図書室

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 994
感想 : 75
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  • Amazon.co.jp ・本 (173ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103507222

作品紹介・あらすじ

四十年前の冬の日、同い年の少年と二人で、私は世界の終わりに立ち会った。定職も貯金もある。一人暮らしだけど不満はない。ただ、近頃は老いを意識することが多い。そして思い出されるのは、小学生の頃に通った、あの古い公民館の小さな図書室――大阪でつましく暮らす中年女性の半生を描いた、温もりと抒情に満ちた三島賞候補作。社会学者の著者が同じ大阪での人生を綴る書下ろしエッセイを併録。

感想・レビュー・書評

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  • 「何かを激愛する、ということを久しくしていない。何かを激愛したい。それで振りまわされたり、困らせたり、たまに泣かされたりしたい」

    50歳、独り暮らしの独身女性の美穂。
    定職もあり貯金もあり、何不自由なく日々を平穏に暮らしている。
    けれど、ふと思い出すのは11歳の頃の出来事。
    近所の公民館の小さな図書室で、毎週土曜日の午後になると一人で本を読んでいたっけ。
    そこで出逢った同い年の少年と共に過ごした淡い記憶は、今となっては追憶に空想が混じった曖昧なものもあるかもしれない。
    けれど大人になった今もはっきり思い出すのは、二人が共に体感した"地球の終わり"。
    家族も友達も猫も全てを置き去りにして、二人きり、世界の果てで真剣に語り、不安になり泣いたあの夜の出来事は、心の奥で今なお生きている。
    あの一瞬の激情があるから今がある。

    今振り返ると、ほんまあほみたいやけど、あの時二人で相談して決めた娘の名前は、40年経った今でも忘れない。
    美穂の終始淡々とした語り口が、余計に切なく心に刺さった。

    後半は自伝エッセイ『給水塔』。
    大阪の街っておもろいな。

    「どんなひとにも人生があり、どんなひとにも内面がある」
    「どの街にも、その街の人生がある」

  • ●『図書室』
    一人暮らしの50歳の女性、子供の時に図書館で知り合った少年との会話を思い出す。
    大人になって淡々と生活している今の自分の生き方に少年との思い出が繋がっていたことを懐かしく思い返す。

    誰でも子供の頃、遊んだ友達、秘密基地していた場所、笑い転げたこと、大泣きしたことなどの思い出がある。なんであんなに笑ったのか、泣いたのか、思い出せないけど自分達の世界で何も疑うことなく一生懸命に生きた時間。
    2度と戻ってこない時間だからこそ、大人になってとても懐かしく胸が熱く感じる。

    あの時の友達は、あの場所はどうなっているのか、、自分の子供の頃も思い出しながら暖かい空気感の中に引き込まれまる。
    家族や出会った人やペット達。もう会えないが、今の自分の中に確かにいる。
    そんなことを感じさせてくれる本でした。

    自分の心の中を見つめ直しこれからも大切に生きていくことを思う本です。

    ●『給水塔』
    著者の自伝的エッセイ。
    大阪の街を背景に将来や生きることに悩みながらも前を向いて歩いていくことを描いた話。

    日雇い労働をしながら1日1日を生きる為に働いてきた著者。
    絶望のような日々の中で学生時代に通った道、駅までの道、光、空気から生きていく光を見つけ出していく。確かに自分が歩いてきた道があったことに気づいていく。

    「暗い穴の底のようなところで暮らしていても、いろんな偶然が重なって何か自分というものが圧倒的に肯定される瞬間が誰にでもある」

    「飼っていた犬の世話を通してこの世界には何か温かいもの、嬉しいもの、楽しいもの、好きなものが存在するのだと言うことを教わった」と著者は経験から語る。

    この言葉に救われる気持ちになる。
    生きていく希望が自分の周りにたくさんあることを教えてくれる本。
    たくさんの人に読んで欲しい一冊。

  • 子供2人の会話のテンポが良くとてもいい作品だった。
    子供の頃を思い出す、大人の女性。
    自分の母親の事、猫の事。
    そして図書室でいつも出会う男の子の事。
    その子との不思議な冒険。

    後半は作者のエッセイ。
    私の知らない大阪がいっぱい。

  • 今でも公民館の図書室はあるのだろうか?

  • 古い団地にひとりで暮らす50歳の美穂、平穏な生活に幸せを感じている…

    静かな追憶の物語が心に沁みるのは、日本の社会構造の中で暮らす実際の人々を数多く見てきた社会学者である筆者が、現実の上に創り上げた物語だからか。
    僕の中にもある断片がどこか美穂に重なる。

  • 何かの書評で面白いかもと思い読みました。幸せと言い切れないが、取り立てて生活に不満は持っていない中年から初老になりつつある女性が小学生のある時期を思い出すと言うストーリーです。既に初老になってしまった私(性別は違いますが)にとって、そう言う状況に大いに頷ける部分があります。淡々とした物語の展開が心地よいです。物語に登場する淀川の河川敷も懐かしく読めました。それと作者によるエッセイが、面白い。作者が、あまり勉強はしなかったが進学できた大学が私の母校であり、10歳ほど年下の作者の青年時代と重なる部分も多々あり、懐かしい場所も登場して、いたって個人的ではありますが、いい読書ができました。

  • 2部構成の話になっている
    1部目は「図書室」というタイトル
    大阪の別々の学校出身の小学生2人が、世界から人がいなくなって自分達2人しか生きていないことにして、スーパーで缶詰を買い淀川の河川敷にある小屋でお話しする話
    特にこれといった内容は無いけど、2部で著者が何もないことを、特別じゃないことを、書き出したいって言うことをお話しされていて、
    何もないことだけど実はそれぞれの人生の背景に何かがあったり
    文字の羅列の出来事からは想像もできないことが人の歴史にあったりするから
    一部を一発目に読んでうーんと思ったけど、2部の「給水塔」を読むと1部をもっと違う読み方で読めると思った


    2部「給水塔」めっちゃ面白い
    っていうのも著者岸さんの学生時代から今に至るまでの話だから。
    なんで著者の話が面白いかっていうと、
    私も著者と同じく「大阪」に
    「東京的なものが嫌いで、もっとアジア的なもの、もっと風変わりなもの、もっと混沌とした、危険な、自分勝手なもの」(p.117)を求めてるからだと思った

    大阪をすっごい美化?してるけど
    でも、1部の話って大阪の話やん?
    面白くないってさっき自分言ったじゃん?
    完全に見落としてた、今気づいた
    ーーーー
    それと、岸さんがPodcastに出てたときの番組で、司会の女性が「世界っていうけど、それってその場所のローカルなんだよね、ローカルはグローバルだし、グローバルはローカル」っていうの聞いて、ちょっと感動した
    他者(人にかかわらず)に変な期待抱くのやめるようになったかもしれない
    ーーーー

    作中で紹介していた「小松左京」の「少女を憎む」気になった、sf 作家みたい 日本沈没も書いてるんや



    他にも色々と解決策が思いつきました。
    あとやっぱりエッセイ好きだな

  • 「図書室」主に会話で綴られる、あるかつての女の子の出会いと別れ、そこにあった図書室の話。私は少女の語りを男性にされると違和感を覚えてしまうタチなのだが、こちらは全く違和感なく読んだ。大阪の持つ、あのうら寂しさや切なさが胸に迫る。外向きに演出された大阪じゃないのが嬉しくて、好きだ。
    「給水塔」後半に収録されたエッセイ。大阪へのものすごい愛。読みながらぐずぐずに泣いてしまった。大阪に帰りたくて。街の空気を吸いたくて。

  • 「図書室」は以前読んだリサ クライン・ランサムの「希望の図書館」に似ている。孤独な少女が居場所としての公民館の中にある日当たりの良い図書室との出会い、そこで出会った少年との出会い。なんか切ない。
    書き下ろしの自分史的な「給水塔」を読んで、岸政彦さんに興味を持ってしまった。大阪人より大阪ラブな人やな。あびこの居酒屋におったら会えるかな(^^ )

  • 中篇「図書室」と、エッセイ「給水塔」を収録。
    どちらもとてもよかった。
    私が知っている少し前の大阪が詰まっていました。
    懐かしく、自分も一緒にその時代を過ごしたような楽しさ、もう2度と戻ることができないと知ってしまった寂しさ、その両方を大切に心にしまうことができる時の流れも感じ、こころが温まるような気がしました。
    エッセイの中で、万博公園にある大阪国際児童文学館について書かれていることが嬉しかったです。私の人生にも大きな影響があった場所だったので、居心地の良い閲覧室や静かな研究ブースの思い出、そこがなくなってしまったこと、今は廃墟のようになっていることを書いてくださっていたことが、とても嬉しかったです。

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著者プロフィール

岸政彦(きし・まさひこ)
1967年生まれ。社会学者・作家。京都大学大学院文学研究科教授。主な著作に『同化と他者化』(ナカニシヤ出版、2013年)、『街の人生』(勁草書房、2014年)、『断片的なものの社会学』(朝日出版社、2015年、紀伊國屋じんぶん大賞2016)、『質的社会調査の方法』(石岡丈昇・丸山里美と共著、有斐閣、2016年)、『ビニール傘』(新潮社、2017年)、『マンゴーと手榴弾』(勁草書房、2018年)、『図書室』(新潮社、2019年)、『地元を生きる』(打越正行・上原健太郎・上間陽子と共著、ナカニシヤ出版、2020年)、『大阪』(柴崎友香と共著、河出書房新社、2021年)、『リリアン』(新潮社、2021年、第38回織田作之助賞)、『東京の生活史』(編著、筑摩書房、2021年、紀伊國屋じんぶん大賞2022、第76回毎日出版文化賞)、『生活史論集』(編著、ナカニシヤ出版、2022年)、『沖縄の生活史』(石原昌家と監修、沖縄タイムス社編、みすず書房、2023年)、『にがにが日記』(新潮社、2023)など。

「2023年 『大阪の生活史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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