比べて何が普通なのか、常にものさしで計ろうとする梨枝の生真面目さが、己の心をしめつけている。
一見快活だが、時々見せる三葉君の冷たさに、彼も何か抱えているのではないかと感じさせられる。少しずつ綻び始める梨枝と三葉君の関係。一方で、梨枝が独り暮らしを始めると同時に実家に引っ越してきた兄夫婦との同居に、母も翻弄されていた。兄・そして兄嫁の雪、ぎくしゃくする3人はそれぞれにひっそりと足掻き、心の距離が縮まらない。更には、ドラッグストアの常連で、必要以上に頭痛薬を買い込む「バファリン女」の存在。それぞれにヘヴィーだけれど、それでも重苦しくならずに読めた。登場人物らの不器用さが際立つけど、だからこそ彼らの悩みに共感できるのかもしれない。
最後の方の、皆で餃子を作るシーンがとても好きだな。波打つ感情への寄り添い方が、さり気なく優しい。そんな彩瀬さんの描写に好感が持てます。全体的には地味かもしれないけど、心に刻まれる言葉の選び方が印象的だ。心をぎゅっと掴んでねじられるような感覚に捉われるけど、何とも言いようのない切なさに泣きたくなったり。作中に出てくるさざんかの「赤」が鮮やかに感じられ、色々なものを象徴していてとても効果的だった。
「R-18文学賞」受賞作家はハズレなしとこれまでも同賞受賞作家のレビューで述べてきたが、やっぱり今回も同じセリフを言いたくなります!本書の彩瀬さんのプロフィールに「手触りのある生々しい筆致と豊かなイメージにあふれた作品世界で高い評価を得る」とありましたが、本当にその通りだなと感じております。これからの活躍が楽しみ!応援し続けます。 -
母親に萎縮して、物事を判断するのに母の価値観が色濃く出てしまい、それを打ち破りたくても竦んでしまって打ち破れない主人公。この程度の親子関係や、生きる技術に不器用な人はざらに居ると思うけれど、微に入り細に入り巧みに表現されて鮮やかでした。初めて読む作家さんですが、作者さんはまだ27,8歳とか?素晴らしい感性だと思います。
-
初読み作家さん。読み友さんが複数オススメされていたので読んでみた。とても好みな文章を綴る人だと思った。内容は決して明るくも前向きでもない。でもなんていうんだろう。。一つ一つの言葉がストンと落ちてくる感じが心地よい。28歳でドラッグストアの店長である梨枝が抱える母との確執。年下の彼・三葉との不器用な恋愛がとてもリアルでとても惹きこまれた。自分の悩みを誰かに分かってもらいたいと思うがいざ言葉にしてみると 「イヤこんなこと言いたいんじゃない」と思う。梨枝のカミングアウト後の三葉の反応が綺麗事でなく良かった。
-
身に覚えのあることが多く…のめり込むように、肩入れして読みました。
何気ない場面や出来事の中から、等身大の女の子の気持ちがひしひしと伝わってきます。
『身体と中身が一致しない、グロテスクなオトナコドモだ。』
自分のことをそう語る彼女は年齢でいえば立派な大人なんだけど、女性っていうよりは女の子、なんですよね。
ぬくぬくと守られ、それを享受してきた。近くなるればなる程、人間関係は煩わしくて難しい。
カテゴリーでいえば恋愛小説なのでしょうが、オトナコドモからの成長記に感じました。