- Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103325444
作品紹介・あらすじ
気づかないうちに、夜は、人の心を侵す――抗えるか、それとも、流されるか? プロボクサー、タクシードライバー、交番の警察官、高校教師。その夜、四人の男女は、人生の境界線上に立った。あの日のあなたと同じように。選択の瞬間、夜に潜む魔物が、そっと背中を押す。選んだのは、善? それとも悪? 人間の強さと弱さを繊細な視線でとらえ、忘れられない物語に昇華させた著者会心の書き下ろし長編。
感想・レビュー・書評
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小野寺さん5冊目だが、今までの本と違い、暗い内容で読むペースが一気に落ちて、何冊も時代小説を間に読んでしまった。本の帯に「その夜、四人の男女は、闇に侵された」とあった。四人を別々に主人公とした短編だが、個々に何らかの関連を持つ。
人気のある対戦相手を倒して頂点を感じたボクサー、そのボクサーの支払いを間違えて多く受け取った女性タクシー運転手、そのタクシーで大酒を飲んで帰宅した警察官、その警察官に自宅で殴られた教師の妻。酔った警察官に殴られても抵抗せず重傷を負ったボクサー。
暗い、暗すぎる。夜の闇に飲み込まれたようで苦しい。最後の数ページでやっとの夜明け。微かな光明を見る。
今までの作者の主人公像は逆境でも淡々とした素直なイメージだったが、違ったようだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
明るさのない一冊。
明るさのない小野寺作品は初。
ちょっと戸惑いつつも淡々と綴られていく世界は健在。
どんどん読まされた。
夜をベースに紡がれる四人の人生の一ページ。
夜って、鬱屈した自分が解き放たれる時間なのかも。
昼間の服を脱ぐように解き放ちたい時間なのかも。
そして昼間以上に物事に対して敏感になるのかも。
月に押し出されるかのように、時には誰かによって押し出されるかのように迎える朝。
ちょっと心配な人も一人いたけれどきっと朝の光で周りが、全てが、大切なものが見えるはず。
終始暗かったけれど、うん、読後感は悪くない。 -
小野寺さんのこういう作風も嫌いではない。特別な主人公ではない岐路に立つ男女4人の迷いが夜の闇に現れる。試合に負けたボクサー、借金を背負った女性タクシードライバーに続き、仕事も夫婦関係もうまくいかない警察官と妻の高校国語教師ら。まるで彼らは私たちの日々の暮らしを代弁してくれているようだ。夜が来て、深夜の闇に紛れ、善と悪の狭間に身を置き、悩みすれ違う。自身に年齢が近かったせか、最後に登場した警官の夫婦間に交わされる会話は身につまされた。夫は交番勤務の坪田澄哉で、転勤先の上司とうまくいかずに、早番の日は家に帰らず梯子酒で憂さを晴らしていた。妻の荒木奈苗は、結婚後も勤務先の高校で独身時代から名乗っていた姓を変えずに、教師を全うしようとする真面目な女性。戸籍上は籍を入れているのに。もうしばらく待ってごらんなさい、時が経てば変わるのにと忠告したくなるのはおせっかいかしら。
それぞれの夜を過ごし、それぞれに迎えた朝を描いてある。短編は苦手だがこういった連作短編集だったら、思いを途切れさせずに読める。
人は夜を生み、夜に倦み、夜を積み、夜に摘む。
眠れない夜が続くのはとても辛い。眠れない頭は次々と妄想をこしらえ、深みに嵌まってしまいがち。夜を迎えるのが怖くなり、睡眠導入剤で早く眠りの世界に誘われ救われたいと思う時もある。
『夜とは日の入りから日の出までの間。大事なのは太陽だ。人は太陽の動きを意識して暮らす。対して、月を意識することはあまりない。夜空に月が浮かぶのを見て、出てるなと思う程度。月が午前八時にも午後一時にも出ることを知らない人もいる』
と、冒頭の一文を読み直した。
一応は理解できる。でも、月は太陽の光を反射して輝いているために、太陽と比べて淡い明るさしかない。たとえ満月でも、闇を照らしても奥深い心の中までは届かない。やはり朝がしらじらと明け太陽が昇り世界が見え始めて、あれは妄想だったのだと救われる。そんな時もある。 -
やはり、小野寺史宜さん、面白い!!!
人間模様が細かく書いてあるんだけど、サクサクと読める具合が凄く良い。
小野寺さんの作品を読むと、色々な職業の事が知れるからすごく面白いし、今までと違う目線で考えたりすることが出来る。
それと、話が繋がっているので、『次、どうなるんだろ〜!!!』という、ワクワク感もある。
タクシーの話はタクジョと繋がってる?笑笑 -
「善と悪の境界線に立つ、四人。その背中を、夜に潜む魔物がそっと、押す」とまがまがしい帯の言葉
『今夜』のタイトルに沿ってか、黒い暗い装丁。中表紙も次のページも全部黒。
えっ、この本って、小野寺さんの作品だったよなと確認し直したぐらい今までの雰囲気とは違う
ドキドキ、わくわくしながら読み進めたら、やっぱり小野寺作品だった
誰にでも必ずしも夜は訪れる
1日の疲れを休めるくつろぎの時間として?
暗闇から忍び寄る誘惑の手として?
その夜、四人にどんな夜が訪れたのか?
12勝2敗の戦績を持つプロボクサー直井蓮児
25歳の女性タクシードライバー立野優菜
やる気のない上司の元で毎日憂鬱な交番巡査の坪田澄哉
親からの電話に悩まされる高校国語教師の荒木奈苗
それぞれ夜の誘惑?に負け、踏み外しそうになるあと一歩のところで踏み止まる。これが小野寺さんの小野寺作品たる所以だろう
ある者は恋人の顔を思い出し、ある者は尊敬する先輩の電話の声が聞こえてきて、ある者は良心の呵責で思いとどまる
そして暗い闇の中に、ほんのりと夜明けの兆しを感じさせるエンディングがすてきだった -
ほぼほぼ群像劇という印象ですがこれもそうです。袖振り合うも他生の縁という町でのちょっとしたすれ違いで、つながる人と人の縁。本人たちが意識しない所でちょっとずつすれ違う心のボタンの掛け違い。他人から見えない心の小さな染み、ほころび。それが招く大きなほころび。
新しい切り口では全くないけれど、ドキッとしてひきこまれる瞬間も有り、興味深く読みました。月というものから始まったけれど、それを生かせているかは疑問・・・。 -
タクシードライバーの女性が出てきて、もしや「タクジョ」の彼女かと思ったら、別の女性だった。仮に同じ月を見ても、皆に違った人生があるんだなとしみじみ思った。今の私は三連休の最後の晩にビールを飲みながら、のどかにこれを書いている。幸せだ…。
小野寺さんの小説は登場人物がかぶる時があって面白い。川のシリーズの皆よりは、シリアス調の感じだったように思う。
タクジョの彼女の編を読み、やっばり嘘つくと後で苦しむのよねと思った。
警察官の最初の上司の刈谷さんの言葉が良かった。
「誰だって間違いを犯すことはあるよ。大事なの
、その後どうするかだ。やるべきことをやるしかない。やり続けるしかない。ちゃんとやってればどうにかなる。見てる人間はちゃんと見てるから」
誰かが誰かの言葉で励みとなる。頑張る人に幸あれ! -
「ひと」「まち」などといったほのぼのした話とは違い、今作は焦燥、殺伐、混乱、自戒といった言葉が似合う作品。
人間誰しもが持つ「内面の弱さ」に向き合う必要性を感じられる。