室町は今日もハードボイルド: 日本中世のアナーキーな世界

著者 :
制作 : 清水 克行 
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103541615

作品紹介・あらすじ

あなたたち、本当にご先祖様ですか? 最も「日本らしくない」時代へご招待! 「日本人は勤勉でおとなしい」は本当か? 僧侶は武士を呪い殺して快哉を叫ぶ。農民は土地を巡って暗殺や政界工作に飛び回る。浮気された妻は女友達に集合をかけて後妻を襲撃――。数々の仰天エピソードが語る中世日本人は、凶暴でアナーキーだった! 私たちが思い描く「日本人像」を根底から覆す、驚愕の日本史エッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • 著者と高野秀行さんとの対談本が面白かったので紐解く。期待以上に語り口がエンタメで、かつ興味深いエピソードが満載だった。

    前対談で清水克行さんは言っていた。室町時代はもはや現存する古文書はほとんど本になっている。あとは研究(解釈)されるのを待っているだけなので、やりやすいのだと。だから、まるで世間話のように語っているハードボイルドな話の多くは、清水克行さんによって初めて明らかになっていることも多くあると思う。

    因みに、わが故郷岡山県の話題として、総社市上原(かんばら)のハレンチ代官のことを書いた「九条家文書」というものがある。岡山県立図書館で読もうとして検索したらヒットしなかった。揃えていなかった図書館司書を責めるのは筋違いとしても、それを調べようとした地域の篤志家は居なかったということだ。上原は確かに古代より開けた場所である。ちょっとあの辺りを歩きたくなった。

    因みに、現代こそ日本語の語彙に「罵倒語」は少ないけれども、「邦訳日葡辞書」というポルトガル宣教師が著した辞書を読むと「バカ」に該当する罵倒語だけで少なくとも12あるという。面白いのは、「アンコウ」。これは鮟鱇と書き、実は深海魚のことではなくて山椒魚のことだという。口をポカンと開けている様が愚鈍な人物を思わせるかららしい。そうだったのか!‥‥というのも清水さんは、これは岡山では今でも「アンコウ」が方言として使われていると書いている。これには私は訂正をお願いしたい。岡山県人はアンコウとは言わない。「このアンゴウが!」と言って、クソガキを叱るのである。「このタワケが!」という台詞は、よく時代劇で使われる。これは「田分け」、つまり大事な不動産を他人に分配してしまうような愚か者のことらしい。その他、「おまえのカアちゃん、でべそ」の深淵なる意味も書いている。

    琵琶湖の北の奥に「菅浦」という、日本遺産になった中世の雰囲気を残した村があるらしい。そこが、かなり激しい「戦争」をしたところだったというのも興味深い。

    室町時代には、ムラごとに枡の容積は違っていた。でもそういうものだと思えば、なんとかやっていけたらしい。確かに、現代の衣料品のS・M・Lも、着てみないと全くわからないのに、ふだん細かいことをあげつらうネット市民は、そのことを問題にした形跡はない。

    落書きのことも幾つか。内容まで見ると、時々感動する。

    彼氏を取られた女は、男ではなく女のところへ行って暴力を振るうことが黙認されていた。現代でも若者の中に、それを追認(暴力は振るわないが)する層が必ずあるらしい。

    自殺は、日本は国際的に多い。何故か?解明はされていないが、中世では明確に、自殺によって相手にダメージを与える習慣があった。私が思い出したのは、大学時代の私と方向の違うことをやっていた教官(助手)が「近世の腹切りは、罪を償うというネガティブな意味ではなく、ポジティブな意味もあったのだ」と力説していたことである。40年前である。あの教官、江戸時代の文献ばかり読んでいたけど、中世の古文書を読んだことあったのかな。

    こういう語り口で、中味はアカデミック。学生は楽しいだろうな。

    • ハイジさん
      kuma0504さん
      こんにちは(^ ^)

      「田分け」だったのですね…
      衝撃を受けました(笑)
      もしかして常識でしょうか(恥)
      「おまえ...
      kuma0504さん
      こんにちは(^ ^)

      「田分け」だったのですね…
      衝撃を受けました(笑)
      もしかして常識でしょうか(恥)
      「おまえの母ちゃん出べそ」がとっても気になります!
      しかし、これが褒め言葉について…だと「へー」で終わるのに罵倒語となると何故か楽しくなってしまいますよね

      あと、源頼朝が亀という女と浮気したとき、北条政子に義母「りく」が相手の女を懲らしめてよい掟があると言っておりました
      ということは鎌倉時代に既にそういう習わし(?)があったということみたいですね

      女同士のこういうのは男性は見たくないでしょうが…(笑)
      2022/05/16
    • kuma0504さん
      ハイジさん、こんばんは。
      常識ではないと思います(^ ^:)。
      よくぞ突っ込んでくれました。
      書き始めるとかなり長くなりそうなので、省略した...
      ハイジさん、こんばんは。
      常識ではないと思います(^ ^:)。
      よくぞ突っ込んでくれました。
      書き始めるとかなり長くなりそうなので、省略したんです。

      「お前の母ちゃん、でべそ」ハイジさんも言われましたか?それとも言った方か?今もこれは言われているのかな?でもこれは元をただせばかなり強烈な悪口です。

      元は「母開(ははつび)」という悪口だったろうと清水克行さんは考察しています。
      「開(つび)」は「女性器」そこから転じて「性交」の意味だという。そこから解釈して、「オレはお前の母親と寝たぞ!」「オレはお前の母親を犯してやる」の可能性と、「お前は自分の母親と寝ただろう!」の可能性があります。この罵倒語は、世界的に多いのだそうだ。英語、フランス語、ロシア語、中国語、韓国語にも同様の罵倒語がある。中世日本では、これを言われて名誉毀損で裁判にまでなっている。

      さて、そこから考えると「お前の母ちゃん、でべそ」と言った場合、「どうしてお前がうちの母ちゃんの下半身のことを知ってるんだ?」と言い返そうとしても言い返せない。この葛藤を与えることが、この悪口のかなり深淵な意図なんだろうな、ということです。

      亀のエピソードはきちんと書かれていました。清水克行さんは、政子が1182年牧宗親に命じて、亀のいる伏見広綱の屋敷を襲撃させた。と書いています。このときは伏見広綱が亀を連れて逃れたので、ことなきを得たのですが、それがなかったら殺されていただろうとのこと(「吾妻鏡」)。
      これはちゃんと言葉があって「うわなり打ち」と言います。総社市上原のハレンチ代官でもそれが起きていて、あまつさえ殺しています。当然、殺した側は罪に問われていません。代官ではなく、何故浮気した女の方に向かうのか?その考察もしているのですが、そこは省略します。

      江戸時代になると、「復讐」から「儀礼」に姿を変えて、事前通告をして、数百人で家財道具を破壊する様に変わったらしい。
      とても興味深いのは、未だに「彼氏よりも奪った女の方が悪い」と真剣に思う女子学生がいるということ‥‥。
      2022/05/16
    • ハイジさん
      kuma0504さん
      お返事ありがとうございます!

      お前の母ちゃん出べそ
      ってそんな意味が含まれていたのですね
      確かにコレはかなりの罵倒語...
      kuma0504さん
      お返事ありがとうございます!

      お前の母ちゃん出べそ
      ってそんな意味が含まれていたのですね
      確かにコレはかなりの罵倒語ですね(・・;)
      子供時代結構当たり前に聞いたような…⁇
      しかし何も理解できていない子供が乱発するのはえらいこっちゃですね
      確かにマザーファ○カーもありますし、世界各国にあってもおかしくないのかも…
      いや、でもコレは大人は意味を知っておく必要があります!

      女の争いはやはり恐ろしいです(><)
      昔も今も…

      いろいろ勉強になりました!
      ありがとうございます♪
      2022/05/16
  • 江戸時代にがっちりと武士の支配体制が固まる前の、群雄割拠し地方がばらばらで、公家や寺社がまだ力を残し、農民たちのエネルギーが存分に発揮されていた室町時代。本来の日本人の姿が現れていたのかもしれない。清水克行さんの語り口は楽しく、大変興味深く面白く読める。
    第1部 僧侶も農民も!荒ぶる中世人
    ①「母開」(ははつぴ)という悪口のえげつなさ。室町は悪口花盛り。
    ②通行税を取る山賊・海賊が山盛り。いったんたがが外れると相手を皆ごろにしたりするが、報復も厳しい。
    ③サムライも顔負けの胆力の商工業者も存在した。
    ④村落間の争いもこじれると激しい。
    第2部 細かくて大らかな中世人
    ①荘園ごとに桝の大きさが違う。十進法じゃない場合もある。
    ②何かあると改元でリセットしまくり
    ③人身売買が盛んだったが、それは悪という意識も生まれてきた。
    ④100文は96枚?紐を切るとだめ。返礼品目当ての偽の朝鮮への使節が頻発。
    第3部 中世人、その愛のかたち
    ①浮気をした男を懲らしめるのではなく、正妻は女性を何十人も募って浮気相手の女性を襲撃し殺してしまうこともあった。「うわなり打ち」
    ②直江兼続の兜の愛は愛染明王 
    徳川家康の「厭離穢土 欣求浄土」は、「生を軽んじて、死を幸いにする」という意味
    人質が未成年なのは「神に近い人ならぬ存在を誓約の証として贈呈する供儀(いけにえ)の意味があった。人質が殺されるのは、裏切ったものが悪い。
    ③中世は自力救済社会だが、弱者は切腹で不当な扱いを訴えて、その意思を尊重する慣習があった。
    ④寺社への落書きやり放題で、西行もやっていた。
    第4部 過激に信じる中世人
    ①最終兵器は呪詛(リアル・デスノート)
    悪逆なの武士も「名を籠め」られるのを恐れた。寺社の権威が落ちてきたということでもある。権威があったときは、呪詛など必要なかったから。
    ②わずかな盗みでも極刑、それは所有物を自分の魂の延長と考えることから。
    虹が立ったところですぐに市を開くのは、聖なる地では他人のものも手に入れることができるから お月見泥棒もそう
    ③荘園の刑罰の本質は「お清め」にあり、犯罪者の更生など考えもしなかった。
    ④補陀落渡海や鉄火湯起請も流行は神仏への不信が広がった中で、それでも神仏を信じたいと願う人々が過激な行動に走った結果
    神仏への不信を生じさせたのは激化する戦乱のためで、ヨーロッパのペストの流行がキリスト教への不信を広めたのと同じ。非情な疫病に教会も聖書も役に立たないのだから。
    いやはや、室町はとんでもない時代だったなあ。人間の欲や心情がむき出しだったのだ。

  • なかなか教科書では知らなかった事実ですが、現代に息づいている考え方なども考察しつつで、とても面白く読めました。

    あまりにも人の命が軽んじられていたことは言わずもがなですが、復讐等含めてみんなが逞しい時代でした。

    現代の感覚と異なるのに上手くマッチしていくことが、やはり地続きの日本の歴史なんだなぁと思います。

  • やたらと人が殺される凶暴な時代『室町は今日もハードボイルド:日本中世のアナーキーな世界』に住んでみたいか? - HONZ
    https://honz.jp/articles/-/46030

    清水克行 『室町は今日もハードボイルド―日本中世のアナーキーな世界―』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/354161/

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      室町時代の日本人はめちゃくちゃ荒っぽかった? 明大教授が語る、ハードボイルドな日本人像|Real Sound|リアルサウンド ブック
      htt...
      室町時代の日本人はめちゃくちゃ荒っぽかった? 明大教授が語る、ハードボイルドな日本人像|Real Sound|リアルサウンド ブック
      https://realsound.jp/book/2021/06/post-800472.html
      2021/07/05
  •  大河ドラマでもほとんど取り上げられない室町時代。著者は日本中世史(特に室町時代)を専門とする。高野秀行氏との共著「辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦」と「世界の辺境とハードボイルド室町時代」が非常に面白かったので、迷いなく読んでみた。
    4 室町時代、おもしれー、ハードボイルドだぜ!アナーキーだぜ!。歴史に残るような英雄、梟雄、ヒーローはそれぼどいないかもしないが、「記録に残る」人々はいた。
     清水先生は、よく見ていたNHKの『タイムスクープハンター』の時代考証(中世)なども手がけていたんだ。

  • 以前に清水克行さんと高野秀行さんの対談本を読んで興味を持った室町時代。
    今回も、へえーの連続だった。

    中世人の荒々しさが面白すぎる。
    琵琶湖の海賊(湖賊)の大量殺人には驚愕するし、その顛末にも、いやーわからん、という感じなのだ。それを解説してもらって現代人との違いを感じるのが面白い。
    また、琵琶湖周辺では集落間の150年に渡る争いがあったそうで、私の中で急激に興味が増した。菅浦の要害門、見てみたいな。
    他にも、枡一つの容量が地域によってまちまちで大らかだなと思えば、不倫の復讐や呪いは激しいなど、想像を超えている。

    さらに、室町時代についてだけじゃなく、現代との違いを通して大事なメッセージが込められていると感じた。
    落書きの話やあとがきで触れられているように、自分の生活とは遠く離れた世界のことを知るのって、とても大切なことだ。
    自分と異なる価値観に対して寛容でありたい。

  • 歴史好きな人には刺さりそうなキャッチーなタイトル。
    本書における中世は、平安後期から、鎌倉、南北朝、室町、戦国時代の約300年間を指す。
    当時を語る資料から、現代人からみるとアナーキーでハードボイルドと思える事例を、助け合い、多元性。人間関係の絆、信仰といったテーマに分けて紹介している。
    それらは、現代の常識感覚や人道的価値観が全く通じない。そんなのありえないと思えることばかり。まるで無秩序で混沌とした時代なのかと。
    しかし当時の人々にとってはそれが至極合理的であったということを教えてくれる。また多様性って大切なんだなあとも気付かせてくれる。
    授業で学んだ日本史での中世は、めまくるしく変わる国家の主権、それに伴う政変、事件、文化、宗教と覚えるべき項目がとにかく盛り沢山だった。結局はそれは項目のみの上辺だけの記憶でしかない。背景を知り納得することではじめて知識になる。なるほど~。

  • 室町時代はアナーキー。
    荒ぶる人々の社会での、ハードボイルドな常識や道徳等を
    中世史料の中から詳細に紹介する、エッセイ。
    第1部 僧侶も農民も!荒ぶる中世人
              ・・・悪口、山賊・海賊、職業意識、ムラ
    第2部 細かくて大らかな中世人
              ・・・枡、年号、人身売買、国家
    第3部 中世人、その愛のかたち
              ・・・婚姻、人質、切腹、落書き
    第4部 過激に信じる中世人
              ・・・呪い、所有、荘園、合理主義
    参考文献有り。
    あちこちで不穏な状況が起こる時代。
    鎌倉時代での元寇と御家人への徳政令、貨幣経済の浸透、
    鎌倉幕府が崩壊し、建武の新政のゴタゴタと瓦解。
    室町時代は始まりに観応の擾乱。南北朝の争いに、応仁の乱。
    地震に飢饉、乱やら変やらの勃発。
    世の中が無常と不条理に満ちた時代。
    戦っていたのは武士、天皇や公家だけではなかった。
    農民、商人、職人、僧侶、女たちまでも。
    守るのは自分の命と属する場所の、自力救済社会。
    武装しての「ムラ」の合戦や代官暗殺計画の凄まじさ。
    武装だけでなく、呪詛で名を籠める僧侶たち。
    一方で、山賊や海賊もいるし、京の都には半グレ集団の姿が。
    枡、さし銭や一里の距離が地域で違う、多元的・多層的な社会。
    生き延びるための人身売買の必要悪。
    「神の意志」湯起請と荘園や宗教のある種の衰退の様子・・・等々。
    サクッと読むはずが、あまりにも面白くて読み込んでしまいました。
    当時の人々の姿は、混沌とした情勢の中で、
    生き延びるための逞しさに大らかさを兼ね揃えていた、
    強さが凄まじいほどに感じられるものでした。
    というか、これらの出来事が史料で残っているとは!

  • 今までの日本人のイメージが覆される。中世の日本人の破天荒な生活。題名と装丁からは想像つかない硬派な内容。

    筆者は著作も多い日本史の学者。真面目な著作も多いようだ。本書については軽い内容を想像して手に取ったのだが、柔らかな語り口調の中にもスジの通った硬派な内容であった。歴史の中のゲテモノを面白可笑しく紹介する類書とは一線を画している。

    現代の価値観から考えるとあまりに破天荒な中世社会。しかし筆者は中世の日本人の行動規範、根拠についてもしっかりと考察している。

    日本人は農耕民族、戦闘の嫌いな大人しい集団というイメージを勝手に持っていた。それはあくまで表面上のこと、内面は実はドロドロしているところもあるだろう。中世は合理的な精神が発展し、人々がそれぞれ欲望のままに、それ以前とも以後とも異なる価値観で動いていた時代のようだ。

    多くの文書からの豊富な例示、中世社会をビビッドに語る楽しくまた中身の濃い作品でした。

  • 他所の旦那を奪ったら、元妻の集団に家財もろとも破壊され集団の中の一人に手打ちにする契約をされる。
    集団は100人にも及ぶというのは恐怖しかない。
    しかしながらホントにそれで許せたのか?

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著者プロフィール

清水克行(しみず・かつゆき)
明治大学商学部教授。専門は日本中世史。 主な著書に『喧嘩両成敗の誕生』(講談社、2006年)、『戦国大名と分国法』(岩波書店、2018年)、『室町社会史論』(同、2021年)などがある。

「2022年 『村と民衆の戦国時代史 藤木久志の歴史学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

清水克行の作品

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