21世紀の戦争と平和: 徴兵制はなぜ再び必要とされているのか

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103522515

作品紹介・あらすじ

「逆説の平和主義」を注目の国際政治学者が読み解く。日本の安保法制施行、フランスの兵役復活論、スウェーデンの徴兵制再開……これらの動きは、軍国主義への回帰ではない。ポピュリズムが台頭する中で、国民の間に負担共有の精神を甦らせ、戦争を抑止するための試みである。カントの『永遠平和のために』を下敷きに、徴兵制の存在意義を問い直し、平和主義の強化を提言する。

感想・レビュー・書評

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  • シビリアンこそが攻撃的になり、軍事行使に反対する軍人に戦争を強要する事例が多数見られる。シビリアンのジレンマ。
    現代の限定的な戦争ではシビリアンが負う戦争のコストは相対的に低いし、「血のコスト」の負担が一部の階層に集中するので、現実の犠牲が国民全体に強く感じ取られることはない。
    徴兵制導入は経済的にも実務の上でも非効率であることは前提として考えなければならず、徴兵制は現実の戦争にはもはや役に立たない存在となっている。それでも国民自身が「血のコスト」を意識するためには徴兵制が必要。

  • 4章以降を読んだ

    【4韓国】
    ベトナム戦争による「分配なき戦争状態」の例外
    年金の公務員・軍将校に対する過剰な優遇
    ベトナム戦争は志願のかたちであったが、実態は貧困者の賃金目当て

    ベトナム戦争に対しての二極化する言論
    1共産主義に対抗するため
    2不条理かつ不正な戦争だった

    民主化によって、民意へ
    イラク戦争

    太陽政策はあまり効果なし
    しかし国内政治において
    1宥和的な対北政策を野党ではなく政権として
    2継続政策がおおく支持された
    というインパクト

    保守化へ
    民主化後の韓国世論は戦争リスクに敏感

    徴兵制度への不満
    女性へ あるいは 免除される社会的地位の高さ

    虐待・自殺
    そしてリベラルへ

    近代国家建設・民主化・自由化のペースがはやすぎて、世代間格差・認識にズレ

    【5イスラエル】
    自警団ハガナーを基礎

    労働党とキブツ
    宗教右派(ベリ・グリオン)

    六日間戦争(第三次中東戦争)によって
    小規模な共和国→占領地の拡大

    ヨムキプール戦争
    プロからシビリアンへ

    パレスチナ解放機構のゲリラに対抗してレバノン本拠地を襲撃する第一次レバノン戦争

    普通の国になりたいという欲望
    インティファーダという民衆蜂起

    【6ヨーロッパ】
    【スウェーデン】
    徴兵制度廃止 国際貢献という名目
    軍は移民二世によって組織
    →ロシアによる脅威から徴兵制度復活

    【スイス】
    中立
    戦わないし、移民を統合しない

    【ノルウェー】
    リベラルな徴兵制度
    女性も
    同盟重視と移民コントロール

    【フランス】
    復活論
    アルジェリア戦争は微集兵
    形骸化とテロ

  • 何を言っているのかよくわからなくて途中で断念。

  • 世界平和を構築するためには、様々な次元での取り組みが必要である。核抑止力、国際法や国際機関の役割からNGOなどによる活動、グローバリゼーションがもたらす経済や人の交流の影響など、それぞれが一定の役割を果たしていると考えられる。

    そのような中でも、国家を単位として形成される政府の意思決定と行動がどのようにして平和を構築できるかという問いは、相変わらず重要性を持っている。国家自体が対外的に戦争をする権限を持ち、対内的にも国民を保護する役割を担うとともに国民に対する権力を行使する主体として明確な権限を有する主体であるからである。

    このような国家による平和の構築のための条件として、筆者は、エマヌエル・カントが『永遠平和のために』の中で論じた諸条件を下敷きに、求められる方向性を検討している。

    大きくいうと、民主主義国家の中で正しい戦争を判断し、負担の共有を図りながら、国民国家としての一体性を強化することで、安易な戦争を避け平和を守る道を探求している。

    筆者が特に重視しているのが、民主主義の政体において「血のコスト」の負担が十分に認識され、一定の公平性の元で共有されているのかということである。

    血のコストに対する認識のない判断は時に好戦的であり、時に過剰な正義論や、経済的な便益に偏った判断となる。それでは、民主主義国家として一体性を持つべき国家がその軍を戦地に派遣して犠牲を強いるにあたり、それが正しい戦争であるのかという判断において、重要な判断要素が欠けてしまっている。

    筆者が参照するカントも、共和制国家の基盤として、個人がその理性を用いることにより判断した道徳に従い、正義を実行する生き方が実現されているべきであると考え、そのためにも、人は誰一人として他人の道具となってはならないと述べている。

    血のコストの負担についての認識が共有されておらず、国民の一部の層や外部へのアウトソースという形に押し付けられた状態での国家は、カントが永遠平和の構築に必要と考えた共和制国家のあり方には合致しない。

    このような認識の中から、筆者は徴兵制に着目する。

    本書の後半では、各国の徴兵制の歴史と現在の議論の状況が整理されている。日本において徴兵制が議論されることは皆無と言ってよく、各国の状況が報じられることも少ないため、非常に興味深かった。

    印象深かったのは、各国ともに軍の組成にあたり、国民の統合を維持するためにどのような軍のあり方が望ましいのかという問いに直面しているという点である。

    各国とも、経済格差、移民問題、宗教など、国民の間に様々な分断を抱えている。そして、徴兵制、志願兵制を問わず、兵士の構成の中でこれらをいかに融和させるかということが、大きなテーマとなっている。

    まさに、血のコストの負担が認識のレベルでも実体のレベルでも公平でなければならないということが、浮き彫りになりつつある状況であるということだと思う。

    徴兵制の提案というのは、現在の日本の議論の状況からするとかなり急進的な議論であるように感じられるが、その問いが投げかけている本質的な論点は、平和を構築するために非常に重要なポイントであると感じた。

    この問題を考えずにやり過ごすことは、知らず知らずのうちに戦争と平和というものを現実味をもって考える力を失わせ、却って安易な判断に加担することに繋がってしまう危険性があるということを再認識させられた。

  • 国際政治学者による政軍関係について論じた本。著者はよく勉強していると思う。国家が誤った戦争に突き進むのは、指導者や政治家そして彼らを煽る国民が戦争のことを理解していない(著者は「血のコスト」を負担していないと言っている)からだとし、解決策として徴兵制の導入を提案している。著者は、カントの『永遠平和のために』の考え方に賛同しており、その他ホッブズやプラトンらの古代哲学にも触れ、論理的かつ学術的に論理を展開していて説得力がある。テレビで拝見すると、現在の情勢に対して的確に意見を述べているように見えるが、以前から深い研究、研鑚を積んでのしっかりした基盤をお持ちであることが理解できた。

    「(ジョージ・オーウェル)すべての戦争プロパガンダ、すべての怒号、偽り、そして憎しみは、常に戦っていない人々からやってくる」p2
    「私は普段からあまり性善説を取らない。人間は進歩することができると思う一方で、人間は利害で動くことが多いと思うからだ」p5
    「ひとまず生存を確保した国家が熟慮すべきは、国家が軍という実力組織を有していることの意味と、その自己抑制の方法であろう。リアリズムの真髄は熟慮であり、それが欠けている社会に平和は訪れないからだ」p8
    「1945年以降の秩序に寄りかかっているだけでは、国家も平和も維持できない時代が到来した」p25
    「これまで、西側の平和はアメリカが提供する圧倒的な公共財と投資、開かれた市場、それらを支える軍事力によって成り立ってきた」p25
    「総動員ではない限定的な戦争においては、「血のコスト」を負担しない統治者や市民層が、不必要で安易な開戦判断に傾く危険がある」p35
    「70年代にはアメリカの国際政治学者ロバート・コヘインとジョセフ・ナイにより、「経済を含めた複合的な相互依存により国家間協力のインセンティブが高まる」という主張が行われた。この仮説は、相手国と協力することの利益がかつてよりも増しているとするものである」p45
    「(ステファン・ブルックス)貿易の増大は現代の安全保障を左右する主要なファクターではない。安全保障に最も強く影響を及ぼす経済要因は、むしろ多国籍企業による生産のグローバル化であるとする」p46
    「カントが真に理想としたのは、市民がすなわち統治者であり、かつ有事の際には軍人であるという国家像であろう。しかし、それは現実的に不可能なので、制度上は、秩序を安定させ権力を抑制するため、行政と立法を分立する。予算を含め国のあらゆる政策の決定権を立法者に、行政の統治者に外交代表権を委ねる。そして、もし国家が侵略の危機に立たされれば、市民が速やかに「郷土防衛軍」を形成して内の守りを固める。これが、カントが提示した「共和制」国家の大まかな構想であった」p58
    「そこで初めて、国内社会における負担の分かち合いという真の正義の実現と、世界の民の共通利益への収剣こそが人類の共存と平和をもたらすというカントの思想の核に辿り着くのである」p60
    「世界政府が実現していないなかでは国境を越えた再分配は難しく、機会の平等も実現していない」p64
    「平和を乱しているのは権威主義体制と軍国主義、全体主義であり、1945年以後の西側陣営内での平和はまさにそれを象徴しているものだとする言説がアメリカにおける議論の主流となった」p67
    「ベトナム戦争が始まった当初は平等な徴兵に基づく戦争とはいえず、当時の大学生の多くは高等教育を理由に合法的に徴兵忌避できた。徴集兵の8割が貧困家庭や労働者家庭の子供だったという調査さえ存在する。しかし、徴兵対象が拡大したことで初めて、戦争を我が事として捉えた若者の反戦運動が盛り上がり、徴兵制の全面停止へ向かっていくのである」p97
    「現代では、軍が戦争を渋り、シビリアンが冒険するという倒錯した現象が起きているのである(脚注に例があげられている)」p102
    「仮に軍人の方が抑制的な意見を表明した場合であっても、大統領府の意向に反していればシビリアン・コントロールを阻害するものとして批判が生じた」p106
    「軍事介入の要求にブレーキをかける声は少なく、むしろ軍事行動を躊躇する軍に民意が苛立ち、激しいバッシングを展開する。軍の反対を押し切って開戦される「シビリアンの戦争」のクライマックスは、イラク戦争だった」p106
    「(著者の徴兵制導入提案)徴兵制導入が経済的にも実務の上でも非効率であることは前提として考えなければならない。もとより徴集兵が現実の戦争にもはや役立たない時代になっている以上、そのような提案をプロの軍が歓迎することもほぼないといってよい。つまり、これは合理性をめぐる提案や解決策ではなくて、コスト負担の不均衡という不合理を認識するための提案なのである」p124
    「(アフガニスタンでの対テロ戦争)戦争目的は揺れ動く。犠牲の大きい戦争や、目的遂行に失敗した戦争においてよく見られる現象だ」p149
    「グローバル経済と資本主義を、民主主義から守るためには、「望まれたグローバリゼーション」でならなければならない」p154
    「パナマなどのタックスヘイブンに集中砲火を浴びせるよりも効果的なのは、むしろ、国としてのまとまりにおいて完結する税のあり方を考えていくことである。例えば、法人に対する税収依存を減らし、一方で自国に住んでいる住民個人への直接的な累進課税を強化して、全体の税収を賄うような大胆な発想が必要となる」p154
    「国家の仕事は分配であり、制度設計である」p156
    「ベトナム戦争では、韓国は米軍に次ぐ規模で本格的に派兵している」p166
    「(ベトナム戦争参戦による米国から韓国への富の移転)ベトナム戦争の特需や米国による援助が外部から押し寄せたことで、「漢江の奇跡」と呼ばれる目覚ましい経済成長をもたらし、戦争に伴う出稼ぎ労働者や志願兵に対する給与として、相当量のお金がばらまかれた」p168
    「現在では世界トップレベルの大学進学率が注目される韓国でも、1980年時点では中学への進学は7割を超える程度で、中学が無償義務教育化されたのはようやく2004年のことだった」p169
    「ベトナム戦争への軍事協力では、陸海兵隊延べ31万人以上の韓国兵がベトナムに送られた。軍事動員は9年間にわたった」p171
    「徴兵制をやめたとき、韓国がこれまで通り武力行使に抑制的でいられるかといえば、必ずしもそうとは言えないだろう。シビリアンの戦争は、まさに民主化と徴兵制廃止の対価だからである」p188
    「(イスラエル)「やられる前にやる」という脅迫観念から始めた戦争の結果、イスラエルは東エルサレム・ヨルダン川西岸をはじめ、ガザ地区、のちにエジプトに返還してシナイ半島、ゴラン高原を次々と占領し、広大な占領地を持つことになった。この決断はイスラエルの共和国性に今日まで大きな害を及ぼしている。国境線が揺れ動くと、国家はジレンマに直面する。眼前の脅威は取り除かれるが、拡大した支配地を守る防衛努力に大きな資源を割かなければならない。また異民族を統治すれば不満を持つ者が内乱を起こす可能性も高まる。イスラエルはそんなジレンマに陥ってしまったのである」p194
    「イスラエルのように他者の土地を占領すると、その反作用で自国民に犠牲が出て、それに激昂した世論によって戦争が引き起こされ、拡大していくということが起こりやすくなるのだ」p196
    「後発国家のナショナリストはみな社会主義的な要素を国家建設に注入していた」p198
    「世界が今、実効的な安全保障、健全な民主主義、すべての階層に望まれるグローバリゼーションの3つを同時に成り立たせるための新たな解を必要としていることは確かである。私たちは思考停止してはならない」p252

  • ●読んで得たもの
     徴兵制は戦争準備効果よりも戦争抑止効果が期待できるということ。
     国の平和を確保するためには、国民が分担してコストを負う必要があること。

    ●感想
     選挙の投票率が低く、政治や安全保障に無関心な国民が多い日本。
     所謂「平和ボケ」した国に徴兵制を導入することは難しいと思うが、
    災害対応など軍事力を戦争以外で活用している分野では、広く国民がコストを分担し、
    自国の安全保障確立に対しひとりひとりが主体的に取り組む必要があると感じた。

  • 冷戦以降世界の構造が変わり、あるべき戦争や平和の意味を問い直す必要はある。グローバリゼーションを求めることが平和に結びつくことは納得の結論。

    一方で軍のあり方を問い直すのも大事な活動だと思う。それは血のコストを誰が負うべきかを見つめ直し、自分も負う可能性があると思う必要がある。戦争に向かう意思決定をいい加減にしない努力が必要。軍に対する忌避意識を持つことは、ある意味平和という言葉が一人歩きしていて国民が脳死状態になっているとも言えると思う。

  • 歴史を紐解くと、同じ仕組みで生き続けた国家はなく、その時代に合った制度を作りえた国家だけが生き残っている。
    過去の反省から軍隊を認めていない日本において、誰が国家を守るのか、そのコストは誰が払うのか、また、国際社会のなかでどのような役割を負うべきなのか、真剣に議論できる環境がまず必要だろう。
    徴兵制の提起により、国民が国家の安全、国際社会への貢献を自分事して考える機会となればと私も思う。

  • 「自伝」が話題になっているが、こちらこそ世間の関心と評論を集めてしかるべき大胆な提言の書。

  • 読了。面白かった。銀河英雄伝説を思い浮かべた。この本を読むまで、徴兵制は、とんでもない、軍国主義の始まりかと思っていた。読んで納得できたが、この本をどれだけの人が読めるかなと思った。

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著者プロフィール

国際政治学者。1980年神奈川県生まれ。東京大学農学部卒業。東京大学公共政策大学院修了。東京大学大学院法学政治学研究科修了。博士(法学)。専門は国際政治。現在、東京大学政策ビジョン研究センター講師。著書に『シビリアンの戦争』(岩波書店)、『日本に絶望している人のための政治入門』(文春新書)、『「トランプ時代」の新世界秩序』(潮新書)。

「2017年 『国民国家のリアリズム 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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