鳥類学は、あなたのお役に立てますか?

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103509127

感想・レビュー・書評

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  • この本は川上和人さんが鳥類学者としてどのようなテーマを選び、どのように考え活動しているのかが書かれています。
    川上和人さんのことを知らず、これまでの著作を読まずに本書を読んでしまった人には少し退屈かもしれません。
    川上ファンの私ですら、3章くらいまで「この本で何を伝えたいのだろう?」と思いました。

    噴火により地球上で希少な生態観測の場所となった西ノ島でしたが、再噴火で調査計画の見直しとなってしまったのは残念です。
    溶岩と火山灰で島全体が覆われ生物が死滅してしまったのが2020年8月ですが、2021年7月に西ノ島の再調査が始まりました。
    植物は見つかりませんでしたが、何と、海鳥の繁殖が確認されたそうです。
    9月にもう一度調査に向かうらしいので、調査報告が楽しみです。

    「オガサワラカワラヒワ」、地味ですが可愛らしい姿の鳥です。
    個体数が激減しているこの鳥を確実に絶滅させる方法を考えることで、絶滅に至る要因を排除し何とか保護しようとしています。

    本書の目的はこれでした。絶滅危惧種「オガサワラカワラヒワ」の知名度アップと保全。

    ならば、啓蒙活動に協力しなくては!
    よろしかったら、以下のウェブサイトを覗いてみてください。
    https://ogasawara-kawarahiwa.jimdofree.com/

    4章から6章は面白かったです。
    日本鳥類目録の編集(2012年の目録第7版)の話では、三浦しをんさんの「舟を編む」を思い出しました。
    DNA解析により分類が大きく見直されたり、デジカメの進化で撮影記録が飛躍的に増加したりで大改訂が必要となったようです。
    ほぼ10年で改訂されるらしく、2022年には第8版が出版されるらしいです。
    「日本鳥類目録」を見てみたくなったのですが、図書館に蔵書がないので諦めました。

  • 期待通りに面白かった。やっぱり川上先生本もハズレなし。
    ほんとにヲタツボがものすごい範囲で被ってるので、細かい例えや形容が尽く刺さってくる。
    「例えば、左手がサイコガンとなった動物の集団がいるとしよう。サイコガンは精神エネルギーを弾丸として撃ち出す器官であり、他種を容易に制圧できる生存上有利な形質と言える。
     突然変異によりサイコガンを持つ個体が集団内に出現すれば、他個体よりも長生きでき配偶相手にも恵まれ、より多くの子孫を残せる。その結果、この形質は集団内に速やかに広がり、全個体がサイコガンを持つ種が生じると考えられる。
     このように、生物学では現代に存在する条件から進化の歴史を推定してきた。」
    これは、非常にわかりやすく、萌え要素満点の説明文(笑)。
    こんな感じで本当にエキサイティングでアンダスタンダブルな文章が怒涛のように攻めてくる。そして、笑い、楽しみながら鳥や環境に詳しくなる。
    メインは島嶼の研究活動の話ではあるが、川上先生のブレインストーミングをちら覗きしているような感じ。特に多くの人に読んでほしいな、と思うのは絶滅危惧という言葉について考察するくだり。
    そして、名言、名文章も多い。
    「おわりに 鳥類学者の役と得」の9ページは必読。授業で使いたいぐらいである。
    「なぜ自然を守るのですか?」
    『生物の絶滅とは、この「知」の源泉となる存在をこの世界から永遠に消し去ることを意味する。未読の書籍を火にくべる焚書にも等しき行為だ。』
    オガサワラカワラヒワがサバイブするよう、祈った。

  • 農繁期に読んでそのままだったので、今中身を思い出そうとしたが、無駄なのでもう一度読んだ。相変わらず人を食ったような文章である。が、読み進めると人を食ってるのではなく、人の脇腹をこちょこちょっとやって笑わせておいて、財布を抜き取・・・いや、肝心の、餌を置いてあるところまで誘き寄せているのである。この場合、餌は離島の環境保全であり、オガサワラカワラヒワである。
    私はまんまと引っかかり、見たこともないオガサワラカワラヒワのために寄付を投じてしまうことになった。私だけではくやしいので、この本を読んだ皆さんもぜひ引っ掛かっていただきたい。勢いでTwitterもフォローした。日々、南の島の自然が観察できるのでおすすめだ。
    内容については帯の言葉が全てを語っている。
    「センセイ、どうして鳥の研究をするんですか?」
    「楽しいから。他に理由が必要かい?」
    私のように鳥好きでなくとも、たぶん、読めば楽しい。

  • 鳥類学者さんのエッセイ。研究者として、生物学の基本的なことや、分類であるとか絶滅であるとか外来種であるとかの概念の定義など小難しくなりそうなことどもを、ごくごく平易な言葉で平たく淡々と説明してくれつつ、これでもか!というくらいのおびただしい小ネタを繰り出しながら、絶妙のバランスで反則技ギリギリくらいの比喩を織り混ぜて、どんな手を使ってでもご自分の専門の研究分野であるオガサワラカワラヒワという絶滅の危機に瀕している鳥への関心を高めたいという切実な願いを、持てる力を振り絞って訴えかけてくる、という作品でした。ふざけているのに書かれていることは真剣で、つまり興味を広くもってもらいたいがために真剣にふざけていて、読みごたえがありました。小ネタの全部は分からなかったかもしれないけれど、面白かったです。

  • 絶滅を確認するのは大変なんだな、と思った。
    しかもそれが目録作成にも影響しているのがよけい大変そうだ。
    外来生物について、さまざまな事例をあげつつ多角的に解説している。
    そういえば日本列島では人間も到達時点では外来生物だったんだよな、とちょっと思う。

  • 研究者の方の著作で「中禅寺秋彦」の名が出てくるとは…オガサワラカワラヒワ、覚えました。

  • ーー生物の絶滅とは、この「知」の源泉となる存在をこの世界から永遠に消し去ることを意味する。未読の書籍を火にくべる焚書にも等しき行為だ。(p.234)

    大好きな川上和人先生の鳥本〜!
    今回も小ネタ満載で、人前で読むのが憚られる(声出して笑っちゃうから)。

    これまでの著作との違いは、冒頭に引用した部分にも現れているように、先生の中に危機感というか使命感というか、なんかそういうのがあるところ。なので、『鳥類学者だからって……』のようなエンタメ性100%本を期待すると、あれ?ってなるかもしれない。
    けれど、自然保護や生態系保全のこと、そして研究活動のことを楽しみながら知ることができる本。

    知らない世界を知ることは、人間にとって純粋な喜びなんだと先生は書いている。この本を読むことで、そういう喜びを感じることができる。

    さいごに。
    オガサワラカワラヒワ、オガサワラカワラヒワ、オガサワラカワラヒワ。

  • 川上先生にしてはテーマがはっきりしてて、鳥と島に興味を持って研究者になってくれたら嬉しいな、オガラヒワを知ってほしいな、自然てすごいな、研究すると楽しいな。

    御意。

    とっても良かったです。

    ただ、相変わらず情報量自体は三分の一くらいで、まず、川上先生に興味を持ってもらわないといけない本でした。

    はまんない人は、絶対無理だろう。

  • オモシロ鳥類学者の雑記というか妄想記というか研究録というかいろいろ続編。

    良かった編
    ・目録編集物語
    軽い気持ちで引き受けた目録改定のドタバタ記。
    作業内容を甘く見て進捗管理が死ぬところとか、時間がないのにお互い引くに引けなくなっちゃうとか、あるあるすぎで笑った。「この経験を生かして・・・!」とか思っても次は10年後で別の人間が担当(引継ぎとかなさそう)なので、多分これ次も学習しないデスマーチが繰り広げられるんだろうなーと思うと切ない。そして「古い目録が時代遅れになることは研究者としての喜びだ。なぜならばそれこそが鳥学の発展の証拠だからである」の一文に、骨の髄まで研究者だなーと眩しい気持ちになった。

    良くなかった編
    特にない。相変わらず話の飛び具合がカオスだけど、慣れというか、もうこれはこの人の個性というか、こういう読み物なんだと思うことにする。3Pにいっぺんくらい「なんでやねん!」ってツッコミたくなるけど。賢いんだか馬鹿なんだか、真面目なんだか怠惰なんだか、多分両方を内包する暴走っぷりでまた楽しませてくれたらそれでいいよと。

    総評
    前の「~鳥が好きだと思うなよ」から5年たってる。調査技術は進歩し、フィールドワークの体力は衰え、時間の流れを感じるとともに、鳥好きオタク好き妄想好きは健在で、変わってなさに安心感を覚える。最近ちょっと気分の落ちる本を読んでいたので、反動で馬鹿馬鹿しいのを読みたかったのですよ。挿絵も可愛いしアホ話の合間にちょっぴり賢くなった気がするし。

  • 相変わらず面白いバード川上氏のエッセイ。突然しれっと「たとえば、左腕がサイコガンとなった動物の集団がいるとしよう」って書かれてて、電車で吹き出しそうになったわ。居ないよ!そうなったら、皮膚がスケスケになる進化をした動物は絶滅だよな。しかしそんなギャグまみれの中で、自然環境や鳥についてのまじめなことも書かれているので、やはりいつもながら侮れない。

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著者プロフィール

森林総合研究所・島嶼性鳥類担当チーム長。西之島など離島の鳥類調査に従事。チーム名は自分で提案したのだが,「島」と「鳥」という字が似ていて時々混乱する。

「2023年 『羽毛恐竜完全ガイド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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