死刑のある国で生きる

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103548614

作品紹介・あらすじ

死刑廃止は本当に唯一の答えなのか。日米欧の現場を丹念に取材したルポ。死刑を徹底的にオープンにするアメリカ。死刑容認派が8割を超える日本。一方、死刑を廃止したがゆえに加害者と被害者遺族が同じ町に暮らすスペイン。そして新たな形の「死刑」が注目を集めるフランス――死刑を維持する国と廃止する国の違いとは何なのか。死刑囚や未決囚、加害者家族、被害者遺族の声から死刑の意味に迫る。

感想・レビュー・書評

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  • わからない、でも考えるべきだ。『死刑のある国で生きる』とはどういうことなのかを - HONZ
    https://honz.jp/articles/-/52855

    Interview:宮下洋一さん グレーゾーンを考える 『死刑のある国で生きる』を刊行 | 毎日新聞(有料記事)
    https://mainichi.jp/articles/20221222/dde/014/040/003000c

    宮下洋一 『死刑のある国で生きる』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/354861/

  • 死刑制度を存置しているアメリカと日本、廃止したフランスとスペインを主な取材先とした骨太なノンフィクション。
    宮下さんの著作を読むのは「安楽死」をテーマにした2作以来だが、取材対象者の言い分に振り回されず、自分の考えを押し付けるでもなく、とても冷静に書かれていて読みやすかった。
    犯罪抑止力としての効果や遺族感情として極刑を望むのはわかるが、人が人を裁けるのかという疑問は残る。執行に直接関わる方の負担も気になるところだ。最近では「死刑になりたかった」とほざく馬鹿もいるし、冤罪の可能性も否定できない。
    宗教や死生観も絡み簡単に答えは出せないが、「外圧で廃止」はなしにしてほしい。

  • 2022/12/20リクエスト 1

    アメリカの死刑囚、ジョン・ウィリアム・ハメルが最初の章に出てくる。彼は3人を殺害、放火した罪で死刑宣告され、執行を待つ身だった。
    そんな時に、宮下氏は、面会する。
    あまりに澄んだ目をして、刑を受け入れる覚悟が見えたハメルに、かなりの部分、肩入れしているように感じなくもなかったが、他の死刑囚、周りの人々のインタビューを読み進めると、それも仕方ないように思う。
    もちろんジャーナリストとして宮下氏が一番残念に思ったであろうが、ハメルの最期のときに立ち会うことができなかったのは、読者としても、消化不良な気持ちだった。

    死刑を徹底的にオープンにするアメリカ。死刑囚の一覧表をネットで見ることができる。なんと執行予定日まで。
    死刑を廃止した為に加害者と被害者遺族が同じ町に暮らすスペイン。
    そして新たな形の死刑、とでも言う警官の銃の発砲が注目を集めるフランス。
    死生観、宗教など、死刑は、法律だけで決められるものではない。
    死刑囚や未決囚、加害者家族、被害者遺族の声から死刑の意味をあらゆる角度から考える。

    何度も、中立の立場で考えたい、と書き記しているのは、それほど、この取材は、自分の根本から覆るほどの様々の考えが流入してきて、プロである氏も心が揺れ動いたのでは、と失礼なことも考えてしまった。

    宮下氏は、有名な人達にたくさんのインタビューをしているが、御本人は至って偉ぶることなく、一般人の側に立って話しかけるように伝えている。

    コロナ禍で取材もままならなかっただろう。
    そんな中でも、なんとかやりくりして、取材、国境超え。さらに、マスクで口もとが見えない中で、どんなにか大変だっただろう。
    今回のこの本も、自分にとっては、考えさせられる本であり、宮下氏の本を楽しみに待っていたが、今回も充分に満足させられる内容だった。

    安楽死を遂げるまで、などの著書もとても良かったが、この本も私にとって、何度も読み返したい本になると思う。

    語学堪能な宮下氏の、これからのますますの精力的な取材、著書に期待してます。

  •  去年(2022年)、映画『PLAN75』を観て、書籍では『海を飛ぶ夢』(ラモン・サンペドロ著)を読んだころ、安楽死について検索しているときに、安楽死関連の取材を続けレポをあげている著者のことが引っかかっていた。その時は『海を飛ぶ~』を読んで忘れいた。
    ※余談ながら、倍賞千恵子さん、『PLAN75』ほかで、イタリア映画祭での生涯功労賞受賞おめでとうございます。
     そこに、今月になって全国紙の書評で改めて著者の名前をみつけ、そこで取り上げられていた本書を知ることに。これもご縁と読んでみたもの。

     自分の考えと近い著者の主張、なのでとても読みやすかった。
     要は、死刑制度の維持については「賛成」。その理由は、日本固有の文化・風習に根ざしているものだから。文書化されていなかった自分の思考が整理されていくようで、読んでいても気持ちが良かった。
     曰く、

    「日本人は日常生活において、「目には目を」という当事者同士の争い事や報復を好まない。そのためか、第三者による制裁には期待を示す傾向があるように感じられる。」

     なるほど納得感ある。長いものに巻かれろではないが、「お上には逆らえません」という発想か。

    「個人による直接的な攻撃を嫌う社会の先に、国家の究極の刑罰としてあるのが死刑であり、そこに大半の国民感情が集約されているように見る。」

     こうなると、「死刑のハンコを捺すだけ」の法務大臣の肩にかかる重責も慮られるところではあるが、我々日本人は、自分だけの気持ちの整理がついても納得感は得られない性質なんだろう。自分、あるいは自分の家族だけが良くて、周りが納得してないという状況よりはむしろ、自分が犠牲になっても集団の協調性、平和が保たれているほうが、精神的安定が得られるのではなかろうか。この思いは、非常に、自分の感覚とも近いところにある。

     それを、ヨーロッパに長年暮らす(フランスとスペインを拠点に30年近い海外暮し)著者だから、比較した上で持てた視点なのかもしれない。

    「欧米と日本では、国民性や国民感情に多大な差がある」

     と記す。
     そうなのだ、死刑問題は、国民性、国民感情を抜きに語ってはいけないと思うのだ。ましてや、欧米では死刑廃止が時代の趨勢といった論調に与する意見には、前々から虫唾が走る。これまでは単なる、反発でしかなかったのかもしれないが、本書を読んで自分の考えを、よく整理出来たので、非常にありがたかった。

    「日本人が求めている正義とは何か。そして、そこから導き出される刑罰の在り方は、日本人にとって相応しいのかどうか。そうした点について、自身の眼で見た欧米諸国での現実と比べながら、考えを深めていきたいと思っている」

     として著者は、アメリカの死刑囚に逢ったり、自身の暮らす欧州(フランス、スペイン)で、死刑制度廃絶した議員、あるいは被害者家族、実際の刑務所などに足を運び、「欧米諸国の現実」を積み重ねていく。
     その上で、わが国日本の現状に立ち返る。日本の仏教の中で唯一、死刑反対を掲げる宗派である真宗大谷派の住職に取材したクダリは本書のハイポイントのひとつだったかと思う。
     この住職、実は死刑囚による被害者遺族(叔父が殺害されている)でもある、という点が意味ある。 やはり、宗派を代表する立場であっても、

    「被告に死刑が言い渡された直後は、「良かった」と思ったからだ。しかし間もなくして、「判決は妥当だが、執行はしてほしくない」と相反する思いに囚われた。」

     と語ったという。 まことに正直な思いが綴られている。 死刑の判決で良かった、でも、執行はしてほしくない、この思いの後半部分に、真宗大谷派の思いが込められている部分だろう。つまり、執行されないままその間、犯した罪を悔いて改めよ、という意味だ。住職は言葉を重ねる。

    「大谷派は、犯した罪を悔いていく過程を(死刑の)執行が奪っている、という見方を示しているのだと思います。そうなると、犯人は罪を悔いなくてはなりません。」

     その為に、日本の収容施設の在り方も要改善とも説く。今のままでは、死刑囚が何を考え生きながらえているのか、改悛の検証が成されないままで良いのか? そうした課題もクリアした上で、死刑反対であれば、意味があるということだろう。 いや、むしろ死刑そのものには反対はしていない?? まさに、「判決は妥当、だが執行はしてほしくない」ということか、と。

     いくつかの国で、様々な事例の取材を行い、その都度、著者の考えも揺れ動くように見える。 殺人事件における死刑囚とその遺族という、一見、立場は同じ人たちの取材に見えるが、事例ごとに、背景、犯人との関係性、遺族のおかれた境遇、それゆえの気持ちの処し方は、それこそ千差万別。とはいえ、それでも、そこはかとなく、著者の確証バイアスの強い取材、ネタ集め、あるいは解釈、意味づけをしている感も無きにしもあらずだが、ストンと腹落ちする情報が多かった。
     2009年から始まった日本の裁判員制度による、被告に対する司法精神鑑定の変化にも言及し(司法精神鑑定増加の傾向にあるそうな)、「一般市民が参加する裁判員裁判で、精神障害を抱える凶悪犯罪者の裁きは、至難の業」と論じる。 取材は多岐にわたり興味深い。

     とにかく、諸外国からあれこれ言われ、異質の価値観押し付けによる制度改革は、やるべきではないのだろ。それをやってしまえば、国としての、日本人としてのアイデンティティさえも崩壊しかねないと、著者でなくても危惧するところだ。

     日本で死刑が執行されると、毎回、フランス大使館が死刑廃止を求めるメッセージを出すそうだ。「人権宣言」を発した国だからかどうかは知らないが、どうも諸外国はお節介なところが多い。うるさいことを言ってると無視したり、受け流すだけでなく、きちんと都度反論もしていくべきだろう。
     そのキッカケとなる、大いに学びのある著作だった。

  • この人は相変わらず日本人の民族性では現状を変えるのは難しいという立場が変わらんなあ。外国で育ったということもあるのだろうが。できれば死刑反対の立場として社会の責任という立場から論じても欲しかった。北欧にも取材に行ってくれると違ったのではというのが正直な感想である。

  • 死刑制度について自分自身では是非の答えがなかった。えん罪となれば取り返しのつかないことになるため死刑に代わる制度を作れないかと思う反面、とてもではないが死をもって償ってもらうしかないと思える犯罪もある。犯罪者だけが生き延びるのことを遺族・社会が納得できないのも理解できる。
    一方でアムネスティなどから死刑制度を維持することを批判されるが、なぜ我々は死刑に強い違和感がないのか、その点も疑問に思っていた。
    本書は著者が日欧米の死刑制度を追ったルポだが、社会観や正義の反映という視点は納得できるものだった。
    安楽死を追った前作もそうだが、著者は先入観を持たずに揺れる心そのままに取材を進めていく。そのため、自分自身も考えを進めながら読むことができた。
    これで自分の死刑に対する姿勢が明確になった訳ではないが、欧米がこうだから、先進国では日本だけだから、そんな論調には巻き込まれたくないと思う。

  • 大変重い内容です。死刑制度について改めて考える良い機会になりました。

  • アメリカ、フランス、スペイン、日本等世界の死刑囚、遺族、死刑制度関係者を取材する事で制度そのものを問いかける本。国は違えど長期刑よりは早く処される方が良いと考える囚人も何人かいて興味深い。
    人を殺して8年で出所して遺族の近所に住む事を受け入れる村もあったが、自分としては死刑囚に長く苦しんでもらいたいという日本の遺族の方の言葉が偽りのない心情だと思う。フランスの有名な爺さんが死刑制度を否定されていたが著者が指摘する様に死刑制度の無い代わりに現場で射殺されまくったり、犯罪が増加するのは果たして如何。
    本書とは関係ないが、日本の女子高生コンクリート殺人事件で加害者達は少年だったため今は娑婆に出てきて人生を送っている。死刑制度を無くした場合に償ったとはいえこの様な方々が更に娑婆に戻ってくるだろう。「納得」ができるのか非常に疑問と言わざるを得ない。
    冤罪問題があるし被害者が殺されても仕方の無いなような奴とか例外もあるだろうから当分決着がつかない気もする。過激ではあるが1秒たりとも精神状態が落ち着かない様な苦しむシステムとか死刑制度に変わるモノが無いと遺族は納得しないだろうし。

  • 面白かった。
    死刑を何を目的に行うべきかがちゃんと問われていて、考えさせられる。それゆえに、自分としても死刑には反対も賛成も出せないなと。

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著者プロフィール

ジャーナリスト

「2020年 『ルポ 外国人ぎらい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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